デビッド・ベッカムは言わずと知れたサッカーの元名選手で、Netflixの新しいドキュメンタリー番組はそのことを熱心に伝えようとしているようです。彼が歩んできた人生には他にもいろいろなことがありましたが、2023年10月4日(水)配信される4部構成のドキュメンタリー番組『ベッカム』のポイントを1つ取り上げるとすれば、それは実にストレートですが忘れがちとも言える「サッカー」です。

サッカー選手を題材にしたスポーツドキュメンタリーが、「サッカー選手としての彼の価値を伝えたい」というのは、少し奇妙なことでしょう。普通はその逆で、例えば「ニコラ・アネルカというサッカー選手は、実は多面性を持っていて、サッカー以外のさまざまなことでも象徴的な存在だ」と、ドキュメンタリー制作者が何話もかけて理解させようとするはずです。

ですが今回取り上げるのは、デビッド・ベッカム。彼はファッションアイコンであり、オリンピックからザ・キュー(エリザベス女王の弔問を待つ長い行列)に至るまでイギリスの公的な場で魅力を振りまく万能の存在であり、「ベッカムヘア」と呼ばるほどそのヘアスタイルは人気を極め、その他にもいろいろなことで以前から注目を浴びてきました。

『ベッカム』の監督は、『メディア王 〜華麗なる一族〜』のゴマすり男ヒューゴでも知られるフィッシャー・スティーブンスで、予告編を見る限り、子どもの頃にボールを投げて遊んでいるホームビデオ、デビューしたての頃の映像、パパラッチがストロボをたいて名声の高まりを暗示するコーナー、見慣れた時期から新たな発見につながるヒントまで、この手のドキュメンタリーがやりがちなことをたくさんやっているように見えます。

Netflixによると、この作品は“デビッド、妻のヴィクトリア、家族、友人、チームメイトへ前例のないほど踏み込んでいる”とのこと。そうだとすれば、地味なスタートから世界的な名声を得るまでの彼の浮き沈みを描くこの作品は、“一人の男の親密な肖像画であると同時に、現代後期のスポーツとセレブリティ文化の年代記”となるでしょう。

preview for Beckham documentary series - Official Trailer (Netflix)

このドキュメンタリー番組には、例えばヴィクトリアがマンチェスター・ユナイテッドの本拠地「オールド・トラッフォード」の観衆を最新鋭のビデオカメラで撮影して大笑いしているような、とても可愛らしく無防備な映像もあります。私たちが慣れ親しんでいるスポーツドキュメントよりも、少しドラマチックな皮肉も…。

ベッカムは急激に高まっていく名声について、「それは間違いなく、私を変えるものではありませんでした」と語りました。が、マンチェスター・ユナイテッドの元監督サー・アレックス・ファーガソンは、「それが彼を変えたのは間違いありません」と言います。

ただ何よりもこのドキュメンタリー番組は、デビッド・ベッカムがサッカー選手であり、非常に優秀で懸命に努力したサッカー選手であったことを改めてキッパリと伝えようとしていることが明らかに感じられます。名声とヴィクトリアという妻、アルゼンチン戦でのレッドカード、レアル・マドリーへの移籍という華々しい印象も強いですが、「努力家のサッカー選手」というのがベッカムの本質です。

長い間、ベッカムのサッカー選手としての価値観は流動的なものでした。名声を手に入れるというのはとても大変なことで、彼の右足やパスを賞賛しても誰かが必ず、「彼は特に足が速いわけでもなく、左足が特別優れているわけでもなく、空中戦が得意なわけでもない」と指摘するのです。

そのような部分を取り除き、ベッカムの基本的な魅力…つまりサッカーがスポーツから華やかなポップカルチャーのイベントへと変貌を遂げつつあるときにサッカー界に登場し、スポーツ選手から第2のキャリアを巧みに築き上げた容姿端麗で勤勉な男であることを改めて伝えようとしているのです。

『ベッカム』は、2023年10月4日(水)より配信となります。

Netflix

Source / ESQUIRE UK
Translation & Edit / Satomi Tanioka
※この翻訳は抄訳です