レストランに行くだけで
食品破棄の問題に貢献できる
最初に訪れたのは、「In Stock(インストック)」という食品破棄(フードロス)の問題を少しでも解決したいと立ち上がったレストランです。オランダ最大のスーパーマーケットチェーンである「アルバート・ハイン」の若手社員3人が、社内コンペでアイデアを提案。
「世界中でまだ食べられる食品の約3分の1が破棄されている現状を、なんとか変えたい」とレストランをつくる計画を立て、最初はポップアップだったものの存続していく使命を感じて、現在では正規のレストランとして営業しています。
パッケージが汚れている、賞味期限が近い、在庫が過剰にある、野菜や果物の見た目が悪いなど、安全性をきちんとクリアしたものを契約した店舗や農家から引き取り、毎日入ってくる食材に合わせてメニューを考え、調理しているとのこと。味の評判もなかなかで、夜、店へ訪れると、老若男女さまざまなお客さんがテーブルを囲んでいました。
その日の夜のコースは、メインが牛のステーキかカリフラワーのリゾットかが選べるとのこと。前菜はかぼちゃのスープ、デザートはブラウニーと決まったものが出てきます。毎日のストックの状況でメニューが考えられるため、基本的には“シェフのお任せ料理を楽んで”、というのがこの店のスタイルです。
店内には、どれだけ食品を救うことができたかの数字が掲げられており、取材した日は82万5624キロの食品がセーブされたとのこと。日々、ここで食事をするだけでフードロスの問題に少しでも貢献できるなら、通いがいがあるというものです。
2019年末に取材時、「インストック」はアムステルダム、ユトレヒト、ハーグと3店舗に増やし、独立した社会的企業として運営されています。
♢店舗概要
Instock
住所/Czaar Peterstraat 21, Amsterdam
TEL +31 (0)20 363 57 65
営業時間/8:30 ~、土・日曜 11:00~
公式サイト
そのあと訪れたのは、海に浮かぶフローティング・ファーム。
「地球の人口が増え続け、使える土地は減る一方。そして宇宙へと土地を探しに行く…と、その前に、私たちはもう少し地球でどうやったら健全な食べ物をつくっていけるかを考えるべきでしょう。
地球の70%は水です。そこでどうやったら新鮮な食料をつくれるのか、さらに消費者の身近でつくることができるのかを考えたのです」と、創設者のMinke van Wingerdeさんは言います。
ロッテルダム港の海水に浮いたこの牧場では、40頭の牛が飼育され、ミルクステーションでは毎日自動的に搾乳用ロボットが1頭あたり1日平均25リットルを搾り、牛乳とヨーグルトを販売しています。試飲させてもらった牛乳には甘味があり、とても濃厚な味わいでした。
この発想は、2012年にニューヨークはハリケーン「サンディ」による多大な被害(推定8兆円規模)を被ったことから生まれたということ。
高潮による浸水は地下鉄・道路・鉄道のトンネルにまで及び、公共交通機関は一切運行を停止せざるを得なくなります。そして2日後には、新鮮な食材が街から消えてしまいました。そこから「トランスファーメーション(移動可能な牧場)」(トランスファーとファームを掛け合わせた造語)という発想が生まれたそうです。
ハリケーンが来ても壊れないようにつくられているということで、これなら都市部でも災害時の問題解決になるかもしれません。
「若者は、農業にはなかなか興味を示しません…。そんなこれまでのマインドを払しょくするように、未来を担う若者たちに『農業は魅力的でファッショナブルなものだ』という意識へと、マインドチェンジしてもらいたいのです」と、Minke van Wingerdeさんは語ります。
♢店舗概要
Floating Farm
公式サイト
オランダでは今後2030 年までに、資源の利用を半分に減らし、世界の主流となるだろうサーキュラーエコノミー(循環型経済)へと完全に移行する目標を掲げています。それを可能にしていく多面的なサステナブルなシステムを、いかにスピーディに確立させ、そのシステム自体を他国に販売していくのか? いま未来へと着実に、そして力強く前へと進んでいるオランダ。
小国でありながら群雄割拠集まる欧州で、こうして生き抜いてきたオランダ。そのたくましさを垣間見ることができる取材でした。日本も、見習うべきところがたくさんありました。今後もこのようにオランダが指し示す姿勢と実行力は、注目すべきことでしょう。
協力/オランダ政府観光局 公式サイト
KLMオランダ航空 公式サイト
※記事内にあるデータや情報は、2019年末に取材時のものです。