Spencer Tunick Creates Nude Art Installation In Melbourne
Michael Dodge//Getty Images
昨年オーストラリアのメルボルンで行われたインスタレーションでの、アーティストのスペンサー・ チュニック氏

 アーティストのスペンサー・チュニック氏は、ヌード写真を禁止するFacebookとInstagramの厳しい「コミュニティガイドライン」と5年間も戦ってきました。チュニック氏はアメリカの写真家で、大人数の裸の人々が芸術的な編成でポーズをとる写真で知られ、インスタレーションという技法を用いて、世界中で撮影を行なっています。

 2014年、彼のFacebookページが突如閉鎖されました。ポルトガルで撮影された75人の女性に、モザイクをかけた画像を投稿したことがきっかけでした…。どうやら、乳首にかけられたぼかしの色が分かりやすすぎたのが原因だったようです。

 それ以降の彼は、画像が削除されたり、アカウントが停止されてしまうような最悪の事態を避けるため、本来芸術の領域にあると自認している「写真」を、細心の注意を払って検閲してきました。

 そうして今回、これらのSNSプラットフォームに対し、彼はかなりパワフルなメッセージを投げかけることを決意したのでした。

 それは、「2019年6月2日に100人~200人におよぶ有志をニューヨークに集め、ヌードで写真撮影を行う」というものです。チュニック氏と米国検閲反対連合が企画したこのプロジェクトは#WeTheNippleと呼ばれ、SNSのプラットフォームに芸術的なヌード写真の投稿許可を呼びかけるのが目的となります。

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 「分かりますよ。私もポルノ画像だらけのInstagramを娘たちに使ってほしくはありません」と、チュニック氏は「エスクァイア」に話しています(彼には現在12歳と14歳の娘さんがいます)。チュニック氏はさらに続けて、こうも話しています。

 「しかし、アーティストが自分の作品を紹介する方法はあるはずです。YouTubeのようにコンテンツを確認した上で年齢制限のボタンを設けるとか、やり方はあるでしょう。そもそも男性と女性の乳首を同等に扱い、女性の乳首は害があるような姿勢は改めるべきです」とのこと…。

 Instagramのコミュニティガイドラインには次のように書かれています。

芸術的・創造的なヌード画像をシェアしたくなることもあるでしょう。しかし、さまざまな理由から、Instagramではヌード画像を許可していません。それには、性行為や性器、衣服を着けていない臀部のアップの写真、ビデオ、デジタル処理で作成されたコンテンツなどが含まれます。また、女性の乳首の写真も含まれますが、乳房切除術後の瘢痕や授乳をしている女性の写真は許可されます。ヌードの絵画や彫刻の写真も許可されています。

 つまり、彫刻や絵画のようなカタチでヌードを表現したものはOKですが、写真はプラットフォームに掲載できないということ。そしてもちろん、男性の乳首は問題ありませんが、女性の乳首は禁止だと言うのです。

 「検閲に関しては、アメリカ合衆国憲法修正第1条を脅かすものとして議論になることが多い」と、米国検閲反対連合の広報責任者であるノラ・ペリッツァーリさんは言います。しかし、これがSNSの話になると、“表現の自由はなかったことにされてしまう"のだそうです。

 「これらは民間企業なので、独自のヌードガイドラインを設定できます。そしてユーザーは、そのプラットフォームを使いたいなら、そのガイドラインに従うしかありません。SNSはそういうものなのです」と、ペリッツァーリさんは話します。

 「しかしFacebookやInstagramでアート作品をシェアする人が増えたことで、これらのプラットフォームは公共の場所になりつつある」と、ペリッツァーリさんは続けます。その結果、SNSはアートを発見する場所になりました。

 「Instagramのようなプラットフォームは、新しい視覚的表現を共有するための場所なのに、時代遅れで非常に主観的な"適切な表現"にアーティストが従わなければいけないのは、不本意に感じます」と、ペリッツァーリさんは強調して言っています。

 Instagramの広報担当者はメールの声明で、同社は「『利用者に敬意を払った安全な環境』の構築に努めている」と述べています。また「世界中の国や文化によって何が適切かの定義は異なりますが、コミュニティガイドラインでは、その多様性が反映されるように最善を尽くしています」とも書かれていました。

 23億人以上のアクティブユーザーを持つFacebookと、2018年にユーザー数10億人を突破したInstagramは、文化規範に大きな影響を与えているので、ガイドラインの及ぼす影響はアーティストだけではありません。

 「SNS上での裸体に関してのボーダーとして、漫画や絵画や彫刻でのヌードは許可されるのであれば、その以外のヌードに関しては一切禁止ということなるでしょう。両極端な選択肢しかないから、検閲に関して混沌とした状態が起きてしまうのです。このガイドラインにより、私たちは逆に女性の体に対する見方を変えてしまうのではないでしょうか? 男性の乳首はいいのに女性の乳首を禁止したら、人々は女性の乳首を犯罪か何かのように感じ始めるてしまいます…」とチュニック氏は言います。

 Instagramのコミュニティガイドラインの考え方は、特にLGBTQコミュニティにとって苛立たしいものと言えるでしょう。

 ペリッツァーリさんはこう話しています。

 「乳首を見れば、その持ち主が女性か男性か判断できるという考え方、そして、そもそもジェンダーを2つに分けるという考え方は、ヌードの間違った使い方です。体に焦点を当てている写真家の多くが、ジェンダーの問題に取り組んでいます。また、自分やコミュニティのメンバーの体の写真を撮っているトランスジェンダーやクィア・アーティストたちは、このヌードの定義のせいで大きな影響を受けているのです」とのこと。

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Spencer Tunick
チュニック氏の検閲された写真(左)とオリジナルの写真(右)

 FacebookとInstagramは先日、コミュニティガイドラインに違反していなくても、「不適切」と思われるコンテンツは表示順位を下げることを発表しました。

 チュニック氏は、モザイクをかけた写真が自身のInstagramのフィードには表示されていても、投稿の説明につけた撮影場所などのまったく害のないハッシュタグで検索すると表示されないということから、このポリシーの変更がもたらした影響を実感したと言います。

 個人的なコネがあったチュニック氏は、しばらくの間はSNSのポリシーに従って投稿できていました。友人の兄弟がFacebookに勤務しており、チュニック氏が投稿する前に写真をチェックしてくれる人を紹介してくれたのです。

 フィードバックとしてよく受けたのは、「カメラがレンズの位置が被写体に近すぎるので、もっとズームアウトしたほうがいい」というものでした。

 Facebookに6万5000人、Instagramに11万3000人のフォロワーを持ち、どちらも青いチェックマークの認証バッジ(著名人や企業の公式アカウントという証明)を受けているチュニック氏は、プラットフォーム上で自身のアートを広めたり、次のプロジェクトのモデル募集を呼びかけることができていました。

 しかしながら、Facebookで個人的に投稿のチェックをしてくれていた人がFacebookを退職してしまったため、現在は慎重にぼかしを入れた写真を投稿しているそうです。そしてそのたびに、「これでアカウントが削除されてしまうかもしれない」という不安と戦っていると言います…。

 過度なわいせつ罪の取り締まりと戦う50以上の非営利団体からなる米国検閲反対連合は、これまでSNSプラットフォームとのより良い関係を築いてきました。10年前には、デジタルに関わる権利団体である電子フロンティア財団とともに、YouTubeの利用規約改訂を成功させています。

 2019年4月時点でYouTubeでは、アート的なヌードとは認められないものについて、細かく具体的に次のように定めています

性的満足を意図した露骨なコンテンツ(ポルノなど)は、YouTube で許可されていません。フェティッシュ(フェチ)を含む動画は削除されるか、年齢制限が設けられます

 2018年からこの連合は、世界中で行われた75以上のインスタレーションを通じて社会的・政治的声明を出してきたチュニック氏と、どのようにInstagramとFacebookを納得させるか話し合いを始めています。

 2016年の夏にチュニック氏は、「Everything She Says Means Everything(彼女が言うことすべてがすべてだ)」という作品を、米共和党全国大会が開催されていたクリーブランドで披露し、当時、大統領候補に指名される予定だったドナルド・トランプに抗議しています。このプロジェクトでは、100人の裸の女性が大会会場の近くに集まっています。

 チュニック氏は2019年6月2日に何が行われるかについて、詳細はまだ明かしていません。ですが、こう話します。

 「100人以上の男女が、このアートに参加してくれるでしょう。このアートは『投稿を削除する』という検閲の行方を気にせず、SNSでシェアされることになります」とのこと…。

 そして、続けてこう話しています。

 「私の目標は皆さんに、様々な問題を考えさせる写真を撮影することなのです」と。

From Esquire US
Translation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です。