現地時間2020年1月26日、世界に衝撃が走りました。

 アメリカのNBA(プロバスケットボール)の名門ロサンゼルス・レイカーズで20年間にわたって活躍し、5度のNBAチャンピオンへと導いたスーパー・スターでありバスケットボール界のレジェンドコービー・ブライアント氏がヘリコプター墜落事故によって41歳という若さで死去…。

 その際、13歳の娘さんを含む計9名の尊い命が失われ、その事故当日行われていたグラミー賞でも追悼の意を表したスピーチが行われるなど、世界中が深い悲しみに暮れてました。そして今もなお、その事実を受け入れ難く思う人々がたくさんいます。

 しかし、多くの人々が突然の訃報に動揺している最中、スポーツウエア業界ではある問題が勃発していました。このニュースを聞きつけた彼の何千人ものファンが、「ナイキ」や他の通販サイトに駆けつけ、ブライアント氏の名を冠した製品を買い占めに動いていたのです…。

 そして、この訃報からわずか数時間のうちに、「コービー・ブライアント」という言葉の検索結果から該当商品はなくなり、翌日には二次流通のプラットフォームである「Stock X」などでのブライアント氏に関する製品の価格は、なんと2倍の価格まで高騰していたのでした。これは一体、何が起こったのでしょうか?


コービー・ブライアントの名がナイキから消える

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 その経緯をひとつずつ、ひも解いていきましょう。

 「ナイキ」は、ブライアント氏の事故のニュースについて公式確認がとれた後、公式ウェブサイトとSNSで声明を出し、ブライアント氏の家族に追悼の意を表しました。

ナイキの公式声明文:
世界中の何億ものアスリートやファンと同様、私たちも本日の悲劇に心を打ち砕かれています。コービーと愛娘ジアナのご遺族ご友人をはじめ、親しい皆様に深い哀悼の意を表します。
 
事故の詳細および他に犠牲になられた方の情報は現在確認中ですが、ご遺族および関係の皆様にも心からお悔やみ申し上げます。

コービーは世代を代表する偉大なアスリートであり、スポーツやバスケットボールの世界に計り知れない影響を与えてきました。また、同時にナイキファミリーのメンバーとしても愛されてきた存在です。大変残念です。マンバのご冥福をお祈りします。

 そうした後、「ナイキ」の公式ウェブサイトからブライアント氏の関連商品が消えました。当初、「転売業者がこの悲劇を利用し、利益を得ることを防ぐためにナイキは削除したのではないか?」という噂が浮上しました。しかし、スニーカーに関するポータルサイト「Sneaker News」によると、「『ナイキ』がこれらの対応を行う前に、製品は完売した」と「ナイキ」の広報担当が明かしたとのことです。

 実は2020年2月7日(金)に、コービー・ブライアント5度目の優勝から”10周年”を祝した新作モデル「KOBE 5 Protro“ビッグ ステージ & パレード”」が発売される予定でした。ですが、現在はその発売日は削除されていたため、新たなリリース日の公式発表を待つしかありません。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。


「Stock X」がとった価格高騰への対応策

 前述のように、ブライアント氏の関連アイテムが公式サイトで完売すると、二次流通市場では価格は2~3倍へと高騰するという、いわば不謹慎とも言える事態となったわかです。が、それを受けて主にスニーカーのオンライン市場および衣料品の再販サービス会社「Stock X」などのプラットフォームでは、「この事態にどう対処すべきか、倫理的なジレンマに直面しています」と、真摯な姿勢を見せています。そんな中、「Stock X」はすでにこう声明を発表しています

 その冒頭には、「ライブマーケットの場合と同様、実際にこの世界の商品の価値というものは人々がその商品にどれだけ興味を持ち、どれだけ欲しいという欲求に駆られるか? さらには、どれだけそれを欲しいと思う人々はいるか? で、その金額は上昇していくものです」という書き出しから始まっています。この文面だけでは、少々この事態を肯定しているか?と思ってしまうところでしょう。

 ですが、これは「モノのストックマーケット」を目指すプラットホームとして急成長を遂げた「Stock X」の基本姿勢=市場哲学を、皆さんに再認識してもらうためでしょう。本題はそれ以降に書かれていました…。

 「コービーの死をきっかけに、彼の最も有名なスニーカーのコラボレーションの一部を含む、バスケットボールの伝説に関連する製品への関心が急上昇しました。この関心の異常なまでの高まりは、彼がバスケットコート外でも偉大な存在をしてしてきたからに他なりません。ジョーダンと並び、彼はスニーカー界で最も影響力のあるバスケットボール選手の一人でした…そんな彼の遺産を認識してStockXは、コービー・ブライアント関連製品(スニーカー、トレーディングカード、商品)の販売からのすべての収益をこの悲劇的な事故後1週間、コービーとヴァネッサブライアントファミリー財団へ寄付することをします」と発表しました。

 そしてさらに、「StockXの価格設定は、透明性とアクセス数の原則に基づいて公正に設定されています。私どもは世界中の買い手と売り手が自由かつ公正につながり、取引できるオープンな市場にあるよう常に努めています。しかしながら、私たちは人と人が集まるコミュニティーなのです。よってスタッフも顧客も、さらにはその友人もともにここで一緒に悲しみを分かち合いましょう。よって、ここでの利益をコービーとヴァネッサブライアントファミリー財団へ寄付することで、コービーのこれまでの軌跡を称え、彼の栄光を世に生かせた…考えています」とのこと。

 
スニーカーコミュニティの反応

 このような予期せぬ訃報に対し、さまざまなブランドのウェブサイトや二次流通プラットフォームでは、その対応策に対して真摯な取り組みを見せていました。ストリートウエアを主に取り扱う「grailed」は、ナイキのブライアント氏に関する製品の売買を撤回することを発表。また同じく二次流通プラットフォームである「Stadium Goods」は、ブランドに関わらずブライアント氏に関する新製品を受け入れを中止することにしました。

 ここで明確なことは、これらのニュースは二次流通プラットフォームなどの売り手にとって、かなり不意打ちだったということです。フィラデルフィアにあるスニーカー専門店「Lapstone&Hammer」のオーナーであるブライアン・ナダブさんは、「これはスニーカー文化に対し大いなる影響を与えた、偉大な元NBAプレイヤーたちにとって初めての訃報となります」と、ウェブメディアの「Business of Fashion」に話しています。

 またナダブさんは、こうも話しています。

 「この歴史的な訃報を利用して、黒いお金を得ようとする人々はコミュニティーから大きな拒絶を受けるのは当然と言えます」とのことです…。

 ブライアント氏に関連する製品は、今後いかに新たな象徴的地位を築いていくのか? もう少し時間が経てば見えてくることでしょう。


Source / ESQUIRE ES