▼長洲未来選手について

 今回の五輪で長洲選手は、アメリカ人女性として初めてフィギュア女子でトリプルアクセルを成功させたということもあり、本国アメリカでも大注目されることに(伊藤みどりさん、浅田真央さんに続いて、フィギュア女子史上3人目になります)。

 そんな長洲選手が世界を沸かせたとき、米紙「ニューヨーク・タイムズ」の記者バリ・ウェイス(Bari Weiss)氏はツイート。その投稿内容が「差別的では?」と非難が集まっていたのでした。 

▼NY Timesの差別的な発言

 その内容は、長洲未来選手のトリプルアクセルの動画に、「Immigrants: They get the job done(移民:彼らは仕事を成し遂げる)」とコメントしているのです(これは、ミュージカル『ハミルトン』のセリフ「Immigrants, we get the job done」を参照したようです)。

 ウェイス氏側に立って言えば、恐らく本人は興奮冷めやらぬなか、「よくやった!」という思いで褒め讃えたかったのではないでしょうか。しかし、これが自然と出てしまった発言であればなおさら、彼女の心の中に宿る「Otherism(“よそ者”として、哀れんだり称賛したりする考え)」をついつい露呈してしまったと、思われても否定はできません。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

 このウェイス氏の出自も明確に理解しているわけでもない第三者の私たちが、ツベコベ言えるものでもないのですが。彼女自身、移民の子孫である可能性も否めないわけで、同じ立場として喜びを分かち合ったとも言えるのです(そもそもメイフラワー号に始まる約400年前のことを思い出せば、アメリカ国民のほとんどは移民の子孫では?とも言えますし)。ですが、この事実は多くの皆さんに知ってもらいたいことなので。

 長洲未来選手の両親は日本人。ですが、事実、アメリカで生まれ育った長洲選手はアメリカ国籍のアメリカ人なのです。

 ウェイス氏はのちのツイートで、「私は彼女がカリフォルニアで生まれたことを知ってる。移民なのは彼女の両親。私は彼女と両親を祝福したの」とも言ってはいます。ですが、つまり、祝福をストレートな言葉で表現すればいいところを、「シャレた言葉で発信しよう」とついつい舞台の決めゼルフをモジって表現。そこにこだわってしまったのが不味かったとも言えるでしょう。

 そこにはやはり、「このセリフで行こう!」と事前に用意していたウェイス氏の驕りにも似た山っ気ゴコロが読み取れたり。その言葉から、「それを読んだフォロワーがどうような気持ちになるのか?」を考える時間をもたなかったとか、「文字を扱う職業であるにも関わらず、安易では?」という様々な思いが集まっても仕方ありません。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

 なぜウェイス氏の発言がここまで問題になり、アメリカにおいて非難を浴びたのか? そこにはアメリカ人の心のどこかに依然ある、「アジア系=移民」という根強い偏見、裏を変えせば、「アメリカ人=白人」というアメリカという国の構図を浮き彫りにしたからなのです。

▼アジア系差別に対する人々の反応

 アメリカにおけるマイノリティー(少数派)は、「黒人」「ヒスパニック」「アジア系」が挙げられますが、その中でも「アジア系」は“声なきマイノリティー”とも言われています。

いつまで経っても
「よそ者」扱いされる
アジア系アメリカ人

 2013年、Youtubeにあるアジア系アメリカ人が作成し投稿した動画が、世界中で話題になりました。

 それはアメリカに住むアジア系が、いつもどういった偏見を受けるかというもの。あるアジア系女性がジョギングをしていると、白人男性がフレンドリーに話しかけてくるところから始まります。

 「出身はどこ?」の質問に「サンディエゴよ」と答えると、「いや、そうじゃなくて、本当はどこから来たの?」と言われるのです。その女性は「曾祖母は韓国人だったけど」と答えます。3世であっても外国人扱いされる、というメッセージを込めた動画でした。

 最後に、前出のウェイス氏の弁明的な発言に対し、シンガーのジョン・レジェンドの妻でありモデルとして大活躍中のクリッシー・テイゲンが送った、愛のあるツイートをご紹介しましょう。クリッシー自身、母親がタイ出身であるアジア系アメリカ人なのです。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

 「これはアメリカで永遠に続く、出生を理由にしたOtherismよ。もしくは、永遠に続く外国人シンドロームと言えるの。みんな『移民』という言葉を恥じる必要なんてないわ。でも、いつまでも外国人として扱われるのはもううんざりなの。あなたは間違いを犯したけど、それはもういいわ、済んだこと。でも、みんながあなたに対して冷静かつ素晴らしい意見を送ってきているから、そこから学んでね。そして深呼吸して、そうすれば大丈夫よ」。

 さらに「あなたは『We(私たち)』ではなく、『They(彼ら)』と言っていたわね。でも、それも大丈夫よ」と、冷静かつクレバーに指摘しています。

 このクリッシーが指摘する通り、アジア系アメリカ人が永遠に「外国人」として見られているのがアメリカの現実のようです。この裏には、この長洲選手はもとより、ネイサン・チェン選手や兄妹によるアイスダンスのシブタニ選手たちなど、アメリカ代表のフィギュアスケーターたちが代表として認められるまでに、どれほど厳しい状況のなかを滑り抜いてきたか、ということも再確認できるのです。その苦しさ、壁の厚さは、ここでの想像を遥かに超えていることでしょう。

 世界が注目する大イベントである五輪だからこそ、こうして、国際感覚のズレが露わになるのでしょう。そうしたなか、われわれはここでフィギュアスケートのファンたち、とくに羽生選手のファンの皆さんの心意気をぜひとも学ぶべきでは?と思うのです。

 平昌五輪フィギュアスケート男子シングル(SP)が行われた2018年2月16日、ほとんどが羽生選手ファンとみられる会場内。小国であるラトビア代表のデニス・ヴァシリエフス選手が登場したときのこと、場内のラトビアの国旗で溢れました。その旗を振る観客を確かめると、それは日本人らしき観客だったのです。

 五輪のような世界大会では、小国の選手、会場から遠い国の選手も多数参加しています。そうした選手たちに寂しい思いを感じさせないよう、そして、実力を可能な限り発揮してもらおうという思いから、サポーターの少ない選手に向けて日本人フィギュアファン(とくに羽生選手ファン)は、国境を越え、その選手の国旗を振り、バックアップしているのでした。

 これと同様の内容が、米国のスケート専門メディアである『アイスネットワーク』にも公開されています。「米ボストンやフィンランドのヘルシンキでも、日本のファンは日の丸だけでなく他国の国旗を持参している」という内容のもの。「素晴らしいスポーツマンシップだ。国際スケート連盟は日本のファンに、『ドウモ アリガトウ』と何度でも感謝すべきだ」と絶賛していました。

▼まとめ

 自らが応援する選手だけでなく、フィギュアスケート全体を応援するかのように、会場で声援をおくるファンの皆さんには本当に脱帽です。今回の平昌五輪で、われわれは多くのことを学ぶことができたのではないでしょうか。

 この精神は、もっともっと広く伝播していかなくてはならない、フィギュアスケートから冬季五輪種目全体へ、そして夏季五輪種目へと広げて、のちにスポーツ全体へ! さらにはスポーツばかりでなく、あらゆる方面へ。

Source: New York Post「New York Times Writer’s NY Times employees are reportedly sick of their columnistsAbout Mirai Nagasu Sparks Controversy」

    HUFFPOST「New York Times Writer’s Tweet About Mirai Nagasu Sparks Controversy」