アートバブルがはじけようとしている今、「真のアートの価値とは何か」を賢者に訊(き)く短期連載。2人目は、古美術・日本美術を扱う京都「思文閣」社長、田中大氏。同社取締役・丸山容子氏も交え、日本美術の海外における価値を高めるべく新しい挑戦をしてきたのはなぜか? 日本美術の取引を通じて見つめてきた芸術の「価値」を訊(たず)ねました。

田中 大(Tanaka, Dai)/思文閣代表取締役社長

古文書を扱う京都の書肆(書店)を祖にもつ、昭和12年創業の古美術商「思文閣」3代目。古美術の枠を超え、現代美術も扱うと同時に海外の著名なアートフェアに出展するなど、日本の美術を海外に売り込む活動、および作家の支援も積極的に行う。2023年の「Tokyo Gendai」にも出展。テレビ番組にて、真贋鑑定をする姿がお茶の間でも有名。『和の美 2023夏』の発刊に合わせ、京都本社にて2023年7月10日-7月16日まで「和の美」展を開催する。

聴き手・今井麻里絵(Imai, Marie)/Blum&Poe東京ディレクター

慶應義塾大学を卒業後、ロンドン大学パリ研究所で近代以降の都市にまつわる歴史を横断的に学ぶ。帰国後、国内ギャラリー勤務を経て、2014年「Blum&Poe(ブラム&ポー)」に参加。同ギャラリーは開廊当時から日本人作家たちと協働してきた歴史をもち、「太陽へのレクイエム: もの派の美術」「パレルゴン」といった美術館レベルのグループ展をはじめとする多くの展覧会企画を通じて、日本の作家たちを西海岸で紹介してきた。 

思文閣 田中大
Michika Mochizuki
田中大 氏。京都の思文閣にて。

1. 真贋鑑定の目を通した”本当の”美術の価値

今井麻里絵氏(以下、今井)美術の多様な価値の中にプライスによって伝えられる商業的価値もありますが、取引されている側にいる方として、アートの価値をどのように考えられているでしょうか?

田中大氏(以下、田中):とても難しいですね。まずは「予測できる価値」があります。数値化しやすい価値と言い換えられるかもしれませんが、ある作品に対して、作家性-誰が描いたのか、古代性―歴史的な価値、希少性―数の少なさ、芸術性―例えば、展覧会に出品された履歴がある、などによって価格が変動します。

もう一方で、数値化しにくい「価値」があります。お客さんに訊かれたことがあるのですが…。「古美術でも日本画でも、美術の価格はなんの価値で決まるんや」「同じ作家でも値段が全く違う。ある程度の計算もできない」…と。

僕らにもはっきり言ってわからないのです。ただ言えるのは、実際作品自体を観て、力があると思えるものはあります。観るだけで、「すごいな」と感動できるものは確実にあるのです。純粋に思うことを言えば、「心が動くかどうか」が価値なのです。

ですが、美術は「欲」と二人連れのような側面があります。欲望がない人は、おそらく美術への興味もわかないでしょう。さらに言えば、観ているだけではなかなかわかりません。それを買い、所有するとわかることが多くあります。僕らも売り買いして、損して得する中で学習することがたくさんあるのです。「なぜ本物か偽物かわかるんですか?」とよく訊かれますが、それは身銭を切っているからです。コレクターの方たちも自分で買っているから主体性をもって美術に臨むことができ、価格に妥当性があるかどうかも学んでいくのだと思います。

地位や名誉、富、人間同士の愛憎といったものにも通じる独占欲・所有欲をもちながら、対象とする芸術作品自体はその欲と最もかけ離れたところにある存在。つまり、美術品の後ろで「聖」と「俗」が交錯するということです。  

今井:アンビバレントですね(笑)

「芸術作品自体は欲と最もかけ離れたところにある存在」

田中:でも今現在で言えば、少し変わってきているのではないでしょうか。「そんなことどうでもいいのでは?」と。「欲望を隠すことなんてないじゃないか」という風な傾向が見られます。だから、そういう人たちに向けた「アート」が出てきたように思えます。「流行りだから」「これは先々高くなるから」といった投機的意味合いがアートに入りこんできた。もちろん昔も、「ひょっとしたらこれは高くなるのでは?」と、うすうす思っていることはありました。でも、それは隠していたのです。それを出したら「聖」なる自分になれないから。そういったジレンマがあったのです。以前は、あからさまに欲を出したくないという建前がありましたが、今はどんどんなくなってきている気もします。

今井:ある意味、とても資本主義的と言えるかもしれません。

田中:アート作品自体が、グローバリゼーションとキャピタリズムのうねりの中で、道具として利用されている気がします。そのため売り買いのスピードも速くなり、トレンドの浮き沈みも早くなり、言ってしまえばファッション的な「美術の価値づけ」が行われている雰囲気があります。 

思文閣 田中大 京都
Michika Mochizuki
思文閣にて

今井:美術作品を商品として売る以上、そのエコシステムには抗えません。マーケットへの反応は必要ですので。それでもなお、「そうではない」という気持ちがあるからこそ、長期的視点で出版活動やアーティストレジデンシー(芸術家たちの創作の場やハブとなる場の提供)などのプロジェクトを行われているのだと思います。その気持ちとビジネスとの狭間で、ブレないためにどんな理念をお持ちなのですか?

田中:「心揺さぶられる」ということです。最近は作品を観て、「面白いね」という感想をよく聴きます。ですが、「面白い」だけでは取り扱いたくないのです。

今井:日本語の「面白い」はまた難しい言葉で、英語の「interesting」とはちょっとニュアンスが違いますよね。

田中:「面白い」とは、ウケているということです。でもそれは、作品に力があって、このままずっと観ていたいと思っているのとは違うと思うのです。どういう過程で作られたのかを知ったうえでそれが面白いということは、「コンセプチュアルである」と言えるとは思うのですが、僕らはそれだけでは満足しません。そのうえで、最終的に作品自体に力があるのか? それを基準に購入する作品を選んでいます。それしかできないのです。作品ありきですから。そういう意味で僕らは、もう古いのかもしれません。

今井:そんなことはないと思います。自分が感動したかどうかを基準にすると、結局のところブレないですよね。たとえ1000万で購入して、500万円に価値が下がっても、所有する自分にとっての価値は損なわれないですし。

田中:わかります。とは言え、僕が仕事をはじめたのは平成元年(1989年)ですが、そのときはバブル景気。それがはじけて、ずっとデフレ基調に入っていくのを実感した中、ある程度毒されていると思うのですが、僕も「心を豊かにしてくれる作品が良いんですよ」と言っておきながら、高いとその作品が良いものに見えてしまうのです。価格に心が支配されるということはあります。

今井:そうですか! 人間のマインドは「面白い」ですね。

田中:それくらい「価値」とは難しいもの。「欲」が絡んだものが美しい形で表に出てくる。非生産的なもののほうがかっこいいのだけれども、生産的なものも求めている。うまく言えないですが、そういったものが常に作品には付きまといます。

この記事の目的は、「値段以外のアートの価値が何なのか」ということだったと思います。でも、値段が先に出てくる、金額ばかりが話題になる現象は否定できないものです。昔からそうだったのですから…。ただ、表に出てくる割合が変わってきただけ。欲に対して、恥じらいのようなものが弱くなっただけでしょうね。 

思文閣 田中大 代表取締役社長
Michika Mochizuki
左から思文閣取締役・丸山容子氏、田中大氏、今井麻里絵氏

2.京都の古美術商が世界のアートフェアに赴く理由

今井:田中さんは日本美術を取り扱われながら、海外のアートフェアにもずいぶん前から行かれていますね。それはどういった理由からでしょうか? 

田中:「日本のものを、世界に持っていきたい」と若い頃から思っていました。最初は15年前、ロシアのクレムリンのフェアだったと思います。そこで言語をはじめとする壁を感じ、今の(海外に出品する)体制をつくるのに10余年かかりました。それは、古いものばかりを基本的に扱っていましたが、だんだんと古いものの真贋を見極める目をもって新しくつくり出された芸術作品を観ることが楽しくなってきたからです。

今井:それを出発点に、アート・バーゼルやTEFAF(The European Fine Art Fair)に行かれるようになったのですね。

田中:そこでもまた、いかに日本の美術商業界と世界のそれが違うのかを痛感しました。「こんな世界があるのか」と衝撃を受け、ぜひこういった場所に日本の美術を持っていけたら…と感じたのです。

今井:(オランダ南東端部の都市)マーストリヒトのTEFAFにも出展してらっしゃいますよね。 バーゼルとはまた異なるアート界のトップヒエラルキーが集まる場所でもあり、上流階級の人々も集まります。来客者の反応で感じたことはありましたか?

田中:2022年OGATA Parisでの展覧会に続き、今年のTEFAFでは日本画をプレゼンテーションしました。そこで感じたのは、「もの」自体の魅力に対しての素直な反応です。誰が描いたとか、どういう作家だとかは知らずとも、良いものに反応する目利き力を感じました。そして、投機的な目的で買いに来る人が全くと言っていいほどいない。「ずっと飾って大切にしたい」という感覚でやって来ている。他のフェアのお客さんと若干違う点です。でも、たくさん売れるわけではないのです。みんなシブい(笑)

丸山:きちんと(日本の美術を)勉強してから購入したい、という方が多かったです。

art basel 2023 day four
David M. Benett//Getty Images
2023年アート・バーゼルにて。見本市会場メッセ・バーゼルの一部。

今井:アートというトレンドが現在、バブル景気のようになっています。私は1980年代半ばに生まれ90年代のバブルを体験していませんし、この業界に入って10年ほどしか経っていないので、ある意味今の現象が初めて経験するアートバブルとも言えます。おそらく世の中の人も情報が手に入るようになり、美術への興味が大きくなっている。この変化を見て、考察されていることはありますか? 

田中:昔は、美術品の価格は非常にクローズドなものでした。限られた人のための、秘匿される財産であったものが、そうではなくなってきている。オークションレコードはほとんど全てインターネット上でみられますし、オンラインでの美術品取引も活発になり、どんどんオープンな世界になっています。コレクターの世代が変わったことも一因していると思いますが、買い方や美術品に対する考え方も変化してきているように感じます。

今井:そういった購入サイドの変化の一方で、逆に売る側、画商として変化はどう感じてらっしゃいますか? 買う人が増えたりすると、多少の変化はあるかと思うのですが。

田中:国内では、買う人が増えた感じは正直あまりないです。近代美術や古美術に関して言えば、どちらかと言えば減っているのではないでしょうか。ただ、海外からのお客さんは増えましたね。僕らは、コンテンポラリーアートでもすぐに売れるようなものはあまり扱っていません。コンセプトは古いものでも、力のあるものを追いかけようという姿勢です。現代か古いものかは関係ない。ただ古いものはどんどん数が限られています。新しい発見はあまりない。美術館に入っているものも多いですし。それだけを考えてやっていると、数の問題で成立しなくなりました。

一般的に「近代日本画」というと、明治以降を指します。でも世代が変わり、明治時代はもはや「近代」ではなくなろうとしている。もう古い。大正でも古い。「近代」が「戦後」を指すようになってきている。だから明治・大正のものは新しさもないし、古美術としての十分な古さもあるかと言えばそうでもない。いまちょうど狭間にいる。

今井:時代が変わって、カテゴリーをアップデートする必要が出てきたということですね。思文閣さんは本を出版されたり、キュレーターを招いて新しい試みをしたり、どうエデュケーションを進めていくか、アーカイブしていくかに尽力されている。日本で新しいエコシステムを形成しようとしていらっしゃるようにお見受けします。

田中:僕らが若いときは、日本画で言えば作家が「文化勲章を取りました」とか「芸術院会員になりました」となると値段が上がる。わかりやすかった。ある意味、国が価値づけしてくれていたのです。

でも、コンテンポラリーアートにはそういうものがない。では、誰が価値を決めるのか…となったときに、優秀なキュレーター、つまり価値を解説してくれる人物が必要であると気づいたのですが、 キュレーターが直面する現実は、恵まれているとは言い難い。ならば、応援したいと思ったのです。僕らも勉強したかったですし。

「若い人は自分の生活を豊かにするためにアートを買うようになった」

今井:例えばですが、私はいま骨董に興味があって、とにかくまずは自分の予算の範疇でよく吟味し、見る眼の筋トレをしていくと同時に購入することの重要性を感じています。

田中:最近、そういう若い人が増えていますね。自分の生活を少しでも充実させていくために、お金を払う人が多くなっている実感があります。僕らの時代はそうではなかったですから。車、時計・・・わかりやすかった。自分自身の生活なんてどうでもいい、他人からどう見られるかしか考えていませんでしたから。いまは「生活の豊かさ」みたいなものを重視した人が多いのではないですか。

丸山:私たちの時代は、みんなで同じものを追いかけていましたけれど、今は個人の豊かさを大事にしていて「大人だな」と思います。

田中:作品自体も変わってきています。求められるものも変わっています。昔の人が求めるものといったら、評価の定まった大家や著名人の作品など、いわゆる「名前」を買う傾向が強かった。でも今は、自分の範囲の中で自分がどう生きたいか…そこに必要なもの対して、価値を見出している人が多い気がします。

丸山:その人の価値観でものを選んでいますよね。

田中:それがアートにも活きています。

今井:それこそ、「個人の感覚が活きる存在である」という芸術の本来性だと思います。そんな若い人たちの価値観とアートというのは、しっくりくるというのも頷けます。 

「今は、流行を追い求め、『表現』のない作品が大量に生み出され、消費される時代」

田中:ただ、今はアートフェアなどに行くと、首をかしげたくなるようなものも目につきます。

丸山:その人にとっては、満足できるものなのかも。

田中:確かにそうかもしれないし、最初の入口としてはそれでいいかもしれないけれど、そういう作品が蔓延(はびこ)っている限りは、まだまだ国全体としてはステージアップすることはできないと思います。

今井:例えて言えば、コンビニのごはんだけ食べ続ける人がいてもいいけれど、それだけしかないと絶対に食文化全体として成り立たない、質の良いものは生まれないという論理と同じですね。

田中:もっといいものを食べたい、もっとおいしいものを食べたい、そういう欲を持っているかどうかは大事。

丸山:教育も関係していませんか? ヨーロッパに行くと、幼稚園生くらいの子どもたちが著名な美術館に集団でやって来ているのを度々目にします。

田中:とにかく一番いいものを見せることは重要ですよね。「最も“上”にあるもの」を見せるという教育は、日本ではなかなかやっていないでしょうね。

その時代その時代に、何が評価されて残ってきたのか…。その遺産を自分の中に取り入れ、その中で自分の琴線に触れるものが何かを知ること。それから現代の作品を観ることで、その価値がわかる。悠久の時間を経て、先人たちが残した美術には、そういった意味で大きな価値があります。古美術でもなんでも、これが「トップ」であるというものを見て学び、素地を培った上で自分は何が好きなのかを選ぶのはいいことです。それなしにいきなり買いに行くと、ひどい目に遭います。 今は、流行を追い求め、「表現」のない作品が大量に生み出され、消費される時代ですからね。
 
今井:絵は今すごく売れていますから。

丸山:今売れている作品というのは、トレンドと照らし合わせ、売れる道筋がよく計算されていると感じます。

田中:今の時代には、そういう「価値」のつくり方も必要なのかもしれません。でも、あまりにも増えすぎてしまった。今から、そういったものは淘汰されていくでしょう。買う側、つまりコレクターの役割や、売る側であるギャラリーの責任も大きい。でも、それだけだと不安なので、キュレーターたちにも頑張ってもらわないといけません。そのために彼らを応援しています。  

思文閣 田中大 代表取締役社長
Michika Mochizuki
@思文閣

3.世界に向けた日本美術の可能性

今井:海外へも目を向けてらっしゃる中、日本国内と海外の違いを何か感じてらっしゃいますか? 

田中:値段ではないですか? 日本の美術の値づけは、品質と比べてかなり安い。海外の人も「安い」と感じてきている。購入する海外の人は増えてきていますし、近代であれ現代のものであれ、「日本画」というものが存在することにも気づいてきている。日本美術が海外の美術史の中に入ったとまでは言えませんが、少し認められる傾向が出てきたと思っています。

今井:森田子龍(書家・画家 1912-1998)などがピエール・アレシンスキー(Pierre Alechinsky ベルギーの画家 1927-)と交流があって、CoBrA(=コブラ。1948-51にオランダやベルギーで活動した芸術動向)に影響を与えていたなど、欧米の美術言説や文脈に日本芸術との影響や邂逅があることをもっと紹介していくべきだと思っています。

日本の美術は、まだまだ知られていないですね。これからキュレーターのような方たちが再解体して紹介することで、西洋の美術界の見方も変わっていくかと思っています。ジャンルや国で括(くく)るのではなく、芸術のクオリティをもって同時に語られる対話ができたらいいなと思います。Blum & Poeもグループ展の企画のために作品をお借りしたことがありますが、思文閣さんのギャラリー空間に入るとまさにそんな多くの新しい発見がある場だと思います。

田中:現代芸術のギャラリーに借りてもらい、そこで日本の美術を紹介してもらうことはありがたいことです。その時代の需要に合わせた見せ方がもともと日本の画商はヘタなので、できないのです。かと言いって、コンテンポラリーをやられている方に需要があるかというとそうでもない。できる限り紹介していければいいな、と思っています。

tefaf art fair continues in maastricht despite coronavirus concerns
Nacho Calonge//Getty Images
マーストリヒトのTEFAFの様子。2020年撮影。

今井:ひとつの画廊だけでできることもあると思いますが、やはり、それぞれの画廊がお互いにより良いもののために集団として努力していくことが、日本のアートシーン全体に必要だと思います。

田中:日本全体に必要ですね。世界的に見ても、僕らの業界でも、自分のところだけが儲かればいいというパターンが目につきます。「僕は全然そうじゃありません」と言うつもりはありませんが、日本全体で浮上していかないと。いま日本美術は世界に全く追いついていっていない状態ですから。

今井:少なくとも、メインストリームではないですよね。

田中:海外でも、「週に一度は日本料理食べようか」と言えるような状況が作れている食文化くらいになるためには、今の日本の美術界の状態で足の引っ張り合いをしている暇などありません。古美術も現代画廊も作家もみんなで連帯し、クオリティを含めて浮上させていかないと。今バラバラになっているフェアが集まれば、大きなことができるのではないかと思うのです。素養がすごくあるのに、全然生かし切れていない。

今井:日本のフェアは規模が小さいです。現代アートで言えば、新しいハブはソウルかもしれません。西洋のギャラリーはフリーズ・ソウル(Frieze Seoul=世界的アートフェアFriezeの韓国版)に持っていかれてしまい、後れを取っているのが現状です。

frieze seoul 2022
Chung Sung-Jun//Getty Images
2022年フリーズ・ソウル、オープニング

丸山:そのうち(日本美術が日本から)なくなってしまいますよね。むしろ海外の人のほうが価値をわかってらっしゃる方が増えていて、海外に買い取られている状態。売る側としては、理解して買っていただくほうがうれしいですし。

田中:でも、ソウルに来た帰りにみんなどこに立ち寄るかと言えば、日本です。フェアで会った人が、京都に来てくれることもよくあります。観るものがたくさんあるので。

今井:そうですね。特に京都に来ます。

田中: ものすごい強みがあるのに、利用できていない。それはギャラリーだけの責任ではなく、行政の責任でもあります。

今井:そこを韓国は、一枚岩でやっていますから強いですよね。

田中:勝てないです。もったいない。京都はそこをクリアして頑張れば、ヴェネチア(・ビエンナーレ)のようになれるはずです。

今井:確かにヴェネチアであれだけ美術家の人々が集まるのですから。

田中:やろうとすれば、いくらでもできると思います。

日本美術の実力発揮にメディアが果たす役割は重要

今井:ただモノだけが集まって紹介するより、歴史という時間のコンテクストが縦軸にあり、食や美術など多様な文化を横断的にクロスさせてプレゼンテーションすることで、日本の文化芸術も大きなポテンシャルを発揮するとみんな信じてやっています。私自身もそうですし、ギャラリー(Blum&Poe)もそうです。この5年10年でどう協力し合えるかにかかっていると思います。

Esquire:お話を聴いていて、「アート」というもののエデュケーションをメディア内部でも進めていかなければ、そこのお役に立てないと思いました。もちろん、誠実なメディアもありますが、自戒も込めて言えば、それこそおっしゃっていた質の悪いものに加担しているケースは本当に多いので。

今井:おそらく、カタカナの「アート」を安易に使用しないほうがいいような気がします。すごくトレンディに聞こえるので、使った途端にわかったような気がしてしまうのですよね。

丸山:「アート」ではなく「芸術」と表現したほうがいいかもしれませんね。

田中:今回、「アートの本質的価値」をテーマに色々お話してきましたが、極論をいえば、作品の価値というのは鏡のようなもので、自分の価値といえるのではないかと思います。その人の目でいいと思うもの、その感覚は、作品を通じて、その人自身を投影している。いかに目を養うか、何を見てどう感じるかということが原点であり、とても大切なことではないかと感じています。

今井:このインタビューだけでは終わらないもっとたくさんのお話をお持ちだと思うので、ずっと聴いていたいくらいですが、今回はこの辺で。ありがとうございました。 

tokyo gendai 東京現代
Tokyo Gendai

日本で初めて保税資格を取得した世界水準のアートフェア
「Tokyo Gendai」

2020年12月、2021年2月の関税法基本通達一部改正により、保税地域でのアートフェアなどの実施が可能となったことを受け、Tokyo Gendai は開催会場全体を保税地域として使用する許可を横浜税関より取得。フェア開催期間の2023年7月6日(木)~9日(日)は、会場であるパシフィコ横浜が保税展示場となるため、海外からの出展者は関税等を留保した形で美術品を持ち込み、展示することが可能に。これは、海外ギャラリー及び関係者の日本市場参入障壁の大幅な改善につながり、美術品取引における大きな機会創出となるとみられている。
チケット購入サイト

 Edit: Keiichi Koyama