• ニューラリンク共同創業者のマックス・ホダック氏は、「私たちには、今後15年以内に本物のジュラシック・パークを実現できる技術がある」と語りました。
  • 遺伝子操作した恐竜のような生物をつくることができるとして、そんなことをする価値はあるのでしょうか?
  • 恐竜に近い人工の生物をつくることは、恐竜の復活を支持する多くの議論の説得力を弱めます。

 イーロン・マスク氏が設立した医療系スタートアップ企業ニューラリンクの、共同創業者であるマックス・ホダック氏が2021年4月4日(米国時間)、「本物のジュラシック・パークを実現する技術がある」と示唆しました。この脳インプラント技術のスタートアップ企業は最近、猿の脳にチップを埋め込んでビデオゲームをプレーさせたことでも知られています。

 ですが、今回注目を集めるコメントをしたのは、同社の最も有名な共同創業者であるイーロン・マスク氏ではありません。意外にも、同じく共同創業者で生体医学エンジニアのマックス・ホダック氏でした。

 ホダック氏は、「私たちはやろうと思えば、ジュラシック・パークもつくることができることだろう。遺伝的に忠実な恐竜になるわけではないかもしれないが…。15年ほどの育種(生物を遺伝的に改良するこ)と遺伝子操作で、見たこともないような新種の生物をつくることもできるだろう」とツイートし、「生物多様性(半脆弱性)は間違いなく価値のあるものだ。保護は重要で理にかなっている。だが、なぜそこで止めてしまうのだろうか? 意図的に新たな多様性を生み出そうとしないのは、なぜだろうか?」と続けてコメントしています。

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 「ジュラシック・パークのような施設をつくり、そこを見たこともないような新種の生物で満たすことができる」というホダック氏の考えは、果たして正しいのでしょうか?

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(C)Universal Pictures

 スティーブン・スピルバーグ監督が1993年、マイケル・クライトンの小説を映画化した『ジュラシック・パーク』の中では、琥珀に閉じ込められた蚊の中に残っていた血液から、恐竜のDNAを抽出し、両生類の遺伝子と接合することでそれぞれの種の完全ゲノム(生物がもつ遺伝子)をつくり出し、恐竜のクローンをつくり出しました。その後、「Life Finds a way(生命は道を見つける)」という本作のキャッチコピーに従うように、恐竜たちは独自に繁殖し、島を支配するようになります。

 本作の中で、ジェフ・ゴールドブラムが演じたカオス理論(複雑系理論)の教授であるイアン・マルコム博士は、当初からこのプロジェクトが大惨事になると主張していました。そしてその後の展開で、彼が正しかったことは証明されていきます。

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Jeff Goldblum Life Finds a Way Steven Spielberg Movie HD Jurassic Park Movie CLIP
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 ここで改めて、ジュラシック・パークに関するホダック氏のカジュアルなツイートに話題を戻しましょう。

 果たして、現代の知識や技術で本当に恐竜をつくることができるのでしょうか? まず、そこには技術面での現実的な疑問が生じ、さらにモラルや倫理に関するより広範な疑問が生じます。

このホダック氏の発言に
ぞっとした方は多いはず…

 ホダック氏がつくれると言っているモノが、遺伝子をつなぎ合わせてつくられた「忠実な」恐竜(『ジュラシック・パーク』の中に登場するような、遺伝子接合によって再生されたものなど)でないというのであれば、それは恐竜のクローンではなく、新たな生命体を一からつくり出すことに他なりません。このことは、実在の生物と遺伝的に同じクローンをつくることよりも一歩も二歩も進んだものです。つまり、遺伝子を含有したサンプルを使って絶滅した動物のクローンをつくることよりも、はるかに先に進んだものになります。

 このような発想に、ぞっとした方も少なくないでしょう。人間が見たこともない新種の生物をつくり出すという発想は、宗教的・哲学的な思考に基づく多くの人々の価値観に反するものです。ホダック氏はこの考えを、「新たな多様性」という言葉で取りつくろっています。これは考えようによっては、良いアイデアのようにも思えます。ですが、とりかえしのつかない過ちを引き起こす可能性も十二分にあります。

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(C) Universal Pictures

 『ジュラシック・パーク』の中で「事の変化」は、象徴的な例と共に描かれています。

 病気のトリケラトプスは、パークスタッフが何も考えずに植えた毒性の植物を食べていたことが明らかになります。その一方で、ティラノサウルスのパワーやヴェロキラプトルの知能を過小評価してしまい、これらの恐竜を人間のゲストのもとに解き放ちます。この物語の中心となるストーリーの(危険へと導く)転換は、新たな遺伝子接合技術によって引き起こされたリスクではありません。これらのトラブルの数々はヒューマンエラーとも言えるもので、どれも「意図せず起こる悲劇」とは異なる法則で描かれているのです。言わば、救いようのある悲劇に、あえて抑えているのかも…と読めます。

新たな生命体を作ることに
メリットはあるのでしょうか?

 もちろん、どんなことにもメリットはあるものです。ですが、人間が神のように振る舞うことやその結果何が起こるのかについて考えてみてください。例えば「食物連鎖に新たな生物を組み込む」といったシナリオには、とてつもなく大きなリスクがあることは多くの方が想像できるでしょう。これと同様に、 その他のシナリオに全く新しいモノを加えることは、危険極まりないはずです。

 では、「人類は、本物のジュラシック・パークをつくる価値がある」と、どのように判断できるのでしょうか? 映画の中でジェフ・ゴールドブラム扮するマルコム博士が、このように述べています。

 「あなたの科学者たちは、何ができるかに夢中になって、それをするべきかどうかは考えていない」と語るシーンは、この映画の中でも最も心に刺さるシーンかもしれません。果たして実際に、「ジュラシック・パークをつくるべき」と声高に訴える価値は本当にあるのでしょうか?

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Murray Close/Getty Images
イアン・マルコム博士を演じた、ジェフ・ゴールドブラム。

人間の命に係わるメリットが
見い出せるのなら、
その価値を語ることはできる…

 例えば、「恐竜たちの遺伝子に、人間のガンに対する免疫があることがわかり、それが治療にも使える」と発見さえた状況をイメージしてください。この場合、現代でもカブトガニの血液が医療に活用されているように、科学者たちは複数の動物の遺伝子を継ぎ接ぎ(つぎはぎ)したり、クローンをつくったりすることで、ワクチン開発に役立てるようなケースもあるでしょう。この考えには賛否両論あることでしょうが、恐竜のクローンの必要性について説得力のある主張もできるはずです。

 ですが、今回のまがい物のジュラシック・パークは、このような目的でつくられるのではなく、(イーロン・マスク氏が計画する一生に一度の宇宙旅行の契約ができるほどの)大富豪のための豪華な旅先をつくり出すことが目的のようにしか聞こえません。「見たこともないような新種の生物」というホダック氏のコメントからも、前者のような目的は到底イメージできません…。

Source /Popular Mechanics
Translation / Wataru Nakamura
※この翻訳は抄訳です。