そうこうしているうちに、今回の2022年秋冬メンズコレクションショーも終了しました。オミクロン株の影響を受けながらも、今季もピッティ(フィレンツェ)やミラノ、パリなど、フィジカル形式でショーや展示会が行われました。全体として、「パンデミックでさえもメンズウェアの歩みは止められない」ということが証明されたファッションウィークと言っていいでしょう。

それでは、今回のコレクションで発見したことをお伝えしていきましょう。


ヴァージル・アブロー
が遺した
「ルイ・ヴィトン」
コレクションは、
永遠に残るレガシー

lv fall 2022 men's
Louis Vuitton

わずか3年あまり前、まさにこのパリでスタートとした「ルイ・ヴィトン」のヴァージル・アブロー時代は、今回で幕を閉じることになってしまいました。

最後となった今回のコレクションのプランは、2021年秋にはもうスタートしていたため、彼のビジョンの実現は彼のチームに委ねられました。今回のショーは、アブローの精神を余すところなく表現するものであると同時に、彼との「別れ」を意味するものとなりましたが、彼がこの世に残した最後のコレクションは序盤からアブローらしさが全開。

陶酔した表情のモデルたちが歩く中、セットではトランポリンや曲芸的なパフォーマンスが繰り広げられ、タイラー・ザ・クリエイターの曲をオーケストラが演奏。遊び心と少年の好奇心を求め続けたアブローのスピリットが、見事に体現されたものでした。

ルックに関しては、最初の2つこそ彼の不在を思わせる喪服のような厳粛さに満ちたものでしたが、すぐにアブローらしい色と造形の世界が展開されました。米国人デザイナーである彼のディストピア的な美学には、文化的な意味合いや複雑な芸術性が散りばめられています。

また一見、バラバラなルックの組み合わせのようにも見えますが、実際はいくつかの具体的なデザインテーマがあることに気づかされます。さまざまな色やプリント、ファブリックで展開されたサファリ調のベルテッドジャケット。細身でロングなパンツは、ボリューム控え目の靴の上にたっぷりと裾が乗るくらいの丈感です。斜めのラインの開きのテーラードスーツは肩が強調され、そして、あらゆるところに花が使われていました。ショーがクライマックスを迎えたとき、アブローがいつものように笑顔で手を振りながらランウェイに登場しなかったことが実に不思議で、とても残念に感じられました。

「ルイ・ヴィトン」のクリエイティブ・ディレクターでなかったとしても、彼は十分に現代のファッションと文化に忘れがたい足跡を残していたでしょう。しかし、「ルイ・ヴィトン」での彼の役割は、自身の重要性と影響力をいっそう強く印象づけるものでした。そしてこの先も永く、ファッション業界に響き渡り続けるでしょう。


着る人を選ばないトレンド

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Getty

「ディオール」のショー(上の写真)では、ほとんどのモデルがスウェットパンツを着用していました。

それは「アスレジャー」や「スポーツラックス」のエクササイズウェアという雰囲気ではなく、スウェットパンツと言いながらも、「ディオール」のものはかなりの上質感です。ここ数年のコロナ禍でなまった身体を持て余している私たちには、ウエストがゴムのトレンドは好都合です。もうしばらく続いてほしいものです (『トッズ』でも、すばらしいスウェットパンツが登場しました)。

「ビルケンシュトック」とのコラボレーションも同様で、「ディオール」のメンズ アーティスティック・ディレクターであるキム・ジョーンズは、簡単かつ最高に快適な方法でクールなスタイルを完成する方法を提案しているように感じられます。

「プラダ」のオーバーサイズのコートは、中身がどんなにだらしない体形でもカバーしてくれるデザインのように見え、「ルイ・ヴィトン」のコレクションでは、パンツはかなり低い「腰ばき」で、下着を大胆にウエストからのぞかせていました。2022年の秋は、エクササイズに精を出さずに済みそうなことがわかり、ひと安心です。


ミリタリーの復活

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Hermes

2022年秋はあくまでもタウンスタイルから外れない範囲の、微妙なミリタリーモチーフが再び登場しそうです。「エルメス」(上の写真)では、北極圏での戦闘に活躍しそうなシアリング素材のベルト付きフィールドジャケットが目を引きました。

「フェンディ」は、2022年の冬に多く見られたグリーンのキルティングライナーを極めて洗練されたカタチでアレンジ。「ロエベ」では、カモフラ柄 × グリーンのウールのコートが目を引きました。一般的な「カーハート(Carhartt)」のミリタリースタイルやアウトドアウェアだけにとどまらず、2022年の9月末には、「メンズウェアにどのようにミリタリーを取り入れるか?」といった特集が至る所で組まれることになるでしょう。


KENZO、蘇ったアイデンティティ

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Monica Feudi

新クリエイティブ・ディレクター、NIGO®(『A BATHING APE』の創業者)が手掛ける初の「KENZO(ケンゾー)」コレクション最大のニュースは、タイラー・ザ・クリエイター、Ye(カニエ・ウエスト)、ジュリア・フォックス、ファレル・ウィリアムス、プシャ・Tといった豪華なフロントロウの顔ぶれです。

ですが、フロントロウよりも注目すべきはコレクションの内容です。

「ケンゾー」というブランドが何よりも必要としていたのは、「アイデンティティ」。今回のコレクションでは、ひと目でそれが感じられました。日本人デザイナーのNIGO®が、彼らしいストリート要素にあふれた「アイビー」コードを見事に「ケンゾー」に注ぎ込んでいました。ボクシーなカラーブロックのスーツやワークウェアのようなアイテムも好感度が高く、だぶだぶのベレー帽がこんなに魅力的なものだったとは…これまで誰も気がつかなかったことではないでしょうか?


冬にも、花は咲き誇る

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Wales Bonner

これまでに紹介したほとんどのブランドのショーやコレクションで、フラワーモチーフが取り入れられていました。「ケンゾー」や「ルイ・ヴィトン」のコレクションには花柄が取り入れられ、「ディオール」のランウェイでは、モデルがエレガントな花束を入れたケースを(少し大げさなくらいに)抱えていました。フラワープリントは、「グレース・ウェールズ・ボナー」(上の写真)「ポール・スミス」「アーデム」も採用していました。

この寒い季節にフラワーモチーフがふんだんに使われている背景には、どのような意味があるのでしょうか? もしかすると、私たちが2021年に経験した「偽りの夜明け」に関係するものかもしれません。パンデミックを抜けた後のまぶしい光が差し込みつつある今、私たちの周囲にある「美しさ」に目を向けるよう促されているのかもしれませんし、気をつけないと、そう遠くない未来には本物の花が全て無くなってしまうという危機感を意識したものかもしれません。

いずれにせよ、花は美しいもの。それだけで理由としては十分でしょう…。

Source / ESQUIRE UK
Translation / Keiko Tanaka
※この翻訳は抄訳です。