ル・マン24時間レースは今年、100周年を迎えます。
フランス西部自動車クラブ(ACO)によって1923年に開始されたル・マン24時間レース。もともとはレーシングカーではなく、市販車による耐久レースを開催しようとする狙いから始められた大会であり、第1回大会に参加したのは17メーカー、35台のエントリーでした。あいにくの雨模様の中、優勝したのは「シュナール&ワルケール」のA.ラガシュ/R.レオナール組で走行距離は2209.536kmでした。
コースはご存知、フランスのル・マン市街地から南に行ったサルトサーキット。常設のレーシングコースであるブガッティサーキットと、閉鎖した一般公道を走る13.629kmの特別なコースで、これまで数々の名勝負を生み出してきました。
2023年シーズンのFIA世界耐久選手権(WEC)は全7戦が予定されていますが、ル・マン24時間レースはその第4戦目に当たります。今年の開催日時は現地時間6月10日(土)~11日(日)。100回を記念するメモリアルな今回は、例年以上に注目度が高く、チケットも早々とソールドアウトとなっています。
もしあなたがこれまで、ル・マン24時間レースを積極的にフォローしてこなかったのであれば、今回の記念すべき大会をきっかけに、ル・マンの沼に片足を入れてみるというのはいかがでしょうか?
――ならば、まずはコースをよく知ることから始めるのがベスト。ということで、今回は元プロドライバーで、ル・マン史上最多の優勝回数を誇る「ル・マン マイスター」ことトム・クリステンセンさんに、サルトサーキット攻略法をうかがいました。
01:ダンロップ・カーブからシケイン (DUNLOP CURVE AND CHICANE)
「早めにハンドルを切り、ロール気味にコーナーへと進入します。ブレーキをしっかり踏み込む前に、やや減速しておくと良いでしょう。シケインの左コーナーでは、縁石のところで回転数を落としても、車の挙動が不安定にならないように注意しながら3速にシフトダウンします。橋をくぐりながら右カーブを抜ければ、その先は何が起こるかわからない下り坂へと突入です」
02:森のS字 (ESSES)
「とても気持ちいいセクションを通過していきます。ただし路面はかなり難しく、車の挙動が安定しません。それでも6速までシフトアップした状態で、左コーナーへと突入していきます。コーナーの深いところでバンクが大きくなりますが、ここでライン取りを誤らないよう注意が必要です。
そのままサーキットと一般道との合流地点までは、ラインはコースの中央をキープします。森へと入っていきますが、木々はもう何十年もそこに立っていて、良いシーンもそうでないシーンも、その全てを目撃してきたのです。
ところで、このS字を抜けテルトル・ルージュ・コーナーに向かうセクションで、ある朝、ファンの誰かが私(編集注:コースの解説をしているトム・クリステンセン)の母国デンマーク国旗を付けた長いポールを高々と掲げているのに気づきました。それはまさに奮い立つような光景でした。
私がトップを走っていると、その人がよく旗を振ってくれていたのです。夜間に入ってからも、あの旗を見ればスタミナがまた漲(みなぎ)ってくるようでした――おかげで、ル・マンに求められる粘り強い走りができたのです」
03:テルトル・ルージュ・コーナー (TERTRE ROUGE)
「コーナーを脱出する際は、スピードに乗っていることが重要です。なので、アグレッシブでありながら、突っ込み過ぎないように気をつけなければなりません。リアの安定性を失ってしまうと、その先のストレートに入る勢いが失われてしまうからです」
04:デイトナ・シケイン (DAYTONA CHICANE)
「タイヤのコンディションが良いことが前提ですが、80mほど手前でブレーキングを開始します。そこまではどの車もスピード全開です。
シフトダウンをしながらエイペックス(※編集注:コーナーの内側の頂点のこと)を抜け、車が不安定にならないように再び加速します。コーナーを速く抜けられば、息を止めている時間も短くて済むのです」
05:ミュルサンヌ・ストレート (MULSANNE STRAIGHT)
「長いストレートですが、ドライバーには気を抜く暇などありません。ギアの状態、ブレーキバランス、ハイブリッドシステム、無線、ワイパー、ドリンクボトルからの給水、ハイビームなど、確認すべき情報も作業も山ほどあるのです。また、セッティング次第でやるべきことが変わります。要するに、常に頭がフル回転している状態なのです。実際、かなりのストレスですよ」
06:ミシュラン・シケイン (MICHELIN CHICANE)
「3速までシフトダウンしなければなりません。シケインの真ん中あたりで、かなりの凹凸があります。ブレーキングは早めに。
リズムよく曲がることを意識して、スピードを落とし過ぎないことが重要です。右手のガードレールのギリギリまで車を寄せて、そこから再びトップスピードまで加速します」
07:ミュルサンヌ・コーナー (MULSANNE CORNER)
「ブレーキを踏みながらボトルネックに突っ込んでいくような、かなり苛立たしいコーナーです。ラインさえ外さなければ、グリップは問題ありません。
ターンイン(※編集注:コーナーの進入に向けて車の向きを変え始めること)ではブレーキを踏み込み、そしてブレーキを戻しながらターンします。車がコースに吸いつくような感覚は、まさに快感です」
08:インディアナポリス・コーナー(INDIANAPOLIS)
「ミスが多発するコーナーです。最初のセクションではバンクを利用して、それからトレイルブレーキ(※編集注:車がコーナリングに入った後、ステアリングを回しながらブレーキングを続けること)で引っ張りながら、コーナーを抜けていきます。
ギアを3速に落として、その先の超低速コーナーを迎えます。フロントがブレないことが大切で、縁石にキスするような感じで駆け抜けるのです」
09:アルナージュ・コーナー (ARNAGE)
「ブレーキが冷える時間がなく、効きがやや悪いので注意しなければなりません。フロントタイヤがロックしやすく難しいポイントとなります。コースの目いっぱい左側から右側へと、自然と流れていく感じが理想的でしょう」
10:ポルシェ・コーナー (PORSCHE CURVES)
「個人的に大好きなセクションです。時速320キロというスピードで進入します。アクセルを緩め、ブレーキを踏むと同時にターンインです。3つ目のコーナーでは、やや左に寄っていたいところです。コース中央でも良いですが、長く滑らかな右コーナーに備えて体勢を整えておく必要があるからです」
11:カーティング・コーナー (KARTING)
「視界がブラインドになる難所です。コースを見失わないように注意しなければなりません。キャンパー角(※編集注:正面から車をまっすぐ見たときのタイヤと地面の角度のこと)が乱れがちです。
渋滞に巻き込まれると、フロントのバランスを簡単に失ってしまいます。カーティング・コーナーを抜ける際は、単純に右から左へと切り返せばオーケー。他に車がいなければ、コースの真ん中を走れば問題ありません」
12:フォード・シケイン (FORD CHICANES)
「ターンインのポイントが視界より下にくるのが特徴です。このシケインの一つ目のコーナーには高速で入ることになりますが、左タイヤを縁石に乗せる必要があります。その先で右側に寄り過ぎると、シケインの最後で飛び出してしまいかねません。
ガンガンガンと2速までシフトダウンします。縁石に乗るので車のコントロールが大変です。このシケインを無事に切り抜ければ、また2速から3速、そして4速へとシフトアップし、ラップタイムを刻んで、またストレートへ突入です。周回ごとに冒険の連続ですよ」
Source / Road & Track
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です