※この記事は「エスクァイア」UK版のスタイルエディター、 Carmen Bellot(カルメン・ベロット)によるレポートの転載であり、そこに日本版が加筆したものになります。

ZEGNA x The Elder Statesman
――家宝(果報)は寝て待て

“Good things come to those who wait”ということわざがあります。これを日本語に直訳するなら、「良いことは、待っている人のところにやって来る」――つまり、日本のことわざで言うなら「果報は寝て待て」「待てば海路の日和あり」と同じニュアンスになるでしょう。先達たちが実際に経験を積み重ねた結果として誕生したこのような言葉は、「真実」と言えるほど納得のいく瞬間に出くわすものです。

イギリスで言うなら、素晴らしい「サンデーロースト(イギリスの伝統的な食事で、日曜日の昼食として供される、ローストした肉を中心とした料理)」をつくるのに近道などありません。日本を代表する料理で言うなら、てんぷらやお鮨、うなぎといったところでしょうか。楽しみにしている料理が目の前に出てくるまでは、例え数メートル離れた調理場(キッチン)から運ばれる十数秒間でさえも思いを馳せるものです。

さらに休暇を取り、リラックスを求めて南国へ旅立とうと思い立っても、さまざまな国際関係上の手続きを重ねてからでなければ、その南の島に足を踏み込むことなどできないのです。このことは、ファッションでも同じことが言えます。2015年以降から、ショーなどで発表された最新のアイテムがすぐに店頭やウェブで購入できるというデジタル時代ならでは最速ショッピングシステム「See Now Buy Now 」なるものを数々のブランドがチャレンジしてきましたが、現状は「まだまだ道半ば」と言えるでしょう。感動のランウェイを見終えたからといって、すぐさま、そのアイテムが購入できるブランドばかりではありません。多くは、そのコレクションが発売されるまでの6カ月以上、待ち時間を耐える覚悟が必要です。

さらに、その発表までの道のりの時間…企画から開発・製造までのシーケンスも考えたなら、それは途方もないプロジェクトであることを再確認できるはずです。もちろんここで紹介するZEGNA(ゼニア)とThe Elder Statesman(ジ エルダー ステイツメント)のパートナーシップによるコレクションも言わずもがな…。このカシミヤの愛好家でもある2者が、ニットウェア愛好家たちにとって垂涎のコレクションを完成させるためには2年半という月日が必要だったのです。

そのルックスとコンセプトは
いまだかつてないココロからの
お洒落を具現化してくれる…

2023年2月27日(月)にパリで発表されたこのコレクションは、同年1月16日にミラノ・ファッションウイークで披露された2023年冬コレクションで初めてお披露目されました。グレーで統一されたルックが何度も登場した後、このコレクションへの期待を爆発させるように、ポップなニットシャツとトラウザーで、ニュートラルな色調から脱却することの爽快感をわれわれに共有してくれたのです。2007年にクリエイターのグレッグ・チェイトによって創業された「The Elder Statesman(ジ エルダー ステイツマン)のLA的なクールさとともに、「ZEGNA(ゼニア)」のアーティスティック ディレクターとしてすべてのクリエイティブを担うアレッサンドロ・サルトリの現代的なテーラリングの融合によって、(崇高な領域で高揚感を与える)カラーリングおよびプリントが服にツイストされています。しかも、そのすべてがカシミヤでつくられているのです。

また、2022年9月にゼニアが発表したプロジェクト、「Oasi Cashmere(オアジカシミヤ)」の最初のインストゥルメントでもあります。このプロジェクトのインスピレーションは「Born in Oasi Zegna」。Oasi Zegna(オアジ・ゼニア)とは、北イタリアのアルプス山中の広さ100平方キロメートルに及ぶ自然保護区で、ブランドの原点であり現拠点でもあるところなのです。そのような環境とともに、他と一線を画す上質な素材へのこだわりを擁するゼニアだからこそ、「2024年までに、使用する全てのカシミヤ原糸の生産から製品製造・販売までの工程を追跡可能にする」という目標を掲げることになったのです。

そして天然素材を有効に活用するため、この分野における他のイノベーターと協力を密にするとのこと。すなわち、ここで得たイニシアチブで糸を衣服にするために必要な職人技を未来へと継承し、さらなる進化を目論むプロジェクトというわけです。また、われわれはゼニアを中心としたこのプロジェクトによって、地球環境に配慮した方向に進むだけでなく、見映えばかりでなく心まで潤すスタイルを提供してくれることになるでしょう。

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この第1章で披露されたアイテムの数々――そのこだわりが注がれたディテールからは、このプロジェクトがいかに時間を擁して完成されたかを物語っています。昼でも夜でも着こなし可能なシルエットを目にすれば、このイタリアとアメリカを代表する2つのデザインコードが絶妙にミックスされ、新時代のコードへと磨き上げられた感覚を得ることでしょう。

テーラードシャツやトラウザーにカットされたカリフォルニアテイストあふれるフランネル素材、ブランケットのエッジに施すようなステッチでトリミングされたシンプルなコート、ライラック(紫)からオーロライエローまでラインナップされたコーデュロイテイストのスーツなどなど…。ロサンゼルス西部のヴェニスビーチを闊歩しトレンドを追い続けるハイプビーストたちから、週末にもこだわりの手仕事が感じられる上質な服を着こなしたい紳士たちをも魅了するクラフトマンシップにあふれたユースフルなデザインがずらりとラインナップされているのです。

そして2者の熱心なパートナーたちも、このパリ・ファッションウィークのイベントに参加しました。ジョン・ボイエガやメイ・マスク、アルノー・ヴァロワらが訪れ、カシミヤが飛び交うインスタレーションやカシミヤ糸で埋め尽くされた壁に囲まれながらこのプロジェクトのスタートを讃えます。その様子から察するなら、「ゼニア」のアーティスティック ディレクターのサルトリや「ジ エルダー ステイツマン」の創業者チェイトだけでなく、会場に集まる全ての人々がこの山羊に由来する素材に夢中になっているようでした…。

しかしながら、ここで冒頭での記述を思い出してください。残念ながら、もう少し我慢が必要です。このコレクションは2023年9月に店頭に並ぶ予定となっています。あともう少し、時間がかかります。ですが、待つ価値は十分にあるとは思いませんか?

「オアジカシミヤ」とは?

以下の動画でご確認ください。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
THE OASI OF CASHMERE - Winter 2023 Fashion Show
THE OASI OF CASHMERE - Winter 2023 Fashion Show thumnail
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公式サイト

From: Esquire UK