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アカデミー賞で「監督賞」を受賞していない、伝説の映画監督6人

アルフレッド・ヒッチコックから黒澤 明まで、オスカーはこれまでにいくつもの過ちを犯してきました。

Headshot of Nick PopeBy Nick Pope
unspecified     orson welles on the set of verites et mensonges f for fake or truths and lies, 1973 photo by apicgetty images
Apic//Getty Images

 「アカデミー賞受賞」というキーワードは、実に偉大なパワーを持っています。これを受賞することは、まさしく偉業…大きな業績となります。俳優や監督にとってはギャランティが大幅に増えることを意味し(ハル・ベリーの『キャットウーマン』の出演料が1400万ドルだったことがその証拠です)、受賞した映画はチケットやレンタルによる売り上げが大幅にアップするのですから。

 ですが、このように金銭的なメリットやその場で得られる賞賛は得られるものの、この受賞はクリエイターたちにとって肥やしとなる、本当に役立つものなのでしょうか? そして「その栄光は本物なのか?」「忖度が優先されていないか?」とも考えてしまいます。

 2021年4月25日(現地時間)に行われた第93回アカデミー賞では、クロエ・ジャオ監督の『ノマドランド』が作品賞・監督賞を受賞しました。2020年の作品賞・監督賞を受賞した『パラサイト』のポン・ジュノ監督に続き、2年連続してアジア国籍の監督が複数の栄冠を手にしています。そして監督賞においては、女性監督として史上2人目ということになります。ちなみに最初に受賞したのは、2009年の第82回アカデミー賞で『ハート・ロッカー』のキャスリン・ビグロー監督が同じく監督賞と作品賞を含む6部門でオスカーを手にしています。つまり、アジア系女性としては初の監督賞になるわけです。

 しかし実は、史上最も画期的で美しく、時代を超越した映画を生み出した偉大な監督たちの中には、一度もあの金の像を手にしたことがない監督たちが存在します。そこでここでは、驚くべき未受賞の監督たちに注目してみました。そしてぜひ、読み終わったあとに前述の疑問に関して再考してみてください。

1

オーソン・ウェルズ

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Citizen Kane (1941) Official Trailer #1 - Orson Welles Movie
Citizen Kane (1941) Official Trailer #1 - Orson Welles Movie thumnail
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 もし『Mank/マンク』が2021年のアカデミー賞で最優秀作品賞を受賞していたら、多くの方はこの作品を、「歴史的な過ちに対する罪滅ぼしの証」と見なしていたでしょう。

 デヴィッド・フィンチャー監督の新作Netflix映画『Mank/マンク』は、“史上最高の映画”と呼ばれながらも第14回アカデミー賞では作品賞・監督賞など9部門にノミネートされながらも脚本賞のみの受賞にとどまったオーソン・ウェルズ監督作品『市民ケーン』(1941年)の誕生秘話にスポットを当てた人間ドラマです。

 これは主人公のケーンが、ウィリアム・ランドルフ・ハーストをモデルにしていたことに原因があるのでは…?と言われていますが、現在の「エスクァイア」にとっては「NO TRESPASSING (立入禁止)」となりますので、「ROSEBUD(バラのつぼみ)」という言葉と共にこの話は終わりにさせていただきます。

 ちなみに当時、監督賞と作品賞は4度の受賞歴を持つジョン・フォード監督の『わが谷は緑なりき』に奪われてしまいました。また主演男優賞は、ゲイリー・クーパーに敗れています。

 そんなウェルズ監督が、アカデミー賞委員会に再び認められたのは1971年のことになります。このとき、アカデミー名誉賞を受賞したわけですが、そこで彼は脚本家であり映画監督でもあるジョン・ヒューストンを代理で授賞式におくります。そこでこの友人は、長年にわたるウェルズの不当な扱いについて審査員を非難しました。

 彼の作品はどれも受賞する価値がありましたが、この『市民ケーン』こそ彼の最高傑作だと永遠と言われ続けています。

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2

黒澤 明

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4/1(土)公開 映画『乱 4K』予告編
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 外国語映画が最優秀作品賞を受賞するのに92年もかかったというのも不思議ですが、これまでにかなりの作品がノミネートされてきました。最も古いものはフランスのジャン・ルノワール監督による1938年の『大いなる幻影』で、ポン・ジュノ監督の言う字幕の「1インチの壁」を『パラサイト』が踏み越えるまでに、他にもこれまで10本の作品がノミネートされました。

 それでも多くの外国映画の巨匠が、過去1世紀にわたって作品賞のノミネートを逃しています。『七人の侍」や『羅生門』などの名作を世に送り出した日本を代表する監督の1人、黒澤監督がその際たる例です。

 1985年にリア王を描いた作品『乱』で、1986年の第58回アカデミー賞で監督賞を含む4部門でノミネートされましたが、結果としてはワダ・エミ氏が衣裳デザイン賞を受賞したのみにとどまりました(ちなみにこのときの監督賞は、『愛と哀しみの果て』のシドニー・ポラック監督です)。

 ですがこれも、シドニー・ルメット監督が黒澤をノミネートさせるためのキャンペーンを行った結果と言われています。そして黒澤は同じ授賞式で、ジョン・ヒューストン監督やビリー・ワイルダー監督と共に作品賞のプレゼンターを務めました。

 そんな映画『乱』は、『市民ケーン』と同様に史上最も影響力のある映画の1つとして評価され続けています。そんな黒澤監督もウェルズ監督と同様に、1990年にはアカデミー名誉賞を受賞しています。

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3

スパイク・リー

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Do the Right Thing | Restored Trailer [HD] | Coolidge Corner Theatre
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 黒澤監督は1990年の第62回アカデミー賞で、ようやく名誉賞を受賞しました。ですがこの年は、史上最も悪名高いアカデミー賞授賞式の1つとなりました。その理由は、プレゼンターとして壇上に上がったキム・ベイシンガーが指摘したように、ある作品が作品賞にノミネートされなかったためです。

 「こちらに5つの素晴らしい映画があります。これらが素晴らしい理由は1つ、真実を描いているからです」と発言するベイシンガー。「しかし、このリストに入っていない作品があります。皮肉なことに、その理由は真実を描きすぎているからかもしれません。その映画は、『ドゥ・ザ・ライト・シング』です」

 授賞式の8カ月前に公開され、評論家から絶賛されて議論を巻き起こしたスパイク・リー監督のこの作品では、最高気温を記録した日にブルックリンの黒人居住区で発生した人種間の対立が、最終的には恐ろしい警察の蛮行へと発展する様子が描かれています。しかしこの作品は、1990年の第62回アカデミー賞で監督賞にも作品賞にもノミネートされず、それぞれオリバー・ストーン監督と『ドライビング Miss デイジー』が受賞しています。

 1990年にスパイク・リー監督は『ドライビング Miss デイジー』について、モーガン・フリーマンが「従属的な役を演じている」と発言し、批評家たちもこの映画が人種関係を白々しく描いていると指摘しました。25年後、リー監督はこの2作品が対照的な結果になったことに満足しています。

 「誰も『ドライビング Miss デイジー』を話題にしていません」と彼はウェブメディアの「The Daily Beast」に語っています。「あの映画は、『ドゥ・ザ・ライト・シング』のように、世界中の映画学校で教材になってもいません。誰も『ドライビング Miss デイジー』なんていう映画について議論などしていないんです」と続けました。

 そうして彼は2019年『ブラック・クランズマン』で、初めて監督賞にノミネートされました。

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4

スタンリー・キューブリック

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4K/BD【予告編】『2001年宇宙の旅 HDデジタル・リマスター』
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 キューブリック監督はこれまで、作品賞に3回ノミネートされましたが、一度も受賞はしていません。さらに、おそらく他のどの作品よりも作品賞を受賞するはずだった『2001年宇宙の旅』は、1969年の第41回アカデミー賞でノミネートすらされていなかったのです。

 この年、キューブリック監督は監督賞にノミネートされましたが、サー・キャロル・リード監督の『オリバー!』(同年の作品賞も受賞しています)に敗れ、『2001年宇宙の旅』は特殊効果賞の受賞にとどまりました。

 『2001年宇宙の旅』は確かに、アカデミー賞にアピールするにはあまりにも実験的で突飛な作品であり、キューブリックの映画は一般的で古き良き時代の映画に反するものだったというわけです。

 『時計じかけのオレンジ』は『フレンチ・コネクション』に敗れ、『バリー・リンドン』は『カッコーの巣の上で』に敗れています。他にも1965年には、『博士の異常な愛情』がジャック・ワーナー監督の『マイ・フェア・レディ』に敗れ、1988年には『フルメタル・ジャケット』が落選するなど、ついに正義の審判は下されませんでした。

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5

クエンティン・タランティーノ

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映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』予告 8月30日(金)公開
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 クエンティン・タランティーノ監督が監督賞を受賞するのは、ある意味必然的なことのようにも思えます。歴史的に見て、賞に値するのに受賞を逃してきた映画監督や俳優は、最終的には受賞を果たしています(例えばマーティン・スコセッシは、『レイジング・ブル』、『最後の誘惑』、『グッドフェローズ』で受賞を逃した後、『ディパーテッド』でも受賞しました)。

 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で、タランティーノ監督は少なくとも1つは主要な賞を獲得することを目標にしていたように感じられました。その3年前には、デイミアン・チャゼル監督がハリウッドへのラブレターとも言える『ラ・ラ・ランド』で監督賞を受賞し、2011年作品であるミシェル・アザナヴィシウス監督作品の『アーティスト』は、2012年の第84回アカデミー賞で監督賞と作品賞の両方を受賞しています。2015年の第87回アカデミー賞におけるアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督作品の『バードマン』も同様です。

 しかし、タランティーノ監督の9作目となるこの作品は、美術賞と助演男優賞(ブラッド・ピット)を受賞しただけでした。タランティーノ監督は、「10作品つくったら引退する」とよく言っていますが、果たしてその約束を守ることができるのか、もし守ったとして、最後の作品は受賞に必要なものを備えているのか、疑問に思わずにはいられません。

 1994年の『パルプ・フィクション』では、ロバート・ゼメキス監督の『フォレスト・ガンプ/一期一会』とフランク・ダラボン監督の『ショーシャンクの空に』に対抗することになったので、不運でした。2009年の『イングロリアス・バスターズ』では、キャスリン・ビグロー監督の『ハート・ロッカー』に監督賞と作品賞を奪われましたが、これは妥当と言えます。

 しかし、彼が両賞に本当にふさわしかった1992年の作品『レザボア・ドッグス』は、ノミネートさえされませんでした。この年は、クリント・イーストウッド監督の『許されざる者』が1993年開催の第65回アカデミー賞で受賞しています。

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6

アルフレッド・ヒッチコック

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Psycho (1960) Theatrical Trailer - Alfred Hitchcock Movie
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 アルフレッド・ヒッチコック監督は、アカデミー賞から無視されていたわけではありません。彼は監督賞に計5回ノミネートされていますが、アカデミーが自らの脚本に従わなかっただけです。

 このイギリスの映画監督は、『レベッカ』、『救命艇』、『白い恐怖』、『裏窓』などで14年間に渡って受賞を逃してきました。そして1960年作品の『サイコ』で、今度こそ「これまでの忍耐に報いることができるとき」と予想されていました。もちろんこの期待は、『サイコ』が当初さまざまな評価を受けていたことや、アカデミーが歴史的にホラーを嫌っていたことを考慮した上のものではありませんでした…。

 結果、1961年の第33回アカデミー賞監督賞は、『アパートの鍵貸します』のビリー・ワイルダーが受賞し、ヒッチコック監督がノミネートされることはついにありませんでした。

 『サイコ』と同様に、文化的な評価を高めた『鳥』でさえもです。しかし、ノミネートされていなかった1958年の『めまい』こそが、本当に受賞すべき作品だったようにも思われます。結局、ヒッチコック監督が受賞したアカデミー賞は、1967年のアービング・G・タルバーグ賞のみとなりました。これは、1937年の第10回アカデミー賞から授与が始まった特別賞であり、映画業界に顕著な証跡を挙げたプロデューサーを対象に受賞者が選考されるものであり、長年にわたって優れた作品を数多く発表しながらも、アカデミー賞とは縁遠かった映画監督に贈られる一種の残念賞的な意味合いが強い賞です。

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esquire japan instagram

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Source / ESQUIRE US
Translation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です。

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