aランゲ&ゾーネ「1815」シリーズ
Tetsuya Niikura(SIGNO)

[INDEX]

▼ A.ランゲ&ゾーネを育んだ二つの歴史

▼ 華美ではないが実務的過ぎない。独特のつくりの真摯さとは

▼ タイムレスでエレガントだからこそ暮らしに馴染む

▼ 完全予約制サロンが銀座にオープン


A.ランゲ&ゾーネを育んだ二つの歴史

aランゲ&ゾーネの創業者、フェルディナント・アドルフ・ランゲ
© Lange Uhren GmbH
人の高貴さはその行いにあり――。その言葉を信念に生きた創業者のフェルディナント・アドルフ・ランゲ。貧しかったグラスヒュッテの街の振興のためにも動き回り、若者に時計製造技術を伝授するなど街に時計産業を根づかせました。18年にわたり、グラスヒュッテの町長を無給で務めたことも広く知られています。
創業者の人格と価値観が今も静かに息づく

なぜ「A.ランゲ&ゾーネ」はドイツ時計の白眉(はくび)と称えられるのでしょうか? その理由は、単にドイツの工業製品が持つ精密さや高品質に起因するものにとどまりません。

一つは、本拠地グラスヒュッテと並びA.ランゲ&ゾーネ発展の地となったドレスデンは、ザクセンという現代の地図上では失われた王国の首都であったこと。ジュネーブやラ・ショー・ド・フォン、ル・ロックルやシャフハウゼンなど、スイス時計の産地とは、また異なる時計づくりの文化を継承しているという事実です。

今もドレスデンのツヴィンガー宮殿の内外には、ロイヤル・コレクションを起源とする数々の美術館や博物館や、歌劇場「ゼンパーオーパー」が遺(のこ)されており、この芸術と科学を称揚する宮廷文化の残り火の中で、創業者フェルディナント・アドルフ・ランゲは時計づくりのキャリアをスタートさせます。

ドレスデンにある歌劇場「ゼンパーオーパー」
© Lange Uhren GmbH
当時の国王肝入りで建造された歌劇場「ゼンパーオーパー」。この歌劇場に設置するための視認性に優れた時計の設置を依頼されたのが、ヨハン・クリスチャン・フリートリッヒ・グートケスです。その弟子の中の一人として製作に加わったのが、フェルディナントでした。ここで制作した置時計のデザインをもとに、後にブランドを代表する時計シリーズが誕生することになります。
1905年当時のaランゲ&ゾーネの本社
Sepia Times//Getty Images
1868年に創業者フェルディナントの長男リヒャルト・ランゲとエミール・ランゲが経営に参画し、屋号をA.ランゲ&ゾーネに。写真は1905年当時のA.ランゲ&ゾーネの本社とグラスヒュッテの街並み。手前にはグラスヒュッテ駅の線路、奥には教会を見ることもできます。
近代的なマニュファクチュール設立へ

パリで修行して知見を広めたフェルディナントは、師匠にして義父でもある宮廷時計師のもとで辣腕(らつわん)を奮いました。19世紀前半は産業革命との端境期で鉄道の普及などにより、正確なタイムキーピングは社会的課題でした。かくしてフェルディナントは、1845年にザクセン政府を説得して資金援助を得、銀細工の工房があったグラスヒュッテに近代的なマニュファクチュールを設立したのです。

A.ランゲ&ゾーネがドイツ時計として際立つもう一つの理由は、歴史的帰結として、異なる二つの時間軸から成り立つブランドだからです。19世紀後半から20世紀初頭にかけて、A.ランゲ&ゾーネの懐中時計は正確さと美しさによって数々の万国博覧会で賞を得し、王侯貴族やセレブリティの顧客を得るまでになりました。

ところが、家族経営の名誉あるこの時計ブランドは第2次世界大戦を機にDDR(ドイツ民主共和国、旧東ドイツ政府のこと)に接収されてしまいます。1990年にドイツの東西再統一が成った直後、創業家の子孫ウォルター・ランゲ氏は早々に工場とブランドを取り戻すべく動きました。そして4年後に初のウォッチ・コレクションを発表。つまり、現在の時計マニュファクチュールとしてA.ランゲ&ゾーネの止まっていた針を再び動かしたのです。

1994年のaランゲゾーネが発表した復活コレクション第一弾
© Lange Uhren GmbH
戦争に運命を左右されたA.ランゲ&ゾーネ。1948年のブランド消滅から46年の時を経て発表された、ブランド復活コレクション第一弾。長い眠りから目を覚ましたブランドは、4つのモデルから再起をかけることとなりました。


Never Stand Still(決して立ち止まらない)

今日、A.ランゲ&ゾーネは、「Never Stand Still(決して立ち止まらない)」というモットーを掲げています。それは19世紀のベンチャー起業家だったフェルディナント・アドルフ・ランゲ、その遺志を継いで中欧以東で随一の時計メーカーに押し上げた息子たち(ドイツ語のSöhne[ゾーネ]は英語のsons[息子たち]の意味です)、そして政変と長い中断という外的要因を強い意志で克服し、家業を取り戻したウォルター・ランゲ氏が一貫して示してきたレジリエンス(折れない心)と言えるでしょう。同時に、決して乱れず止まらず正確に歩を進める時計と、時計づくりそのものでもあります。

aランゲ&ゾーネのウォルター・ランゲ氏
© Lange Uhren GmbH
エミール・ランゲの孫にあたるウォルター・ランゲ氏。自身も時計士養成学校を卒業。ドイツの東西分断の終焉に合わせて、ブランドの復興に向けて奔放です。「あの頃はまだ何もありませんでした。つくって売る時計もない、従業員もいない、社屋も機械もない…あったのは、再びドイツ・ザクセンで世界最高の時計を製作したいという思いだけでした」と話します。

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華美ではないが質素でもない
独特のつくりの真摯さとは

aランゲ&ゾーネの時計づくり
© Lange Uhren GmbH

ドイツ時計文化の表現者として、A.ランゲ&ゾーネはスイス時計とひと味異なる審美性、そして時計づくりを貫き続けています。

aランゲ&ゾーネの時計「ランゲ1」
© Lange Uhren GmbH
機能性に優れた時計を制作するという理念のシンボルでもある、アウトサイズデイト。A.ランゲ&ゾーネの多くのモデルに取り入れられていますが、この「ランゲ1」ではローマン・インデックスも併用されています。

例えば、「ランゲ1」ファミリーに見られるアウトサイズデイトと古典的なローマン・インデックスの同居は、ドレスデンのゼンパーオーバーの劇場内の置時計に着想を得たもの。それこそ、フェルディナント・アドルフ・ランゲが師匠と制作したタイムピースです。

古典的要素を採り入れながら、実用的だからこそ結果的に美しい、その審美性はバロックの都ドレスデンとドイツの近代化を経験したつくり手ゆえのものです。

一方でA.ランゲ&ゾーネは懐中時計の時代、すでにコンマ1秒以下を計測する機構を発明したほどに高いエンジニアリング力を誇ります。今もグラスヒュッテのマニュファクチュールで生産される全てのムーブメントは、組み上げた後にもう一度分解してからの二度組み(再組立て)が行われます。

これは純粋にパーツ同士の相性のような、組んでみないと分からない偶発性のトラブルを避けるため。もちろん、生産効率の面では二度手間となりますが、出荷するムーブメントは実証的に動作が担保されることでもあります。これは、「時計は時を刻んでこそ、初めて時計の名に値する」という矜持(きょうじ)であり、モットー「Never Stand Still」の一部でもあるのです。

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[1815ファミリー]
タイムレスでエレガント。
だからこそ暮らしに馴染む

aランゲ&ゾーネ「1815」シリーズ
Tetsuya Niikura(SIGNO)

A.ランゲ&ゾーネの数あるシリーズの中でも創業者フェルディナント・アドルフ・ランゲの生誕年にちなみ、彼が考案した技術や伝統的な手工芸をフィーチャーしているのが「1815」ファミリーです。ローマン・インデックスほどフォーマルではない、古典的なフォントのアラビア数字インデックスを採用。文字盤を縁取る分、目盛りはレイルウェイ風です。さらにはブルースチール針と精緻なムーブメントを覗き込めるシースルーのケースバックが、シリーズほぼ全体に通じる特徴と言えます。

控えめながら幾何学的に美しい表示は、クセのない視認性と日常的な読み取りやすさへとつながり、タイムレスでエレガントな表情が際立ちます。いわばフェルディナントが抱いていた正確なタイムキーピングが新しい時代の、「よりよい暮らしを切り拓くというビジョンをあまさず体現するタイムピース」と言えるでしょう。

1815 ラトラパント・パーペチュアルカレンダー
1815ラトラパント・パーペチュアルカレンダー
Tetsuya Niikura(SIGNO)
腕時計[1815 ラトラパント・パーペチュアルカレンダー]価格要お問い合わせ(A.ランゲ&ゾーネ TEL 0120-23-1845)
1815 rattrapante perpetual calendar

「1815 ラトラパント・パーペチュアルカレンダー」は、永久カレンダーにクロノグラフ、そしてラトラパント(スプリットセコンド)と、三つの複雑機構を盛り込んだモデル。複雑時計ながらも煩雑ではない、ピンクゴールドダイヤルの甘過ぎない表情にも注目です。

ミリタリーやスポーツウォッチのような計器じみた武骨さは一切感じさせず、優雅かつ機能的なフェイスはランゲ&ゾーネの真骨頂。クロノグラフ作動中にラップタイム計測をすると、ブルースチールのクロノグラフ針は動きを止めてラップタイムを表示し、その下に配されたシルバースチール針がトータルラップを刻み続けます。

1815ラトラパント・パーペチュアルカレンダー
© Lange Uhren GmbH
ピンクゴールド製ダイヤルの温かみと、ホワイトゴールド製ケースのクールな表情が絶妙なコントラストを描きます。バランスよく配されたサブダイヤルも含め、豊かなディテールは時を忘れて眺めていられるほどの美しさ。
1815ラトラパント・パーペチュアルカレンダー
© Lange Uhren GmbH
8番目のクロノグラフキャリバーとして誕生したムーブメントは、三大複雑機構を搭載。なかでも特筆すべきは、ラトラパント・クロノグラフ(スプリットセコンド)を搭載したこと。ラップタイム計測やタイムの比較、60 秒以内の中間タイムの計測までも可能にしました。

1/6秒まで計測可能なラトラパント・クロノグラフを司る2つのコラムホイールは、シースルーバックから眺められます。また、永久カレンダーは2100年3月1日まで修正の必要がありません。

クラシックでエレガントな複雑時計だからこそ「1815 ラトラパント・パーペチュアルカレンダー」は、ドレスダウンするだけでは惜しいところ。オーセンティックな機能性と、伝統と革新の狭間を自由に行き来するタイムレスな魅力はヴィンテージ・デニムにも通じるところがあります。ミスマッチと言わせない凄味は、意外とシンプルなものなのです。

1815ラトラパント・パーペチュアルカレンダー
© Lange Uhren GmbH
1815 ラトラパント・パーペチュアルカレンダー
  • Ref.:421.056FE
  • ムーブメント:cal.L101.1、手巻き
  • ケース:18KWGケース
  • ケース径:41.9mm
  • ケース厚:14.7mm
  • ベルト:ブラウン アリゲーターレザー
  • パワーリザーブ:約42時間
  • 限定:世界限定100本
  • 価格:要お問合せ

1815 アニュアルカレンダー
1815アニュアルカレンダー
Tetsuya Niikura(SIGNO)
腕時計[1815 アニュアルカレンダー]726万円(A.ランゲ&ゾーネ TEL 0120-23-1845)
1815 annual calendar

「1815 アニュアルカレンダー」は「サクソニア」に続き、A.ランゲ&ゾーネのアニュアルカレンダー搭載モデルとしては2作目にあたります。決して過剰に主張するディテールではないかもしれません。ですが、通常の時分表示のシルバーダイヤルと並んで、三つのスモールダイヤルひとつひとつのバランスと機能性が高く、結果的に何を引くことも、足すこともできない。そんな完全性の高いタイムピースなのです。

1815アニュアルカレンダー
Tetsuya Niikura(SIGNO)
日付、曜日、月表示を専用の表示針で知らせる「1815 アニュアルカレンダー」。ムーンフェイズ表示は極めて高い精度を誇り、誤差が1日分に累積するまでに122.6年かかるという緻密な計算にもとづいて設計されています。「1815」ファミリーを代表する存在のブルースチール針がシルバーダイヤルに映えて、洗練された印象を醸し出します。

左から日付、曜日、月の順に、実に読み取りやすいデイ&デイトと月表示は、ダイヤル内のいちばん長い横軸の上に配されるがゆえ。日付表示は、30日の短い月と31日の長い月を自動的に選り分け、2月と3月の変わり目以外に修正を必要としません。6時位置のスモールセコンドとムーンフェイズも、控えめに躍動感ある時間を示し続けます。さらにシースルーバックから覗くキャリバーL051.3のブリッジには、見事な彫金細工が施されているのです。

いわば「1815 アニュアルカレンダー」は、クールで慎み深い雰囲気をたたえつつも、日常の中に隠れた物語をつねに想起させるタイムピース。毎日が同じでないことを大切にする人にこそ、ふさわしい時計です。

1815アニュアルカレンダー
© Lange Uhren GmbH
1815 アニュアルカレンダー
  • Ref.238.026E
  • ムーブメント:cal.L051.3、手巻き
  • ケース:18KPGケース
  • ケース径:40mm
  • ケース厚:10.1mm
  • ベルト:ブラウン アリゲーターレザー
  • パワーリザーブ:約72時間
  • 価格:726万円

1815アップ/ダウン
Tetsuya Niikura(SIGNO)
腕時計[1815 アップ/ダウン]493万9000円(A.ランゲ&ゾーネ TEL 0120-23-1845)
1815 updown

「1815 アップ/ダウン」のモデル名は、その特徴的な8時位置のドイツ語によるパワーリザーブ表示、「AUF(アップ)」と「AB(ダウン)」に由来します。これはA.ランゲ&ゾーネが1879年に特許を取得し、伝統的に用いてきた表示ですが、機構としても独自性を誇ります。というのも、ムーブメントに追加モジュールとしてアドオンされた機能ではなく、輪列と同列の遊星歯車を用いることで、ムーブメントはわずか4.6mmの薄さを保っています。

1815アップ/ダウン
© Lange Uhren GmbH
青焼きしたブルースチール針にアラビアインデックス、レイルウェイ風の分目盛りという「1815」ファミリーの伝統要素を網羅。キャリバーは高さ4.6mmという薄型の設計にも関わらず、およそ3日間のパワーリザーブを備えた香箱を搭載。高い技術力の証でもあります。

ゼンマイのパワーが完全に解けきると「AB(ダウン)」を指し、再びリュウズでワインドアップすることでしか歩を進めない時間は、自分でつくり出した時間そのもの。例えば豆から挽いて、少しずつ雫として滴らせたコーヒーが、代わりの効かないリラックスを生み出すのと同じように自分自身の貴重な時間を積み重ねる人こそ、身に着けたい1本なのです。

1815アップ/ダウン
© Lange Uhren GmbH
1815 アップ/ダウン
  • Ref.238.026E
  • ムーブメント:cal.L052.2、手巻き
  • ケース:18KWGケース
  • ケース径:39mm
  • ケース厚:8.7mm
  • ベルト:ブラック アリゲーターレザー
  • パワーリザーブ:約72時間
  • 価格:493万9000円

期間限定の完全予約制サロンを銀座エリアにオープン

a lange sohne ginza suite(aランゲ&ゾーネ 銀座スイート)の画像
© Lange Uhren GmbH

普段のブティックにも増して、さらに落ち着いた環境の中でA.ランゲ&ゾーネの精緻なウォッチメイキングの世界を堪能する。そんな贅沢なサロン「A.Lange & Söhne Ginza Suite(A.ランゲ&ゾーネ 銀座 スイート)」が、ホテル「ハイアット セントリック 銀座 東京」内に2024年6月下旬までの期間限定でオープンしました。

完全予約制、メゾンの最新インテリアコンセプトを取り入れた空間で、じっくりと時計選びに浸る至極の時間となることでしょう。希少なモデルをはじめ、ブランド再興以前に製作された懐中時計のアーカイブも展示されています。

決して立ち止まることなく歩んできた激動の歴史と、繊細にして大胆、静けさの中に強い信念を宿したA.ランゲ&ゾーネの世界に身を委ねてみてはいかがでしょうか。ご案内方法の詳細については、A.ランゲ&ゾーネブティック 銀座まで。

A.Lange & Söhne Ginza Suite(A.ランゲ&ゾーネ 銀座スイート)
  • 住所:東京都中央区銀座6-6-7 Hyatt Centric Ginza Tokyo内
  • 期間:2024年6月下旬まで
  • 備考:完全予約制
  • ご予約・お問い合わせ先:A.ランゲ&ゾーネ ブティック 銀座(TEL|03-3573-7788)

問い合わせ先
A.ランゲ&ゾーネ
TEL 0120-23-1845
公式サイト お問い合わせ


Photo / Tetsuya Niikura(SIGNO)
Styling / Eiji Ishikawa(TABLEROCK)
Text / Kazuhiro Nanyo
Edit / Ryutaro Hayashi(Esquire)