この記事をざっくり説明すると…

  • 腸は「第二の脳」とも呼ばれますが、その中には少なくとも十数種類のニューロンが存在することが、最新の研究で明らかになりました。
  • 腸内でニューロンの分離がどのように行われるかを観察するため、マウスを用いた研究が行なわれています。
  • 腸が私たちの感情やストレスに大きく関わっていることは知られていますが、まだまだ解明されていない謎が多くあります。

腸は身体機能の変化から
感情にまで影響を及ぼす

 私たちの腸の中には、自律的な神経細胞(ニューロン)が多く存在することは何年も前から知られています。そうしてその長く曲がりくねった消化管は、「第二の脳」とも呼ばれてきました。しかし、その「脳と腸の相関関係」の詳細には、未だ解明されていない謎が多く残されたままです。

 マウスを使った最新の研究の結果、マウスの腸管神経系(ENS)からは12種類ものニューロンが検出され、分類されています。この基礎知識が整理されたことによって、新たな実験や発見への道が開かれたことになります。

 この「第二の脳」は、私たちの身体に大きな影響を与えています。消化器として日々の新陳代謝を司(つかさど)る役割と共に、「身体機能の変化や感情の状態にまで作用を及ぼしている」と考えられています。

 例えば、何かに対して不安を感じるなど、人間の精神状態の変化は消化器症状と何らかの関係があることが知られています。つまり、腸はストレスの影響を大きく受ける臓器と言えるのです。そんなわけで、腸管神経系(ENS)で何が起きているのか?という謎が理解できれば、効果的な新薬の開発やさまざまな治療に役立つことでしょう。そういった理由から、腸管神経系と中枢神経系がどのように結び付いているのかについて、さらに深い研究が期待されています。

 神経科学分野の専門誌『Nature Neuroscience(ネイチャー・ニューロサイエンス)』誌に、新たな研究結果が発表されています。ミシガン州立大学准教授のジュリア・ガンツ博士によれば、「今回の研究結果の持つ意味は極めて重要だ」と言います。

「単一細胞のRNAシーケンス(遺伝子の発現量を解析する手法の一種)を用いて、誕生間もないENSのプロファイリングが行なわれています。この新たな研究では、ENSにおける神経細胞の多様性をモデル化し、膨大な数の分子マーカーに基づく、全く新しい分子分類学を確立したのです」

 神経細胞(ニューロン)を持つあらゆる生物の内部において、ニューロンの多様化という現象が生じるということ。幹細胞と同様に、ニューロンはやがて異なる機能的なものへと変化していくことが報告されています。ヒトの脳にある神経細胞は、外部からの刺激を受け取る「感覚ニューロン」や、刺激を筋肉に伝える「運動ニューロン」といった異なる種類に分類されますが、それぞれからさらにサブタイプと呼ばれる複数のニューロンが派生しているとのこと。そして、これら多種多様なサブタイプの分類に関しては、まだ完全にはされていません。

今回の研究では「感覚ニューロン」と「運動ニューロン」がどう変化していくのか追跡されました

 同種のニューロンでも、脳と脳幹によってその分類が異なります。そのため、「感覚ニューロン」と「運動ニューロン」とに分化する初期段階から、それぞれがどのように変化していくかを追跡したというのが今回の研究の概要のようです。

 生物の体内で、ニューロンにどのような変化が生じるのかを知るため、マウスが胎児の状態とマウス誕生後の状態に分けるところから調査が開始されました。胎内においてすでに特殊なニューロンの存在が確認され、また誕生後に分裂して形成されるものがあることもわかりました。

 この研究のために、細胞を分離して識別するための新たな手法が開発されましたが、その点についてガンツ博士は次のように解説します。

 「膨大な数の共染色の結果と、既存の分子マーカーを組み合わせることで、12種類もの異なるニューロンを分類しました。そして、すでにその存在が確認されていた長官神経系の機能ごとの特性と関連づけることに成功したのです。このようにして、興奮性及び抑制性それぞれの『運動ニューロン』『介在ニューロン』『内在性求心性ニューロン』などを新たに分類することができました」

 新たに分類された12種類のENSニューロン(enteric nervous system=腸から摘出した腸管神経系ニューロン)が、それぞれどのような役割を果たすものかを探り当てたことを、今回の研究結果が示していると言えるでしょう。

 そして遺伝子情報を用いることによって、腸から摘出した種類の異なるニューロンの活動を「切り替える」ことで、マウスのENSの機能から何が損なわれるのかを特定することができるでしょう。そうして得られた遺伝子の研究を進めることで、有害な遺伝子が生まれることを制御する幹細胞やRNAを用いた新たな治療法などが、生み出される可能性大いに期待できるというわけです。

Source / POPULAR MECHANICS
Translate / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です。