私(ニック・サリバン)は1年以上もの間、Tシャツとジーンズといった必要最小限のアイテムで日々をおくってきました。そのため今後は、かなり努力が必要となるでしょう。私自身、そのことを十分覚悟しています。

 2020年の春のことです。季節の変わり目に私は自分のために、その年の冬を飾る最高の服を集めていました。やがて冬になるわけですが、結局すべて着こなすことはできませんでした。

 また、「最近ネクタイを締めたのはいつだったろう?」と振り返れば、それは2020年4月…。その日は同僚とのZoomミーティングがあって、そこでアイロニーなジョークとして、タイドアップした打ち合わせしたことを思い出したました。もちろん、皆ウケてくれました。

 このパンデミックよってわれわれは、オフィスや友人との外出に「最適の着こなし」をするという様式を奪われた…と言っても過言ではないでしょう。ですがそのことによって、着こなしに宿る個人情報とも言える個性は、かつてないほど重要な意味を持ち始めるのです。そう、周りの人々は、さらに厳しい目で着こなしに目を向けるようになることが予想できます(例えば、プロ野球のゲームでユニフォーム制が廃止され、各選手が自分の好きなウエアでゲームに臨んだとしたら、どうでしょう?)。

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 ワクチンの拡充が進んでいるアメリカでは現在、ある程度正常な状態に戻りつつあります。多くの方がパンデミックの間、断念せざるを得なくなった習慣が、あともう少しで再開できるのではないか?と、強い希望を抱いているところです。

 実際、私たちのオフィスでは慎重ではあるものの、対面式の仕事に一部戻すことを検討している最中です。海外への出張も可能になりましたが、ファッションの世界ではまだまだそう頻繁にあるわけではありません。なので私たちのインスピレーションは、現状、大きく損なわれていると言っても過言ではないでしょう。

 対面式の仕事や出張などに関して私は、絶対に必要なことだと感じています。特にそれは、「バック・トゥ・ワーク(またはスクール)」に向けてのこと。どのような服装を選ぶか?という点に尽きます。しかしながら、ここでそんな習慣が永遠に変わってしまったことも理解しています。

 ニューヨークを拠点とした「エスクァイア」US版編集部では、最近このことをよく議論しています。それはまるで、実存的なジレンマ(板挟み)です。長い間、通常の生活から離れていた私たちは、自らの個性を問い直しているとも言えるでしょう。それは、全く別のもへと変身するチャンスでもあるのです。「ファッションは変わったか?」「自分は変わったのか?」と自問自答を繰り返しながら…。

 私たちはこれを契機に、服に関して「昔の習慣に戻ってしまうべきか?」 それとも、「新しい自分の在り方を考え直すほど習慣を変えるべきか?」を問いただすべきときを迎えています。いずれにせその結果はすべて、私たちが服装に対して持つ深い信念が浮き彫りになるでしょう。なぜなら私たちは単に、「仕事」に戻るだけではないからです。それは、すべてを網羅する「人生」に戻るのです。

 服装が重要視される場面というのは、おそらくすべてに関係してくるでしょう。今後私たちは、毎日とは言いませんがオフィスへ通うようになります。ですがそれは、ビフォーコロナ時代のように職場と家の往復だけではなく、プライベートの時間も重視するようになるはずです。また、仕事の後に友人と会ったりパートナーと出かけたり、パーティーに行ったりと、ここ最近の反発とも言える行動も増えるはずです(私たちが抱いてる以上に間違いなく、その行為に強い陶酔感を抱くはずです)。そうなれば、より社交的な生き方を目指す志向になることが予想できます。

 となれば、そのすべてにふさわしい服が必要になるというもの。 パンデミックによって最も変わった事象とは何か?と言えば、最も顕著に現れたのがファッションであり、それはもうすでに起こっていることなのです。ストリートスタイルからキャットウォークのジャンル、さらには持続可能なヴィンテージまで、さまざまなカテゴリーで二極化が加速したのです。

 着こなしのルールが破られただけではありません。性別のルールと同様に、これまでのルール全て、完全に取り消されたと言ってもいいでしょう。例えばパンデミック後、「9時から17時まで」など会社のルールとしての就業時間の必要性も再考されています。未来の柔軟なオフィスは、スウェットパンツのまま職場に現れることができるほど、ルールのない場所になるでしょう。ビーチサンダルやタンクトップで出勤する者もいるかもしれません。するともはや、ドレスウェアは不要と見なされます。 私たちのほとんどは、もうそれらを着こなさないでしょう。もう必要ないのです。

 幸いにもわれわれ、ファッション系の仕事をしている者にとっては安心できる領域ではあります。新たな職場でのユニフォームは、最小限に厳選されたウェア…ダークメリノウールのセーターにテーラードパンツを合わせ、きれいな白いスニーカー、上着はレザージャケットまたはブレザーで構成されたプロフェッショナルで都会的なルックスになるでしょう。そこで採用されるのは、もはやスーツではない…。ほとんどの方は積極的にスーツを着ることはなくなり、堅苦しい服を着る必要性はなくなるのではないでしょうか。

 それは合理的ではありますが、なんてつまらないことでしょうか。

 それでも「身だしなみ」が整っていることは確かです。が、「ファッションを通して自分自身を表現したい」と思っている方には物足りないはず。そんな時代により個性を発揮したい場合は、逆にスーツにシャツをタイドアップで着こなせばいいのです。スタイルがカジュアル化し、ルールがないときにこそ、ネクタイを締めることは印象的であり、さらには反抗的な行為としてクールに見えるかもしれません。

 ですが、どんなスーツでも良いというわけではありません。結果ばかりを求め、何も考えず、かつてのバンカーのような格好ではどうでしょう!? できれば、クラシックで豪華なものよりも、独創的でダークな着こなしをおすすめします。そうして当たり前のことから一歩抜け出し、その先を目指してください。それこそがアフターコロナで、一目置かれる方法だと思っています。

Nick Sullivanは、「Esquire」US版のクリエイティブディレクターです。

Source / ESQUIRE IT
※この翻訳は抄訳です。

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