「●●が▽億で落札」。大手メディアですら芸術を価格で報じることや投資目的で語ることに恥じらいがなくなったように見える日本で、待望の国際アートフェア「Tokyo Gendai」が開催されます。アートバブルがそろそろ終焉を迎えようとしている今、商業的・換金的価値ではない「アートの本質的価値」とは何かをディーラー、コレクターの方々に問う本企画。コレクターとして著名な企業家でもあり投資家でもある竹内真氏のもとを訪れました。

竹内真(Takeuchi, Shin)/アートコレクター

大手IT系開発会社に就職後、エンジニアとして官公庁や大手通信会社向けシステム開発に従事。その後、株式会社リクルートの全社共通基盤フレームワーク開発に携わった後、株式会社レイハウオリを創業。その後、株式会社ビズリーチの創業準備期に参画し、取締役CTOに就任。グループ経営体制への移行に伴い、現在はビジョナル株式会社取締役CTOに就任。また、一般社団法人日本CTO協会理事も務める。2023年9月、自身のコレクション展開催を決定。

聞き手・今井麻里絵(Imai, Marie)/Blum&Poe 東京 ディレクター

慶應義塾大学を卒業後、ロンドン大学パリ研究所で近代以降の都市にまつわる歴史を横断的に学ぶ。帰国後、国内ギャラリー勤務を経て、2014年、「ブラム&ポー」に参加。同ギャラリーは開廊当時から日本人作家たちと協働してきた歴史を持ち、「太陽へのレクイエム: もの派の美術」「パレルゴン」といった美術館レベルのグループ展をはじめとする多くの展覧会企画を通じて日本の作家たちを西海岸で紹介してきた。 

tokyo gendai 竹内真
Michika Mochizuki
竹内真氏

1.アート、そのプライス以外の価値

今井:商業的・換金可能な価値とは異なる、アートが持つ様々な価値や魅力について竹内さんがどうお考えになっているかを教えていただけますか? コレクターとして作品を収集したり作家と出会ったりという中で感じているものがあるとお見受けするのですが。

竹内:この質問は僕もよく聞かれるのでよくよく考えるのですが…いっぱいある。

たくさんあって全て意味合いが異なる感じがします。 すごく簡単なところで言えば、アートは旅の目的もしくは旅の理由になります。たとえば家族で夏に旅行をしようと言っても毎回ビーチ、毎回町歩きだと退屈になりませんか? もちろんリゾートバカンスがリフレッシュになっていい人もいるでしょうが、知的に何か掻き立てられる旅をしたい人たちもたくさんいる。

そんな人たちにとって「あの絵を見に行こうよ」「あの美術館に行ってみたい」は大きな目的になりますし、満足感も高まるのではないでしょうか。仕事をしながら亡くなっていく人生もあるでしょうが、たいていの場合リタイアする日がきます。そんなとき、出かける理由はあったほうが幸せだと思います。 2つ目は、「タグ」がついていないものの良さがわかるようになる。そして、センスは育てられるということに気づくことができるということです。僕が日常的に使っている言葉の中に「金でセンスは買えない」というものがあるのですが…。

今井:激しく同意します(笑)美意識やセンスは培うものですよね。  

だからこそアートの「筋トレ」が必要

竹内:大体のケースにおいて「大富豪の豪邸紹介!」などと銘打たれて出てくる家ってセンスないじゃないですか(笑)。センスはお金があっても買えないから、お金をもっている人が何にすがるかといえば「タグ」なのです。

名のあるもの、明らかに誰もが高いと知っているもの、ブランド名だったり、有名な人だったり…。洋服も家具も建築も、ブランドものや有名な建築家で固められるからおかしなことになる。その人がどうなりたいかに大きく左右されますが、自分にとって本当に美しいと思えるもの、本当に素敵なものを探そうとすれば、タグが付いているものであるかどうかは結果であって、タグ付きのものではない可能性も高いとわかってくると思うわけです。

それを培おうと思った時に、アートを買うことをおすすめしたいです。最初は分からなくていい。でも、多くの人がいいと言う物を買ったとしても、家に飾るじゃないですか。飾って毎日見ていると、「なんかこの作品あんまりよくないよね」とか「ここがいいな」ということが分かってくるのです。それが「目が肥える」ということなのかなと。ずっと見続けるからこそわかってくることがあります。 

今井:筋トレみたいですね。
 
竹内:
たしかに筋トレと似ていると思います。アートフェアに行き続けてもアートの筋肉はつくし、自分の家に飾ってもつくし、特に同じ視界に二つの作品を併存させて比べるとすごく見えてくる。最初分からなくても毎日2つを見比べていると「なんかこっち要らなくない?」と感じるようになり、だんだん単品でも評価ができるようになっていく。

なので、もしアートを買う余裕がある方々は、ベタな言い方ですが「自分磨き」のためにも一つ買うところから始めれば、お年を召された時に本当の意味でかっこいい人になれるのではないかなと。アートの筋トレには限界がないですからね。

また、美しいとは何か、ユニークネスは何たるかということを体得できることもアートの力です。AIによる作品の話もありますが、基本的には作っているのは人間。アートと作家との繋がりも見えてくると、その美しさとユニークネス、もっといえば、その人だからこそ生み出せた理由が分かってくるので、特にビジネスをやっている人間として言えば、「人の目利き力」もどんどん上がると思います。ユニークなものを作れる人はある種の特別なもの、作品の完成に至るまでの人生で、何をしてきてどう見てきたのかといった過程の影響があるじゃないですか。

今井:アートは作家たちの幅広い思考のもと生まれる表現ですからね。

竹内:決められた仕組みを決められた通りにやれる。そういう意味で優秀な人たちは日本にすごくたくさんいます。教育においてそういう人を生み出すための学習体系をとっているせいもあるでしょう。だから大きな会社であっても新しいユニークな何かを生み出せる人がほとんどいなくなる。すると誰が次の新しいビジネスを作れる人間かを見極めて新しく雇うための「目」が育たない。ユニークな人を仲間にしようとしても、何かに似ているとか、何かと合成するような思考しかないから、彼らの何が必要なのか言語化できず、説得できないまま失敗する。

アートも、ビジネスも、スタートアップも新しい仕組みを作る時は、クリエイティブなものが必ずある。クリエイティブとは、人間が「何かいい」「ちょっと不便」と感じるわずかな「境目」のようなものに手足をひっかけてそこを登るような行為だと思います。決められたことをやっている人にはそこは登れないのです。曖昧で言語化できない部分だけれど、なかなか他の人にはできない領域みたいなところは、アートを多く見ているとより遭遇する感じがします。

ビジネスとアートはいちばん離れたところにあるものだと思うのです。僕は新しいものを作ってそこにビジネスを成立させてきたので、ビジネスのことは息を吸うように実践方法が手に入ってしまう。でもアートの世界では今何が新しくて、どこでどんなものを見ていくべきなのかは自分で(情報を)取りに行かないと、急にはアップデートされません。

それはアートを主軸におくと色々な国に行くしいろいろな国に行くとまた違うものも手に入るし、色々な国の人と話すとまたその当たり前が違うから壊れるし、アートを中心にすると全ての思考が手に入る気がします。

今井:私もなぜ美術の仕事を選んだのかといえば、アートは人間にまつわるあらゆる様相や物事をカバーしているから。社会についてだったり、自分の知らない国や文化背景だったり、あるいは、人種やジェンダーだったり…。こんなに何でも包含し、知るきっかけとなる媒体はないな、と。 
 
竹内:
一番対等もしくは近いところにあるのは建築ですかね。
 
今井:
そうですね。建築も社会や人間との関係から生まれますものね。思うのですが、アーティストから何らかのクリエイティビティを学ぶ感覚は、私たちが大谷翔平選手を見て何か生き方を学ぶのともちょっと似ているかもしれません。何か超人的な能力を持つ人への憧れや、そういう人の考え方、パフォーマンス、表現が多くの人を鼓舞するというか。
 
竹内:
そうですね。前人未到なことをしている人はすべてアーティストですからね。

tokyo gendai 
Michika Mochizuki

2.ビジネスの世界からアートにたどり着くまで

今井:竹内さんがそんな境地にたどり着くまでのプロセス、コレクターとしてのプロフィールをお聞かせ願えればと思います。スタートは何だったのでしょうか?

竹内:いわゆる国際的市場に乗るような絵画でいえば、2017年に本当にふと「家に絵画がほしい」と思ったところからです。知っているものは少ないので、モネがいいかな、モネはどこで買えるだろうみたいな(笑)。どこで売っているのか検索するところから始めました。するとオークションの結果ばかりが出て来る。「なんだ、絵はオークションで買うんだ」と、あまり疑問も持たず、最初はそんなところからのスタートでしたね。しかし「モネってこんな高いの⁉」と驚きました。
 
今井:サザビーズとかクリスティーズなどのセカンダリー(作家の作品を最初に販売する一次市場とは異なり、一度売買された作品が販売される二次市場)のオークションでご覧になったということですね。

竹内:
高くて困った。そしてもっと安いのはないのかなと探していたら、少し先に開催されるオークションでモネの素描が出ていたのです。下が100万円ぐらいだったかな。巨匠が書いたそのペンシル画みたいなものもいいよねと。そこで初めてインターネットオークションに参戦する訳です。結局200万円ぐらいだったらエスティメートが700万円ぐらいになりました。
 
今井:結構上がりましたね。

竹内:
そこではモネの素描が3枚出ていたのですが3枚とも買えませんでした。予算の問題ではなく、200万円で買うつもりだったものを700万円で買っていいものなのかどうかの知識がなかったからです。「またどこかで出てくるのかな」としばらく様子を見ていたのでが、待てど暮らせどモネの素描は出てこない。あそこで買わなかったから、もうチャンスないのだと感じました。

でもそこで諦めず、モネが買えないなら、他には何があるかなとリザルト(オークションの落札結果)を見ていたら、ピカソはそれほど高くないと気づきました。僕が見たのはセラミックとか版画だったからなのですが、安かった。モネにそういうものはないのですが、ピカソは大量にありますよね。そうしてロンドンのフィリップス(=オークション会社。フィリップス・オークショニアズ)だったと思いますが、オンラインオークションで100万円くらいのピカソが買えました。でも、そもそもなんでピカソは安く買えるのか、何もよくわかっていませんでした(笑)。買ったあとに、「あの作品は一体何だったんだろう」って調べたら、「エッチング」と書いてある。エッチングってなんだろう?と。エッチングは「銅版画」なのだとそういうこともよくわからず、しかしナンバリングされていてサインが入っていて、なんとなくそういう商品価値があることは理解できました。そこからですね。オークションハウスとのやりとりが始まったのは。

$70 million basquiat artwork unveiled in london
Kate Green//Getty Images
2022年フィリップスのオークション会場の様子。写っているのはバスキアの作品。

今井:カテゴリもよく分からないまま、とにかく作品を買ったという経験をされたわけですね。

竹内:
本当にいいものを買うことは素晴らしいことですが、資金の限界もある中で、出だしで本当に欲しいものは永遠に買えないような気がした。だからなんかこう、とりあえず名画を家に飾ってみたら何か始まるのではないか。そういう漠然とした形でも一歩踏み出すことで何か見えるのではないかと思いました。ゼロとイチはまったく違うと思っているので。

今井:竹内さんが初めて感動した芸術は覚えていますか? 原体験的なものはあるのでしょうか?

竹内:えー…ないですね。見てこなかったのです。僕の場合はビジネスで稼ぐというアートとはまったく違う方向に100パーセント振り切って生きていたので…。でもそれだけだと何のためにビジネスをしているのか分からなくなるのです。利益を追求していくことでビジネスもうまくいくことが分かり、ビジネスによってお金を稼ぐことができますが、「ああ、それで死ぬんだ」と…。自分で決めてやったことなのでむなしいとは思わないのだけれども、多分これは人間としての喜びとか、一般的な「人間の人生」とは違う。

じゃあみんなが喜びとしている心の豊かさ、幸せとはなんだろうという興味がでてきました。幸せもあんまり必要ないとは思いながら、でもそういう経験しないとな、首を突っ込んでみたら分かるかな…と。

なぜそれを知らなければいけないと思ったかと言えば、それを知らないとビジネスに限界がくるからです。

幸せだったり喜びだったり素敵なことも、最初から最後まで商売人のテーマからスタートしています。儲かるビジネスの仕組みはみんながやりたがる。つまり永続的なものということ。そこに素敵なものが乗っかればもっといいものになる。「なんだか素敵なもの」を永続させたいからビジネスをしているのかもしれません。

ブラムアンドポー marie imai
Michika Mochizuki
今井麻里絵氏

3.日本のアート市場

竹内:オークションは行きたいときに行けますが、プライマリギャラリー(所属作家を持ち、彼らの作品を最初に扱うギャラリー)になるといまだに紹介がないと入りづらいですよね。

今井:実際はそんなことはありません。ですが、マーケットでのアートの購入経路を調べるとまだまだ百貨店が大きな位置を占めています。現代美術だけで見るとまた状況は違うのですが。ギャラリー、オークション、そして作家からの直接購入があって、その中でもいわゆる現代美術のプライマリのギャラリーへのハードルは確かに少し高いと思います。そういう意味でも「Tokyo Gendai」という国際的なフェアが開催されることで、ギャラリーの販売担当者と直接会えるきっかけができるのでそこはすごくメリットかなと思いますね。元々は「アートフェア東京」もあったわけですが…。ちなみにフェアにはいつくらいから行かれていますか?

竹内:2018年からです。その年に「アートフェア東京」や勉強会とかがあったので、そこでアート・バーゼルをやることを聞いて、バーゼルのバーゼルに行きました。
 
今井:スイス・バーゼルで開催されるアート・バーゼルですね。トップ・オブ・ザ・トップのフェア。海外のギャラリーとの関係性も構築していったのですか?

竹内:仲良くなるギャラリーとさらっとした付き合いのそれに大きく分かれますよね。ビジネスとして扱われている方と趣味・プライベート向けにやられている方と完全に分かれている世界じゃないですか。(投機的な目的で)高くなるものを買おうと思ったら仕事みたいな感じで接せられるのですけれど、僕はアートを仕事として捉えたくない。そうするとやっぱり考え方が近いギャラリーの方と話をしたい。プライベートなので至極当たり前。考えが異なるギャラリーだと、そこが代理を務める作家さんの中にすごく好きな人がいても残念だけれど見ないようにします。

今井:場合によっては、オークションで買えますしね。

竹内:しんどい思いまでして買うのは嫌(笑)

今井:本当におっしゃる通り、ギャラリーとコレクターとの関係は密です。信頼関係の上で成り立っているビジネスなので。我々プライマリーギャラリーは、ただコモデティとして「モノ」を販売するのではなく、作家から大事な作品をお預かりしている身。体系的なコレクションをお持ちだったり、寄託や寄贈、展覧会での作品貸出など、作品をよりパブリックな場で見せていただけたりするチャンスを作ってくださる、サポートしていただけるといった、その作品が次のステージに行くような可能性を与えてくださるコレクターさんにお売りするのが理想です。

art basel 2023 press preview
David M. Benett//Getty Images
2023年6月に開催されたスイス・バーゼルでの「アート・バーゼル」会場のひとコマ

今井:ここまで個人的な視点で経験からお話いただきました。もう少し大きな枠で見た時に収集を始めてからのこの5年間で、アートワールドや、周辺のコレクターさんたちを見ていて感じた変化があれば教えていただけますか。 

竹内:例えば近代アート・現代アートという世界とは別にパラレルで走ってきた世界があります。日本ではそのいわゆる日本語での「日本画・洋画」みたいな世界があって、そこは百貨店が扱っている。百貨店では売っているけれどもグローバルマーケットには一切出てこないというものがある…。だんだんそういうことが分かってくるじゃないですか。その現代アートマーケットのなかで、日本の中だけで評価されたり、日本の中だけで値がついたりするということは、いつの時代でも作られてきた。

今井:
ガラパゴス化ということですね。

tokyo gendai art tokyo gendai
Michika Mochizuki
取材場所となった竹内さん所有のレストラン「ISSEI YUASA」には、至るところに芸術作品が配置されている。

竹内:日本の中だけで過熱化していて、世界全体から見るとすごく不思議に見える領域。多分誰かが着火しているのだと思うし、おそらく日本というガラパゴスの世界の中で一時的な、投機的な動きを醸し出しやすい国民性もそこにはある。でも俯瞰して見た時にその作品は果たしてグローバルのアートシーンで評価されるのかなと。そもそもその作品やアーティストのクオリティみたいなものが高いのかといえば…一部、日本と世界どちらでも評価されているものもあると思いますけど、まったくそうじゃなくてただ国内で加熱しているだけというのもあったりするので、正直日本のなかでアートを買おうと大きな枠で見ると、なんとなくそこは虚構の世界のような気がしています。
 
ガラパゴスな世界と世界に開かれているマーケットが2個あって同居しているように見えるのでまあ大変知識のいる世界だなと思います。日本においては。ヨーロッパでもアメリカでもそういうローカルマーケットってない気がするのですが…。
 
今井:
なくはないと思うのですが、結局欧米のマーケットがグローバルスタンダードとしてプレセンスがすでにあるので多分何がメインストリームなのか皆さん情報として入りやすいというか。ただ、欧米のそれはいいことでも悪いことでもあるような気がしています。精選されやすいと同時に、ヴァナキューラーでローカルな文化やマーケットの存在があまりないという意味で。おそらく日本で活動する作家たち (特に若手) にとっては、彼らにとって露出の機会だったり、販売する場だったりがここ数年の国内アートマーケットの高まりで圧倒的に増えてきた気がします。国内のアート界について、ポジティブな点としては何か感じられるものはあると思いますか?

竹内:
世界的に見ても、コロナでやっぱりあらゆる国がすごくお金を刷って発行して金余りになり、でも何を持っていたら安心か分からないみたいな。株式は乱高下するし、安全性の高いものが金融商品としてあまり見当たらなくなってきた。今あるお金が行き場を失っている。今、金(きん)がすごい高値になっていますが、お金の流れ全体が現物に逃げた印象があります。 

企業がアートを資産として買うことに対するネガティブなものが日本にはある気がしています

竹内:お金を持っている方々もポートフォリオを見始めている。「スタンダード・アンド・プアーズ(の商品)買っておけばいい」みたいな単純なものではなくて、そういった金融商品もあれば、債券もあれば、金みたいなものがあれば不動産もあって、そしてアートもあるよねという時代に入ってきた感じはあります。

そういう人たちで、アートをはねて高値で売り抜けたいと考えている人はあまりいないと思います。「日本の低金利で、銀行に定期預金しているよりはきっといいでしょう」という感じ。現金のアセットを変えているのです。その変え先がより自分を豊かにしてくれるのであればより良いよねという雰囲気。そういう世界観は周りにすごく広がった気がします。そこからすごく勉強されている方もいれば、「これなんかかっこいいな」くらいのノリで買っている人もいる。後者の場合、保険として、フェアや多少なりとも知られている名前のギャラリーだったり、そういうある程度価格が形成されていて、すごく失敗することがなさそうなところで作品購入を狙っている気がします。
 
今井:
アメリカなどの国であれば、富裕層向けのプライベートバンキングのアドバイザリーとして資産のポートフォリオにアートを入れることは、元々あったと思うのですが、そういう感覚が日本でもじわじわと浸透してきた雰囲気はありますか?

竹内:
おっしゃることは分かるのですが、日本ではそれは多分まだないに等しい。日本は結局バブルの頃にそういうアートシーンのポートフォリオはもうマックスを迎えました。その時に崩壊して、今も値がついてないような当時のアート作品を銀行はまだ売れずに持っているのです。

今井:
不良債権ですね。
 
竹内:
まさしく「超不良債権」が大量にある。それ故に企業がアートを資産として買うことに対するネガティブなものが日本にはある気がしています。
 
今井:
税制の話は近年割と盛んに議論されていますね。例えば、100万円まで美術作品の減価償却が可能となる税制優遇がありますが、個人レベルでは得する方も増えている、買う人が増えているような感覚はありますか?

竹内:あまりないですね。100万円までの減価償却も、個人での購入だったとしてもあれは通用しないでしょう。
 
今井:
例えば、国際的なフェアに行っても100万円以下で買える美術作品はそこまで多くはない印象です。

竹内:
日本の若手アーティストなどであれば可能かと思いますけど。海外のアーティストでたとえ100万円以下があったとしても、輸送費の方が高くなるのでほとんどメリットはないでしょうね。

art collector
Michika Mochizuki

今井:輸送コストという点に関していえば 「Tokyo Gendai」のようなインターナショナルなアートフェアが東京にやってくることは待望していました。特に、日本には実際作品を見てから買いたい人は多いですし、国内で買えばあまり輸送費がかからない。

竹内:ないよりはあった方がいいですよね。これまで海外から買ってきた人は期待していますよね。今はとくに輸送費が高いですから。

今井:そういう意味でも国内で新しいフェアが開催されることは皆さん楽しみにされていますね。

竹内:ただ、為替が冷や水になっていて…。もう少し為替が下がってくれたらね。

tokyo gendai
Tokyo Gendai

日本で初めて保税資格を取得した世界水準のアートフェア
「Tokyo Gendai」

2020年12月、2021年2月の関税法基本通達一部改正により、保税地域でのアートフェアなどの実施が可能となったことを受け、Tokyo Gendai は開催会場全体を保税地域として使用する許可を横浜税関より取得。フェア開催期間の2023年7月6日(木)~9日(日)は、会場であるパシフィコ横浜が保税展示場となるため、海外からの出展者は関税等を留保した形で美術品を持ち込み、展示すること可能に。これは、海外ギャラリー及び関係者の日本市場参入障壁の大幅な改善につながり、美術品取引における大きな機会創出となるとみられている。