少年時代にアーサー・チャールズ・クラーク、アイザック・アシモフ、ロバート・アンスン・ハインラインのSF作家ビッグ・スリーを堪能し、さらにそれだけでは飽き足らず、レイ・ブラッドベリにフィリップ・キンドレド・ディック、そしてダニエル・キイス、アンソニー・バージェス、ウィリアム・ギブスンと、もう早川書房の回し者かと思われるぐらいその系統の書籍ばかりを読み漁っていた方なら、これには深~く共感してくれることでしょう。
この復刻の情報を得たとき、筆者の脳裏に浮かんだのは17歳になった初秋のころ。その当時のときめきが、ググッと浮かび上がってきました。それは1982年9月、30代前半のジェフ・ブリッジスが主演した映画『トロン』(最近では『トロン:オリジナル』と言われています)を観たときの衝撃です…。
この映画は当時公開前から、世界で初めて全面的にコンピューターグラフィックスで描かれた映画として話題を集めていました。なんせAppleのパソコンシリーズMacintoshの1stモデル「Macintosh 128K」が発売されたのは1984年1月24日ですから、コンピュータの世界など想像することもできない高校生であった筆者には、わけのわからないまま…まるで宇宙人に連れ去られたかのように、ドキドキとワクワクで胸が張り裂けそうになりながら鑑賞していたわけです。
ストーリーも当然、全くわけがわかりません。なんせ、未知のコンピューター内部の話ですから…。プログラムという実態のない世界を擬人化する手法で、それを超美麗な映像で表現した圧巻かつ唖然にもなった映画だったのです。と、今なら帳尻合わせで解説はできますが(笑)。
続いてこの映画は中継基地となり、筆者をさらなるタイムスリップの旅へと誘います。高校生時代から小学校時代へ…。目的地は1973年の新春、「007」シリーズの第8作目の映画『007/死ぬのは奴らだ』を観たときのこと。この旅によって筆者は、自分の人生で初めて時計が欲しくなったときの状況を克明に思い出すことができたのです。その張本人(物)が、ボンド(ロジャー・ムーア)の腕元で輝きを放っていた「ハミルトン パルサー」であったことを…。
…長くなりました。このように、このたびの「ハミルトン パルサー」の復刻というカタチで「ハミルトン PSR」が発売されることは、筆者を夢に満ちていた少年時代へとタイムスリップさせる非常に貴重な機会にもなりました。
時計の概念を変えた
スペースエイジの超傑作
カレンダーをさらに戻しましょう。1970年5月6日、それは時計史において最も歴史的な瞬間の一つと言えるでしょう。ニューヨークで当時人気のレストランの一つであったフォーシーズンズレストランで開かれた記者会見にて、ハミルトンは史上初のLED式デジタルウォッチを披露したのです。
超高精度の周波数でパルス状の電波を放射する中性子星の名前から、「ハミルトン パルサー」(初代モデル名は「ハミルトン P1」)と名づけられたこの時計は、可動部品もなく時刻を刻む音もせず、革新的な耐久性と精度を備えた…まさにSFの世界が現実になったかのようなインパクトを世界中の人々にもたらしたのです。
その革新的なテクノロジーにフューチャリスティックなデザインが加わって、世界中の人々を魅了。スペースエイジの時代性あふれるアヴァンギャルドなクッション型ケースと、18Kイエローゴールドブレスレットからなる魅惑のフォルムは、当時の自動車1台分に相当する2100USドルという価格にも関わらず、その希少性・革新性から数多くのセレブリティがこぞって買い求めることとなりました。ちなみに、限定400本の製造でしかなかったこのモデルの1本をいち早く手にした者の一人を紹介すれば、それは…以前からハミルトンの愛用者でもあったエルヴィス・プレスリーです。
そしてその翌年の1973年に、本格的に一般販売を開始することになります。ここで発表されたのが「ハミルトン P2」、映画『007/死ぬのは奴らだ』でボンドの腕元を飾ったのがこのモデルです。
丸みを帯びたステンレススチールケースと改良されたチップモジュールを搭載し、デジタルウォッチ市場をここで大きく開拓。LEDによるデジタル表示の光は、まるでタイムマシンの操作盤かのように映り、「この時計をつけたら、きっとエキサイティングな未来へ行ける」という思いに筆者は取りつかれ、親におねだりしては全く無視されたものでした…(笑)。
もちろん、その売り上げも大きな成功を収めています。キース・リチャーズ、エルトン・ジョン、ジョー・フレージャー、ジョヴァンニ・アニェッリ、そしてアメリカ合衆国大統領ジェラルド・フォードも、この「P2」を愛用していたという記録が。
このように「ハミルトン パルサー」は、当時の最先端のテクノロジーとその大胆なデザインによって、世界の人々を魅了したのでした。そこに生意気にも筆者も含まれているわけですが、結局、何度も言いますが…手にするまでには至っていません。
そうして時計史と筆者の人生に革命を起こしたLED式デジタルウォッチ「ハミルトン パルサー」の誕生から50周年を迎える2020年、そのスタイルが「ハミルトン PSR」となってよみがえるのです。
時計コレクターのみならず、ファッショニスタからも復刻を望む声が多かったこのモデルの待望の復刻だけに、売り切れ必至が予想できます。なので、皆さん要チェックですね。
世界を変えた
伝説の時計待望の復刻
「ハミルトンPSR」としてよみがえる新たなモデルは、ステンレススチールモデルと、1970本限定のイエローゴールドPVDモデルの2つのバージョンのラインナップとなります。
デザインは1973年発売の「P2」をベースにし、アイコニックな幅広のクッション型ケースを再現。サイズも当時と同じ40.8mm × 34.7mmを採用。風防はルビーからサファイアクリスタルにアップデートしながらも、オリジナルモデルと同じ立体的なフォルムに「レトロフューチャー」な雰囲気が満ちています。
一方、時刻表示のスタイルは、オリジナルモデルから大きく進化を遂げています。この「ハミルトンPSR」は、液晶ディスプレイと有機EL(OLED)テクノロジーを組み合わせたハイブリッドディスプレイが特徴。液晶ディスプレイにより常時点灯を実現し、有機ELを組み合わせることでケース右横のボタン操作によって赤い7セグメントLEDが発光。また、バックライトのないディスプレイにより、エネルギー消費量を抑えることに成功しています。
当時のデザインを踏襲しながらも、現代のテクノロジーでさらに進化した「ハミルトンPSR」。史上初のLED式デジタルウォッチが誕生した歴史的瞬間と、デジタルウォッチが人々に与えたインパクトととともに、中には青春時代の思い出を呼び起こしてもくれる偉大なタイムピースの登場です。「ハミルトン パルサー」が当時も多くの人々を魅了したように、「ハミルトンPSR」も時代の最先端で突き進むパイオニアたちの象徴的なモデルとなるでしょう。
なお日本では、5月初旬より都内のハミルトン直営店舗と人気セレクトショップBEAMSにて先行予約受付を開始。一般販売は6月からとなっています。ですが、このところの状況を鑑み、予定変更の可能性もあります。公式サイトにて随時チェックを。
●お問い合わせ先
スウォッチ グループ ジャパン
TEL 03-6254-7371
公式サイト
【ハミルトンとは?】
ハミルトンは、1892年アメリカ合衆国ペンシルバニア州ランカスターで創業。ハミルトンの時計は、スイスのテクノロジーとアメリカンスピリットが融合した比類なきタイムピースばかり。革新的なデザインで知られるハミルトンはハリウッドからも愛され続けており、これまでに500本以上ものハリウッド映画に登場しています。また航空計時においても、一世紀にわたる豊かな歴史を有しています。そんなハミルトンは、世界最大の時計製造および販売グループであるスウォッチ・グループの一員です。