- 暴風雨「キアラ」の影響によって、ニーヨーク―ロンドン間の国際線旅客機が便宜上の音速を超える速度を記録しました。
- 一般に知られている音速の数字(標準大気中で1225 km/h)を超える速度になりましたが、それは「キアラ」の影響による予想外のジェット気流によって追い風を得た結果なので、正式には音速の壁は突破していません。
- このフライトに使用されたボーイング747の最高速度は、時速917キロメートルほど。ちなみにこのフライトで同機は、時速1327キロメートルに達しました。
ブリティッシュ・エアウェイズの航空機が2020年2月9日の朝(英国時間)、便宜上の音速の数値を超える速度を記録しました。ただし、これは風による影響もあったので、亜音速飛行の中での最高速という記録となります。
このニューヨーク発ロンドン着のBA112便のフライトは、到着予定時間を2時間近く早い4時間56分の飛行時間でロンドンに到着。大型低気圧による暴風のため、当日はヨーロッパの多くのフライトが欠航していました。
ですが、ニューヨークのJFK国際空港からロンドンのヒースロー空港の航路は強烈な追い風となり、他にも同じ路線のヴァージン・アトランティック航空2便も記録的な速度で航行したそうです。ですが、ブリティッシュ・エアウェイズ便の飛行時間のほうがこの2本より、それぞれ1分と3分短い飛行時間だったのです…。
では、このBA112便を含めた2便に何が起こったというのでしょう?
実は「ワシントン・ポスト」は事前となる2020年2月6日(米国時間)に超高速のフライトが実現することを予想し、それに対する徹底的な予想を公開していました。そしてその要因を、グリーンランド周辺に発生した「爆弾低気圧」によって発生したジェット気流によるものと述べていました。
この北極圏付近で発生した低気圧は発生源周辺でハリケーン級の暴風を引き起こし、その後これらの暴風はそこから遠ざかっていくことで時速321キロメートルほどに落ち着くそうです。「ワシントン・ポスト」のさらなる説明によれば、「北極や南極に近い暴風雨はより大きく、より低緯度の暴風雨よりも早く消えていく」とのこと。
グリーンランド付近から英国周辺へと襲った超大型低気圧は、まさに「爆弾低気圧」と言っていいでしょう。これによって発生した暴風雨「Ciara(シアラ、またはキアラ)」は、欧州北部各地に大きな被害をもたらしました。
それはここ数年間で最大級のものであり、少なくとも6人が死亡。道路は冠水し、広範囲で停電が発生。各国の交通機関は乱れ、空の便数百便が欠航となるほどでした。ここで改めて、亡くなられた方々に謹んでお悔やみ申し上げますとともに、 被災された皆さまならびにそのご家族の皆さまに心よりお見舞い申し上げます。
この超大型低気圧がその週末にかけて、米国南部の東海岸沖の大気と組み合わさることによって、予想外のスピードとなったジェット気流を生み出したのです。
さらに「ワシントン・ポスト」では、今回の飛行を空港にある「動く歩道」に例えて説明していました。想像してください…「動く歩道」では、歩行者が通常の速度で歩いていてもこの歩道自体の速度が加わって素早く移動できます。その原理です。
つまり、このボーイング747自体の最高速度は時速917キロメートルほどです。が、今回のフライトに関して、フライト追跡サービス“Flightradar24”では最高時速1327kmを記録。結果、便宜上の音速(マッハ1)の時速1225km(秒速340m)を超えていたわけです。
この航空機が厳密には音速を超える速度に達しながらも、超音速にならなかった理由を専門的な言葉で解説しますと…「対地速度」(追い風なし)と「対気速度」(時速321キロメートルの追い風あり)の違いになります。時速321キロメートルの風が吹く入れ子構造のトンネルは、その中を飛ぶ航空機に時速千数百キロメートルというスピードをもたらしますが、この航空機自体は音速の壁を突破してはいないということになるわけです。
このように暴風雨がもたらしたジョット気流によって、航空機をびっくりするほど加速させました。そうして最短時間を記録したわけですが、これ自体に暴風雨が上陸時に引き起こしたさまざまな破壊・被害に見合う価値など全くないのです…。
航空会社各社は2019年、「航空機が排出する二酸化炭素の量は2050年まで3倍になり、地球全体の二酸化炭素排出量の4分の1を占めるようになる可能性がある」とする国連の予測によって、悪い意味で話題になりました。
世界中のフライトに航空貨物便が占める割合はわずかなので、これらの二酸化炭素排出の大部分の責任は旅客機にある…と言っていいでしょう。各社の一般的なコスト削減策は副次的に燃料節約につながる可能性があり、便数を減らして毎回満席近い状態での運行を目指す施策もその一例と言えます。
一部の国では、可能な限り飛行機での移動を避ける動きも出てきていますが、世界全体としては、観光へのアクセスを手にした中流階級は急速に成長し続けています。航空会社各社は、より効率的な航空機の開発や代替燃料の研究し、カーボン・オフセットへの広範な投資によって、二酸化炭素排出量を削減しようと取り組んできました。
とは言え、自動車やその他の乗り物と同じように、飛行機にも燃料効率が最も良い最適な巡航速度があり、その数値はせっかちな旅行者が期待する速度よりも遅いものとなります。これに関しては、皆さん理解しておきましょう。特にせっかちな皆さんへ。
また、今回の記録で大自然は、我々を戸惑わせようとしているのでしょうか? この「爆弾低気圧」の発生も、気象変動によるものと言えるはずです。つまり、この記録に対し「すごい!」と感心してしまてはいけないということです。これの記録に我々はむしろ「失望」を示したほうがいいでしょう。
さまざまなカタチで、地球は悲鳴をあげている…と考えることにしましょう。
Source /Popular Mechanics
Translation / Wataru Nakamura
※この翻訳は抄訳です。