私が彼女の存在を最初に知ったのは、あるテレビ番組の特集でした。

 ラジオのように聞き流していたテレビの音声から「山形の女子高生がLGBTQ+の写真展を開催…」という声が聞こえ、思わず画面を見ると、そこにはさくらんぼのようにほんのり赤く頬を染めた、あどけない少女の姿がありました。

 その写真展の発起人となった大山心音(しおん)さん(18歳)は、自身がセクシャルマイノリティの当事者であり、当時山形県新庄市内の高等学校の卒業を2021年3月に控えているところでした。そんな純朴な少女が、小さな町で起こした大胆な行動に私は衝撃を受けたのです。彼女は「しんじょう・レインボープロジェクト」という名前で、LGBTQ+の理解を広めるための写真展や、フォトブックを製作するためのクラウドファンディングを実施していました。

「LGBTQ+」とは?

 「LGBTQ+」という言葉をよく耳にするようになった昨今ですが、改めて考えてみると未だに「よく分からない」という方も少なくないでしょう。定義としては、L=レズビアン(心も身体も女性で恋愛対象は女性)、G=ゲイ(心も身体も男性で恋愛対象は男性)、B=バイセクシャル(恋愛対象が女性にも男性にも向いている)、T=トランスジェンダー(心と身体の性が一致していないため違和感を持つ)、Q=クエスチョン(わからない・決められたくない)+=その他(他にもさまざまなセクシュアリティがあり、全ての性を表記することはほぼ不可能と言われている) となります。

 そして現在はSOGI(ソジ)という、異性愛も同性愛もどちらも包括した性的指向全体を表す言い方や、シスジェンダーという生まれ持った性別と性的指向が一致している人(いわゆるストレート)のことを表す言葉まで出現しました。これは、LGBTQ+と呼ばれる、性的マイノリティの方々のことを“特別視”しないという社会の流れによるものでしょう。

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しんじょう・レインボープロジェクト
「しんじょう・レインボープロジェクト」のメインビジュアル。撮影は主催者である大山心音さんの知人である小関さんによるもの。

 このように昔に比べれば、LGBTQ+の人々を支援する動きが格段に増えてきたとは言えます。ですが、まだまだ“当たり前”と呼ぶには程遠い現状が日本にはあります。2020年3月に公表された厚労省委託事業「職場におけるダイバーシティ推進事業」調査では、職場でカミングアウトした人の割合がレズビアンで 8.6%、ゲイで5.9%、バイセクシュアルで7.3%、トランスジェンダーで15.3%とのこと。その中で家族や友人へカミングアウトした割合は、いずれも1~3割。つまり、誰にもカミングアウトしていないという回答が6~7割に上ります。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
 thumnail
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 大手化粧品メーカー「パンテーン」が2020年から始めた取り組み「#Pride Hair」では、76%のLGBTQ+の元就活生が「就職活動で、セクシュアル・マイノリティであることを選考企業に隠したことがある」と回答しています。そして、その動画に登場するひと言が、私の心に突き刺さりました。

“自分をアピールするために、
自分を偽るしかなかった”

 就活において感じたこの本音は、現代の日本社会で生きるLGBTQ+の学生がカミングアウトすることで、いかに自分たちが社会的不利益を被るか? または、偏見の目で見られるか? に怯えている心境を表しているのではないでしょうか。ですが、テレビ画面の中で微笑むこの少女は、これらの状況を全てはねのけるかのように明るく、そしてポジティブな表情を見せていました。

 私は、どんな人物なのだろうと、この主催者に会いたくてたまらなくなりました…。

 取材を申し込むと、快く引き受けてくれた大山心音さん。取材時の彼女は高校の卒業式を終え、髪を綺麗なピンク色に染めていました。

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Hiroki Ohtani
「しんじょう・レインボープロジェクト」主催者の大山心音さん。笑顔と共に真っすぐと向けるその視線の奥には、清らかで力強いメロディが流れているようでした。

 一時期は女の子らしい格好に嫌気が差し、バッサリとショートにした時期もあったそうですが、このときは逆に「女の子らしい格好が今はしっくりくる」と語っていました。

“今は女の子っぽいほうが好き。
でも急にまた、
ボーイッシュな格好が
したくなるかもしれません。
そのときに自分がなりたい
格好をしてきたいと思います…”

 あどけなさが残る、少し恥ずかしがり屋で控えめな口調。しかし、真っ直ぐで嘘のない瞳の奥は、活力に満ちあふれていました。時折笑ったときに口元に出るえくぼがとても愛らしく、センシティブな質問に対する私の緊張は、一気にほぐれていったのです。

 発起人の大山さんを中心とし、山形県の女子高校生らによって発足した「しんじょう・レインボープロジェクト」。そこにはどんな想いが込められていたのでしょうか。

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しんじょう・レインボープロジェクト
「君と一緒なら何でも楽しい」というタイトルで、今回の写真展に飾られた一枚。
“東京都内だと、
ゲイパレートなどのイベントが
開催されたりしているので、
LGBTQ+への理解が
深まってきていると思います。
ですがこの(新庄市)辺りだと
そういう活動もないので…”
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しんじょう・レインボープロジェクト
「伝わらないかもしれない」というタイトルで、写真展に飾られた1枚。

 「手紙を渡すほうは真っ直ぐ見つめているけど、受け取る側は目線をそらしたほうがいいかな。困惑しているかもしれないから」…こんなやりとりを繰り返しながら、写真の構成や表情なども、自分たちでこだわり抜いて考えたのだそうです。

 この「しんじょう・レインボープロジェクト」は、多くの人たちの協力があったものの、女子高生たちが主体となって話し合い、自分たちの力でつくり上げたと言っていいLGBTQ+の写真展です。そこには、ごく普通の青春真っ盛りな高校生たちの日常と、ちょっと切ない恋の香りが漂っていました。

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しんじょう・レインボープロジェクト
今回の写真展より、「友達としてなら、こんな風に笑えるのに」。
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しんじょう・レインボープロジェクト
タイトルは、「このチョコ、本命なんだよ?」。

“「このチョコ、本命なんだよ?」
…友達としてなら、
こんな風に笑えるのに”

 一方通行でかなわない片思い…写真で改めて観ると、同性愛ならではの理解されにくい想いや苦悩に、多少なりとも近づけた気がしました。

 「しんじょう・レインボープロジェクト」の写真展には、第一弾があったそうですが、その際は顔を隠した状態で撮影したそうです。テーマがセンシティブなだけに、先生や保護者など周囲の大人たちが、同級生から茶化されたりすることを心配しての対策でした。さらに、そのときの大山さんの心境も、今のようにポジティブなものではなく、“この辛さや苦しみをわかって欲しい”という想いが強かったそう。ですがその後のアンケートで、「表情がわからなくて暗い感じがした」「LGBTQ+は悲しいイメージ」との意見が多数あり、「自分たちがやっていることは、ひょっとしたらLGBTQ+のイメージを逆にマイナスにしてしまう偏見を生んでしまったんじゃないか?」と思ったそうです。

 「男女の恋愛は楽しそうじゃないですか。だから、『女同士や男同士の恋愛も楽しいよ』とか、『男が女の格好しても、劣等感とかじゃなくて、一個人として楽しんでるんだよ』っていうポジティブなイメージを伝えたいと思うようになりました」と語ります。

 さらに今回撮影に協力してくれた写真家の小関さんからも、「思い切って顔出ししてみたら? そのほうがきっと自分たちの伝えたいことが伝わると思うよ」というアドバイスを受け、顔出しでの写真展を決意したそうです。

 すると想像以上の反響があり、「心を打たれた」「いつか山形でもパートナーシップ制度、そして日本で同性婚ができますように」「差別しないことの大切さを学べた」など、ポジティブなコメントがたくさん寄せられたそうです。

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しんじょう・レインボープロジェクト
「しんじょう・レインボープロジェクト」の第一弾の写真展で飾られた作品。“顔出し”なしの撮影で行われていました。
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しんじょう・レインボープロジェクト
こちらも、「しんじょう・レインボープロジェクト」の第一弾の写真展で飾られた作品。

“自分も以前は
差別している側でした。
でも、そのことに
気づいていなかった…”

 LGBTQ+という言葉を知ったことで、それまで自分も無意識に“差別”している側の人間だったことに気づいたという大山さん。

「中学校のころは、『ゲイ』っていう言葉を知らなかったんですよ。逆に『ホモ』とか差別的用語のほうしか知らなくて…。でも、高校1年生の夏休み明けに、交換留学から帰ってきた子が『私のホストファミリーの子がLGBTでね〜』という話をしてくれて…、そこから『LGBTって何?』と調べて初めて知ったんです」

しんじょう・レインボープロジェクト
しんじょう・レインボープロジェクト
「無知や無関心ほど怖いものはない。だから私は学ぶ。」と題された、今回の写真展に飾られた1枚。

「やっぱり、中学校のころって思春期だし、男子同士がくっついていると、周りから茶化されたり、私も『何してるの?』とか思っていたんですけど、高校になって初めてそういう存在を知って、『ああ、私も意識せずに差別的な目でみてしまっていたんだな』って気付いて、とても反省しました。でもなぜ自分も同じような感覚だったはずなのに、同じ境遇の相手を差別していたのか、そこは未だにわからなくて…」

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「どちらに入るべきなのか」。今回の写真展に飾られた1枚。

「差別って、無意識だと思うんですよね。でも言葉って不思議で、そういう言葉があるんだって知ると、“これは変わったことではなく、そういうものなんだ…”って肯定できる。バカにしたり、茶化したりしちゃいけない、真剣なものなんだって思える気がします。だから、『知る』って本当に大切なことなんだと思います」

自分自身が
「セクシャルマイノリティかも」
と気づいたときの
苦悩と葛藤…

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しんじょう・レインボープロジェクト
タイトルは「わからない」。

  LGBTQ+という言葉を初めて知ったとき、大山さんの中でそれは単なる新しい言葉の発見に留まらず、自分の中にある違和感に気づくきっかけとなったようです。

「正直、それまで自分も差別していたのに、『自分もそうかもしれない』と思って、凄くショックだったんです。でも、自分の過去を振り返えれば振り返るほど確信が生まれて…。ただ、それがレズビアンなのか、バイセクシャルなのかも、気分によって変わるので未だによくわからなくて。ただ、『自分の性的指向は男性だけじゃないな』って思いました。当時は、性的マイノリティが世間的に受け入れられている感じがしなかったので、『自分は世間に受け入れられない側の人間なんだ』って、劣等感を感じました。『普通じゃないんだ』、『自分は異常なんだ』って…」

 友だちや親など、身近で親しい友人にさえ打ち明けられないもどかしさ…。自分がセクシャルマイノリティだと気づいてから、誰にも言えず苦しい時期を数カ月ほど過ごした大山さんでした。

 しかしある日、そんな彼女を根本から変える出会いが訪れます。

内気だった
大山さんを変えた
「マイプロジェクト」
との出会い…

しんじょう・レインボープロジェクト
しんじょう・レインボープロジェクト
「ありのままの私を受け入れてくれる人」という作品には、大山さん(向かって左)も登場しています。
“生まれて初めて、
自分を表現することの
楽しさに気づきました”

 当時、高校1年生だった大山さんは、進学候補であった大学へ学校見学に行く予定だったところ、担任だった東郷尚子先生から「見学がてらに“マイプロジェクト”というものが行われるから、参加してきなよ」とすすめられたと言います。

 そのときは、それがなんなのかよくわかっていなかったものの、尊敬する担任がすすめるものなので、見に行くことに決めたそうです。そこでの出会いが、今後の彼女を大きく変えるほどの出来事になりました。

 「マイプロジェクト」というのは、岩手県発祥の高校生支援団体で高校生のやりたいことを大人が一緒に支援しながらプロジェクト単位で進めていくというもの。その日開催されたワークショップに参加した大山さんは、思い切って自分の想いを大人に打ち明けてみたそうです。すると思いのほか、すんなりと受け止めてくれたことが、とてもうれしかったそう。

「生まれて初めて、“ああ、ありのままの自分を表現して、他人に認めてもらうということは、こんなに心が楽になるんだ”と実感しました」

 初めて自分の悩みを大人に打ち明けたことで、とても心が軽くなったという大山さん。これは大山さんにとって、大きな飛躍になったことは間違いありません。ですが、まだクラスの友だちなど、より身近な存在の人々には打ち明けることができずにいました…。

 高校生は「性」に対して多感な時期。周りは当然のことながら恋愛話に花が咲いていました。それがさらに、当時の大山さんを苦しめたのだそう。

「友だちと一緒にいると、恋話になるじゃないですか。高校生ですし…。そうなったとき、友だちは自分に本心を話してくれてるのに、自分だけ真実を打ち明けられないのが辛くて。友だちに嘘ついてるみたいで、だんだん嫌になってきて、本当にどうしようもなくなってきたんです」

 辛さに耐えられなくなった大山さんの心の支えになったのは、またも信頼を寄せる担任の東郷先生の存在でした。

「一人で抱えきれなくなったとき、担任の先生に相談しました。そしたら、“じゃあみんなに話してみ。きっとわかってくれるから”って、後押ししてくれて…。ある日ホームルームの後に時間をもらって、みんなの前で話すことになったんです。受け入れてもらえるか凄く不安だったし、めちゃくちゃ緊張して、泣いてしまいました。でも後日、みんなが私にノートをつくってくれたんです」

 そのノートには、クラスみんなの想いがつづられていたということ。『勇気出して教えてくれてありがとう』や、中には『自分も男だけど女みたいな格好するのが好き』という告白もあったと言います。

 クラス全員の前で泣きながら想いを打ち明けた大山さんを、みんなは温かく受け止めてくれたのだそう。

「打ち明けたことで、とても心が軽くなりました。ただ、担任の先生が差別に敏感な方で、授業でも差別についての学習がちゃんとあったから、偏見がなかったんだろうなと思ったんです。だから、自分が住む新庄市全体がこの教室みたいに、多様性を受け入れる地域になればいいと思いました」

“とは言え正直、
「身内」へのカミングアウトは、
一番辛かったですね”

 セクシャルマイノリティの方がぶつかる壁のひとつに、身内へのカミングアウトがあります。大山さんも家族へのカミングアウトが、「何よりも辛かった」と言います。

「やっぱり一番辛かったのは、身内へのカミングアウトですね…。友だちよりもきつかったです。友だちは同い年ということもあって価値観も似ているというか、すぐ受け入れてくれたんですけど、親に自分は“トランスジェンダー”とか、“バイセクシャル”とか、そういう類かもしれないっていう話をしたら、案の定びっくりされて…。びっくりしすぎて、拒絶反応のような態度も見せるようになっていました」

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Hiroki Ohtani

 「女の子として育ててきたのに、いきなり言われても困る」「そんな横文字わからない」と、最初はなかなか理解してもらえなかったそうです。

「その後も悩みましたね。『どうしたらわかってもらえるんだろう?』とか、『そもそもわかってもらう必要はあるのかな?』とか思いながら…」

 しかし、「なんとなく、拒絶されることは察していました」とも言う大山さん。拒絶され、自分が傷つく恐れがありながら、なぜ身内へカミングアウトしようと思ったのでしょうか?

“一番近くで育ててくれた
親にこそ正直に
自分の真実を伝えたかった。
そうしないと心が
晴れなかったんです”

「そのときはヘコみましたね。やはり想定内であったとしても、対面で拒絶されてしまうと『あ…』っという感じで一瞬言葉が出なかったです。ですが、やはりこの活動をしていく上で隠し通せないですし、何よりも一番身近で育ててくれた人に自分の真実を正直に伝えたかったんです。そうしないと、心が晴れなかった。相手のためというより、自己満足かもしれないですね…。ちょっとヘコみましたが、そのときから逆に、『見返すぞ!』という感じで謎のやる気が湧いてきました(笑)。当時は、反抗期だったのかもしれませんね…」

 すると次第に、最初は受け入れることに難しさを感じていた両親も、大山さんの活動がさまざまなところで高評価を得たり、周りの人からの後押しも加わったりすることで、「今日活動なんだよね、送っていくよ」などと応援し、理解してくれるようになったそうです。

「今は両親もすごく前向きにとらえてくれて、逆に楽しみにしてくれています」と、うれしそうに大山さんは語りました。

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Hiroki Ohtani

心の隙間を埋めて
くれた“高校3
年間”…

「中学生のころは全然社交的じゃなかったので、1人で悩んでいました。今考えると、自分の気持ちを人に話そうとしていなかったので、自分の本心に気づけなかったのかもしれません。でも高校へ進学して、友だちやマイプロジェクトの方々を含めさまざまな大人の皆さんと関わっていくうちに、自分の悩みを聞いてくれる人が増えました。今まで悶々と自問自答していたことを、人に話すということを覚えたんです。そのことで、多角的視点から意見を聴けるようになって、自分の気持ちをより深く確認することができたような気がします。そのとき、“本当の自分を表現することがどれだけ気持ちいいか”を、初めて知ることができました」

本当の自分を表現できて
初めて“やりたいこと”が
内から湧き出てきた…

「それまでの私はすごく受動的で、先生や誰かが『これやってみたら?』ということに対して、「ああ、そうですね」と言いながら実践したりしていなかったり…。主体性がまるでありませんでした。いま思えばそれは、自分自身にちゃんと焦点を当てることができていなかったからかもしれません。主観的な気持ちを表明することも、自分を客観視することもできていなかったんですね。本当は、“見て欲しい”と叫んでいた自分がいたのに、それに私自身が気づくことができなかった…。だからきっと、自分が本当にやりたいことも何も湧き出てこなかったんです。当時は毎日が、本当につまらなかったです…」

 そんな大山さんも、高校1年生の秋に自分がセクシャルマイノリティであることをカミングアウトしてからは、「人生が見違えるほど開けてきました」と語ります。

「本当の自分を出すようになってから、人生がガラッと変わりました。それまで何に対しても興味がなかったのに、やりたいことが自分の中からどんどん湧いてきたんです。ワクワクして楽しくてしょうがなくなった…高校でこの活動をしていなかったら出会えていなかった沢山の素晴らしい人たちに出会えたのは、本当に人生の財産です。いい人に出会えたから新たな自分にも出会えましたし、少しの勇気でこんなに素敵なものが手に入るなんて当時は思っていませんでした。新庄で活動できて、本当によかったなって今心から思っています」

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しんじょう・レインボープロジェクト
タイトルは「三勇気。」。こちらも大山さんが被写体となっています。

“別に無理しなくていい。
ただ悩んでいるなら、
「打ち明けても平気だよ」
って伝えたい…

 写真展を観た方が感想を書くことのできるフリーノートの中に、こんなコメントを見つけました。

「私は臆病者なので、戦うことも、抵抗することもしないまま、くたびれていくのだと思います。勇気が欲しいです

 そして、性別や年齢もわからない匿名のこのコメントの下に、小さくこう書かれていました…。

「あげます」

「数年前だったら、もっと厳しかったかもしれません。ですが今は、世間的にカミングアウトしたことで茶化してくる人のほうが「悪」に見える風潮ができつつあると思っています。確かに今後大人になっていく過程で、『いつか誰かに何か言われたりするかな?』とたまに不安になることもありますが、『カミングアウトする前に戻りたい!』とは絶対思わないですね。やっぱり本当の自分を隠すことのほうが、とても辛いんです。世間の目よりも、“自分らしく堂々と生きられる世界”のほうが、私にとっては何十倍も幸せで、楽な世界でした」

理想は「特別視されない」こと
けれど、「特別視しなければ
変わらない」という難しさ…

「こういう活動をすることで、逆に『LGBTQ+を特別視しすぎじゃないか?』という声があって、表現の仕方にはすごく苦労しました。確かにその問題もあって、『特別じゃない』という題名なんですけど…。でも現状では逆に、『特別視しないと変わらない』と思ったんです」

 そこでそんな大山さんに、LGBTQ+に対する世間の対応としての「理想」を聞いてみました。

「よくメンバーの間で、“いつかLGBTQ+っていう言葉がなくなったらいいよね”と話しています。でも今、LGBTQ+っていう言葉も段々古くなって、SOGIと言われるようになったりしていますよね。別に同性愛じゃなくても、異性愛も入っていて、人間としての性的指向全般みたいな…。偏見も何もない世界というか、そういう考えがもっと一般的になればいいなって思っています」

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しんじょう・レインボープロジェクト
写真展に飾られた1枚「128√e980」は、上部を消すと“I love you”の文字が浮かび上がるという不思議な数字と記号の集合体。Twitterで一気に拡散されたワードを使って、伝え方に悩む高校生の気持ちを表現したそうです。

この活動をして
一番よかったことは、
人とのつながりを
学べたこと…

「LGBTQ+というより、この活動をしたことで、人との関わりってすごく大切だなって思えました。前は大人の言うこと全てに反抗的でしたが、この活動を通して“ああ、あのときこう考えていたから、大人たちは私にあんな助言をしてくれていたのかなぁ?”と気づくことができたんです。『私の考えが至らなかった』って反省しています。この活動をしていなかったら、そういう大人の思いやりにも気づけなかったですね。見える世界が全く変わりました。そういう意味で本当に、『しんじょう・レインボープロジェクト』は私に多くを与えてくれました」

 思春期のドキドキ、ワクワク、そして苦悩と葛藤。純粋に人を愛する気持ち…。青春を全力で駆け抜けた大山さんと仲間たちがカタチにしたこの写真展は、さまざまな人の心を打ち、大きな力となりました。そして結果的に、大人たちをも勇気づける火種となったのです。表現することの楽しさ、自分らしくあることの気持ち良さ…そんなものがひしひしと伝わってきました。

 最後に私は、一番訊きたくて訊けなかった質問を大山さんに投げかけてみました。

「日本では実際、まだLGBTQ+の人に対する偏見の目があるのも事実です。自分の性的指向を明らかにして、就活や生きていく上で社会的に不利になったとしても、このプロジェクトをやっていたと思いますか?」

 その問いに、彼女はこう答えました。

「やっていたと思います。実際、『時代的に今は、もうそこまで心配することじゃない』と思っていますし、『自分らしく生きていたら、きっと良い人たちに出会える』と思っています。実際に私がカミングアウト後に出会えた人たちは、誇りに思える人たちばかりですから…」

 その後、取材を終えて撤収作業をしている最中、「そう言えば…」と大山さんのほうほうから呼び止めてくれました。

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Hiroki Ohtani

「今山形では、500円玉より大きな実をつけるサクランボの新品種(やまがた紅王:2023年に本格販売予定)の開発が進められていて、さらに甘く美味しくなるんですよ。これが完成したら、ぜひ食べに来てください。私も早く食べたいなあ…」

 2021年の春から、都内の大学で学んでいる大山さん。山形が大好きだそうですが、今は都内で多くを学び、いつかそれをまた愛する故郷へ還元していきたいのだそう。

 写真展の会場をあとにしたとき、私は新庄城跡公園付近で桜の木々を見つけました。まだ花は咲いておらず、蕾が少し膨らんだ頃でした…。

 「そういえば桜の実は、さくらんぼなのか!?」と思い出しました(正しくは、さくらんぼの木は『セイヨウミザクラ』で、お花見の桜の代表的存在となっているのは『ソメイヨシノ』と、種類は違いますが…)。赤くてピカピカなさくらんぼ…その甘酸っぱさから、「青春の味」とも呼ばれています。「しんじょう・レインボープロジェクト」の フレッシュな“さくらんぼたち”が、やがて見事な桜となって、日本そして世界へと咲き誇る様子が頭に浮かんできました。

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