テイラー・スウィフト、トラヴィス・スコット、そしてノルウェーのバンドWardrunaのアイナル・セルヴィクに、「音楽的な共通点はない」と言っていいはずです。ですが、あなたの好みがポップスでもラップでもバイキング・メタルであったとしても、そのお気に入りのミュージシャンの香りを放つキャンドルがあったとしたら、「音楽体験はさらにレベルアップする」とは思いませんか?

 そしてそれは「もしも」の話でなく、現実のこととして存在しています。

 もとをたどれば、アイスランドのバンドであるシガー・ロスが2013年にリリースした「Varðeldur(ヴァルズエルドゥル )」という名のキャンドルに端を発します。 これは彼らの2012年のアルバム作品「ヴァルタリ~遠い鼓動」内の『ヴァルズエルドゥル』にちなんで「ヴァルズエルドゥル」と名づけられたキャンドルであり、「薄暗い真夜中の太陽のもと、遠くの黒いビーチで行われている漂流物を使った焚き火の煙のような、少し塩辛い香り」がするとのこと。まさに、アイスランドの風土を感じさせる香りなのです。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Sigur Rós - Varðeldur [Official Music Video]
Sigur Rós - Varðeldur [Official Music Video] thumnail
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 2017年にノルウェーのシンガーソングライターであるソンドレ・ラルケは、キャンドルブランドのWAXBBYに「ノルウェーの森で燃え尽きた祖父の小屋のようなにおい」という香りを表現するようオーダーします。この試みは大成功し、当時じり貧の状態であったWABBYの経営に大きく貢献もしました。そうして2020年にも、アルバム『Patience 』のリリースに合わせて、ブラッドオレンジとコロラドトウヒの香りからなる「Holiday Patience」キャンドルを発売しています。

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 2018年には、ロックバンドのポイズンのヴォーカリストであるブレット・マイケルズが、ジンジャーブレッド、パンプキンスパイス、モーニングブリューなどの香りがするキャンドルシリーズを発売しています。

 そして2019年になると、フロリダに拠点を置くEvoke Candle Coが英ヘヴィメタルバンドであるサクソンの公式ライセンスを受けた限定品「Denim & Leather」キャンドルセットを発売。カシミアとバニラ、ホワイトサンダルウッドとスモークの香りを表現し、これまでの音楽からインスピレーションを受けたキャンドルの評価をさらに引き上げました。続いてEvoke Candle Coは2020年に、イングランドのロックバンドであるモーターヘッドのヒット曲『Ace of Spades』からインスピレーションを得た「Ace of Spades」キャンドルを発売し、ミュージシャンとキャンドルの関係性をさらに濃密に仕立てていきます。このキャンドルはスモーキーなウイスキー、オーク、そしてトンカ豆の香りが際立つ、目をつぶってその香りだけに集中すれば、ヴォーカルのレミー・キルミスターがそこに立っているかのような感覚を味わえるとのことです。

 そして2020年末には、おそらく最も馴染みのあるミュージシャンの一人、テイラー・スウィフトがアルバム「エヴァーモア」の収録曲である『cowboy like me』の歌詞からインスパイアされたオークモスと森の香りの「eyes full of stars」キャンドルをリリースしました。それは今まで以上に、よりラグジュアリーで完成度の高いキャンドルになっています。

 これと同じ頃、アメリカのトラッパーであるトラヴィス・スコット(別名:カクタス・ジャック)も、スウェーデンの高級フレグランスブランドByredoと予想外のコラボレーションを行い、世界を驚かせました。このことでミュージックキャンドルの市場は、「一変した」と言ってもいいでしょう。

 Byredo創業者のベン・ゴーハム氏によると、「文字通り宇宙のような香り」がするこのキャンドル(95ドル)とペアのフレグランス(285ドル)は数時間で完売したそうです。ここ数年で最も注目されているスニーカー「Travis Scott Jordan 1」を生み出したアーティストらしく、キャンドルはすぐにStockXなどの再販サイトに登場しました。

 スニーカーに限らず、マクドナルドのセットから朝食用シリアルに炭酸水まで、あらゆるものに自分の名前をつけているトラヴィス・スコット。レビューサイト「TrustPilot」では、彼は厳しい評価を受けています。ですが、商品やサービスを消費者に販売するにあたって、その販売方法や価格設定を戦略的に設定するためのプランおよび管理…いわゆる「マーチャンダイジング」の才能に関しては、誰も否定することはできないでしょう。

 Byredoのようなラグジュアリーブランドにおいて、完売するほどの人気アイテムになることは予想できたとしても、ラッパーと手を組むことになったのにはどのようなきっかけがあったのでしょう?

 ゴーハム氏によると、「僕らは友人で、これこそ本当の意味でのコラボレーションだ」とのこと。2人は「宇宙の香り、少なくとも彼らが想像する宇宙の香りを目に見える形で体験できるようにしたい」と考えていたそうです(トップノートは宇宙塵と反物質粒子。ハミドルノートは星の明かりと超新星の香り。ベースノートは大気中の蒸気と暗黒星雲です)。ちなみにレビューでは、「驚くほどフルーティー」と評されています…。

 2021年1月、ノルウェーのヘヴィメタルバンドのWardrunaのオンラインショップにも、オーダーメイドの香りの高級キャンドルが登場しました。このキャンドルは最新アルバム『Kvitravn』の発売を記念してつくられたもので、発売後数日でほぼ完売しました。

 このキャンドルは、バンドのメンバーであるリンディー・フェイ・ヘラが2204 Candlesの共同設立者であるサイモン・ギャラハーと協力し、自宅と海の間の長い森の道を連想させる、潮の香りと苔やジュニパーなどの森の香りが混ざり合うような香りに仕上げたものです。

 ヘラはいつも、さまざまな香水のサンプルやエッセンシャルオイルを持ってツアーに出かけていました。それは、ステージ前に心の落ち着かせるためであったり、ショーの後にリラックスするための必需品だそうです。シグネチャーフレグランスを開発するにあたり彼らは、「ノルウェーの鋭く冷たい空気と、ウッディな爽やかさとの絶妙なバランスが必要だ」と考えたそうです。

 その結果、「ベルガモット、レモン、ホワイトミントで爽やかさを表現するトップノートと共に、クローブとタイムのミドルノート、パイン、シダー、サンダルウッドのベースノートでノルウェーの森の真の姿を表現しました」と、ギャラハー氏は話しています。

 このようにアロマキャンドルがヒッピーから主婦、そしてミュージックマーチャンダイズへと変遷してきた道のりは、想像以上にスムーズなものでした。キャンドルづくりに専念するまでギャラハー氏は、UKラッパーのストームジー、スラッシュメタル・バンドのスレイヤー、ヒップホップMCで俳優の50セントなどの音楽制作に携わっていました。

 「どの制作事務所も特にツアーでストレスがたまる時期などには、ムードをつくるためのキャンドルやディフューザーが必ず置いてあります」と、ギャラハー氏は話します。自宅での静かな時間にも、調香師でもある彼は常に香りで崇高な雰囲気をつくり出していたそうです。

  「Bell Witchの『Mirror Reaper』を聴くときにいつも焚いていた、Diorの『Bois Brule』という素晴らしいキャンドルがあって、それが私の音楽体験を真に高めてくれました」と、ギャラハー氏は語ります。

 嗅覚は記憶や知覚と密接に関係していることは、多くの研究から裏づけられています。嗅覚は脳の構造の中で最も原始的な部分の1つであり、論理的な部分を完全に回避して、脳の感情領域に最も直接的で強力に接触すると報告されています。

 視覚・聴覚・味覚・触覚では、まず情報を認識し、その後に感情的な反応を示します。ですが、香りを認識する嗅覚の場合は、何の匂いかを確認する前に感情的に反応するものだと言われています(焼いたパンの匂いを嗅ぐと、気づかないうちにお腹が空いてきたり、元恋人の香水を嗅ぐと初めてのキスの記憶が蘇ったりした経験があるでしょう)。

 そう考えると、アーティストが聴衆とより深くつながるための手段として、アロマキャンドルを選択しているということは、「非常に理にかなっている」と言えるでしょう。ギャラハー氏も五感を組み合わせて究極の没入感を生み出すことは、「アーティストにとって、次の次元へとステップアップした画期的な商品になるだろう」と話しています。

 レコーディングによる収入が減少し、パンデミックの影響で多くのアーティストが収入を得る唯一の手段であるライブが中止されたため、ミュージシャンはプリントTシャツだけでなく、もっとファンとつながりが得れるもの、そして可能な限り収益を上げることのできる新たな方法を考えなければならなくなりました。

 しかしそこには、よりクリエイティビティを求める動きを示す側面もあります。

 アーティスト、セレブリティー、ブランドのマーチャンダイジングカンパニーであるGlobal Merch Services(GMS)でLicensing Managerを務めるイェンス・ドリンクウォーター氏によると、アイデアは従来のアパレルの枠をはるかに超えて進化しており、「特にアーティストの幅広いストーリーを伝える方法」が求められているそうです。

 つまり、スウェーデンのメタルバンドのゴーストの黒いローブや首振り人形、アンスラックスのウイスキーやグラフィックノベルなど、アーティストが表現する世界と何らかのつながりを感じさせる今までにない商品が求められているとのことなのです。

 キャンドルが成長中の市場となっているのは、香り付きのアロマキャンドルばかりではありません。GSMはポーランドのCandellanaと共同で、アイアン・メイデン、ベヒーモス、モトリー・クルーといったバンドの公式ライセンスを取得した上で、スカルやバンドのロゴ、燃える納屋やナイフが刺さった頭など、あらゆる形のキャンドルをつくっています。

 ファンらがなぜキャンドルグッズに惹かれるのか? それは、アーティストたちが好む香りを嗅覚という敏感な部分で体感することによって、それらアーティストの個人的な面を垣間見ることができたと思えるから…。だからこそ、これまで以上に効果的なアイテムと言えるのです。

 ロックンロールの祭壇を崇拝するためにキャンドルを使う方もいれば、ゆらめく炎の暖かい光で雰囲気を和らげ、日々の雑念を遮断し、お気に入りのアーティストを身近に感じたいと思う方もいるでしょう。

 聴いているのがテイラーでもトラヴィスでも、トリヴィアムであっても、キャンドルの灯りには集中力を高め、物理的な光の繭をつくり出すような、祈りにも近い雰囲気に包まれることができるのです。そして音に香りが加わることで、ファンとアーティストの親密さは増幅し、より豊かでパーソナルなストーリーを生み出すことができるというわけです。

 Wardrunaとサイモン・ギャラハー氏にとってそれは、「家の静けさ」であり、トラヴィス・スコットとベン・ゴーハム氏にとってそれは、「宇宙の深みに手を伸ばして深呼吸をすること」なのです。

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Source / ESQUIRE UK
Translation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です。

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