ホルモンの不均衡がもたらす「不調」

テストステロンと言えば、これまで「攻撃的」「性的に奔放」「繊細さの欠如」などネガティブなイメージと結びつけられてきました。それが「男らしさ」と結びつけられた側面もあります。ですが実際、テストステロン値が高い集団と低い集団を比較し、その特徴を調べてみると逆の側面も見えてきました。

高い人は忍耐力、緻密性、協調性、計画性が高く、芯がブレず自分らしさを大切にすると同時に楽天的な傾向も示します。つまり、「失敗してもなんとかなるさと、失敗を恐れずに新しいことにチャレンジし、リーダーシップをとりながら計画を我慢強く丁寧に進めることができる傾向も見せます。

そのため不足すると、この特性が逆の形で表出するようです。忍耐力は暴力に、我慢強さはキレやすさへ、新しいことへの意欲は臆病に、リーダーシップは強引さに、緻密・計画性は行き当たりばったりに、自分らしさはなくなり他人との比較で勝ち負けに怯え、嫉妬するようになる傾向に。

最近の研究では、「テストステロンと暴力性は必ずしも関係性はない」ということがわかってきています。むしろ逆で、「ボランティア活動をするとテストステロンが上がる」というデータもあります。また多額の寄付をする人々を調べたところ、「テストステロン値が平均より高かった」というデータもあるのです。

テストステロン値が高い職業・低い職業

テストステロンが高い人には、おおざっぱに言えば自己表現系、政治家、ひとりで仕事をしている人に多い傾向があり、調査結果によればフリーカメラマンはテストステロンが特に高い数値を示しました。

逆に低い職業として(学会では)、次の3つが知られています。教師、牧師、医師。この職業に共通するのは何でしょうか? なんらかの弱みのある人を囲う職業です。生徒、信者、患者を囲い込む仕事。意欲や挑戦では続けられない、イヤなことをやる仕事と言えるかもしれません。自分のテストステロンを犠牲にしても、他人のために尽くす仕事――だからこそ、尊敬が必要とされるのかもしれません。 

テストステロン 男性更年期
Getty Images

テストステロン不足が引き起こす更年期障害。30代でも男性の3割に症状

女性の更年期は、以前から注目されてきました。女性ホルモンは基本的に遺伝子に書き込まれているため、すべての女性が必ず例外なく一定の年齢を境に、一気にガクンと減っていく傾向にあります。それは、卵巣機能と女性ホルモンが深くかかわっているためという研究結果があります。ゴリラやチンパンジーに更年期はありません。それは卵巣機能があるうちに寿命が来るから――。卵巣機能が終わっても、生きることに意味を見出しているので人間はその後も生き延びると言えるのですが、その結果として人間の「女性」は更年期を体験するというわけです。

一方で男性ホルモンは、早くも20歳をピークにあとは減少し続けます。基本的に女性のような決定的な減り方はせず、緩やかですが、その減り方にかなり個人差が見られます。だいたい2割くらいの人が、ある時点を境にどんどん減っていく傾向にあります。これが男性の更年期です。

男性の体内の男性ホルモンは、女性の体内の女性ホルモンの40倍ほどの量があります。相対的な量が多いので、減少による影響は大きく表れます。ところが個人によって差があるため、男性全体の問題だとされてきませんでした。昔は、「男性には更年期がない」とされてきたのはそのせいです。しかしながら2022年に、厚生労働省はついに男性更年期に関する調査結果(pdf)を発表しました。 

男性は2~3割の人が、テストステロン不足状態にあります。そして30~50代のおよそ3人に1人が、「テストステロン値が足りないことによる軽度以上の症状を感じている」という結果が出ています。20代でも30代でも約3割に症状があり、50代は4割。そのうち8%は重度症状といった結果になっています。

ここで注意しておきたいのは、「テストステロンの量は各人の生活様式にあった量があればいい」ということです。テストステロン(生成量?)は身長などと同じく、遺伝によってある程度決まります。やたらと量を増やせばいいというわけではなく、その人本来が持っているテストステロンの値より下がらないようにすることが大切ということ。個性を持つこのホルモンは、その人らしく生きる人生を支えていると言えるでしょう。

テストステロン不足は女性にも関わる問題

テストステロンは最初にお話ししたように、女性も持っています。その量は女性ホルモンの約4倍(要確認)ほど。そのため女性でも、男性ホルモン補充薬を使っている人もいます。むしろ女性のほうが、効果的に効くこともあります。PMS(月経前症候群)に悩んでいる女性は、テストステロン値が低いことが多いのです。

男性 女性 更年期
zoranm//Getty Images

堀江重郎(ほりえ・しげお)/順天堂大学医学部大学院医学研究科教授、日比谷国際クリニック メンズヘルス外来担当医師

昭和60年医師免許取得後、米国テキサス州で医師免許取得。男性ホルモンの低下に起因する、さまざまな疾患の診断と治療を行う日本初の男性外来「メンズヘルス外来」を立ち上げ代表理事を務めるなど、日本の泌尿器科医療をリードする第一人者。

これまで泌尿器科学に加えて、救急医学、腎臓学、男性医学を学び、日米で医師免許を取得し、泌尿器科の手術は、がんの手術にはじまり、腎移植、外傷後の尿道再建、腹腔鏡手術、内視鏡手術など、海外を含む9つの病院で幅広く研鑽を積みます。当院では男性更年期外来にて、アンチエイジングと男性医学の研究に基づいた、常に最善の対処を念頭においた診療を行っている。 

Edit: Keiichi Koyama