私たちの心の中で“ミハエル・シューマッハ”という名は、モータースポーツと切っても切れない関係にあります。このドイツ人ドライバーは、ジョーダン・グランプリ(在籍期間1991~1995年)、フェラーリ(在籍期間1996~2006年)、メルセデス(在籍期間(2010~2012年)のF1チームでドライブし、1度や2度ではなく、7度もワールドチャンピオンに輝いています。2012年の引退までに91勝を挙げており、まさに彼は生ける伝説として語り継がれています(単純に速さだけならセナですが、シューマッハはチームとしての総合的でオーガナイズする能力はピカいち。限界点を最も長く維持できる、アベレージが高いドライバーと言えるでしょう)。

 そしてもちろん、引退後10年が経とうとしている現在も、シューマッハの名は史上最速のドライバーの一人として世界に知れわたっています。

 そんな彼の偉大なる功績を称えるべく、『Schumacher(シューマッハ)』というタイトルの新しいドキュメンタリーがまもなくNetflix(ネットフリックス)で公開されます。ドイツのレースファンで構成されたチームが監督したこの映画は、私たちが尊敬しながらも実際にはあまり知ることができなかった彼の姿を、よりよく描き出しているとのこと。

 ミハエル・シューマッハは、ドイツのライン川沿いの都市ケルンの郊外にあるヒュルトで育ちました。彼のキャリアは、4歳のときに父親が中古のペダルカーにエンジンを取りつけたことから始まります。そしてシューマッハがカートを街灯に衝突させた後に両親は、「この子(シューマッハ)には、もっと馬力のあるクルマが合うのかもしれない」と気づきます。そして彼を、地元のカートクラブに連れて行くと…あとはご想像どおり、新たな歴史の始まりというわけです。

ミハエル・シューマッハ:
生ける伝説

「シューマッハが優れたレーシングドライバーである理由とは?」

 その答えは、Netflixの新しいドキュメンタリーが誕生するほど極めて重要なことです。しかし、それは言うは易く行うは難(かた)し…。一流のアスリートを何年もかけて取材したアメリカの作家デヴィッド・フォスター・ウォレスは、この伝説的アスリートを「閉じた本」に例えました。シューマッハの脳の中で何が起こっているのかは、われわれにとっては疑問であり、彼にとっては知識なのです。

 ファンは、「シューマッハの成功は、技術的なドライビングスキルによるものだ」と考えているでしょう。性能の低いクルマでも、より速いモデルに追いつくことが彼にできたのは、クルマのメカニズムを詳細に研究していたからに違いありません。シューマッハにとってクルマは、冷たい移動手段ではないのです。自分の身体の延長線上にあるものだったのでしょう。

michael schumacher netflix documentaire
Paul-Henri Cahier / Getty Images//Getty Images
シューマッハの名前は、モータースポーツと永遠に結びつけられるでしょう。

 スポーツ誌『Bleacher Report』の記者ニール・ジェームズは、「シューマッハは単純に速すぎた」と書いています。「F1は彼を呼び戻すために、ルールを変えなければならなかった」とも…。

  その速さは、「自らの目で見ないと理解できないほどだ」と言います。

 「ドライバー としての彼は、無尽蔵だった。最初から最後まで、彼はパフォーマンスを続けました。レーシングカーの世界では、彼は"ターミネーター "と呼ばれていたのです」

 ロイター通信のスポーツ解説者であるアラン・ボールドウィンによると、「シューマッハは常に、ロボットのように集中していた」と言います。彼は決して自分の決断を迷うことなどありませんでした。しかしそれは、2007年に一度目の引退を表明し、2009年に長らく休んでいたキャリアを再開させるまでは、のことです。

 「復帰後は、"2代目シューマッハ "と呼ぶにふさわしい、はるかに人道的でした。フェラーリのドライバーをしていた頃は、仙人のような生活をしていたんです。まるで、彼の集中力を妨げるものなど何もないかのように」と、ボールドウィンは話します。

 他のスポーツ選手と同様、シューマッハもいくつかのスキャンダルに巻き込まれています。1997年の最終戦となるヨーロッパGPでは、スタートからレースをリードしたいたものの、48周目にヘアピンでオーバーテイクを仕掛けてきたジャック・ヴィルヌーヴをブロックして接触。コース外にはじき出されてリタイアとなり、3位でゴールしたヴィルヌーブに逆転されてタイトルを逃す結果に。そしてシーズン終了後、FIA(国際自動車連盟)はシューマッハを召喚し、重大な過失と判定。1997年のチャンピオンシップからシューマッハを除外し、ドライバーズランキング2位は抹消されました。

 また2002年の第6戦、オーストリアGPでポールポジションのルーベンス・バリチェロがレースの大半をラップリーダーとなり、ファイナルラップまでバリチェロがトップであったにも関わらず、チェッカーフラッグを受ける直前で「シューマッハの飼い犬」と言われても仕方ないほど、2位走行中のシューマッハのためにブレーキを踏んでトップを譲ります。そんな不当な勝利に対し、国際的にメディアから集中砲火を浴びることにもなりました。

 このドキュメンタリー映画『シューマッハ』ではジャーナリストや専門家ではなく、弟のラルフや妻のコリンナなど、シューマッハをよく知る彼にとって身近な人たちからの話が聞けることも大きな魅力です。もちろん息子のミック(現在はレーシングドライバーとして活躍中)、そして娘のジーナも同席しています。さらに監督たちは、ジャン・トッドやバーニー・エクレストンといった業界関係者や、元ライバル選手のセバスチャン・ベッテルやミカ・ハッキネン、デイモン・ヒル、デビッド・クルサードなど、レース界のレジェンドたちの生の声も収録しています。ちなみにジャック・ヴィルヌーヴはどうでしょうか?

『シューマッハ』の公開日と予告編

 シューマッハは2012年にレース活動を休止し、その1年後の2013年12月にスキー事故によって脳に深刻な損傷を受け、現在もリハビリを続けています。このドキュメンタリーが彼の人生におけるこの暗いページにもズームインしているかどうかは、現在のところ明らかではありません…。

 確かなことは、ドキュメンタリー映画『シューマッハ』が2021年9月15日(水)からNetflixで配信されるということです。

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SCHUMACHER | Offizieller Trailer | Netflix
SCHUMACHER | Offizieller Trailer | Netflix thumnail
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Source / ESQUIRE NL