• 名前:ロバート・マング
  • 年齢:68歳
  • 出身地:ニューヨーク州ナイアガラフォールズ(現在はニューメキシコ州のサンタフェに居住)
  • 職業:退職
  • 自転車に乗る理由:オープンスペースで、無限に続く風の中を移動しているときに実感する“自由”を求めて

サイクリングに恋した理由

自転車と出合う前の生活に、ろくなものはなかった––これが子どもの頃の私(ロバート・マングさん)の記憶です。10歳のときに初めて乗った自転車がすごくかっこいいシュイウィン・スティングレイで、それ以来ずっと自転車に乗っています。いまから40年前、私はさらに本腰を入れてロードバイクを追求するようになりました。そして、現在のように週に5日乗るのが普通の生活になったのです。

最初の頃はトラベル・プランもアプリもありませんでした。でも、25年ほど前からは詳細な記録をつけるようになって、走った距離や登った高さ、乗車時間、自転車の種類、インドアかアウトドアかなど、さまざまなデータについて答えることができるようになりました。

私は毎年サイクリング・プランをつくって、過去15年間で年間5000~6000マイル(約8000~9600km)を走破しています。登る高さは通常40万フィート(約120km)で、乗車時間は375~450時間ですね。レースにも何度か挑戦しましたが、すぐに興味がなくなりました。なぜなら、サイクリングが仕事のように感じられて、走る楽しさが失われてしまうことに気がついたからです。

私がサイクリングをする楽しみのひとつとなっているのが、“自由”を具体的に体感できることです。“自分が存在している”という実感、“周囲の環境との一体感”、ツーリングに出発するときの“最初のひとこぎを踏み出すときの感覚”などですね。これらの感覚は新しい国の新しいルートを走るときには特に顕著に感じることができて、さらに曲がり角を曲がるたびに新しい発見もあり、その新鮮さの相乗効果でツーリング自体が心浮き立つこの上ない快感になるのです。

マウンテンバイクの事故で重傷、その記憶

ですが今から9年前、私はマウンテンバイクの事故で瀕死の重傷を負いました。乗っていたのは新しいマウンテンバイクで、液圧ブレーキとフルサスペンションの29インチ(約73cm)––いずれも私が初めて経験するバイクでした。それまで20年以上もマウンテンバイクに乗っていましたが、このタイプやコンポーネントのバイクには乗ったことがなかったのです。

それは非常にタフな1日の終りで、私はへとへとでお腹がすいていました。私が食料を忘れるなんて滅多にないことですが、そのときは忘れてしまったのです。どんなに懸命に思い出そうとしても、事故の記憶はぼんやりしたままです。事実としてわかっているのは、私が3人の友人と一緒に、それまで走ったことのない中程度の難しさのコースを走っていたときのことです。私は下り坂では慎重に走るタイプなので、バイクを降りて歩いたところもいくつかありました。

確かそのコースのゴール目前、最後の下りを走っていたときのことだったのは間違いありません。なぜなら、私が転落した場所として記憶の残っている映像はそこだからです。落下しながら岩場や砂地の光景は今でも憶えていますし、「無事にはすみそうにないな」と考えた記憶もなんとなくあります。それから、砂の中で回転している前輪や、私の身体がハンドルの上を乗り越え、岩へ激突した瞬間の記憶も…。

そして私は、外傷センターへと空輸されました。なんと、肋骨7本が骨折していたのです。そんなわけで私はフレイルチェスト(多発肋骨骨折の中でも、連続する3本以上の肋骨がおのおの2箇所以上骨折した場合など、胸郭全体との連続性を断たれて正常の呼吸運動と逆の動き、つまり吸気時に陥没して呼気時に突出するという奇異呼吸を示す状態)にあり、さらに肺と脾臓(ひぞう)が破裂。骨盤も折れ、脳しんとうを起こしていたのです。

私は直ちに、つぶれた肺と脾臓をつなぎ合わせてもらい、肺に点滴チューブを挿入する手術を受けたのです。「何があって、どれほどの怪我を負ったのか?」、私がきちんと理解できたのは翌日になってからのことです。

自転車ヘルメットの重要性

医師たちによると、「感謝すべきことがいくつかある」とのことでした。

ひとつ目は、「ヘルメットをかぶっていたおかげで、命が助かった」ということです。確かに私は、脳しんとうを起こしており、そのときの衝撃でヘルメットが割れていました。なので医師の言うとおり、もしヘルメットをかぶっていなかったら、命を落としていたか、脳に深刻な外傷を負っていたことでしょう。

ふたつ目は、「私は、健康な肉体と丈夫な肺に恵まれていた」ということです。医師によると、フレイルチェストになったときの死亡率はかなり高く、私のように人里離れた場所でそうなった場合には、もっと深刻な結果になっていてもおかしくなかったそうです。

そんな私が、ここで最も感謝すべきなのは「一緒にいた自転車仲間」であることは間違いありません。彼らが転落後の私に適切な処置を施し、レスキューチームを派遣するようヘリコプター指令員を説得してくれたのです。

鎮痛剤依存症と鬱(うつ)状態との闘い

回復は容易なことではなく、私は処方された鎮痛剤「オキシコドン(オピオイド系の鎮痛剤のひとつで、アヘンに含まれるアルカロイドのテバインから合成される半合成麻薬)」の依存症になってしまいました。と言うのも事故のあと、比較的高用量で処方されていたからです。

最初のうちはこの薬のおかげで呼吸したり動いたり、そのときに生じる激しい痛みにも耐えることができました。ですが、6週間ほどすると「オキシドコン」から“抜け出す”ために、「ヒドロコドン(ケシから抽出されるアルカロイドの一つであり、 中等~重度の疼痛軽減のための麻薬性鎮痛薬)」を処方されるようになりました。残念ながらそれによって、私は肉体的に強烈な痛み––取り除こうとしていた痛みそのもの––にさらされるようになってしまいました。精神的に、強いうつ状態に陥ったのです。

そうして私は、「オキシコドン」に逆戻りしました。ですが、用量は若干抑えられました。それから6週間にわたって医師の管理のもと、私は60mg、40mg、20mg、15mg、10mgと、用量を徐々に減らしていく厳格なスケジュールに取り組みました。

注意点:オキシコドン依存の副作用と恐れ

1日10mgになったのは、事故からほぼ3カ月が経過した頃。そこで、「これならもう服用を止めることができるだろう」と思いました。ですが結局、私はアヘン依存から離脱する際の典型的な症状のほとんどを、経験することになったのです。つまり、軽いうつ状態、精神的動揺、軟便、刺激に対する過敏反応、くしゃみの発作、鼻水、安静時の高い心拍数、抑えられないあくび、不眠などです。こうして私は、またしても「オキシコドン」へ逆戻りしたわけです。とは言え、用量はさらに減らして、1日5mgでした。

このときはさすがに、「これで間違いなく、『オキシコドン』に別れを告げることができる」と思いました。ところが、また同じ症状です。「なぜこの薬と手を切るのがこんなに難しいのか?」を主治医に訊ねたところ、「これは、中でも常習性の高い処方薬のひとつであって、それも個人差があって、中には著しく影響を受けやすい人もいます」とのこと。その中の一人が、私だったということです。

医者たち(回復までに全員で5人)が、「オキシコドン」を処方してくれたときは痛みが和らいで助かったのですが、驚くべきことに、「この薬を依存するようになる人もいます」などという厳重な警告を誰ひとりとして与えてくれなかったのです。

その後ようやく私は、自分の強い決意によってこの悪夢から抜け出すことができたのです。そうして私の怪我は、幸いにも時間の経過とともに治癒へと向かっていったのです。

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Courtesy Robert Mang

自転車を愛するにはリスクは厳重に!

事故後、私はすっかり自信を失って、それを取り戻す代償の大きさを感じました。頑張って自信を取り戻すか? それとも、違う方向へと進むか?という選択に迫られたとき、私は違う方向へ進むことを選んだのです。もうマウンテンバイクには乗らず、その代わりロードバイクのみに限定したのです。それでもロードバイクに乗るときは、そのときそのときのリスクを推し量り、細心の注意を払っています。

結果的にアウトドアでも乗りますが、怪我以前と比べると、インドアで(トレーニング用に)乗る機会が多くなりました。もしアウトドアで乗るのであれば、必ずスマホを携帯して、ライブ・トラッキングGPSのアプリを使用しています。そして家を出るときは、必ず自分のIDと緊急連絡先の名前と電話番号を持っていきます。

私は現在68歳ですが、きわめて健康です。医者に診てもらうたびに、「この年齢にしては、素晴らしい身体の状態だ」と言われます。それはすべては「サイクリングとともに、人生を過ごしてきた」、そのおかげなのです。

ロバートさんのマスト機材を紹介

  • 「スコット(SCOTT)」のロードバイク:軽量でヒルクライムには最高のバイクです。私は体重が120ポンド(約54.4kg)でヒルクライムが大好きなので、重たいバイクは選びません。
  • Tacxのインドア・スマートトレーナー(アプリ):このトレーナーをZwiftのアプリと併せて使うと、インドア・サイクリングもそう退屈なものではなくなります。
  • 分解できるカスタムメイドのツーリングバイク:私は数週間かけて、海外をひとりでツーリングするのが大好きです。このフルサイズのバイクなら、ケースに収納して空港のチェックを簡単に通過することができます。バイク・ツーリングが、これでぐっと楽になるでしょう。
  • サイクルコンピューター Garmin Edge 1030:私はデータ・マニアのツーリング愛好家です。私が必要なデータとナビゲーションツールに関してはすべて、このGarmin Edge 1030がかなえてくれます。

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Source / Bicycling
Translation / Satoru Imada
※この翻訳は抄訳です。