「TikTok(ティックトック)」や「FaceApp(フェイスアップ)」と言えば、若者を中心に、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を頻繁に利用する人の間でおなじみの存在となっているでしょう。「ティックトック」は、モバイル向けショートビデオのプラットフォームアプリであり、「フェイスアップ」のほうは写真に写った人物の画像を加工できるアプリです。どちらも日本国内のみならず、世界中で人気を呼んでいます。

 多くの人がその便利さと楽しさを享受しているのと同時に、SNSアプリにおけるプライバシー管理の面を警戒する動きも数多く見受けられます。その安全性については現状、正確なところ多くは明らかになっていません。ですが、「クリティカルシンキング」のように物事をさまざまな角度から眺めることで、その本質へたどり着くという考え方もあるわけです。そこで、 ニューヨーク大学で非常勤講師を務めるクリスティーナ・リビー(Kristina Libby)氏による記事をご紹介しましょう。

心理的な特性が
暴かれているかもしれない

 あくまでも「可能性がゼロではない」という話ですが、もしかしたらスマートフォンに入っている「ティックトック」から、自宅の住所が割り出されてしまうかもしれません。人気の「フェイスアップ」を使えば、あなたの顔写真が保存され、年齢別の自分の容姿がシミュレートされてしまう恐れも…。ホテル探しに使った宿泊予約アプリには、旅の履歴や部屋の好み、次の旅のスケジュールまで、ありとあらゆる情報が記録されていますし…。

 人によっては、「そんなの大したことじゃないよ」と思われるかもしれません。ですが、「ジオターゲティング(※IPアドレスなどから閲覧者の居住地を解析し、それを利用する技術のこと)」や、スマートフォンに記憶された顔認証などの技術を通して大量のデータが集積され、他国に流出しているかもしれません。考え方によっては、「スマートフォンは、ミサイルよりも強力な武器となる可能性を秘めている」とも言えるのです。

スマートフォンは、ミサイルよりも強力な武器となる可能性を秘めている

 アメリカの公共ラジオ局のNPR(National Public Radio)によると、サウジアラビアをはじめ一部の国では、「スマホアプリから収集した情報をもとに反体制勢力やスパイ容疑者を特定し、その持ち主のコンピューターに侵入している可能性さえある」と報じています。

 皆さん、「サイコグラフィックデータ」をご存知でしょうか?

 これはマーケティング業界で使われる言葉ですが、マーケットを分類する際の分類軸のひとつで、消費者をその人の価値観やライフスタイル、好みなどの心理的な特性から分類しようとするものです。そして、アプリを介して収集されたさまざまなデータは、この「サイコグラフィックデータ」の生成に利用されていることが知られています。

 心理的な特性がわかれば、最も騙しやすいと思われる特性を持つ人々を抽出し、“効果的な”フェイクニュースなどの虚偽情報を送りつけることも不可能ではありません。

人気SNSアプリにも
プライバシー懸念問題が持たれる

 「ティックトック」は現在、特に警戒をされている存在と言えるかもしれません。ByteDance(バイトダンス)社という中国企業が開発・運営をしていますが、世論操作を目的としたニュースやコンテンツの配信がアルゴリズムによって実行されるシステムを備えていると目されているのです。それにより、「社会秩序に大きな影響を及ぼすのではないか?」と、疑問を呈する人がいるというわけです。

 そう考える人たちを不安にさせているものに、中国で2017年に施行された「国家情報法」の存在があります。この法律には、中国政府が企業に対する情報収集活動への協力を求める文言が含まれています…。

ティックトックを禁止したインド
SOPA Images//Getty Images
インド情報技術省は、2020年6月29日、「インドの防衛・国家の安全保障・治安を害する活動に従事している」として、「『ティックトック』を含む、59ものスマホアプリを禁止する」と発表しました。

 「中国の法秩序は(アメリカ合衆国とは)大きく異なります」と指摘するのは、個人情報保護を専門とした民間企業であるVirtru(バートルー)社にも所属する、社会科学者のアンドレア・リトル・リンバゴ氏です。

 「『ティックトック』はデータ収集を行っていないと主張していますが、残念ながら、その真偽を検証するのは困難であると言わざるを得ません。また、2019年2月以前のプライバシーに関するデータについては、不明な点も多々あります。アメリカ国民をターゲットにした諜報活動の疑念もあり、無視することはできないでしょう」と、リンバゴ氏は話します。

 2019年2月27日、「ティックトック」が13歳未満の児童の個人情報を保護者の同意を得ずに収集していたことが児童オンラインプライバシー保護法に違反しているとされ、アメリカ連邦取引委員会(FTC)罰金を科せられたのは、まだ記憶に新しい事件です。

 「ティックトック」側は対策として、低年齢のユーザーに向けた「安全性とプライバシー保護が強化された」制限版のアプリの提供をする意向を示しました。また、アプリをより安全に使用するためのツールをユーザーに紹介する動画も公開するなど、安全性の向上に向けた対策を行っています。

 それでもなお、中国が過去に行ってきたデータ収集の歴史や、問題視されている人権への対応の姿勢から、「データの保全に十分な注意が払われてしかるべき」と警戒を解かない人も見受けられます。

 2020年7月8日には、アメリカのマイク・ポンペイオ国務長官が「ティックトック」をはじめとする中国企業が提供するアプリについて、利用者の個人情報が中国政府にわたる恐れがあるとして、利用禁止を「検討している」ことを明らかにしています


SNSアプリと正しく付き合うためには…

 安全保障を目的としたシンクタンク「ニュー・アメリカ財団(New America Foundation)」のサイバーセキュリティ研究員であるアディラ・レヴィン氏は、「アプリから求められる“同意”やデバイスの設定変更への誘導に対して、無自覚に従うべきではありません」と忠告しています。無自覚な同意によって、他者があなたの個人情報にアクセスできる経路が生まれる危険性があり、自分が所有するデバイスに蓄積されているデータへのアクセス権を持つ他者が増えれば、それだけ個人情報は守りにくくなるというわけです。

 多発するサイバー攻撃やサイバースパイ活動を特定の国と結びつけることなど、そう安易にするものではありません。さらに、特定のアプリと国家との相互関係を見極めるのは、それ以上に困難なことと言えるでしょう。しかし、増加の一途をたどるサイバー攻撃とアプリの悪用が結びついている可能性については、さまざまな指摘がされているのもこれまた事実なのです。

 暇つぶしや娯楽のために用いるアプリを介して個人情報が流出してしまう可能性について、ユーザーは今一度、自問自答すべきときが来ているのです。 まずは何かをダウンロードをする前に、そのアプリについてきちんと調べるべきです。ユーザーが自分のスマホやアプリを使用しようと思った際には、俯瞰(ふかん)から自分とそのアプリの価値を客観的に見定めることを常にすることこそが、サイバー攻撃に対抗する唯一の手段とも言えるでしょう。

From POPULAR MECHANICS 
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です。