ソウル市長選の与党惨敗で
反省と刷新の要求が続出

 4月7日のソウル・釜山市長補欠選挙の惨敗を受け、「共に民主党」(以下“民主党”)の内外から、一層徹底的な反省と刷新を求める要求が続出した。1年生議員81人は9日、集会を開き「党改革の主体になる」と明らかにした。このグループは12日に再び集まることにした。1年生議員は総会を随時開き、独自の刷新案を準備して指導部に建議するという。2年生以上の再選議員49人も12日に会合を開き、党の刷新案について議論する。

 民主党は8日、補欠選挙惨敗後に都鍾煥(ト・ジョンファン)非常対策委員長体制を発足させ、院内代表予備選挙と全党大会の日程を早める「収拾案」を出した。しかし、集会に参加した1年生議員の中からは、都氏は親文在寅派であり、「これが反省の姿勢か」という問題提起がなされている。

1年生議員による批判で
一枚岩の党の団結に亀裂

 1年生議員約50人は「共に民主党初当選議員による共同立場文」を発表し、「共に民主党の党憲と党規に従えば、今回の補欠選挙では共に民主党は候補の公認をすべきではなかった。しかし、私たちは施行もせず国民的な共感もなく党憲と党規の改正を推進し、候補を出したのちに耳をふさいだ」と述べ「その意思決定過程に参加できなかった点を強く反省する」と明らかにした。

 ソウル・釜山市長はともにセクハラ関連のスキャンダルで辞任したため、党憲・党規に従えば、民主党は補欠選挙の候補者を公認できないはずだったのだ。

 市長補欠選挙における候補の公認は、民主党の李洛淵(イ・ナギョン)代表、金太年(キム・テニョン)院内代表(いずれも当時)が主導し、文在寅大統領までも「党憲は固定不変ではない」として、その正当性を主張していた。それを1年生議員が批判したことは、一枚岩でやってきた党の団結に亀裂が入ったことを意味するのであろう。

 声明には含まれなかったが、この日の非公開討論では、党、政府、青瓦台に向けられた強い批判にあふれていたという。「無能、ダブルスタンダード、傲慢、偽善」に対する批判に加え、青瓦台と党指導部が異なる意見を許容せず、政策を押し付けたことに対する批判が相次いだ。

 そして具体的な施策として、民主党が“傲慢”だと思わせた強硬論を主張した人物らが次期指導部に出馬しないことの要求や、「曺国(チョ・グク)元法相、秋美愛(チュ・ミエ)前法相切り捨て論」「大統領と民主党の道徳的優越主義を前面に出した“自分たちの過ちの合理化”などに対する批判」などが続出した。

 こうした1年生議員の動きにより、党内の親文派の核心人物らとの対立が大きくなり、党と青瓦台との間に波乱が起きるかもしれないとの観測が広がっている。ただ、1年生議員の中にも親文派は大きな勢力があり、これがまとまった勢力となるかは未知数である。

 south korean president moon jae in delivers new year's address 
Handout//Getty Images
民主党が食いつぶした
ロウソクデモの遺産

 院外の進歩派の批判はより厳しい。「元祖盧武鉉(ノ・ムヒョン)派」といわれる兪インテ元国会事務総長は選挙敗北の原因は「岩盤支持層の要求を受け入れてきた」ことだと述べた。

 また、「ザ未来研究所」の金起式(キム・ギシク)所長も、与党が信頼を失った理由として「三無」を挙げた。同所長が指摘したのは、間違ったことが起きても「謝罪と反省がなく」「問責がなく」「責任を取って辞める人がいない」という姿勢である。

 中央大学のシン・ジヌク教授は「民主党は4年間の政治で、(ロウソク革命と呼ばれる市民運動を背景に登場した)『ロウソク政府』という政治的な後光を完全に失った。もはや、『国民の力』と原点に立ち返って競争しないといけない状況に立ち返った」と分析した。

 また、慶熙大学のアン・ビョンジン教授は「盧武鉉元大統領は失敗したとはいえ、大連立政権などレームダック現象を突破するためにさまざまな試みをした。これに対し文大統領はなかなか変えようとせず既存路線だけ守っている。例えるなら『堅物政治』に近い」と批判している。現在の文在寅政権は盧武鉉政権よりも柔軟性に欠けるということだろう。

 文大統領は青瓦台の報道官を通じ、「国民の叱責を厳重に受け止める」「より低い姿勢で、より重い責任で国政に臨む」とするコメントを発表した。

 だが、コメントは「重く、一層、切実な」という表現を取り入れ、選挙敗北の深刻さを表現したものの、何が過ちであり、どのように変えるのかという具体論には踏み込んでいない。また、「コロナ克服、経済回復と国民生活の安定、不動産腐敗の清算など」と続いたが、政策基調の変化や参謀陣の刷新を感じさせるものは何も含まれていなかった。

不動産政策の失敗で
高まる国民の怒り

 今回のソウル・釜山市長補欠選挙の敗因は、民主党の傲慢や偽善のみならず、不動産高騰、および政府与党と韓国土地住宅公社(LH)の職員による不正な土地投機など「不動産の失敗が呼んだ国民の怒り」である。

 これに対し、文大統領は従来の「不動産積弊(積弊とは『長年積もり重なった悪しき慣行や弊害』の意味)」とは呼ばず「不動産腐敗」の清算と呼んで、過去の政権に責任をなすりつける姿勢をやや和らげた。しかし、この言葉からは「不動産政策の失敗」を率直に認めるのではなく、「不正な土地投機を行った積弊勢力」が問題だとする認識を捨てきれてはいない。

 文政権は実に25回も不動産政策を変更しておきながら、不動産価格は高騰、各種規制で事実上住宅購入が封鎖された状況で、LH職員や政府与党の中枢で不動産投機が起きたことへの国民の怒りは高まっているが、それでも従来の不動産政策の基調を続けていこうとしている。

 洪楠基(ホン・ナムギ)経済副首相は「不動産政策の大きな枠組みは揺れることなく維持しなければならない。住宅供給は地方自治体が単独でできることではない」と述べ、呉世勲(オ・セフン)新ソウル市長の土地政策をけん制した。

 これは呉氏の当選で公共主導の開発など既存の政策が揺らぎ、民間の再建築規制が解かれる可能性があるとの市場の期待を遮断するための予防的発言である。

 呉市長は選挙公約で「就任1週間内に主要建築団地の安全診断に着手する」と明らかにしており、8日、民間による再建築・再開発を通じた供給拡大を、スピード感を持って推進するとして、規制緩和の意向を再度表明した。

市長選に敗北したが
人事刷新は小規模

 選挙の敗北を受けて、内閣改造が取り沙汰されている。しかし、それは文政権を主導してきた参謀陣の大幅な改編よりも、内閣の一部改造で終わる可能性が高い。

 内閣改造の焦点は丁世均(チョン・セギュン)首相の交代である。丁氏は次期大統領選挙出馬を念頭に、11~13日のイラン訪問から帰国後辞任する意向であり、その後任には金富謙(キム・ブギョム)前行政安全部長官や朴智元(パク・チウォン)国家情報院長のほか洪楠基経済副首相の名が挙がっている。金栄珠(キム・ヨンジュ)前韓国貿易協会会長の名も挙がっていったが固辞したそうである。

 そのほかの閣僚人事としては、土地政策の責任を取って辞意表明した卞彰欽(ビョン・チャンフム)国土交通相や成允模(ソン・インモ)産業通商資源相の名も取り沙汰されている。

 しかし、前韓国貿易協会会長が首相就任を固辞したように、レームダック化し政権末期を見据えた文政権に加わるのは有能な人材であれば誰しも避けたいところだろう。加えて、文大統領の性格からいって「国政哲学を変えることはほぼない」といわれる。現政権に入ることを承諾する人物は文大統領と国政哲学を共にする人以外にはいないだろうし、そのような人が政策に変革をもたらすことはない。

 青瓦台では、不動産をめぐるスキャンダルで辞任した金尚祖政策室長の後任人事が重要である。その他、政務首席秘書官が選挙の責任をとって更迭されるというウワサがある。また、人事秘書官についても、人事政策の失敗で更迭されるという説がでている。

 しかし、これまでの文政権は、側近の利得にある程度目をつぶることで政権への忠誠を誓わせてきたが、民心の離脱により、それも難しくなった。こうした中、今から青瓦台に入って批判の標的になろうという有能な人物を見つけることは極めて困難であろう。

 したがって、文大統領自身が国政哲学を捨て、変革の意思を持たない限り、どのような人事刷新を行っても、新鮮味に欠けるものとなろう。

 文大統領には1年の時間も残っていない。遅くとも年末には来年の大統領選挙に向けた戦いが本格化する。実際に大統領として影響力を保持するのはあと6~7カ月であり、今は国政転換の最後の機会だろう。

中国と北朝鮮に
傾斜する文大統領

 今回の改造人事でも、北朝鮮シフトは変えないようである。金与正氏が脱北者らによる北側へのビラ散布を非難したことを受けて行った安保人事は、李仁栄(イ・イニョン)統一相、朴智元国情院長、徐薫(ソ・フン)国家安保室長など北朝鮮に寄り添う人事であった。

 バイデン政権が北朝鮮の非核化に取り組む姿勢を強化する中、韓国と米国のあつれきが高まりそうだ。また、米中が対立する中、韓国は米国の対中姿勢とも距離を置こうとしている。

 文大統領は政権のレガシーとして北朝鮮との関係の改善を残したいであろう。しかし、非核化問題の解決なしに北朝鮮との協力を推進することは、北朝鮮の核・ミサイルの脅威を一層高めることになる。

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 また、習近平国家主席の訪韓を実現させ、中国との経済関係の強化、THAAD(高高度ミサイル防衛システム)配備に対する中国の報復を取り除きたいだろう。しかし、それは米中対立の中で、中国が米韓の離間を図っている謀略に乗ることになり、米韓同盟にヒビを入れることになりかねない。

 文政権の進める外交は、韓国の安全保障にとって禍根を残すことになりかねない。今の外交安保ラインはそれをやりかねない人がそろっている。

 外交は支持率の下がった文大統領が主導できる分野である。今回の市長補欠選挙の敗北により、国内的にますます手詰まりとなった文政権が北朝鮮、中国に対し一層歩み寄ることを警戒せざるを得ないだろう。

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