「ランニング」は変わりました。ランニングはもはや単なる趣味ではなく、体重を落とすために耐え忍ぶような行為でもありません。世界中の都市で、革新的なビジョンを持つ人々たちによって刺激され、このスポーツは文化となりました。「ライフスタイル」、あるいは「多様性や持久力を讃えあう集いの場」と呼んでもいいかもしれません。 
 
 この連載ではイアホンやヘッドホンなどを手がける「Jaybird」の協力のもと、先見の明を持つ人々の話を聴きました。なぜ彼らは、都会の喧騒の中を自らの脚でランニングすることが最適だと考えているのか? そして、彼らにとって走るとは何なのか? 彼ら自身の言葉で語ってもらいました。 
 
 今回インタビューしたのはノックス・ロビンソンさん。『FADER』誌の元編集長で、現在はDJ、ライター、マインドフルネスの専門家などマルチに活躍するロビンソンさんは、ニューヨークで随一の影響力を持つランニングチーム「Black Roses Run」の創始者でもあります。 
 
 彼らにとって走るとは何なのか? 彼ら自身の言葉で語ってもらいました。

===================== 
 
 「信じられない」という人もいるかもしれません。ですが、これまでにないランニングチームである「Black Roses NYC」のアイデアを仲間と一緒に出し合ったときには、別に特別なことをするつもりは全くありませんでした。   
  
 個人的には、2011年〜2012年にランニングブームに乗った新時代のランナーたちの役に立ちたいという思いはありました。当時は予想もしないバックグラウンドを持つランナーたちが急増しましたから…。「Black Roses NYC」では、彼らがニューヨークにおいてランニングやカルチャーに関するアイデアを共有する機会を提供してきました。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
 thumnail
Watch onWatch on YouTube

 ニューヨークは、美や超越を追い求め続ける世界有数の大都市です。「Black Roses NYC」には、そんな街の鏡としての役割をはたして欲しいと思っています。

「物事は変わりますし、人々も変わっていきます。一瞬一瞬を心に刻み、毎回のランを楽しむことが重要なんです」
Jaybirdpinterest
Courtesy of Jaybird

ランニング環境

 ニューヨークのランナーあるいは活動的な市民として、私たちは街を生き物であるかのように捉え、コミュニケーションをとらなければなりません。おかしく聞こえるかもしれませんが、私たちはある程度の潜在的なエネルギーを持つランニングルートを選びます。チャンスがあれば常に水辺を走りますし、交通量が多い場所は避けます(自動車を飛び越えて走れるのならクールですが)。人間と自然という2つの面で、この街と親しく交わることを意識しているのです。

instagramView full post on Instagram

 私たちがハイライン(ウエストサイド線の古い線路を利用した公園)を走るのが大好きな理由の1つは、そこにあります。このルートを走ると、人間の行いの永続性について考えさせられます。ハイラインに植えられた樹木や植物は、以前はマンハッタンのいたるところにあったものです。ハイラインはかつて貨物用鉄道でしたが、現在は公園となっています。物事や場所が変わるように、人々も変わっていくもの。一瞬一瞬を心に刻み、毎回のランを楽しむことが重要になります。

「この街は音楽に溢れています。その文化のおかげです」
Jaybirdpinterest
Courtesy of Jaybird

ラン中の音楽

 私は音楽畑の人間です。
 
 もともとは『FADER』誌の編集長をしていました。この街はカルチャーのメッカということもあって、さまざまな音楽にあふれています。ジャズからヒップホップ、サルサ、アフロ・キューバン、ヒンドゥスターニー音楽まで、あらゆるジャンルの音楽シーンに活気がみなぎっているのです。 
 
 ランニング中は、いつも音楽を聞くというわけではありません。ハイペースのランを行う場合、心拍数や1分あたりのステップ数などを気にすることなどをやめ、文字通り街の周波数に自らをチューニングし、そこからエネルギーを共有してもらうこともあります。 
 
 走っているときに音楽を聞くようになったのは、かなり最近のことになります。それは、テクノロジーの進化のおかげでもあります。
 
 ラン中に聞く音楽には、2タイプあります。

 1つはジェイ・エレクトロニカのミックス、あるいはモス・デフのミックス(彼がマーヴィン・ゲイのトラックに合わせてラップするものです)のようなもの。他にはスピリチュアル・ヴァイブスやアストラル・ジャズのプレイリストがあります。
 
 それはサックスやシタール、ハープなどで演奏されるもので、(ジョン・)コルトレーンやファラオ・サンダース、カルロス・サンタナなどがそれにあたります。ですので、基本的にはスピリチュアル・ジャズかトラップなど低BPMの音楽。Jaybirdとのコラボでは、自分のニューヨークでランニング体験を反映させたプレイリストを作成しました。 
 
 
 

これはThird partyの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

 
ラン後の楽しみ

 ランニングルートを決めるときには、2つの基本原則があります。
  
 1つは走る路面の感触で、ブルックリン海軍工廠や作業時間外の建設現場など足を目覚めさせてくれるザラザラした路面が好み。もう1つは、ゴール地点近くに素晴らしいレストランとレコードショップがあることです。

 ですので、ランニングという行動はある種、美味しい食事でエネルギーを充填し、レコードショップで新たな音楽に出会うための口実とも言えるのです。

「ニューヨークシティマラソンを走れば、あなたもニューヨーカーです」
Urban area, Shadow, Street, Town, Pedestrian, Road, Infrastructure, City, Photography, Architecture, pinterest
Courtesy of Jaybird

マラソン大会

 私はニューヨークシティマラソンを、9回走ったことがあります。
 
 この大会は総勢5万人以上が参加する世界最大のマラソンであり、ニューヨークという街と一体感を感じることができる大会なのです。それは単に物理的な意味ではありません。この大会に出場し、ニューヨークの街を走ることは、子どもの誕生を目撃することに匹敵するぐらい、素晴らしい感動を得るに違いないのです。そうして参加したランナーたちも、ニューヨーカーとなるのです。 
 
 大会が数週間後に迫ると、街全体がマラソンムードになっていきます。街がランナーに手を差し伸べ、敬意を払うのです。以前、トレーニングランを終えようとしていたとき、タクシーが近づいてきたことがありました。ドライバーは窓を開け、私のランのペースに合わせながら、「いい調子だ」と声をかけてくれました。

 そう、このマラソンシーズンの間のニューヨークは、街全体が見知らぬランナーたちを大いに讃えてくれるのです。「住民のマイカーやタクシーが、ランナーとの事故を気をつける強化月間となる」ということではありません。その期間、ニューヨーカーたちは心から、多くのランナーたちのモチベーションを心から応援してくれるのです。
 
 この極上の雰囲気は、ランナーなら一度は味わうべきでしょう。

* * *

 連載「Run in My World」では、Jaybirdとの協力のもと、東京ロンドン、シャモニーのビジョナリーたちにも話を聞き、各地で進化するランニングコミュニティについて特集しています。次回の連載にも、ぜひご期待ください。 
 

※この翻訳は抄訳です。
Translation by Wataru Nakamura 
Edit by Shun Yamanoi