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Netflix『マネーショット: Pornhubは語る』新時代のポルノは虹のかなたに【鈴木涼美寄稿】

ポルノ動画のパフォーマー、活動家、元従業員らへのインタビューを通して、Pornhubの成功とスキャンダルを深く掘り下げたドキュメンタリー映画『マネーショット: Pornhubは語る』がNetflixで配信中。元日経新聞記者でAV女優などの経歴を持つ芥川賞候補作家の鈴木涼美さんが同作を観て思う、本当に語られるべきポルノの話とフェミニズムが切り捨ててはいけないことは?

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Netflixドキュメンタリー映画『マネーショット: Pornhubは語る』作品概要

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Money Shot: The Pornhub Story | Official Trailer | Netflix
Money Shot: The Pornhub Story | Official Trailer | Netflix thumnail
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アダルトコンテンツのプラットフォーム「Pornhub」とその運営会社MindGeekに関する“成功”と“スキャンダル”に迫る、2023年3月からNetflixで配信されたドキュメンタリー映画『マネーショット: Pornhubは語る』。

そこには、セックスワーカー、元Pornhub従業員、ジャーナリスト、性的人身売買反対派に行ったインタビュー映像が収められ、児童ポルノを含むPornhub上の不同意ポルノを巡る2020年のスキャンダルと、その余波によってポルノ女優と俳優たちの向けられた影響に関して焦点を当てた作品。

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【鈴木涼美コラム】女性が主体となってポルノの制作や発信ができる時代の到来かとも思われたが…

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Money Shot: The Pornhub Story. Cr. Netflix © 2023

私的にはAVに出る趣味はあったものの見る趣味はそれほどないため、2020年12月からはじまるPornhubの騒動、その後半分以上の動画が削除されたこと(※1)、さらに2022年8月の裁判(※2)など、あまり熱心に動向を追ってさえいなかった。

そして日本においても、2022年6月にAV出演被害防止・救済法(いわゆるAV新法※3)が成立した折も、すでに業界を引退して20年近く経っている私の生活に影響があるかというとそうでもなく、やはり蚊帳の外でなんとなくニュースを読んでいるだけだった。

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Money Shot: The Pornhub Story. Cr. Netflix © 2023

かつては、あやしげな映画館やラブホテル、レンタルビデオ屋の区切られた領域に封じ込まれていたポルノだが、インターネットの普及によってそれらはあらゆる人の掌に簡単に届くようになった。

日本でもアダルト動画はネット上に文字通り氾濫していて、見たい人としては大変便利ではあるものの、見たくない人の目にもうっかり映ってしまうことも少なくない。加えて、人権意識の高まりや事件被害者の声が広く発信されるようになったことで、世界的に規制や排除を求める動きが活発化することはあまり不思議ではない。

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Money Shot: The Pornhub Story. Cr. Netflix © 2023

しかし、ポルノ関連の規制が議論されたり、ポルノサイトが問題視されたりするときに、実際に人々が何に怒り、何を守ろうとして、何と闘っているのか、という問題は意外と複雑ではある。

「AVに出演する女性を守る」という名目の法規制に、なぜあれほどAV女優たちが反発したのか。女性の被害を訴えた裁判で傷つけられた女性がいるのはなぜか。直接的あるいは間接的に罰を受けたのは誰なのか。誰が何を守り、誰が何を傷つけているのか。それらは、そもそもポルノとは何かを巡る壮大な問題について考えなければ見えてこない。

 
Money Shot: The Pornhub Story. Cr. Netflix © 2023

思えば、Pornhubに代表されるようなポルノ動画投稿サイトが幅広く認知され出したとき、最初に眉をひそめたのは日本で言うAVメーカーなどポルノによって収益を得ている業者だった。

YouTubeが徐々に認知され出したころ、テレビ界隈の人が酷く懸念していたことと似ている。YouTubeはその後爆発的に人気を得て、テレビタレントや製作者たちの間にも利用が広がり、違法アップロードはなくならないにせよ共存の道を歩いているが、Netflix制作のドキュメンタリー映画『マネーショット: Pornhubは語る』が示すように、Pornhubのほうの道はもっと荒々しかった。

 
Money Shot: The Pornhub Story. Cr. Netflix © 2023

出演者側も当初は、自分の動画が許可なく無制限にアップロードされることを懸念していたが、その後ポルノの需要形態が変化したことで、むしろ出演者たちを使って大きく儲けていた大手メーカーや制作会社の筋書きに乗らず、初めて女性が主体となってポルノの制作や発信ができる時代の到来かとも思われた。

映画館やレンタルビデオとして流通させなければならない場合、ポルノ出演に興味がある女性たちはどうしてもプロダクション、メーカー、制作陣などのつくった業界の中に活躍の場が限られていたからだ。

映画の中でも紹介されるように、女性自身が撮影したり、制作者を雇用したりして誰かに搾取されることなく、自分のポルノ動画を視聴者に届ける新しいポルノ女優の形がそこで示された。

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Money Shot: The Pornhub Story. Cr. Netflix © 2023

そうして共存どころか、動画投稿が既存のポルノ業界にとって代わるかとも思われるほどPornhub及び同種のサイトは、瞬く間に有名になった。

SimilarWebの2020年11月の統計では、Pornhubは世界で10番目に多くアクセスされたウェブサイトであり、米国に次いでアクセスが多いのは日本だったりもする。

Pornhub裁判によって居場所も奪われ、思うように活動できないポルノ女優・俳優たちの自由と尊厳は?

 
Money Shot: The Pornhub Story. Cr. Netflix © 2023

しかし制作機能を持たず、チェック機能も不十分なプラットフォームは、非認証のユーザーにも動画投稿の間口を広げたため、違法性が疑われる動画、映っている者の許可をとることなく撮影された動画が拡散され、サイト側もそういったものに十分に対処することがなかったため、今度はポルノ業界ではなく一般社会から大きな批判を浴びることとなる。

批判はあらゆるところから噴き出たが、Netflixドキュメンタリー映画『マネーショット: Pornhubは語る』によるとこのとき、最も大衆をたきつけ、また怒りを助長したのは同サイト内に「ティーン」のタグ付けがされた動画が多く投稿されていたことである。2020年12月に「ニューヨーク・タイムズ」に掲載された未成年の動画投稿の疑いを指摘する記事(※4)は幅広く読まれ、それまでにない勢いで批判は膨張した。

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Money Shot: The Pornhub Story. Cr. Netflix © 2023

ポルノを攻撃するときに、最も効果的な方法はこうした青少年保護、未成年への性加害などを斬り口に批判することである。日本でも、AV新法成立の直接的なきっかけは、成人年齢引き下げに伴う二十歳に満たない女性たちのアダルトビデオ(AV)出演問題だった。

Pornhubの場合も、「ティーン」たちのセックス動画が無許可に世界中に拡散されている、という危機感から運動は苛烈を極め、運営会社だけでなく従業員やそのプラットフォームを使って自らポルノの発信をしていた女性たちも徐々にパブリックエネミー化されていく。

サイトに関するイメージは悪化し、まるで関係者たちが児童人身売買の加担者であるかのように扱われた。日本でも話題となった動画の一斉削除は、このような文脈で実施されたのである。

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Money Shot: The Pornhub Story. Cr. Netflix © 2023

運営会社のポリシー運用はたしかにずさんで、動画投稿のハードルがあまりに低く、本人の同意がないレイプ動画が拡散しても削除には時間がかかり、被害者の対応も不十分であった。ただ、未成年動画の問題にすべてを挿げ替えて、ポルノ関係者=未成年レイプを許容する者のようなレッテル張りをするような論調があったのも事実で、映画はそれによって居場所を奪われ、思うような活動ができなくなってしまったポルノ女優たちの現状も伝えている。

当然、彼女たちが責めるべきは問題のある動画の対処をせず、金儲け主義でずさんな運営をしていた親会社であるのだが、彼女たちの一人が言うように、「全く別の二つの問題があたかも関係するように論じられている」ことは、問題の適切な対処を妨げているようにも思う。

つまり、未成年動画の存在を理由にポルノ自体の廃絶を狙う者が少なからずおり、そのことによって不当に居場所を奪われた人たちとの溝が深まってしまうという問題があるのだ。

 
Money Shot: The Pornhub Story. Cr. Netflix © 2023

これは日本で売春や風俗営業の是非、AV業界の規制などについて論じる際に多くの人が引っかかっている問題でもある。未成年売春・買春やポルノ出演を問題がない、と表立って論じる者はいない。

売春の合法化やAV業界の存続を願う者にとって、反対意見を言う論者たちがいつのまにか議論を未成年の保護にすげかえるのは常に大きなジレンマなのだ。

ポルノ好きの人々、ポルノ制作や出演を生き場所とする人々がしなければいけないこと

 
Money Shot: The Pornhub Story. Cr. Netflix © 2023

そのようなかみ合わない議論が発生した大きな要因の一つに、ここ二十年で売春婦の権利やポルノ女優たちの主体性に対する認識がフェミニストの中ですら大きく変わったことにあるように思う。

1974年のロビン・モーガンのスローガン「ポルノグラフィは理論であり、レイプは実践である」(エッセイ「理論と実践:ポルノとレイプ」より)に象徴されるように、2000年前後では一般的にフェミニストというとポルノや売春を男性による性的搾取であるとして反対する態度がイメージされた。

過激派なポルノ反対フェミニストである、アンドレア・ドウォーキンらの著作『ポルノグラフィと性差別』(2002年)が日本で紹介されたことも大きい。その後、セックスワーカーたちの主張が多くの人に受け入れられ、主体的にその業界で働く女性たちの権利と安全を守るという意識は、いくらいかがわしい業界にいようとも共有してもらえるようになった。

ただそれも、セックスワーカーの自由と尊厳にとても敏感な人からポルノ自体が性的搾取であることに変わりないが今働いている女性たちの安全は守るべき、という立場、ゆくゆくはポルノのない社会を狙っていそうな立場まで幅の広いグラデーションの中にある。

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Money Shot: The Pornhub Story. Cr. Netflix © 2023

米国の一部では宗教的な立場から性の氾濫を許すべきではないという根強い主張が存在するが、もともとキリスト教圏のそういった規範を持っていない日本の場合、売春やポルノ規制強化を望む声は主としてそういった女性の人権に敏感な人々が論理を構築し、それをいかがわしいものや性的に過激なものを嫌がるコンサバティブな性格の人々が指示する形で広がっていくことが多かった。

それもSNSの普及などでかつてレンタルビデオ店の一角でしか存在を主張しなかったAV女優たちが発言の機会を得て、権利を主張するようになると、彼女たちの主体性、自由意思を完全に無視するわけにもいかなくなる。

搾取だと言ったところで、「私たち好きでやってます」と当事者に主張されてしまえばすぐに破綻する。だから未成年問題や、一部の悪徳業者による事件などを頼りに規制の議論を紡ぐしかない。

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Money Shot: The Pornhub Story. Cr. Netflix © 2023

搾取の被害者が存在することと、女性たちの意志ある行動によってポルノ制作がなされ得ることは二つの別の問題でしかない。二つの問題を混同すると、意志ある表現者たちを搾取被害者、もしくは搾取の加担者であるとレッテル貼りし、彼女たちのアイデンティティを著しく侵害することになる。

ポルノについて不快な思いをしている者は、反対されない論理を用意するのではなく、ポルノの何が問題であるかを正面から問い直し、ポルノそのものを否定して見せてほしいと思う。

それは未成年の人身売買のように、反対する者のいない主張にはなり得ず、多くの当事者女性たちの反発や否定に合うだろうが、それがどうした、とも思う。意見がぶつかり合わなければ本来的な議論は始まらない。

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Money Shot: The Pornhub Story. Cr. Netflix © 2023

一方、ポルノ好きの人々、ポルノ制作や出演を生き場所とする人々にも、ポルノが存在するだけで傷つき不快に思う人がいることを念頭に、隙のない運用が求められるのは間違いない。

Pornhubは、未成年の同意なき動画を投稿する一部の変態たちを招き入れたせいで、彼らだけでなく、そこで新しい活躍の場を見出し、ポルノ業界の未来に寄与しようとしていた多くの女優たちの居場所を奪いかねない失敗をした。

明らかな違法行為が見つかれば批判はそこに集中し、ポルノ自体に問題を見出す純度の高い批判者の声は消えてしまう。その純度の高い批判がポルノ業界人たちの耳に届く時、本来の意味でのポルノの未来に光がさすかもしれない。

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Money Shot: The Pornhub Story. Cr. Netflix © 2023

※1 未承認ユーザーによってアップされた全てのPornhub内の動画を削除し、1350万本あった動画が470万本ほどに減った。

※2 「ニューヨーク・タイムズ」紙は2020年12月、「Pornhubは、投稿された児童ポルノやリベンジポルノから収入を得ている」という記事を掲載したところ、議会でも取り上げるほどの社会的関心を集める。その後、動画撮影時13歳だった女性が原告となり、「当時のボーイフレンドから性的動画を撮影するように指示され、その動画が同意なしでPornhubにアップロードされた。その動画は数百万回も再生され、精神的苦痛を被った。そのため、薬物中毒やうつ病などに苦しむことになった」と主張。原告は被害に対する損害賠償を求めると共に、MindGeekがプラットフォーム上でより厳格なポリシーを採用し、さらなる搾取を防ぐことを要求します。さらに、決済業者であるVisaに対しても、児童ポルノの支払いを処理したことで「カリフォルニア州の法律に違反した」と非難。これに対してVisaは訴訟の対象外とすることを求めながらも、2022年7月、カリフォルニア州中部地区連邦地方裁判所のコーマック・カーニー判事は、「Visaが意図的にMindGeekの犯罪行為を助けた」と主張することは、原告にとって合理的だという裁定を下し、これによってVisaを被告としたままで訴訟を進めることが認められた。

※3 AV出演による被害防止と被害者の救済を目的として成立。その後、性行為映像制作物(AV)の出演を契約してしまった後でも無条件で契約をなかったことにでき、撮影された映像の公表を止めることができるにようになる。

※4 米ジャーナリストのニコラス・クリストフが提起した記事をきっかけに、アメリカの反ポルノ団体National Center on Sexual Exploitationを中心に「被写体の同意なしに公開されているコンテンツが含まれている」「適切なポリシー運用が成されていない」などといった批判が起きた。


Text / Suzumi Suzuki
Edit / Minako Shitara(Esquire)

鈴木涼美新著

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