世界で最も有名な人物のひとりと言っても過言ではないこの男は、いかにして正気を保ち続け、そして大人の男へと成長したのだろうか。関係者、そしてなにより本人の証言から、その核心に迫る。

鏡の中のレオナルド

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MAX VADUKUL

人々が抱く自分のイメージを、極力「映画の世界」だけに閉じ込めておきたいから。

「今のレオナルドは、真の男だよ。19歳の頃は少年だったけれどね」。

 そう語るのはバズ・ラーマン。レオナルド・ディカプリオが主演した映画『ロミオ+ジュリエット』を監督した人物である。この映画によって、「レオナルド・ディカプリオ」という偶像はティーンエージャーの間にあまねく浸透し、それが、空前の大ヒット作『タイタニック』の下地となったと言っても過言ではない。その意味で言うとラーマンは、彼が言う「カブトムシほど大きい」男になる前のディカプリオを見てきた、最後の人物だと言える。

 それから17年。ラーマンは、監督を務めた『華麗なるギャツビー』で再びディカプリオを起用し、その成熟ぶりについて驚きと敬意をもってこう語る。

レオナルドが成熟したことを疑う余地はないけれど、それは、レオナルドにしかできない成熟の仕方だと言える。レオナルドが得た名声は彼のみぞ知り得るもので、名声を得ることによって起こるさまざまな面倒事がどんなものなのか、ほとんどの人が想像できない。それはとてもつらいことだと思うけど、レオナルドは自己防衛に長けていたし、多くの引き出しを得ることに成功したんだ」。

ディカプリオは、極端にプライベートを隠している。

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話は、ここで過去へと遡る。それは、ディカプリオが12歳のときのことだ。

 学校から母と一緒にクルマで帰宅する途中、ディカプリオは、路上でテレビ番組の収録が行われているのを目にした。そして出演している男の子が、自分と同じく何度もオーディションに参加している、見知った子であることに気がつく。「トビー、トビー、おーい!」。そう声をかけると、男の子はこう返してきた。「やあ君か、元気かい?」。

 それが、ディカプリオとトビー・マグワイアとの長い友情の始まりだった。そしてそれは、ディカプリオが、エンターテインメント界で生き延びていくために必要とした「ファミリー」を形成する、第一歩でもあった。マグワイアは、ディカプリオとの長い付き合いが単なる偶然によるものではなく、ディカプリオの傲慢な目的意識の結果であることを熟知している。その証拠に、マグワイアはこんなことを言っている。

 「欲しがっているものを得る術を知らないと、レオナルドのように成功はできないんだよ」。

 ディカプリオはマグワイアのほかに、ルーカス・ハースやケヴィン・コナリーもファミリーと考えた。彼らは全員、同世代で子役出身だった。いわばライバルである。しかしディカプリオは、オオカミの群れがそうであるように、自らの力でファミリーの長となった。

 『ボーイズ・ライフ』で、ディカプリオがマグワイアを退けて主役を勝ち取り、マグワイアが脇役となったとき、ディカプリオがどれだけ演技に対して準備をしているかを目の当たりにしたマグワイアは、驚嘆したという。コナリーも、『ギルバート・グレイプ』で見せた知的障害者の役(ディカプリオは当時19歳で、この役でアカデミー助演男優賞にノミネートされている)を見て、「役作りに対する考え方がすべて変わった」と語っている。

そして17年ほど前、こんなことがあった

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 バズ・ラーマンがディカプリオをオーストラリアに招き、『ロミオ+ジュリエット』に取りかかろうとした際、ディカプリオはビジネスクラスのチケットをエコノ ミークラスのチケット5枚に交換して、ファミリーを呼び寄せたのだ。

 「レオナルドは、もう家には帰らないという決心で、オーストラリアに来ていた」と、 ラーマンは言う。「だから、行き先に家ごと持って来たのさ」。

 友人たちが役を得るために必死になっていた頃、ディカプリオはすでに、爆発的な知名度を有して いた。その頃のことを、ディカプリオはこう語っている。

 「有名になるということが、いったいなにを意味するのか、まったくわかっていなかったんだ。それに『タイタニック』の成功が、ほかの大ヒット作と比べてなにが違うのかもわからなかった。マニュアルなんてなかったし、いつも見られているという経験がどん なものかを、段階を踏んで教えてくれる人もいなかった。ましてや、どうやって平静を保つかを教えてくれるなんて、誰もいなかった」。

 ファミリーの一員である マグワイアは『スパイダーマン』で、コナリーは『アントラージュ★オレたちのハリウッド』(テレビシリーズ)で成功をつかんだ。やがて彼らは結婚して、子どもをもった。しかし、ディカプリオはそうならなかった。ガールフレンドはたくさんいたし、そのなかには有名女優もいた。

 ただ彼に言わせると、「6カ月間 も同じ場所、あるいはモロッコとか遠い場所にいると、関係を結びたいという気持ちが萎えてしまう」のだそうだ。彼には犬がいるが、ずっと母親が預かってい る。「ぼくが犬にエサを与える役だとしたら、犬は餓死してしまうだろうからね」。

 実際のところ彼は、一人では「普通の」生活を送ることができない。彼を「普通の」状態に保つ役割を果たしているのが、ファミリーだ。かつてディカプリオが、ロサンゼルスで豊かな生活を送れるようにファミリーを導いて来た頃、マグワイアたちはいわば随行者だった。

 しかしいまではディカプリオのほうが、キッチンや庭やリビングの中の安らぎをかいま見るツアーの、随行者なのである。コナリーはディカプリオの家の近く、彼に言わせれば10軒先に住んでいる。マグワイアにしてもそうだ。彼らはいまも、頻繁に交流している。土曜日にはバスケットボールをやり、テレビでスポーツ番組を観て、とりとめもない話題について話をする。

 「どれだけ意味のない会話をしているか、想像もつかないだろうね 」と、コナリーは語る。しかしそれこそが、ディカプリオが自分自身であるために、欠かせないことなのであろう。

 ディカプリオは、極端にプライベートを隠している。それは、人々が自分に抱くイメージを、極力「映画の世界」に閉じ込めておきたいと考えているからだ。その結果、人々は往々にして、彼のイメージを 見誤ることになる。鼻持ちならないセレブ、あるいは変質的な趣味をもつ大金持ち……。

 「実際はそうじゃないんです。心を許せる友だちがいるという点におい て、彼がノーマルな価値基準をもつ男であることを雄弁に物語っているとは思いませんか?」。ディカプリオと仕事をしたことがあるハリウッドのあるプロデューサはこう語る。

 「13歳の頃の友人が、いまも変わらず友人であるということが、どれだけかけがえのないことか、自分自身に尋ねてみてください。それ も、彼のようにあれだけものごとや環境が変わったにもかかわらずです。この事実こそが、レオナルドという人間の本質を表していると思います」。

 『華麗なるギャツビー』の原作を繰り返し20回以上も読んだというディカプリオ。彼は「アメリカの上流社会から受け入れてもらえない田舎者」というギャツビーに。いたく興味を惹かれたのである。

Source / ESQUIRE US