「パンクの歴史をテレビシリーズで描き出す」と聞くと、「ちょっと、それは不可能では?」と思えるかもしれません。

 このムーブメントの純粋なエネルギーは、誕生当初から反抗と商業性の間を紙一重で行き来してきましたので…。これについては今に至っても議論は尽きず、定義するのは至難の業となるでしょう。

 そんな折、米ケーブルテレビ局「EPIX」が2019年3月11日にオンエアした4部構成のドキュメンタリー「Punk(パンク)」は、デザイナーのジョン・バルベイトス氏とパンクのゴッドファーザーたるイギーポップがエグゼグティブプロデューサーを務め、誕生から50年が過ぎたこのジャンルを定義しようと試みているのです。

 「パンク」という本質的につかみどころのない音楽は、様々な否定的な動きに反しながら、世界中で若者の音楽による反抗の象徴として脈々と生き残り、一部の世界ながら成功してきました。エスクァイア編集部では今回、この最新プロジェクトについてジョン・バルベイトス氏に話を聞きました。 
 
 するとバルベイトス氏は、「これは生き方やカルチャーに関する語り継ぐべきストーリーだったのです」と話し始めました…。 
 
 「パンクとは常に、大手レコードレーベルを意に介さない若手アーティストたちのものでした。また彼らは、ナンバー1シングルやMTVといったものも気にかけてはいません。純粋に外に出て、自分たちの音楽を演奏したかっただけなのです。その後、パンクは90年代以降、より多くの聴衆に受け入れられるようになりました。『Green Day(グリーン・デイ)』や『NOFX(ノーエフエックス)』のようなバンドが、パンクをメジャーなジャンルへと変えたのです。あの時代、パンクはラジオやMTVでナンバー1をとっていましたからね…」とバルベイトス氏は続けて話しました。

Iggy Pop
Leee Black Childers//Getty Images
観客に中指を立てるイギーポップ。


  「パンク」は、1960年代後半にバルベイトス氏の出身地であるデトロイトで始まったという説があります。この時代背景としては、「Led Zeppelin(レッド・ツェッペリン)」、「Deep Purple(ディープ・パープル)」、「Yes(イエス)」、「King Crimson(キング・クリムゾン)」がデビューし、「The Beatles(ビートルズ)」、「The Rolling Stones(ローリング・ストーンズ)」、「The Who(ザ・フー)」が人気を獲得してきた時代。そうした中、およそ30万人ともいわれる聴衆が集まったウッドストック・フェスティヴァルが開催された1969年に、商業的なロックにアンチテーゼを投げかけるスタンスで登場した2バンド「MC5(エム・シィー・ファイヴ)」「The Stooges(ザ・ストゥージズ)」がデトロイトから現れたのでした…。コレがパンクのすべての始まりであるということ。

 この考えのもと、この音楽が現在に至るまでの歴史を振り返りながら、あらゆる誇り高きパンクバンドが持つ名声と成功との複雑な関係を描いている映画なのです。「パンクの歴史の中で何が起こったのかを見るのは、本当に面白いものです」と、バルベイトス氏はコメントします。 
 
 「パンクには、『決して商業主義には走らない』という態度があります。しかし、実際はこのドキュメンタリーに登場する一部の人々が語るように、彼らは、最終的には自分の音楽をより多くの人に聞いてもらいたい願望に駆られるわけです。個人的には、有名になったパンクミュージシャンの多くは、必ずしも商業的成功を求めてスタートしたわけではないと思います。何とか音楽で生活できるよう、目指していただけでしょう。そして最終的に、彼らの音楽が多くの人に聞かれることになったというだけなのです…」と、バルベイトス氏は続けてコメントしました。

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Michael Ochs Archives//Getty Images

 

 そして、パンクはこれからも続きます。

 バルベイトス氏のプロジェクトは、パンクの過去を描き出すとともに、まさに今起こっているムーブメントを断固たる姿勢で描いています。 

 「パンクには、知るべき歴史があることは確かなこと。ですが、この音楽は過去のものではないことも確かなのです。パンクが語るストーリーは、現代にも通じるものです。どの世代にも、ふつふつと湧く反抗の精神や若者の苦悩を表現するものです…。これが、すべてのエピソードをまとめる共通のテーマとなっているのです。最後のエピソードでは、現在のパンク界で支持されている多くのバンドに光を当てています。その1つが、英国ウェールズの『Pretty Vicious(プリティ・ビシャス)』というバンドであり、彼らは私のレーベルである『BIG MACHINE JOHN VARVATOS RECORDS(ビッグ・マシン・ジョン・バルバトス・レコーズ)』と契約を結びました。このバンドは1977年のパンクとは違っていますが、その音楽からは間違いなくパンクのルーツや苦悩を感じられることでしょう。パンクという音楽に、当時とは異なる感覚をプラスしているのです。とは言っても、あのころの『The Stooges(ストゥージズ)』のようなことを繰り返したり、あるいは『Ramones(ラモーンズ)』のようになったとしても、そこには何も新しい主張はありません」とバルベイトス氏。 
 
 ちなみにこのシリーズの中のインタビューには、デビー(デボラ)・ハリー(「Blondie(ブロンディ)」のヴォーカル)やジョニー・ロットン(「Sex Pistols(セックス・ピストルズ)」のリードヴォーカル)、マーキー・ラモーン(前出の「ラモーンズ」のドラマー)、そして「Iggy Pop(イギー・ポップ)」自身など、最初期のパンクの体現者たちも登場をはたしています。

 彼らは今や大御所ともいうべき地位にありますが、必ずしもそんな振る舞いはみられれないところが魅力でもあります…。 
 
 「ロサンゼルスでのプレミア上映に合わせて出演者が集まったとき、集会自体は大部分がポジティブなものでしたが、マーキー・ラモーンとジョニー・ロットン(ジョン・ライドン)の間には一悶着あったんです。ジョニーがラモーンに『気取り屋で本物のパンクロッカーじゃない』と言いがかりをつけたためでした…」と、バルベイトス氏は振り返っています。

The Sex Pistols Perform Live
Richard McCaffrey//Getty Images
1978年、サンフランシスコのウィンターランド・ボールルームで演奏する「セックス・ピストルズ」。シド・ヴィシャス(左)とジョニー・ロットン(中央)、スティーブ・ジョーンズ(右)。


 ロットンに関しては、ことあるごとに誰かを挑発しようとするクセの持ち主であることは広く知られていますが、これを絶好の機会と40年来のライバルに喜々として喝を入れたのでしょう。

 これに対しマーキー・ラモーンは、見事に言い返したのです。「確かにシド・ヴィシャスはスターだった」とセックス・ピストルズのフロントマンであるロットンを無視し、ベーシストでおそらく最も顔が知られているシド・ヴィシャスに言及したのでした…。 
 
 これに対しロットンは、「そのとおりだ。あいつはお前みたいなフェイク野郎のスターだった。ドラッグを楽しんで、ハッピーに死ねばいいさ」と返したと言うことです…。そして、このあとに言うのはなんですが…「パンク」は間違いなくなおも健在であり、今後の音楽シーンでも間違いなく生き続けるジャンルであることでしょう。

 では最後に、イギー・ポップの『Lust for Life』をお聞きください。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Iggy Pop - Lust For Life
Iggy Pop - Lust For Life thumnail
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From Esquire US 
Translation / Wataru Nakamura 
※この翻訳は抄訳です。


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