1989年開業の複合文化施設「Bunkamura」の映画館が2023年に復活

1989年、まだ日本が豊かだった時代、渋谷区松濤のすぐそば、東急百貨店本店に隣接する敷地に大規模なコンサートホール、劇場、フレンチカフェ、ブックストアやギャラリーなどをそろえた文化の発信基地として登場したのが「Bunkamura」。道玄坂下交差点からBunkamuraへと続く道は、「文化村通り」と呼ばれるようになるほどのランドマークにもなりました。そこにオープンした映画館がル・シネマでした。

bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下
.,
「Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下」東京都渋谷区渋谷1-24-12 渋谷東映プラザ 7F&9F(1F:チケットカウンター)公式サイト

東急百貨店本店も含めたBunkamuraは、再開発のため2022年より長期休館に。映画館とギャラリーはそれぞれ別の場所に移転。その役目を担うことになりました。ル・シネマは、宮益坂の交差点にあるビルに存在した旧渋谷TOEIの跡地でこの6月、新たなスタートを切ります。35mmフィルムでの上映と同時に4K上映にも対応したスクリーンと、「ZUCCa」の小野塚秋良氏が手掛ける「HAKUÏ」のコートを着たスタッフ、そして会場のモダンなデコレーションは、行くだけで気分が上がる空間に仕上がっています。

bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下
Bunkamura
bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下
Bunkamura

内装を手掛けたのは中山英之建築設計事務所。Bunkamuraを訪れる人々であふれたカフェレストラン「ドゥ マゴ パリ(Les Deux Magots Paris)」が、スタンドカフェ「ドゥ マゴ パリ プチカフェ」となって2フロアある各階にオープン。アートショップNADiffによる、特別なキュレーションがなされたブックストアも併設されています。

bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下
Bunkamura
bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下
Bunkamura

渋谷系ミニシアターブームの中でフランス映画のセレクトで光ったシアター

大型映画館で回される作品とは異なり、世界的な映画作家、特にフランスの個性的な作品をラインナップにそろえたル・シネマは、隣のブロックのシネマライズ(1986年開業)とともに80年代から続いていたミニシアターブームの代表的館のひとつ。

イザベル・アジャーニ主演『カミーユ・クローデル』(1989年公開)、『王妃マルゴ』(1995年公開)、カトリーヌ・ドヌーヴ主演の大河ドラマ『インドシナ』、エマニュエル・べアール主演『美しき諍い女』(ともに1992年公開)、アンドレ・テシネの『私の好きな季節』(1995年公開)、ジャック・ドワイヨンの『ポネット』(1997年公開)、英国文芸作『鳩の翼』、アニエス・メルレの『アルテミシア』(ともに1998年公開)、ヴェラ・ベルモンの『女優マルキーズ』(1998年公開)、そして『トリコロール』三部作(1994年公開)…。

輝かしいフランス名作で知られただけでなく、英国作品や『初恋のきた道』(2000年公開)や『花様年華』(2001年公開)などアジアにおいても個性的かつ重厚、質の高いものを揃えたセレクトは、一部を抜粋するだけでいかにこの映画館が文化的情緒性を重視していたかを物語るものです。 

bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下
© 2000 BLOCK 2 PICTURES INC. © 2019 JET TONE CONTENTS INC.ALL RIGHTS RESERVED
『花様年華 4K』2000年/香港/98分/DCP/ 原題: 花樣年華/監督:ウォン・カーウァイ キャスト: トニー・レオン、マギー・チャン

2023年6月16日(金)オープン。こけら落としは「マギー・チャン特集」

今回、新しい場所に居を移したル・シネマのこけら落としは「マギー・チャン特集」。『マギー・チャン レトロスペクティブ』と題し、ウォン・カーウァイの『欲望の翼』(1990年)、オリヴィエ・アサイヤス監督のフランス映画『イルマ・ヴェップ』(1996年)、そして見事アジア系初のオスカー主演女優賞獲得者となったミシェル・ヨーとの共演作『宋家の三姉妹』(1997年)などが上映。そして『花様年華』(2000年)は4Kで観ることができます。現在は俳優業から距離を置いている伝説の国際派女優出演作 “日本初の本格的回顧上映”です。

bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下
Bunkamura
bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下
Bunkamura
マギー・チャン レトロスペクティブ         2023年6月16日(金)〜7月13日(木)

ミュージカル映画特集&ファスビンダー傑作選も

同時に開催されるのは、映画館という大規模な音響装置を備えた空間ならではの「ミュージカルが好きだから」。名作『キャバレー』(1972年)、『RENT/レント』(2005年)、ブロードウェイの公演を収めた『キンキーブーツ』(2018年)、そしてジェニファー・ハドソンが歌声で圧倒し、主演のビヨンセを食ってしまったアカデミー賞助演女優賞作『ドリームガールズ』(2006年)が上映されます。さらにさらに7月28日(金)からはライナー・ヴェルナー・ファスビンダー傑作選も展開され、贅沢すぎるラインナップ。

bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下
Bunkamura

開業当時とはすっかり様変わりした渋谷に、駅からもっともアクセスしやすい場所に復活するこの懐かしくも新しい映画館で、再び映画とカルチャーが融合する体験をぜひ。