「先に言っておきますが、スパゲッティは最悪です」と、フード系人気ポッドキャスト番組『The Sporkful』でホストを務めるダン・パシュマンさんは、2018年にニューヨークのCaveat Theaterで観客に語りかけています。

わんわん物語(吹替版)

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「映画『Lady and the Tramp(邦題:わんわん物語)』のあのシーンによって、スパゲッティはロマンチックな食べ物であると私たちは刷り込まれました。そのことはアメリカの食の歴史に、大きなダメージを与えたと言っていいでしょう。あの映画から受け取るべきメッセージは、『スパゲッティというパスタは、犬にしか向いていないカタチをしている』ということです」

 と、とんでもないコメントを放ち、観客からは笑い声と野次が飛び交うほどウケていました。最初はパシュマンさんが観客を盛り上げ、場を温めるため大げさに振舞っていたのかと思っていましたが、さらに話しを聞いていくと何やら真剣な想いだったようです。

 「スパゲッティは外側が丸くなっていますよね」とパシュマンさん。「つまり、体積に対して表面積が少ないので、ソースがうまく絡みません。また、最初に噛んだときに歯に当たる面積も狭い。スパゲッティにはロマンチックなイメージはあります。ですが、そもそもミートボール入りスパゲッティなんて、イタリアのメニューにすらありませんから!」

 やっはり、スパゲッティは最悪なのでしょうか…?

パスタ,
Don Bartletti//Getty Images
塩味のリコッタチーズを添えたブカティーニ・アッラ・アマトリチャーナ。

 パシュマンさんが「宣伝文句に見合わない」とまで言うブカティーニ(スパゲッティよりもやや太く、中心に穴のあいた細長く固いパスタの一種)ですが、そのパスタに対して私が抱いていた愛は、その中心にある穴と同じくらい実は空虚なものだったのでしょうか。確かに彼の言う通り、ブカティーニはすすることさえできません。私は今までずっと自分を偽って生きてきたのでしょうか…と、疑心暗鬼になってしまうほどの説得力のあるスピーチでした。

 このような存在に関する不確実性は、パシュマンさん自身のフードポッドキャスト『The Sporkful』で最近完結した5部作の物語、『Mission Impastable』の主題のひとつでした。

新パスタ「Cascatelli(カスカテッリ)」の誕生の経緯とは?

 Caveat Theaterから始まり、3年の歳月をかけて彼は全く新しいカタチのパスタを生み出すことに成功しました。そう、斬新なパスタです。

 パシュマンさんは前述のように、従来のパスタのカタチには問題があると判断し、自分でもっと良いカタチをつくろうと考えたわけです。イタリア系アメリカ人として、そして日曜日には、どんなソースで食べようかと暇な時間のほとんどを使って空想している男として、私は認めざるを得ません。パシュマンさんの「Cascatelli(カスカテッリ)」は、実に素晴らしいパスタと明言します!

new pasta shape
Scott Gordon Bleicher
ソースがよく絡みそうな、かなり大きな溝があります。SHOP

 一体パシュマンさんは、どうやって新しいカタチのパスタを生み出したのでしょうか?

 『The Sporkful』のエピソードと同じように、パシュマンさんは粘り強く取り組みました。2021年3月下旬の『Mission Impastable』が終わった直後に、食の権威であるパシュマンさん自身に話を聞くと、自身が考案した「カスカテッリ」について独特のこだわりを語ってくれました。「カスカテッリ」とはイタリア語で「滝」を意味する言葉をもじった名前で、ヤスデとタコの触手を掛け合わせたようなカタチをしています。

 「まず、13分程度茹でることをおすすめします」と彼は強調します。「最初につくった箱はすぐに注文がたくさん入って、すでになくなってしまいました。ですが、そこには確か「15分~18分」と書いてあったと思います。ですが今後の箱では、「13分~17分」に修正しようと思っています」と話します。

 前日にパートナーと、レモンのアルフレッドソースをかけた「カスカテッリ」をゲストに振る舞ったと切り出し、「重めのクリーミーなソースが、パスタのフリルの部分によく絡まる」ということに同意してくれました。そして、「濃厚なソースは、まず溝に入り込みます。そこは「Sauce trough(ソース・トラフ=ソースの溝)」と言っていて、2つのフリルの間にある谷のような部分。そこに期待に応えるカタチで入り込んでいます。特にミートソースのように細かな具材が入ったものが、このフリルにうまくはまりますよ」と加えます。

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「私はシェフでも、イタリア系アメリカ人でも、パスタの専門家でも歴史家でもありません」

 「ソース・トラフ」というネーミングは、「カスカテッリ」がどのように神聖なる油っぽさでいっぱいの旨味を吸い込んだのかを適切にイメージさせてくれます。そうして噛んだときには、期待どおりのパンチ力で脂肪の旨味を感じさせてくれるのです。

 これは決して美しい表現とは言えないでしょう。ですがこれが、パシュマンさんの真骨頂とも言えるのです。

 例えば舌に触れたときの表面の味を強調するため、ピザを裏側を合わせるように折って食べるなど、『The Sporkful』のエピソードでは男性が食事を楽しむための奇妙な方法を紹介しています。それらは決してスマートでもなく、魅力的とも言えない方法…かなりクレイジーという表現のほうがふさわしいでしょう。

 『Mission Impastable』の根底にあるのは、食に対する探求心にも似た信念です。パシュマンさんは完璧なパスタのカタチを作るために、3つの原則に基づいて、長く驚くほど感情的な探求を行い続けました。「カスカテッリ」の箱にも、その原則が書かれています。

1.ソースが良く絡む:
ソースがパスタの形状に付着しやすいこと

2.フォークに乗せやすい:

フォークで取り扱いやすく、形状を維持できること

3.歯ごたえの満足感:

噛んだ時に、歯で満足感を感じられること

 このような『The Sporkful』が放つ豆知識は、これまではポッドキャスト上でパシュマンさんの声を噛みしめることしかできませんでした。これまでも彼は、番組内でサンドイッチをつくったり、クッキーを焼いたりしていました。ですが『Mission Impastable』では、口先だけでなく行動に移さなければいけませんでした。「カスカテッリ」が非常に素晴らしいものとなったことが、彼の綿密に整理された食のルールの正しさを物語っているのではないでしょうか。今後私たちは、ピザを食べるときは必ず裏面を合わせるように食べるべきなのかもしれません。

 「カスカテッリ」は、マファルディーネ(ウェーブしたフェットチーネのようなパスタ)をアップデートしたようなもので、普段食べているほとんどの形状のパスタよりもコシがありジューシー、実にホッとするパスタです。長い麺ではなくショートパスタなので、カヴァタッピ(らせん状のマカロニ)のような渦巻き状のパスタ(パシュマンさんは、こちらも私のパスタ四天王に加えるようすすめていました)との共通点が多いのですが、多くのショートパスタのようにループにはなっていません。ラディアトーレのような、ふっくらとしたカタチのものに近いと言っていいでしょう。しかし、ラディアトーレなどとは異なり、「カスカテッリ」は調理に時間がかかります。私にとっては、これはプラスポイントです。パスタは固めのほうが、マッシュポテトのようになってしまうよりはマシですから…。

pasta production
Scott Gordon Bleicher
カスカテッリは「Sfoglini」が製造しており、最初の製造分は、すぐに完売となりました。

 パシュマンさんは、「私は部外者の視点から、この商品の開発に取り組みました」と説明しています。さらに「私はシェフでもなければ、イタリア系アメリカ人でもないし、パスタの専門家でも歴史家でもありませんから、新たな視点でつくるようにしました。それはただ、パスタを食べるのが好きな人の視点からのアプローチです」 と言います。

40代、そしてコロナ禍で新プロジェクトに挑戦する果敢さ

 電話口で彼は、とてもシンプルなことのように話してくれました。「私自身が最も食べたいと思うパスタのカタチを追求し、『いま存在していないカタチは何か?』とずっと考えてました」とのこと。

 しかし『Mission Impastable』のリスナーは、『The Sporkful』のホストの道のりがそれほど単純ではなかったことをよく知っています。パスタで言えば、フェットゥチーネよりもフジッリです(平たく広い道ではなく、狭く捻じれた道と表現したいのでしょう)。

 こうしてパシュマンさんは、新たなパスタのカタチを発案。次の最初の売り込みを行います。ですが実際は、「全国の企業やパスタ屋で販売したい」という夢と共に、ことごとく潰されてしまいました。しかし幸いにも、ブルックリンに設立された職人気質の食品会社「Sfoglini」がその呼びかけに応じてくれたのです。そして大量の自己資金を投入した2児の父であるパシュマンさんは、パンデミックに真っ向から立ち向かったのでした。

 このミニシリーズの中盤で私の心に残った場面があります。それは奥さんの理解を得ながらも、仕事と子どもの大学資金調達の間で板挟みになっていたパシュマンさんは、自らの創造的な探求は乾燥したセモリナ粉で実現できるものではなく、単なる空想に過ぎないのではと迷い始めます。クリエイターやアーティストにとって、特にその中でも20代を終えた者にとってこのような瞬間は、痛く悲劇的なものです。そして、それは実に共感できるものでした。

 改めてパシュマンさんに、「若いクリエーターにこのようなプロジェクトをすすめるか?」とたずねると、「いいえ」と答えました。

 「私はもうすぐ44歳です。このチャレンジが10年前、20年前でなくて本当によかったですよ。時間をかけて学び、ポッドキャストやビジネス運営の腕を磨いておいたおかげで、賢明な判断ができるようになったと思うからです」

 現在、Sfogliniのウェブサイトに掲載されている「カスカテッリ」の出荷予定日は、次のバッチの準備ができるまで12週間かかるそうです。それまでは、ポッドキャスト『The Sporkful』を聴くことができます。パシュマンさんによると、近々ミニシリーズのアップデートがあるとのことです。

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Source / ESQUIRE US
Translation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です。

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