[目次]

▼ 序:世界的な鮨職人、行天健二氏とは?

▼ インタビュー:行天健二氏かく語りき

 Q:ブルガリとの親和性

 Q:ブルガリからのインスピレーション

 Q:行天氏の鮨への想い

 Q:この出合いによる気づき

 Q:新たな取り組みのアイデア

 Q:今後のビジョン

▼ Sushi Hōseki - Kenji Gyotenへ


序:
世界的な鮨職人 行天健二氏

寿司屋の家系の3代目となる鮨職人・行天健二氏は、2009年に下関に「鮨 行天」を開業し、2012年に福岡に移転します。そして2014年、当時31歳の行天氏は寿司部門における世界史上最年少でミシュランガイド福岡・佐賀特別版で三つ星を獲得。

その後、活躍の場を国内から世界へと広げ、アジア各地にてゲストシェフとして招かれるなど、その職人技と鮨に対する情熱を国際的に紹介される機会が多くなります。さらに2019年からは、世界屈指のシャンパーニュメゾン「Krug(クリュッグ)」のアンバサダーシェフに抜擢。いまや、世界が注目する鮨職人の最前線に立つ人物となっています。

行天健二——至福を時間を心に届ける鮨とブルガリの親和性
CEDRIC DIRADOURIAN
行天健二(ぎょうてん けんじ)1982年、山口県生まれ。 祖父が鮨職人という家系に育ち、幼少期から鮨が生活の一部として育つ。 家業を継ぐか悩み、18歳の時にニュージーランドへ自分探しの旅に。その後、鮨を生業にする覚悟を固めて21歳より都内の名店にて研さんを積み重ね、2009年に下関に「鮨 行天」をオープン、2012年に福岡に移転し、現在に至る。

そんな行天氏が2023年4月に、ハイジュエラーである「ブルガリ」が開業したラグジュアリーホテル「ブルガリ ホテル 東京」の40階に位置する「Sushi Hōseki - Kenji Gyoten」の監修を任されました。そこはすでに、その「宝石」の名にふさわしい至極の鮨処として、世界的な評判を得ています。

そんな行天氏に、エスクァイア日本版はインタビューの機会を得ました。場所はもちろん、「ブルガリ ホテル 東京」40階の「Sushi Hōseki - Kenji Gyoten」にて。ブルガリのご厚意により、その“Hōseki”の数々も堪能させていただきました。


インタビュー:
行天健二氏かく語りき

福岡「鮨 行天」を率い、そして「Sushi Hōseki - Kenji Gyoten」ではプロデューサーとして活躍する行天健二氏。そんな彼がわれわれに提供してくれるのは、鮨職人として世界的にも稀な技術の精緻さと創造性によって仕上げられた鮨、およびそれを中心に構成されたおまかせコースの料理だけにとどまりません。

そこには、行天氏がその料理を通じて伝えたい日本の文化、そして、それに対する彼自身の情熱が思う存分込められています。そのことは、店内に入った瞬間の雰囲気、さらに全スタッフによる温かいおもてなしから、つぶさに伝わってきました。

ブルガリのsushi hoseki
SEIICHI OTSUKI
インタビューは、「ブルガリ ホテル 東京」の40階にあるSushi Hōseki - Kenji Gyotenにて。藍染めの麻の暖簾(のれん)は、海をイメージさせます。店内に入れば、自然素材を用いたシンプルかつエレガントな造りでいながら、ネタの輝きを十二分に引き出すように配置された照明の位置。そして、天井の高さとの関係性など、そのこだわり尽くした空間づくりにも誰もが圧倒されるはずです。

鮨とジュエリー、
異なる世界の融合

行天健二氏がブルガリとともにプロデュースする「Sushi Hōseki - Kenji Gyoten」は、鮨処が擁する世界感をはるかに超越していました。かと言って、そこでブルガリと行天氏が互いの想いを推し量りながら創造しているようにも感じられません。

至高の「おかませコース」を経験して確信できたことは、行天氏の独自の視点から生まれる鮨は、まるでブルガリのジュエリーのように細部にわたる美しさと繊細さを兼ね備えているのはもちろん、それ以上に、ブルガリの後押しのもと自由に羽ばたく躍動感も感じさせてくれたのです。

ブルガリホテル東京sushi hosekiの行天健二さん
CEDRIC DIRADOURIAN

互いの魅力を平均して整えると、そこには割り算というものが存在してしまうもの。ですが、ここにはブルガリというラグジュアリーブランドの皿のうえで、自由に立体的な芸術作品を披露するかのように、互いの魅力を掛け算のみで引き出し合っているとしか感じられないお料理、そして握りの数々。まさにブルガリらしさあふれる、“Hōsekiの数々が手渡され続けたのです。

もはや、行天氏自身からそこへの想いを訊(き)かずにはいられません。鮨とジュエリーの親和性をいかに見いだし、それをいかに鮨へと反映させているのかを探りました。

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異なる世界にある同じベクトル

Esquire編集部(以下、Esq):鮨とブルガリのジュエリーとの間に、親和性を感じる瞬間はありますか?

行天健二氏(以下、行天):はい、非常に感じますね。私がファッション業界を含め、ラグジュアリーブランドの中でも屈指の「ブルガリ」さんと関わるようになってからは特に、鮨とジュエリーが持つ“美の追求”という共通点を強く感じるようになりました。

ブルガリのジュエリーが放つ、細部に宿る繊細さや美しさ、そしてその背後にある深い思いやストーリー、さらにはそのストーリーを際立たせるカラーリングの妙など、それは私が鮨に求める美学と全く同じだと感じています。

それは単に、見た目の美しさを追求するというだけではなく、豊かなローマの文化遺産を背景に、モダンさと共にストーリーテリングを重視したクリエーションを続けています。それは私ども同様で、日本の文化の魅力を背景にしながら、そこで育まれたつくり手の情熱、および表現したい物語が感じていただける作品として、日々鮨を創出するよう心掛けていますので…。そこには、心から共鳴しています。

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Esq:鮨を握るうえで、ジュエリーからインスピレーションを受けたことはありますか?

行天:そうですね。ブルガリのジュエリーおよび時計からは、色彩の組み合わせや形の美しさ、素材の質感を大切にする姿勢など多くを学ばせていただきました。それらを鮨づくりに活かして、目にも舌にも、美しいひと皿を愉しんでいただくことの大切さが再確認できたのです。

そして大自然から生まれた素材の中から、その時分を踏まえたうえで最高峰の品質であるものを選び抜き、それを細部までこだわって仕上ていく完璧な姿勢は、鮨職人としての私どものモチベーションをさらに高みへと誘ってくれています。

行天健二:至福を時間を心に届ける鮨とブルガリの親和性
CEDRIC DIRADOURIAN

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鮨と宝石に交差する世界観

Esq:では、実際にSushi Hōseki - Kenji Gyotenでは鮨に対して、どのような想いに重点を置いてお客さまに提供していますか?

行天健二:至福を時間を心に届ける鮨とブルガリの親和性
CEDRIC DIRADOURIAN

行天:私が鮨業界に足を踏み入れたばかりのころは、「まず歴史から学ぶことが先だ」という思いでした。そして学ぶだけでなく、「その文化を自分なりに反芻(はんすう)して、自分なりの解釈から何か新たな革新を提案することが大切だ」と気づきます。

そうして私なりのスタイルを見つけ、さらにそれをホテルやジュエリーとの関わりによる相乗効果で膨らませながら、それを鮨に生かしてきたつもりです。つまり私にとって鮨は、ただの食事というものではなく、私の人生そのもの。私がこれまで蓄積してきた経験や想いとともに握っています。

それは単に食材を組み合わせるといった行為だけにとどまらず、私のいまの世界観を形にする創作の時間なのです。それはお客さまに対する敬意とも言えますし、私自身の哲学を表現する手段でもあります。この創作を通じて、それぞれの瞬間に最大限の情熱を注ぐカウンター=ステージの前に立っているのです。

ブルガリホテル東京sushi hosekiの行天健二さん
CEDRIC DIRADOURIAN

提供する作品そのものだけでなく、そのつくり手の物語も含めて五感を超え、第六感からも至福のときを味わっていただきたいと願っているところは、ブルガリと私どもの共通点です。

なので、「Sushi Hōseki - Kenji Gyoten」では特に、料理長の清水拓郎およびスタッフとともに、それを高次元で発揮するよう努めています。

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共鳴し合う世界との架け橋

Esq:今後、鮨とジュエリーの世界を結びつける新たな取り組みはありますか?

行天: 私どもは、常に新しいことに挑戦し続ける姿勢でいます。今後は、鮨とジュエリーの世界をさらに融合させた体験を多くのお客さまに提供できないかと考えています。

例えば特別な日のために、ブルガリのジュエリーと共に極上の鮨を楽しむというような、両方の美しさを同時に味わえる機会など、食と芸術の境界を越えた新たな価値を創出していこうと邁進(まいしん)しています。

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Esq:これからの鮨の世界について、どのようなビジョンを持っていますか?

行天健二:至福を時間を心に届ける鮨とブルガリの親和性
CEDRIC DIRADOURIAN
伝統の技を継承することを大切にしながらも、時代の息吹に合わせ自分なりのスタイルを生み出すその手に、厚さ5.15mmの極薄チタニウム製オクト フィニッシモがよく似合っていました。腕時計「オクト フィニッシモ」248万6000円【公式サイト

行天: 鮨の本質は変わるものではありません。ですが、時代とともにその形は変わっていきます。私は伝統を守りつつも、新しい試みに日々取り組んでいきたいと思っています。そして、次世代にもその精神を引き継ぎ、鮨という文化が永遠に輝き続けることを願っています。

これも、「ブルガリ」のビジョンに共鳴するものだと考えています。このコラボレーションを通じて今後も互いを高め合い、さらにドラマチックな鮨およびお料理体験を、皆さまに提供できたらと精進してまいります。

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以上が、行天健二氏の旬な生の声になります。その話からは、単に終わりなき技術の習得を追求するだけではなく、「食」の枠を超え、日本文化におけるひとつの遺産としての鮨文化を慈しみながら、さらなる高みへと誘い続ける高潔な心意気を感じてやみません。まさにこれは、私が抱くブルガリというブランドがもつ気概ともしっかりと重なっています。それは純正律の和音となって私の五感に調和をもたらし、いまだかつて経験したことのないほどの至福な時間を提供してくれたのです。

そんな行天氏と「ブルガリ」のケミストリーが、常に筋書きのないドラマとして展開されている「Sushi Hōseki - Kenji Gyoten」へ、皆さんもぜひ足を運んでみてください。


ブルガリが誕生させた
Sushi Hōseki - Kenji Gyoten
まさに美食の宝石箱

このようにブルガリ ホテル 東京40階にある「Sushi Hōseki - Kenji Gyoten」は、厳選された食材と熟練の職人の技が織りなす至高の鮨が堪能できる特別な空間です。

まるでブルガリのブティックでジュエリーを購入するときのように、美しい鮨を口にした瞬間から素材本来の旨味が口いっぱいに広がるのと同時に、その物語性あふれる空間とスタッフ全員のおもてなしの心との相乗効果で、いまだかつてないほどの至福の時間が得られることでしょう。

ブルガリのsushi hoseki
SEIICHI OTSUKI
一般的な鮨処の雰囲気を超越した、地上40階にある天空の鮨処。海をイメージさせる暖簾をくぐれば、7メートル以上も天井高のある店内にまず圧倒されることでしょう。 そして、そこはまるで深海の中のようでもあります。さらに窓の外には、京都の由緒ある庭園をモデルに造られた枯山水の眺めも楽しめる、日本文化の粋を集めた開放感あふれる絶好のたたずまいです。

本拠地である福岡の「鮨 行天」同様に、「Sushi Hōseki - Kenji Gyoten」もお料理のメニューはありません。行天氏いわく、「舞台やドラマと同様で、筋書きがわかっている(=メニューがあらかじめ決まっている)ものは面白くないでしょう。そもそも、お客さまが鮨に合わせるのがシャンパンなのか? お茶なのか? で、コースの構成も変わってもいいと思っていますので。常にお客さまのそのときの心持ちを推し量って、そのときに最高と考えるものを臨機応変にお出ししたいのです」とのこと。

ブルガリのsushi hoseki
SEIICHI OTSUKI
おまかせコースの最初に出てきたのが、この「桑名産 蛤の出し茶碗蒸し」です。ちなみに添えられた漆のスプーンは、障がいや加齢などによって手先が上手に動かせなくなった人もこぼさず食べられる形状として、漆作家の方が開発したスプーンということ。「きれいに食べられることは、心地よさやリラックスにもつながります。それは、美味しさをしっかりと受け止めることができる条件にもなり得るので…」と行天さん。そのこだわりに、妥協という言葉はないようです。

例えばこの日、最初にいただいた「桑名産 蛤(はまぐり)の出し茶碗蒸し」から感動の局地へと達しました。寒さの厳しいシーズンという配慮から、「まずは胃の中を温めるためにもお椀(わん)からスタートさせます」と説明する行天氏と料理長の清水氏。喜び勇んで茶碗蒸しの上部に張った蛤出しをいただき進めていくと、その先にはなんとタケノコが隠れていました。

「お客さまの手で、春の代名詞“タケノコ堀り”をこの小宇宙で実践していただき、自ら春を掘り当ててほしかったので…」と語る行天氏と、その傍らでほほ笑む清水氏。こんなサプライズも用意されているのが、「Sushi Hōseki - Kenji Gyoten」の醍醐味(だいごみ)。

ブルガリのsushi hoseki
SEIICHI OTSUKI
行天健二氏のプロデュースのもと、ここ「Sushi Hōseki - Kenji Gyoten」を任される料理長・清水拓郎氏。「一流の鮨とは、握り手の個性が感じられる鮨です。だからこそ、同じ哲学を継承している清水さんにも“自分らしさ”を表現して欲しいし、それができる男です」と行天氏。そんな“行天魂”を自分らしく日々創出する清水氏。
ブルガリのsushi hoseki
SEIICHI OTSUKI
最高峰の天然石を磨き上げ、可能な限りの美しい輝きを引き出すかのように、その日その日の最良のネタを最良の状態で提供する「Sushi Hōseki - Kenji Gyoten」。写真は最初の握り「マグロ二種」。トロの切り方、シャリとネタのバランスと口の中で解ける絶妙なる握りの強さ、それはまるでブルガリのジュエリー、そして時計と同様にひとつの芸術作品です。

また使用する器には、大正時代などのアンティークものや窯場や作家ものの中から、その日のお客さまの気持ちを慮(おもんばか)ってコーディネートするというブレない美意識とおもてなしの心…上質な食材やその技にとどまらず、食べる側の気持ちに寄り添う究極の“心配り”に感服しました。これぞ“行天魂”だと。

このように、至るところにサプライズと気づきを織り交ぜながらコースを創出する、「Sushi Hōseki - Kenji Gyoten」。その席に座るお客さまは常に、ラグジュアリーを極めた「筋書きのないドラマ」を堪能することができるのです。

ブルガリのsushi hoseki
SEIICHI OTSUKI
日本酒は全て、機能性にも優れ、芸術性も高い行天氏セレクトの酒椀で供されます。私は行天の本拠地である福岡県から糸島市にある白糸酒造の「田中六五」と、自宅でも親しんでいる砥部焼(とべやき)を選ばせていただきました。


Sushi Hōseki - Kenji Gyotenのご予約・詳細

ブルガリ ホテル 東京 40階
住所/
東京都中央区銀座2-2-1 アクセス
営業/
ランチ:12:00pm開始(火金土曜日のみ)
   ディナー:6:00pm/8:30pm開始
予算/
ランチ3万2000円〜、ディナー4万5000〜(税サ込)
定休/日水曜日
※事前予約制となっておりますので、詳細は「ブルガリ ホテル 東京」のウェブサイトまたは電話にてご確認ください。
予約TEL/03-6262-6624
公式サイト

世界9カ所に展開するラグジュアリーホテル「ブルガリ ホテル」。ドバイに続き、「Hōseki 」の名を冠した鮨処が2023年4月、ブルガリ ホテル 東京にオープン。世界初、福岡のミシュラン三つ星鮨店「鮨 行天」の行天健二氏とのダブルネームとなる「Sushi Hōseki - Kenji Gyoten」としてスタートしました。

「握り手」ではなく、「デザイナー」のような立場で総合的な体験としての鮨を演出する行天氏。日本が誇る伝統技法をモダナイズしながら世界へと、そして次世代へとつないでいきます。その現場をぜひ、目の前で体験してください。

ブルガリ ホテル 東京

TEL/03-6362-3333
公式サイト