記事のポイント

  • 鳥類を含む多くの種が、移動の際に磁気受容(地球の磁場を感知できる能力)に頼っていることはよく知られています。ですが、これらの内なるコンパスは強力な太陽嵐で混乱する可能性があります。
  • 新しい研究によって「太陽嵐が北米の渡り鳥にどれほどの影響を与えるか?」 が数値化され、渡り鳥の数が9~17%減少すると推定されました。
  • 太陽は2024年に極大期を迎え、太陽嵐が増加する可能性があります。

太陽の動向を
われわれは
もっと注意すべき

渡り鳥が磁場を頼りに季節ごとに住処を目指すことはよく知られており、毎年地球全体を旅しているような鳥もいます。ですが、地球の磁場は必ずしも安定しているものではないようです。

太陽嵐(大規模な太陽フレアが発生することに伴う爆発的な太陽風)やその他、太陽による影響で変化する自然現象…いわゆる「宇宙天気」の乱れは、衛星航法やさらには民間航空機および乗客、また鳥類の渡りに悪影響をおよぼす可能性があります。

高密度な太陽風によって電離圏の構造が乱れると、静穏な時とは大きくその状況に変化が起こります。結果として、電離圏反射を利用する短波通信・放送や、電離圏を透過する衛星・地上間の電波利用に障害を与えるとのこと。 特に最近では、カーナビなどに利用される衛星測位への誤差要因として注目されているのです。

国立研究開発法人情報通信研究機構のユーザーガイド内「宇宙天気とは」のページには、 「近年、最も宇宙天気に関する情報を必要としている分野に航空運用が挙げられます」とつづられています。

内容としては、 時代を追うごとに極域航路の活発な利用が進められている中、航路となる領域…特に赤道上空において、通信衛星が有する仰角が小さいことから陸上との通信は短波に頼ることになりますが、その一方で宇宙天気の影響を受けやすい領域でもあるとしています。そこで太陽風によって電離圏の乱れが生じると、短波通信の不具合に加えて衛星測位の不具合も同時に発生する可能性を示唆。さらには、その領域を飛行する乗客乗員の被ばくのリスクも高まる可能性もつづられています。そして、これらのリスクを避けるために現在、国際民間航空機関(ICAO)では宇宙天気が乱れているとき、 あるいは乱れが予報されるときには極域を避ける運用を行うことなどが検討されているということも…。

2024年、
太陽活動の影響で
渡り鳥の数が減る

米海洋大気局(NOAA)の宇宙天気予報センター(SWPC)による11月2日発行の報告書によれば、「太陽の活動が予想を上回る規模とペースで活発化しており、従来の予測よりも早くピークに達する見通し」ということ。さらにそのピークは予想より長く続き、2度訪れる可能性があることも。ただ活動レベルに関しては、過去最高水準には及ばない見通しとしています。そしてさらなる議論を、世界の研究者たちに呼びかけていました。

そして2024年半ばから後半にかけて、太陽が太陽活動の極大期(11年の太陽周期の中で最も活動が活発になる時期)に入ると地磁気の混乱はさらに頻発化することが予想されてもいます。そこで、ミシガン大学の科学者たちが行った研究のフォーカスしてみましょう。

研究者たちは「この宇宙天気による混乱がどれほど広範囲に及ぶか?」を明らかにするため、テキサス州からノースダコタ州まで続くアメリカのグレートプレーンズ全域における23年間の移動データを調査することにしました。

その方法とは、渡り鳥の飛路内に位置する37カ所のNEXRAD(高解像度の気象レーダー網)基地から、春と秋における移動の300万枚以上の画像を収集することに始まります。そして研究チームはその膨大な写真から、スズメ目(木の枝に止まる足を備えた鳥)、チドリ目(海や水辺の岸にいる鳥)、カモ目(水鳥)など、さまざまな種類の鳥の移動パターンを分析。さらにこれらのデータを、地磁気地上局の世界的ネットワークを持つSuperMAGの地磁気データと照らし合わせたのです。

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Gulson-Castillo et al./PNAS
NEXRAD観測所とSuperMAG磁力観測所の位置関係。

そうしてこの分析結果は、2023年10月初めに『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』誌に発表されました。そこには、「宇宙気象現象が発生すると、秋と春の渡り鳥の数が9~17%減少する」という考察がなされていたのです。これには、渡り鳥が移動中に迷子になることを表す「vagrancy」の増加も含まれています。「vagrancy」は日本語で言えば「放浪」を意味し、ハリケーンのような強烈な熱帯性暴風雨の際に起こりうるものです。つまり、飛行する鳥が物理的にコースから吹き飛ばされること言います。ですが、2023年初めに発表された別の研究が発見したように、地磁気の乱れもその原因となる可能性があるということになります。

ミシガン大学生態進化生物学部の助教授であり、ミシガン大学動物学博物館の鳥類学芸員である筆頭著者ベン・ウィンガー氏は、プレスリリースで次のように述べました。

「地磁気がひどく乱れている状況下では、移動の精度が低下することを支持する結果が得られました。移動ダイナミクスにおいて宇宙天気がコミュニティ全体に及ぼす影響を示したことで、動物の磁気受容のメカニズムに関する数十年にわたる研究に対し、生態的な背景の面から一石を投じることとなりました」

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Kyle Horton
2016年5月4日、カンザス州ウィチタのNEXRAD観測所付近で飛び立つ鳥のアニメーション。

この膨大な量のデータを科学者たちが解析(研究に携わった科学者の一人がこの研究の「最大の難関」と呼んだほどでした)した結果、「地磁気の乱れの影響を受けた渡り鳥は太陽嵐の間、横風と戦いながら正しい目的地へ移動するよりも、風に乗って漂流する傾向にある」ということを発見しました。特にそれは秋に顕著で、太陽嵐と曇り空が重なると、横風に対抗する“努力飛行”は25%減少していたとのことです。

ミシガン大学の博士課程の学生で、この研究の筆頭筆者であるエリック・ガルソン=カスティージョは、報道発表の中で次のように述べました。

「われわれの研究結果は、地磁気が強く乱れているときには渡り鳥の数が減り、特に秋の曇天時には、渡り鳥たちはより困難な飛行を経験することを示唆しています。その結果として渡り鳥は、攻めの飛行に費やす労力を減らすため、風に合わせてより大きく飛ぶようになると考えることができるわけです」

これらの結果は、太陽が間もなく極大期を迎える現在、特に気になるところです。科学者たちは冒頭で述べているとおり、すでに「太陽の活動は予測を上回っており、少なくとも過去20年のどの時点よりも活発と見ている」と述べています。

そして、それに影響を受けるのは鳥だけではありません。クジラのような他の種もまた、移動するためにある程度の磁気受容に依存しています。これらの種が太陽嵐によってどのような影響を受けるか? を理解することは、最悪の影響から救う解決策を提供するのに役立つでしょう。

Translation & Edit / Satomi Tanioka
※この翻訳は抄訳です

From: Popular Mechanics