唯一無二の世界的成功を収めた“ファッションフォトグラファー”
「セリーヌ」「サンローラン」、直近では「ロエベ」のSS24プレコレクションなど数多くのファッションブランドのキャンペーンを撮影。とりわけ1998年から2009年までの「マーク・ジェイコブス」における広告キャンペーンイメージで、世界的に広く認知される写真家となったユルゲン・テラー。そんな彼の、30年に渡る作品を紹介する大規模個展「Juergen Teller ‒ i need to live」が2023年12月16日からパリのグラン・パレにて開幕しています。
1993年、ビョーク親子のごくごく自然な笑顔を引き出した1枚(トップ画像)で、多くの写真ファンのみならず被写体となるセレブリティをも虜にしてきたテラー。多くのファッション写真家の卵たちが真似しようとしてことごとく失敗してきた彼の作風は、非常に緻密に計算されていながらも、まるで自然で無作為に見える唯一無二のもの。彼をさらに稀有な者にしているのは、商業写真と芸術写真の境界を軽やかに飛び超える仕事ぶりです。
育児と仕事を“両立”させる多忙な毎日のなか、ソロ展覧会開幕のタイミングでエスクァイア日本版のインタビューに応じてくれました。アートとビジネスを両立するキャリアはどうして築けたのか? 消費される写真を撮影しながらも、芸術作品としての写真を消費されないように撮り続けるにはどうしたらいいのか? 写真家を目指す人たちにとってひとつのヒントになるかもしれません。
Esquire:あなたの唯一無二の芸術的スタイルは、神の啓示のように突然ひらめいたのでしょうか? それとも長い試行錯誤の末に進化し、たどり着いた結果なのでしょうか?
最初からそうでした。自分の直感に従っていると思いますし、もちろん、何年も働いた結果、より確信を持ち、自信を深め、ますます強化されました。
Esquire:あなたの写真には、非常に正直で率直である印象があります。その一方で、現代のメディアはしばしば「望ましいイメージ」を得るために広範な写真の編集や調整を要求します。写真家による写真を通じて、「嘘」をつくり出すメディアに対して不満があれば教えてください。
写真は常に主観的です。私は自分のイメージと制作したイメージを非常にコントロールし、何らかの形で変更が加えられないように努めています。現代のクライアントのリタッチ要求は、理解を超えることがよくあります。私は常に建設的な対話をし、できるだけイメージを統制するようにしています。
Esquire:AIによって生成されたイメージに脅威を感じますか? もし感じるなら、その理由を教えてください。
人類にとってAIは非常に脅威でしょうし、これは私たち全員にとって大変大きな問題だと私は考えています。ですが、私の仕事の範疇で言えば、あまりそれについて考えないようにしています。
Esquire:ファッションイメージに携わる若者へのアドバイスをお願いします。デジタルプラットフォームで広く消費される写真を一貫して制作している場合、写真家としてメディアに飲み込まれないようにするためには、何を優先し、守るべきでしょうか?
正直、わかりません。個々人で異なるため、ある人にとって良いことは別の人にとっては全く異なる結果になると思うのです。だからこそ、自分の仕事のために、どのアウトレット(媒体など出し先)をどのように使用するか、そしてそれを非常に注意深く選択する必要があります
Esquire:ファッションフォトグラファーを志す学生からの質問:教師から「フォトグラファーになるためには、あらゆる映画や音楽含めカルチャー全体を勉強する必要があります」と言われました。正直文学など、写真とは関係ないと思ってしまいます。本当に文学を学ぶ必要があるのでしょうか? もしそうなら、理由を教えてください。
あなたの先生は非常に賢く、完全に正しいと思います。写真家は人生を謳歌しなければなりません。ライフ[暮らし]の中のあらゆる経験から学び、身につけ、仕事に取り入れなければなりません。アイデアのないファッションフォトグラファーなど意味を成しませんので。
最後に「愚問だと思えば、答えなくてけっこうです」と断ったうえで、5つの短い質問をぶつけてみました。すると彼は、ユーモアを感じさせる回答をくれました。
ユルゲン・テラーへの5つの小さな質問
Q: 60年の人生を表す形容詞を3つ教えてください。
Tasty, difficult and profound. (おいしい、むずかしい、奥深い)。
Q: 過去30年間の仕事を表す3つの副詞を教えてください。
Personal, direct.(個人的、直接的)
Q: 展覧会「Juergen Teller – i need to live」を表す3つの名詞を共有してもらえますか?
Wood, pink, Eifel Tower.(木、ピンク、エッフェル塔)
Q: すでに撮影したことのある人を除き、2024年に最も撮影したいと思う人は誰ですか?
Pope Francis(ローマ教皇・フランシスコ)
Q: もし写真家でなかったら現在、今ごろ何をして生計を立てていると思いますか?
A taxi driver in Tokyo(東京のタクシー運転手)
Juergen Teller – i need to live
会期:~ 2024年1月9日まで
会場:グラン・パレ・エフェメール(Grand Palais Éphémère)
住所:Place Joffre, 75007 Paris, France
ユルゲン・テラー(Juergen Teller):1964年にエアランゲン(Erlangen)で⽣まれ。ミュンヘンのバイエルン国⽴写真学校(Bayerische Staatslehranstalt für Photographie)で学ぶ。『Vogue』『System』『i-D』『POP』『Arena Homme+』などで掲載され、2003年に権威あるCitibank Photography Prizeを受賞。2014年から2019年まで、ニュルンベルク芸術アカデミー(Akademie der Bildenden Künste Nürnberg)で教授職を務めた。