スーツにサンダルを着用した男性
Pascal Le Segretain//Getty Images

「スーツにサンダル」
スタイルは
定着しつつある

イギリスは今、まさにブライダルのハイシーズン。しかし、今年はいつもと違っている点があるようです。式が行われる片田舎の邸宅やBOHO(「ボヘミアン」と「ソーホー」を掛け合わせた造語。民族的なスタイルと洗練された都会的な雰囲気をミックスさせたもの)風のバーン(納屋)、婚姻登録を行う役所などの場所に、“らしからぬ何か”が登場しているのです。

もしかしたら、伝統的なドレスコードも何のその、出席者のフォーマルな足元の間を縫って移動する“これ”を目撃したことがある人もいるのではないでしょうか。“これ”とは、上質なきれいめサマーサンダルのことです。

結婚式に出席するなら、「足元はフォーマルシューズ(レースアップの革靴、妥協点としてはローファーまで)」というのがこれまでの常識でした。が、最近ではサンダルの可否が議論を呼んでいます。サンダルなら、普通のフォーマルシューズよりも涼しく快適で夏向きであり、合わせる靴下を選ぶストレスもない…という、実に現代的な合理主義の極みとも言えます。

「スーツにサンダル」は全く新しい概念というわけではありませんが、この1年で夏の定番になり始めています。ドリス ヴァン ノッテン(Dries Van Noten)やウェールズ・ボナー(Wales Bonner)などのコレクションショーでは、スーツスタイルにオープントゥのサンダルというスタイルが登場。一方エルメスは、同じ通気性の良いデザインでも、フィッシャーマンサンダル(グルカサンダル。レザー素材の編み込みでアッパーが覆われているもの)という、よりオーソドックスなものを選択をしていました。

スーツにサンダルを着用した男性
Victor Virgile//Getty Images
スーツにサンダルを着用した男性
Victor Virgile//Getty Images

2023年6月、フランスのヴェルサイユ宮殿で開催されたジャックムス(Jacquemus)の「Le Chouchou」と題したコレクションショーでは、デヴィッド・ベッカムがオートミールカラーのゆったりとしたスーツにロロ・ピアーナのレザーサンダルというスタイルで登場しています。

スーツとこうしたサンダルの売り上げはともに伸びているそうで、ドイツ発のハイブランドセレクトショップのマイテレサ(Mytheresa)では、レザーサンダルがスポーティなサンダルを抜いて売り上げ1位とのこと。また、ロンドン発のハイブランドECサイト マッチズ(Matches)では、スーツの売り上げも15%増加しているそう。「スーツにサンダル」は、やはり上昇傾向にあるようです。

これに関しては、「スーツに対する見方が以前よりも柔軟になり、かつての堅苦しく保守的なスタイルから離れてきていることを示している」と言えるでしょう。スーツは単なる仕事着というわけではなく、(ロックダウン中の部屋着全盛期に多くの人が訴えていましたが)かと言って着られなくなったものでもありません。実際、自由に外出できるようになった今、きちんとしていながら着心地の良いスタイルを必要とする機会で、締めつけが少なくより今っぽいデザインのスーツを目にすることが多くなったのではないでしょうか。

シルエットはゆったりめとなり、通気性のよい生地で仕立てられている最近のスーツは、以前よりカジュアル寄りの靴と合わせてもそれほど違和感がないでしょう。そして、この傾向はウェディングの装いにも波及しつつあります。

「結婚式にサンダル」
に対する街の人の声は…

新郎新婦の衣装については、男女ともに伝統的な考え方は敬遠され、現代の理想を反映した衣装が求められているようです。ロンドンの老舗セレクトショップ ブラウンズ(Browns)の買い付け責任者であるアイダ・ピーターソン(Ida Peterson)氏が『ハーパーズ・バザー』に語ったところによれば、「一般的なウェディングドレスの枠にとどまらず、ファッション的にエッジが効いたものを求める女性が増えている」とのこと。

ドレスアップに対するこうした柔軟な考え方は、ゲスト側の装いにも及んでいるとのこと。とは言え、ペディキュアも塗っていないつま先を露出するというのはちょっと行き過ぎでしょうか?

「結局、その結婚式の雰囲気次第だと思います」と語るのは、2023年に婚約した知人のジャック・ワイルディッシュ(Jack Wildish)さんです。結婚式はしばらく先ですが、式に向けての準備はもう始めています。当日の衣装を2着にすることは決まっているそうですが、何にするかは未定です。が、彼はこう言います、「イタリアのビーチで結婚式を挙げるなら私もサンダルしか履かないし、ゲストもOKです」と。

パートナーのリアム・コンロン=ヒューナム(Liam Conlon-Hughams)さんも、「新郎というよりゲスト側ならOKかもしれませんが、私もジャックと同じ意見。イギリスでは通用しないのではないかと思います」とコメント。「アマルフィでのウェディングならよくても、ロンドンのハックニー・タウンホールではNGなのではないでしょうか」と話しています。

オリバースペンサー メランジリネン ストレートスーツパンツ ドローストリング入り
オリバースペンサー メランジリネン ストレートスーツパンツ ドローストリング入り
MR PORTER で見る
Credit: Mr Porter
オリバースペンサー リネン スーツジャケット
オリバースペンサー リネン スーツジャケット
Credit: Mr Porter
ブルネロ クチネリ トラウザーズ
ブルネロ クチネリ トラウザーズ
Credit: Mr Porter
ブルネロ クチネリ ブレザー
ブルネロ クチネリ ブレザー
Credit: Mr Porter

世界のリゾートウェディング市場は、2022年から2032年までの間に6%の成長が見込まれているそうで、このことは夏の終わりのセールでサンダルを購入する理由となりそうです。しかし、世界各地で気温上昇予報が発表されている状況ではリゾート地ではなくロンドンであっても、雑多でアーティスティックな雰囲気のダルストンでの結婚式なら、きれいめサンダルはそれほど場違いに見えないかもしれません。

選ぶべき
スーツとサンダルは?

ただ、例えその場合でも、守るべき明確なルールはあります。サンダルは特に夏らしい要素が強いので、それに見合ったスーツが必要です。素材としては重厚なウール混紡素材は避け、リネンかコットンを選択。デザインはゆったりめがマストとなるでしょう。

ただし「ゆったりめ」と言っても、普段着ているデザインの大きめサイズを選ぶのではなく(それだと、ただサイズが合っていないように見えるだけですので…)、デザインとして意図されたゆったり感のあるものでなければ…ぜひ探してみてください。

もちろん、「結婚式にサンダル」を問題視する人がいる可能性は十分にあります。会場にオープンバー(自由に飲み物を取りにいける場所)がある場合などは、直接指摘されることもあるかもしれません。

安全なのは、つま先が露出しないスタイルで(完璧な仕上がりのペディキュアを見せびらかしたい場合を除いて)、フォーマルな印象を保つためにレザーを選ぶこと。グレンソン(Grenson)、ボッテガ・ヴェネタ(Bottega Veneta)、ザ・ロウ(The Row)、サンローラン(Saint Laurent)などの製品は、どれもこうした趣旨に沿ったデザインです。

ただし、ビルケンシュトックのクロッグは避けましょう。多くの人が愛するこのアイテムも、TPO的にはアウトと言えます。

ザ・ロウ Fisherman Sandal レザー
ザ・ロウ Fisherman Sandal レザー
Credit: THE ROW
ジャック ソロヴィエール BIARRITZ
ジャック ソロヴィエール BIARRITZ
Credit: Jacques Solovière
サンローラン カルヴァー フラットミュール(スムースレザー)
サンローラン カルヴァー フラットミュール(スムースレザー)
Credit: サンローラン
ボッテガ・ヴェネタ イントレチャートレザー スリッパ
ボッテガ・ヴェネタ イントレチャートレザー スリッパ
Credit: Matches Fashion
グレンソン クインシー スエードサンダル
グレンソン クインシー スエードサンダル
Credit: Matches Fashion

そこで最も重要と言えるのが、例え記録的ま酷暑の中でも(これから結婚する)カップルにきちんと敬意を払うこと。彼らが選んだ場所にふさわしいドレスコードを守ることです。「もし私たちの結婚式の会場が、ロンドンのブラックタイ着用がふさわしい場所になったとしたら、サンダルにスーツ姿の男性ゲストには良い印象を受けません。場の雰囲気にそぐわないと思います」と、ワイルディッシュさんは言います。

コンロン=ヒューナムさんも同じで、「やはり会場次第ということです。私たちの婚約パーティーは夏ですし、屋上なのでもちろんいいのですが、私たちが選ぶウェディング会場ではふさわしくないと思います」と話しています。

source / ESQUIRE UK
Translation / Keiko Tanaka
Edit / Satomi Tanioka
※この翻訳は抄訳です