世界39都市で56公演を行い、270万人のファンを魅了した「ルネッサンス・ツアー」は累計5億7900万ドル以上を稼いだそうです

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RENAISSANCE: A FILM BY BEYONCÉ | Worldwide Trailer
RENAISSANCE: A FILM BY BEYONCÉ | Worldwide Trailer thumnail
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午後10時、アメリカ・ニュージャージー州のメットライフ・スタジアムでのこと。「ルネッサンス・ワールド・ツアー」で、約2時間ほど経過したときにビヨンセは、観客に挨拶するためパフォーマンスを一端停止して、「Thank you for coming,(来てくれてありがとう…)」と伝えます。

それは2023年7月29日(ちょうど1年前、アルバム「ルネッサンス」をリリースした日と同日です!)のこと、公演に足を運んだ人々を眺め、「(この中にはきっと)私と20年来のお付き合いの方もいるでしょう」と続けます…。

まさに、私もその一人です。6歳の頃にビヨンセを初めて観て、その後、間もなくしてデビューアルバム「デンジャラスリィ・イン・ラヴ」が発売されます。キラキラと輝くトップスをまとったビヨンセがジャケットのCDをカーステレオで流したとき、まるで天国にいるような気持ちにさせるミステリアスな女性の歌声に驚嘆したものです。もちろん、今でもその瞬間、その感覚を具体的に思い出します。

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とは言え、20年の時を経てもなお、ビヨンセは私にとっていまだにミステリアスな存在です。2022年7月29日にリリースされたアルバム「ルネッサンス」を聴いたとき、さらにそう感じました。2023年9月4日に42歳になったビヨンセは3人の子どもと、これまで7枚のアルバムを産み出しています。が、彼女は今もまるで喉に天使が舞っているかのように歌うのです(キラキラと輝く衣装も手放していません!)。

再び、メットライフ・スタジアムに戻りましょう。

ビヨンセがスピーチを終えると、8万人のファンから凄まじい歓声が沸き起こり、フロアは揺れ、グリッター(銀テープやラメ)が舞い上がります。会場の大スクリーンに映し出された彼女の目には、ほのかに涙が浮かんでいるようにも見えました。ビヨンセが笑顔を向けると、観客は再び大きな喝采をおくります。もう彼女は、それ以上何かを言う必要などありません。私たちにはわかります。そう、ビヨンセはもはや伝説なのです。そして今はただただ、“ルネッサンス(※1)”を祝福する時間です。

※1  今作においての“ルネッサンス”は“再生”という意味で、「新しいクラブ時代に祝福を」という思いが込められています。

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この「ルネッサンス・ツアー」は2023年5月10日にスウェーデンのストックホルムで幕を開けるとヨーロッパを横断し、北米に到達前にさまざまな場所を巡りました。

なので、ビヨンセがニュージャージーに到着する頃にはすでに、これまで開催された公演での動画がオンライン上で拡散されています。そこでシルバーの光に包まれたコンサートの一部を垣間見るだけで、彼女自身にとってこの「ルネッサンス・ツアー」を自分史上最高のものにしようという意気込みが実感できる…。中にはそれだけで、涙腺が緩んだ人もいるでしょう。そして現に結果として彼女史上、最大の存在価値をもたらしたのですから…。

Forbes』誌は、世界39都市で56公演を行い、270万人のファンを魅了したビヨンセ「ルネッサンス・ツアー」は累計5億7900万ドル(約860億円)以上稼いだと伝えています。

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私は20年にわたる熱狂的なファンですが、そこにいる観客全員がそうであるように、私も「ルネッサンス・ツアー」を純粋に没入して楽しみました。ビヨンセがビヨンセであることは周知の事実ですが、彼女とライブダンスを生で観て、一緒に踊っては歌い、そしてもちろん“Beyhive(※2)”と交流することで改めて私は「新たな学びがあるはずだ」と思ってもいました。

※2 ビーハイブ。蜂の巣を意味するbeehiveと掛けているビヨンセの“Bey”を掛け合わせたビヨンセのファンダム(熱狂的なファン集団)の総称。

beyoncé renaissance world tour amsterdam
Kevin Mazur//Getty Images
パーティーの会場にて、見覚えがない人なのにその人と本質的なつながりを感じてしまう瞬間って、ありませんか? 「ルネッサンス・ツアー」に参加すれば、その感覚に満ちあふれるはずです。

会場で最初に出会った人は、誇らしげに煌びやかなトップスを身に着けたザヒールです。彼に、「なぜ、ビヨンセを愛しているの?」と尋ねると、「彼女のブラックネス(黒人性)だね。それがビヨンセ自身のウーマンフッド(女性性)、そして歌声と絶妙に調和しているところだね」と言います。

次に話を聞いたのは、自称スーパーファンのリッキー・マイルです。彼はまるで「ビヨンセの偉大さに質問なんて不要さ」と言わんばかりに、「彼女は時代を超越しているから」と答えます。彼によれば、「いつだって…そのキャリアがどの時代であっても、私生活で何が起こっていようとも、常に素晴らしいショーを披露しているのさ」ということです。

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Beyoncé - HEATED (Official Lyric Video)
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私も同感です。コンサート(とアルバム「ルネッサンス」)は、ビヨンセの叔父であるジョニーへのオマージュとなっています。ジョニーはゲイで、ビヨンセをハウス・ミュージックへと導いた人物でもあります。「ルネッサンス」は彼へのオマージュそのものと言って過言ではないでしょう。ドラァグ・アイコンであるケヴィン・アヴィアンスの『Cunty』やモイ・レネーの『Miss Honey』などがサンプリングされ、人気ボール・ルームのダンサーであるハニー・バレンシアガもカメオ出演するなど、そこは巨大なクィア・パーティー会場にもなっていました。

「ルネッサンス・ツアー」はまるでビヨンセのコミュニティへの大きなラブレター

今回のライブでは、ビヨンセの過去作も散りばめられています。しかしそれは、テイラー・スウィフトの「ジ・エラズ・ツアー」のようなものではありません。年代順に曲を選ぶのではなく、ビヨンセは自身のお気に入りのヒット曲をミックスしているのです。コンサートは力強い『デンジャラスリィ・イン・ラヴ』の歌唱で幕を開け、切ないバラード・ソング「1+1」へと続きます。

そして、誰かに愛を告白したいと思えたような瞬間に、ビヨンセはギアをシフトし、『I’m That Girl』といった自信に満ちた「ルネッサンス」のトラックを披露していきます。ルールはない純粋な楽しさ…「どんな感じか?」って。それはまるで、同窓会のようです。なにしろ“Beyhive”がこのツアー前、最後に集まったのは2016年の「フォーメーション・ツアー」だったのですから…。

パーティーで見覚えがないのに、その人と本質的なつながりを感じる瞬間ってありますよね? 「ルネッサンス・ツアー」に参加するのは、まさにそんな感覚です。一人で行けば、会場全員が見知らぬ人です。が、入った瞬間に誰もが従兄弟(従姉妹、従兄妹、従姉弟)のように感じるのです(つまり、少し離れてはいるものの血のつながりを感じるのです)。おそらく、それがビヨンセの存在を、私たちファンダムにとっての女家長的ポジションにさせているに違いありません。彼女のパフォーマンス中、「マザー!」と叫ぶファンの群衆に聞いてみればすぐに納得できるでしょう。

この母性的エネルギーは、他者を励まし、奮い立たせようとするビヨンセの渾身のパフォーマンス、献身のパッションから生まれているのかもしれません。前述のクィアなアイコンへの言及に加え、ビヨンセは「ルネッサンス」を通じて黒人女性を称賛しています。コンサートでは、マドンナをフィーチャーした『ブレイク・マイ・ソウル (ザ・クイーンズ・ヴァージョン)』を歌います。このリミックスは、ベッシー・スミス、ローリン・ヒル、ニーナ・シモンなど、彼女たちにインスピレーションを与えた全ての黒人パフォーマーたちに敬意を示しています。その後、ビヨンセは娘のブルー・アイビーをステージに招き、彼女たちの継承を称える『マイ・パワー』と『ブラック・パレード』を歌います。

「ルネッサンス・ツアー」はビヨンセのコミュニティへおくられた、巨大なラブレターではないでしょうか。

beyoncé renaissance world tour new york
Kevin Mazur//Getty Images
伝説的なステータスを持っていても、ビヨンセだって人間なのです。物事がうまくいかないときには、くすっと笑わずにはいられません。

「ルネッサンス・ツアー」は芸術であり、疑似的な共同体であるだけではなく、“肉体的な偉業”でもあります。驚きの演出の連続なのです。ビヨンセがピークに達してるなぁよ思った瞬間、次には別の何かで驚かせてくれます。そう、奇想天外でもあります。

あるとき、彼女は誰も聴いたこともないリフ(リフレイン)を歌い、ピンヒールを履いて踊りだします。ほんの数秒でも目を離すと、サプライズの衣装チェンジやエキサイティングなセットデザインを見逃してしまうでしょう。まさに、マジックです。

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Beyoncé - Formation (Official Video)
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ビヨンセはジレンマを提起することでわれわれを激励する――まさに「マザー!」

「『フォーメーション』を聴いてなぜか、私は胸が張り裂けそうになって、その後もずっと泣き続けてしまったの」と、コンサートが終わった後に10代の少女が、袖で涙を拭いながら話している姿を見かけました。

ビヨンセ、“Queen Bey”との対面で泣く人もいれば、その代わりに叫ぶ人もいました。その一例として、「エナジー」を歌ったときのこと。この力強いクラブトラックはコンサートの中盤で披露されました。ビヨンセが「Look around everybody on mute(周りを見て。全員ミュート)」と歌うと、ドラマチックな演出にさせるため観客に静かにするように指示します。それは素敵な演出だったかもしれませんが、観客は夢中で歌っていてこのミュート・チャレンジに応じる余裕はありませんでした。

ですがビヨンセは、それを気にするわけでもなく、ただ笑ってそのまま進行します。伝説的なステータスをもつビヨンセですが、彼女は物事がうまくいかないときには、くすっと笑わ人間なのです。そこにも、彼女の母性を感じる人もいるでしょう。

帰り道にライブメモを眺めていると、ハービーという親切な男性との会話からいくつかの言葉を見つけました。コンサート前に出会った彼は、ビヨンセも共感して称賛してくれるであろうキラキラと輝くシルバーの服をまとっていました。彼は私の 「なぜビヨンセが好きなのですか?」という問いに、こう答えてくれたのです。

「彼女を観ていると、“人間は限界がある”と同時に“人間は無限の可能性を秘めている”という(情熱的でポジティブな)ジレンマを感じる…それが、私の人生を前へと奮い立たせてくるのです…」。

Translation / Miki Chino
Edit / Minako Shitara(Esquire)
※この翻訳は抄訳です

From: Esquire US