マスメディアへの批判的視線をアートに
建築と大衆文化研究を元に、1970年代から始めた映像作品で知られるダラ・バーンバウム。映画にとって代わり、大衆文化となったテレビにおける表現を分析し、そこにある消費主義、ジェンダー規範などを批判的に考察しアートにしてきた彼女の作品が、プラダ 青山店の5階に展示されています。
テレビの消費主義
今回展示されるのは、1979 年から 2011 年までの間に制作された4作品。展覧会のポスターにもなっている映像作品「Kiss the Girls: Make Them Cry」は、俳優たちに安っぽいゲームをさせるバラエティ番組『Hollywood Square』を映し出します。これは大河ドラマ『大草原の小さな家』で一世を風靡したメリッサ・ギルバートら、旬を過ぎた俳優たちにバカバカしいゲームをさせることで、栄光が過去になったことをを印象づけ、落ちぶれ、大衆に苦笑される存在として消費するテレビ文化を切り取ったもの。同時に、「大衆が人気者でなくなったスターに求めるもの」にある残酷さをかぎ取ることも可能です。
ジェンダー規範を美化する映像メディアのバイアス
もうひとつの作品「Arabesque」は、19世紀に活躍した作曲家ロベルト・シューマンのピアノ曲、ハ長調Op.18 ”アラベスク”を奏でる少女の映像と同時に、ロベルト・シューマンとクララ・ヴィーク＝シューマン夫婦の人生を美化した映画、キャサリン・ヘプバーンとポール・ヘンリード主演『愛の調べ』（1947 年）を再生します。
近年の研究－－例えばフンボルト大元教授インゲ・シュテファン（Inge Stephan）の著作『Das Schicksal der begabten Frau. Im Schatten beruehmter Maenner（邦題：才女の運命 男たちの名声の陰で）』などに表されているように、当時は優れた女性芸術家が自分の名前で作品を発表できない環境があったことはよく知られています。
この映像は、夫を凌（しの）ぐほどの作曲の才能をもち、天才ピアニストとして名を馳せながら結婚生活と8人もの子の育児によって途中で演奏活動を中断せざるをえなかったクララの艱難（かんなん）が、「夫への献身」というような言葉で見えなくされていったことを改めて思い起こさせるものです。
映像作品が大衆に向けて放たれたとき、どんな罠に陥るのか――。大衆娯楽が映画がテレビに覇権を奪われて時代が過ぎ、テレビの権力がストリーミングサービス に移行する今、非常に興味深いこの「DARA BIRNBAUM」展。訪れたあと、登録したYouTubeチャンネルの見方が変わるかもしれません。
Courtesy of Prada
プラダ 青山店「ダラ バーンバウム」展
会期／2023年6月1日～8月28日
場所／プラダ 青山店5階
住所／東京都港区南青山5-2-6
入場料／無料
時間／午前11時～午後8時（月曜日～日曜日）
●お問い合わせ先
TEL 0120-45-1913
公式サイト
