神宮寺勇太、岸優太、平野紫耀、ジャクソン・ワン、xin liu
Frazer Harrison//Getty Images
Number_i(神宮寺勇太、岸優太、平野紫耀)とジャクソン・ワン、XIN LIU

現地時間2024年4月14日、 カルフォルニア州で開催された世界的音楽イベント「コーチェラ・バレー・ミュージック・アンド・アーツ・フェスティバル2024」内の「88RISING FUTURES」のステージに神宮寺勇太と平野紫耀、岸優太からなるユニット、Number_iが出演し、彼らの曲「GOAT」(ソングライターMONJOE、Pecori、SHUN)でK-POPスター、ジャクソン・ワンが登場したことが話題になりました。

instagramView full post on Instagram



同ステージは音楽レーベル「88RISING」によるプロジェクトで、アジア出身またはアジア系のアーティストたちを世界に紹介し、彼らの才能を広く知らしめることを目的としています。

この取り組みは、新しい音楽や文化の発信を通じて、アジアの多様性と創造性を世界に広めることを目指しているのが特徴です。「88RISING」は音楽レーベルとしての役割のほかに、アーティストのマネジメントやメディアプラットフォームとしても機能し、アジア系アーティストの国際的な成功を支援していて、今年はほかにATARASHII GAKKO!、Awich、Tiger JK、XIN LIU、Yoasobi、Yoonmiraeなども出演しています。


今回は、コラボ出演を祝して、2021年に掲載された「エスクァイア」UK版のインタビュー記事を振り返りましょう。世界的な音楽シーンで独自の地位を築いているジャクソンに、コロナ禍の東洋人としての葛藤や異国の文化を共有するための新たな挑戦について話を伺いました。

jackson wang
Team Wang

ジャクソン・ワンは歌手、作曲家、ラッパー、ビデオディレクター、デザイナー、そして起業家です

「それは... トレッドミル*?」

コロナ禍で、リモートインタビュー中のジャクソン・ワンは前のめりになってパソコンの画面を見つめました。彼の言うこのトレッドミルは、イギリスで最初のロックダウンが始まった頃、私の狭いリビングに無理やり置いたもので現在は化石のようなもの。初期の新型コロナウイルスに対する不安によって、ドラマ「ブルックリン・ナイン-ナイン」とファミリー・サイズのドリトスを手に、ソファに埋もれていた自分の状況を改善しようと購入したもの。ジャクソンはため息をついてこう言いました。

「ここにトレッドミルがあればなぁ」

※トレッドミル:足元のベルトコンベアが回って、歩いたり走ったりできる運動器具。「ランニングマシン」「ウォーキングマシン」「ルームランナー」とも呼ばれています。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Jackson Wang - LMLY (Official Music Video)
Jackson Wang - LMLY (Official Music Video) thumnail
Watch onWatch on YouTube

「ここ」とは、当時27歳の香港出身のジャクソンが黒のTシャツを着て、ふんわりとざっくり整えた髪で、隔離期間中に滞在していた厦門のホテルの部屋です。常にエネルギッシュに活動する彼にとって、隔離という強制的な休憩はもどかしい時間だったようです。ジャクソンは多才なアーティストで、歌手、作曲家、ラッパーの才能に加え、ビデオディレクター、ファッションデザイナー、そして起業家としても活躍しています。

友人からは、「世界のどこにいるのかわからないことがあるよ」と笑われてしまうほどのワーカホリック(仕事人間)でもあるようです。ジャクソンにとってはもう真夜中に近い時間帯でしたが、自身の新曲プロモーションのために続けて取材を受けるとのこと。2021年、彼が宣伝していた「LMLY」は、80年代風のシンセポップ・ソング。ジャクソンはこの曲について、「LMLYは『Leave Me Loving You』の略で、これはラブストーリーなんだ」と言及します。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Jackson Wang & Galantis - Pretty Please (Official Music Video)
Jackson Wang & Galantis - Pretty Please (Official Music Video) thumnail
Watch onWatch on YouTube

ジャクソンは、曲づくりからビデオ・ディレクション、さらにはSNSキャンペーンまであらゆる作業を監督しているので、人によっては完璧主義者やコントロールフリークに見えるかもしれません。彼は新曲のプロモーションについて、ステディカム(ブレや振動を抑える撮影用機材)から曲のストーリーラインまで、多くの興味深い情報を共有してくれました。

「今回、僕は『Pretty Please』(昨年Galantisとコラボしたメロディックなピアノ・ハウス楽曲)と同じ衣装を着用していて、再び80年代、90年代の香港映画のような雰囲気になっているんだ。僕は中華レストランで働くスタッフで、ある女の子を見て一目惚れする。一緒に甘い時間を過ごすけど、それは全部想像だった。僕が弱い人間で、そもそも彼女にアプローチすることすらできなかったことがわかる」

彼は現実でも、そのようにチャンスを逃すことはあるのでしょうか? デートを通じて韓国語を上達させたと言われるジャクソンですが、戸惑いながらこう話します。

「わからない。まだ会ったことないから...。正直わからないよ!友達に会う時間だってほとんどないんだから(笑)」

それはきっと、彼が多くの時間をファンと交流するために過ごしているからかもしれません。彼は新型コロナウイルスの隔離期間中、頻繁にInstagramのライブ配信を行い、2200万人のフォロワー(2024年、現在は3302万人フォロワーを獲得)とつながっていました。

そのインスタライブのコメント欄は英語、韓国語、フランス語、中国語、アラビア語など多言語であふれており、ここから彼のファンベースの幅広さと世界のファンからどれだけ愛されているのかがわかります。しかし彼は、これを仕事だとは感じていません。ジャクソンはこう断言します。

「僕はファンにすべてを捧(ささ)げるのさ。そう、僕のすべてを」

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
GOT7 "Just right(딱 좋아)" M/V
GOT7 "Just right(딱 좋아)" M/V thumnail
Watch onWatch on YouTube

たしかに、他にも同じようなことを主張するアーティストがいるかもしれませんが、ジャクソンの成功はK-POPという競争の激しい世界で苦労して手に入れたものであり、彼はその成功の礎となったファンへの感謝を常に忘れません。

過去10年間、彼はソウルに住み、そのうち7年間はK-POPアイドルグループ「GOT7」のラッパー/ヴォーカリストとして活動していました。2021年1月、3つのワールドツアーを終え、4つの韓国語のスタジオ・アルバムと11枚の韓国語EP(その多くはメンバーも作曲に参加)をリリースした後、GOT7としての活動は終了しました。

メンバーは解散しないことを約束しましたが、それぞれのキャリアに焦点を当てる時期が来たのです(実際に2021年5月にGOT7は新曲「Encore」をリリースし、ファンに対する彼らの絆と音楽への献身を示しました。この曲は、彼らが引き続き一緒に音楽をつくり続けること、そしてGOT7としての活動を継続することの意志をファンに伝えるものでした)。

すぐに成功するのも良いけれど、それは危険も伴う。なぜならばその成功を長く維持する力がないかもしれないから。実際、僕は失敗から学ぶことが多いんだ

最終的にGOT7は、何百枚ものアルバムを売り上げました。が、ジャクソンは新人アイドルとして韓国のバラエティ番組にゲスト出演し、グループを視聴者に印象づけるために努力しました。気さくな性格と愛嬌(あいきょう)、視聴者を惹(ひ)きつける魅力的なビジュアル、そして天性のユーモア・センスを持ち合わせ、いたずら好きなキャラクターから引き立て役まで自在にこなし、人気を博しました。

ジャクソンはテレビ番組で活躍するバラエティアイドルになることもできましたが、ただの面白い人になりたいわけではなく、音楽で自分のことを知られるのを望んでいました。そして、最終的には事務所の垣根を越え、独自のやり方で自身のプロジェクトに取り組みたかったのです。

ジャクソンは2017年に自身の会社「Team Wang」を設立し、バンドとソロ活動の時間を均等に分けました。それまでは多くの人々に魅力あふれるユーモリストと認識されていた彼でしたが、巧みなビジネスマンであることが証明されました。

「Team Wang」では音楽制作、アーティストマネジメント、ファッションとライフスタイル商品のデザインと販売など、幅広い分野で事業を展開。ジャクソンのクリエイティブなビジョンと世界観を反映した事業を行っています。会社を創業後、自身は1枚のアルバムと15枚のシングルをリリースし、その2倍、ほかのアーティストとのコラボレーションや楽曲へのフィーチャー。そして、数々のブランドの顔として、広告や雑誌のカバーを飾り、2023年には「ルイ・ヴィトン」のブランドアンバサダーに就任しています。

ジャクソンの現在の優先順位はシンプルで、「ファン」、「Team Wang」、「家族」です。

「過去10年間、両親と離れて暮らしているんだ」と話し、こう伝えました。

「成長する過程で、両親のことをまるで自分の戦士のように感じたんだ。両親がしなくてもよかったこと、例えば僕を学校に通わせることとか…(地元の小学校がジャクソンの好奇心はもっと難しいことを学べるのではないかと提案し、インターナショナル・スクールに通うことになった)」

ジャクソンが大切にしている家族に対しては、「次は自分が愛を与える番だ」と言います。

「両親が僕にしてくれた全てのことを、子どもの頃にこう考えていたんだ――『あなたたちは僕の両親なんだから、そうしなければならない』と。でも、両親にもそれぞれ夢があった。今度は僕が両親を守り、愛し、良い暮らしを与えてあげる番なんだ」

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
GOT7 "LAST PIECE" M/V
GOT7 "LAST PIECE" M/V thumnail
Watch onWatch on YouTube

ジャクソンの新たな目標は、自分がこれまで築き上げてきたものを、もっと大きく成長させていくこと。「僕のエゴは決して止まらない。もしあなたが何かを持っているなら、もっと欲しくなります」と言った後に、こう付け加えました。

「正直、『全てを持つことはできない』考えた時期もあったけれどね

ジャクソンの人生と会社の哲学は、「自分自身を知り、自分自身の歴史をつくる」というもの。ほかのCEOと同じように、会社の戦略とプロダクトについて言及します。自分の音楽さえ、「市場に製品を提供する」と表現するほどです。そして話すときはいつも、「感謝」と「祝福」で満たされています。

「Team Wang」の拡大が続く中、ジャクソンの成功にはさらなる期待が寄せられますが、感情的にも精神的にも、アップ・ダウンがあるかもしれないこの挑戦に挑む準備はできているようです。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
王嘉尔 - 一个人 Alone (Official Music Video)
王嘉尔 - 一个人 Alone (Official Music Video) thumnail
Watch onWatch on YouTube

この挑戦への準備というのは、彼の音楽に体現されています。2021年にリリースした「Alone」で、ジャクソンはこのように歌っています。

「僕は痛みも失敗も受け入れることができる。手放すことができる」

これはかつて彼がユース・オリンピックにも出場する、フェンシング選手として活動していたころに結びつけられます。

「アスリートの家族を持ち、アスリートとして育つ中で培ったメンタリティが多くのことに結びついているんだ。失敗すればするほど、失敗した原因がわかるようにわかるようになり、それが人を強くする」

父親はアジア競技大会の金メダリストであるフェンシング選手で、母親も体操選手でした。このような背景がジャクソンが非常に競争力があり、目標に向かって努力する性格を持つ一因となっています。

「すぐに成功するのも良いけれど、それは危険も伴う。なぜならば安定していない分、その成功を長く維持する力がないかもしれないから。実際、僕は失敗から学ぶことが多いんだ。失敗が成功につながると思う」

苦戦したり燃え果てたと感じた瞬間は特定しませんでしたが、ジャクソンは常に自分に厳しいと認めています。

「今持っているものに感謝しているけど、決して満足はしていない」

彼が自分の中の基準を満たすためにどれだけ努力しているのか、はっきりと伝わってきます。ジャクソンは2017年、日本で開催されたファンミーティングで倒れ、2018年には過労で入院しています。同じ年に中国で開催されたファンミーティングでも倒れてしまい、自分のキャリアを築こうとしているジャクソンに対する批判や否定的なコメントに心を疲れさせていることが観客に伝えられました。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Jackson Wang's INSANE Accessory Closet Tour | Curated | Esquire
Jackson Wang's INSANE Accessory Closet Tour | Curated | Esquire thumnail
Watch onWatch on YouTube

西洋とのつながりを深めたい。僕たちの文化を共有したいし、同時にもっと学びたいとも思っている

「いろいろな障害があなたを成功から阻止しようとする。それは状況かもしれないし、人かもしれない。スキャンダル、ゴシップ、あなたの精神を掻き乱そうと指をさす人々かもしれない。もし強いマインドセットがなければ、これらはあなたを混乱させる障害になるんだ。どうか悪い方向には受け取らないで。僕は実際に悪いほうに受け取ってしまい深く傷ついた。そうしないほうがいいと学んだんだ。全員から愛されることはできないからね」

ジャクソンは年を重ねるにつて、人生をより深く考えるようになり、その時の自身の環境について注意を払うようになり、もっと人の意見も聞くようになりました。

「否定的なことから学ぶこともあるんだ」

少なくともゴシップはもうこわくはないようです。「何もないよりはマシかもね。わかる?」彼はにやりと笑って付け足します。

「僕に注目してくれてありがとう」

大抵、誤った情報のために会話するほどの時間はありません。「自分のことに集中してるので、何でも言っちゃって」と言います。

「Team Wang Design」とクロード・モネの財団が手を組んだ限定コレクションは、完売。このコレクションでは、モネの有名な絵画「印象・日の出」の色彩と、「Team Wang」の特徴である黒色が鮮やかに対比されています。デザインに色がない理由はシンプルでした。

「僕は闇が好き。目を閉じるとその世界はエンドレスだから。黒は僕に無限の空間と境界を与えてくれる。飛ぶこともできる。歩いたり、疾走することもできる。『これをやらなければならない』や『これがみんながやってる成功するための方法』といった枠に囚われたくないんだ」

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Jackson Wang - 100 Ways (Official Music Video)
Jackson Wang - 100 Ways (Official Music Video) thumnail
Watch onWatch on YouTube

ジャクソンは「東西の文化の交流をより深めたい」という考えを、これまでに発信してきました。

「 西洋とのつながりを深めたい。僕たちの文化を共有したいし、同時にもっと学びたいとも思っている」

2020年3月、ジャクソンは「100 Ways」で中国人ソロアーティストとして初めて米メディアベース・トップ40ラジオ・チャートに登場。2019年にリリースしたアルバム『Mirrors』はビルボード Hot 200で32位にランクインしました。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Jackson Wang - 【MIRRORS】 Album Celebration Party Dec 8th 2019
Jackson Wang - 【MIRRORS】 Album Celebration Party Dec 8th 2019 thumnail
Watch onWatch on YouTube

そして2021年3月に実施されたこのインタビューの翌日、アトランタで、白人の犯人が3つのスパ施設を標的にし、アジア系アメリカ人女性6人を含む合計8人が命を失いました。この事件は世界に衝撃を与え、アジア人に対するヘイトクライムと差別の問題が再び注目されるきっかけともなりました。

このような状況を受け、ジャクソンはインスタグラムにこう投稿しています。

「どんな種類のヘイトや人種差別も許されない。僕がいつも言うように、生まれながらにして人を憎む人はいないと心から信じている。人を憎む人は憎むということを学んだに違いない。そして誰もが憎むことを学べるのなら、愛することも学べるはず。世界はいま、これまで以上に愛を必要としている。僕もできる限り自分の声を使うけど、どうかあなたも自分の声を使ってください。お互いを高め合って、一緒に変化を起こそう」

この不安定な時代においても、ジャクソンは世界的にソロで成功することを目指し、その決意は揺るぎません。文化の共有は、芸術と音楽にとってより進歩的で本質的になっていくと考えています。

「僕のやり方は、パフォーマンスや音楽ができなくなるまで進み続けるということ。それが難しいこととはわかっているけれど、簡単なことって何?できるかどうかを決めるのは自分自身。いろんな苦労もあるかもしれないけれど、自分がそれに同意しちゃえばそれで終わりなんだよね。なぜなら自分は同意しちゃったことがあるからわかるんだ」

声はだんだんかすれてきましたが、ジャクソンはこう続けます。

「いつの日か、世間はあなたがどれだけ努力してきたかを知るだろう。僕は『Team Wang』、僕たちに紐づく歴史をつくりたいんだ」

これはジャクソンがトレッドミルから降りて、自分の道を切り開くチャンスなのかもしれません。

Translation / Miki Chino
Edit / Minako Shitara(Esquire)
※この翻訳は抄訳です

From: Esquire UK