2017年のインプレッションを述べる前に、オルネッライアというワインそのものについて語っておく必要があるだろう。オルネッライアの歴史は、ロドヴィコ・アンティノーリがボルゲリにブドウを植えた1981年に始まる。
ボルゲリとはイタリア中部トスカーナ州の海沿いにあるワイン産地。カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローなど、フランスのボルドー地方を原産とするブドウ品種の栽培に最適な土地であり、ここから「スーパー・タスカン」と呼ばれる数々の銘酒が生み出された。もちろん、オルネッライアもスーパー・タスカンのひとつであり、2001年には世界最大の発行部数を誇るワイン雑誌『Wine Specator』の「THE TOP100 WINES」で見事1位に輝いている。
少々専門的な話になるが、オルネッライアがボルゲリのワインの中でも抜きん出ているのは、その特別なテロワールにある。海岸から10キロ以上離れたオルネッライアのブドウ畑は、丘陵地の麓に位置する。海岸線により近い畑は平坦な砂地が大半で、いささか単調な風味のワインになりがち。しかし、オルネッライアは砂利や粘土、石灰などが入り混じり、土壌に応じて適切なブドウ品種を植えることで、複雑かつ洗練されたワインを生み出すことが可能になる。
気候もオルネッライアに味方する。典型的な地中海性気候により夏の気温は高く、乾燥。雨が降るのは収穫も終わった秋冬に限られる。またその一方、夏には海からそよ風が吹くため、極度な暑さは抑えられるのだ。
さて、そんなオルネッライア2017年のお披露目。数名の限られたワインメディアが招かれ、現地とオンラインで繋ぎ、2005年から最高醸造責任者を務めるアクセル・ハインツの解説を交えてテイスティングが進められた。
2017年はそのニックネームが象徴するように、「オルネッライア史上、最も暑く、乾燥した年」だったと言う。8月24日の収穫開始はこれまでで最も早い。各ブドウ品種のブレンド比率はカベルネ・ソーヴィニヨン56%、メルロー25%、プティ・ヴェルド10%、カベルネ・フラン9%となっている。
このような年の赤ワインはポリフェノールがたっぷり蓄積され、口の中がひりひりするくらいタンニンが強いか、あるいはその反対にブドウが過熟してジャムのようにまったりした味わいになるかだが、さすがは名醸造家アクセル・ハインツである。骨格はしっかりしているが、タンニンのきめはじつに細かく果実の中に溶け込み、酸味もきれいに調和して、もたっとしたところが少しも感じられない。ワインの香りはよく熟したカシスやブラックチェリーなど瑞々しいベリー系の果実とともに、シナモンやリコリスなどのスパイシーさも芳しい。熟成に使われるフレンチオークは新樽の比率が70%に及ぶにもかかわらず、これも見事に融合されて樽の香りがぷんぷんすることはない。やたらとパワーを追い求めず、むしろエレガンスを主張するところに、このワインの真骨頂を見た思いがする。
テイスティングには2017年のほかに、2011年、2010年、2006年も供された。
テーマが"L'Infinito(無限)"の2011年は、2017年同様に暑く、乾燥したヴィンテージ。凝縮感に富み、すこぶるリッチな味わい。すでに9年の熟成を経たにもかかわらず、若々しさとエナジーがみなぎり、熟成ポテンシャルの高さを見せつけてくれる。
2010年は"La Cerebrazione(祝福)"の年。なぜなら、1985年の初ヴィンテージから数えて25年目の記念すべき年だからだ。この年は2011年や2017年とは正反対の冷涼なヴィンテージ。2011年とはわずか1年の差だが、香りはより発展的でカシスのリキュールやタバコなど熟成感が少々感じられる。繊細で品格がありエレガント。今飲んでも美味しいが、2、3年後が最高の状態だろう。
最後に"L'Esuberanza(活力)"の2006年。夏は2017年以上に乾燥した一方、9月15日と16日の2日間に大雨が降る、予期せぬ出来事が起こったヴィンテージと言う。香りは十分な複雑味を帯び、ハバナシガーやほんの少しだが森の中の湿った土のニュアンス。4本の中では最もしなやかなテクスチャーで飲み頃だが、さらなる熟成のポテンシャルを残している。
同じブドウ品種を使いながら、ボルドーのシャトー・ラトゥールやシャトー・マルゴーとは異なる表情と佇まいを醸し出すボルゲリのオルネッライア。芯やパッドを廃したラルディーニのジャケットのごとく、心地よいフィット感こそ、オルネッライアの持ち味ではなかろうか。
オルネッライア
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