Q. 燃料電池自動車ってそもそも、どんなクルマ?
A. 水素ステーションで燃料となる水素を充填し、酸素との化学反応で生じた電力で走る環境車。まさに未来のクルマ。
燃料電池自動車とは、水素から化学反応を用いて電気をつくり出す燃料電池。別名「FCスタック」と称される発電装置を搭載して走るクルマのこと。
そしてその発電装置は、火力発電のように電気を生み出す際に二酸化炭素の排出することもなく、電気を生み出す化学反応から排出されるのは水だけになる。そんな究極のエコシステムなら、もっと以前からあっても…と思うのですが、自動車に積むための小型化が難しかったわけだ。ちなみに小型化がそこまで求められない家庭用燃料電池は「エコキュート」(関西電力の登録商標)という名で、すでに30万台を超えて普及している。
話は逸れましたが、この燃料電池自動車は水素をエネルギー源に使うことから独立カテゴリーと捉えられているが、生み出した電力を使って電動モーターを稼働させて走ることを踏まえれば、実は電気自動車の一種。
現在、世界的な動きとして二酸化炭素を出さない脱炭素社会を目指して、エンジン車から電気自動車にシフトする動きを各国政府が示しているが、その枠には燃料電池自動車も含まれる。もちろん、電気や水素を作る際に二酸化炭素を出すし、それらのクルマが本格的に普及した際の大量の電気や水素をどうつくるのかなど課題はある。だが、エネルギー面で自給自足ができない日本を鑑(かんが)みると、効率のよいエネルギーサイクルの構築にはこれらの普及は重要。社会インフラづくりを官民が同時に協力しておこない、よりよい未来をつくり出そうとしている。
こんな解説じみた原稿が求められていないことは承知の上だが、いま起きていることを正確に知ってもらいたいので許してもらいたい。と言いながらも、さらに許されるなら…この「MIRAI」を理解する上では、前述した話はすべて忘れてほしい。
と言うのも、触れたら驚くはず。特に高級車に慣れ親しんでいる方はなおさらだ。なぜなら、クルマの乗り味を決定づける車両骨格はレクサス「LS」と同様のものを使用している。そのため、見た目のボリューム感や迫力を備え、威風堂々(いふうどうどう)とした高級車らしい雰囲気をまとっている。
動力源は、振動を発生するエンジンではなく、静かでなめらかな稼働を可能とする電動モーター。昔から究極の高級車はV12気筒エンジンにこだわっているが、それは回転振動の少なさを求めてのもの。言うなれば、この「MIRAI」にはそのレベルの素性があり、さらに踏み込んで表現すれば、レクサス「LS」の電気自動車があるならば…そんな究極の乗り味に仕上がっている。
しかも超高剛性ボディに、ハンドリングにも長けた後輪で駆動するFRレイアウトを使用し、車両の揺れを最適化できる前後重量配分50:50まで実現。これによりサイレントドライブを基調とした上質な乗り味だけでなく、スポーティーにも走れる。
トヨタとしては、見た目の格好よさと走りの質のよさというクルマの本質で魅了し、それでも実は燃料電池自動車、という売り方を思い描き造ったと言うが、まさにそのとおりの仕上がり。
最後に、その完成度の高さから一度触れたら欲しくなるはずだし、満充填(まんじゅうてん)で850km走れる実用性も魅力だが、活動圏内に水素ステーションがない方は間違いなく不便を覚えるはずなのでおすすめしない。しかし、いいクルマだ。
トヨタ「MIRAI(ミライ)」
量産車として、世界初の燃料電池自動車がトヨタ「MIRAI」です。初代は2014年に発売され、この2代目が2020年12月に登場しました。従来モデルはFFタイプのセダンでしたが、新型はFRレイアウトのセダンとして一新されています。
レクサス「LS」と同様のGA‑Lプラットフォームが採用され、モーターや駆動用バッテリーを最適に配置でき、前後重量配分は50:50。一充填走行距離は約850km(参考値)を実現しているのも魅力です。
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【PROFILE】五味康隆(自動車ジャーナリスト)
自転車トライアル世界選手権、4輪レースの全日本F3でも活躍した、ジャーナリスト。優れた運転技術と理論に基づく分かりやすい解説に定評あり。先進技術にも詳しい。YouTube「E‑CarLife」チャンネルにてクルマ情報を発信中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。