「ホント僕こういうの、からっきしダメなんですよね。滑稽に思われるかもしれないけど、写真を撮られるのが大の苦手なんですよ」
この言葉の主は、あのジェイミー・ドーナンです。そう、39歳にして男性モデル界の頂点を極めたあのジェイミーです。俳優としても人気テレビドラマ「ワンス・アポン・ア・タイム」シリーズや「THE FALL 警視ステラ・ギブソン」シリーズで人気を博し、さらには本年度のアカデミー賞で脚本賞を受賞した『ベルファスト』で見事な演技を披露したあのジェイミー・ドーナンです。
今まさに輝かしいキャリアの真っただ中にいる北アイルランド出身のこの俳優が、今だに脚光を浴びることに居心地の悪さを覚えていると聞けば、なんだか奇妙な感じがするかもしれません。実際に彼自身も、「どうしたものか」と悩んでいるというのです。
「『写真を撮られるのだって、仕事のうちだろ』って、そんな風に言ってくる人は少なくないのですが…」と、アカデミー賞の授賞式を目前に控えてアメリカ版「Esquire」の電話インタビューでも話していました。
「でも、案外そうとばかりも言い切れないとも思います。だって、もしレッドカーペットを歩く姿を撮られたくて俳優をやっている人がいるとすれば、それはそれでちょっと問題かもしれませんよね。もちろん俳優という仕事をする上で、カメラを向けられることも当然あります。ですが、それが役者を続ける上での最大のモチベーションになることは考えにくいですよね。写真を撮られることに、いつまで経っても馴れないということだってあり得ると思うんです。ちょうど今の僕みたいにね…。この仕事で最も苦手なのが大勢の人前に立つことだとしても、大して不思議でもないのでは? かく言う僕も、ちょっとずつカメラに馴れてきている自覚もあるんですよね。でも、それでも人前に立つ役目を終えると、心底ホッとします」
そんなジェイミーにとってアカデミー賞のレッドカーペットは、かなりの困難を伴うシチュエーションであることは想像に難くありません。ですが、「その“試練”をできる限り快適に乗り越えるために役立つアイテムがある」と、彼は打ち明けてくれました。
そして2022年3月28日(月)[現地時間]、アメリカ・ロサンゼルスで開催されたアカデミー賞授賞式では、ヴァレンティノのタキシードこそがジェイミーを助けるアイテムとなりました。
ジェイミーがまとったのは、やや長めのシルエットが特徴のダブルブレストのヴァレンティノのタキシードです。一般的なブラックタイの仕立てより落ち着きを漂わせるタキシードですが、これこそまさに彼がハリウッドのビッグナイトを乗り切るために求めていた一着だったのです。
「ジェイミーの個性でもあるエレガントでリラックスしたスタイルと、ヴァレンティノならではの熟練のテーラリングが相乗効果を生むような一着だと思うの」と語るのは、ジェイミーのスタイリスト、ジャンヌ・ヤンです。
「(ヴァレンティノのクリエイティブディレクターの)ピエールパオロ・ピッチョーリによるモダンなメンズウエアのテイストが、今をときめく映画スターのジェイミーにぴったりだと思ったの。それでヴァレンティノに決めたんです」
「とにかく美しいタキシードってことは、見てもらえればおわかりいただけると思います。そして、見た目以上に着心地がパーフェクトで、とにかく快適そのものなんです」とジェイミーも満足そうです。
「アカデミー賞の授賞式って、一連の催しも入れると4時間以上も椅子に座りっぱなしになるんですよね。見落とされがちかもしれませんが、着心地の良さはかなり重要です。写真映えするだけでなく、無理なく着こなせるという点も、僕がこのヴァレンティノのタキシードを気に入った理由でもあります」とのこと。
そのタキシードに加え、腕元にはオメガ「スピードマスター’57」。働く男を思わせるタイムピースでありながら、エレガンスを求められる場面において見事にその役目を果たしています。
「以前の僕は、『腕時計なんてまず必要ないよね』って考えるような人間でした。ですが妻との結婚3周年の記念日に、たまたまお互いのプレゼントとして用意していたのが、なんと同じレザーバンドのオメガ『シーマスター』のヴィンテージだったんですよ」と笑い出します。ジェイミーが選んだのが1969年製の「シーマスター」、妻のアメリア・ワーナーが選んだのが1972年製の「シーマスター」だったのです。
「プレゼントの箱を開いたら、互いに同じオメガの箱! しかも、なんと同じ時計だったなんて信じられませんよね。そういったことがあって、僕も時計に興味を持つようになったというわけです(笑)」
今回の授賞式のタキシードでは、「快適さも重視した」というジェイミーですが、時計の着け方には多少の譲歩をしているそうです。
「時計は、手首に痕が残るくらいキツめに着けるのが好きなんですが、今回のようにカメラに映るときは袖口のラインから時計がチラリとはみ出すように、ちょっと緩めに着けています」と、こだわりを覗かせます。
「だから実を言うと今回も、時計がちゃんと腕元にあるのか不安になっちゃって。ついつい手首を振って確かめたくなってしまうんですよね(笑)。でも、もしかしたらアカデミー賞授賞式のような特別な場では、多少の快適さを犠牲にすることもまた喜びと言えるのかもしれませんね」と言います。
手首の感触を確かめながらも、ジェイミーは冷静沈着そのものと言った顔でその特別な夜を過ごしてるように見えました。そして最後にジェミーはこう言います…。
「快適さと充実感が備わってこそ、スタイルと呼べるのだと思います。自分らしくない格好は着こなすことなどそもそも無理な話ですし、自意識過剰もしくは、ただ気取っているだけにしか見えないと思えてなりません。だから、スタイリッシュでファッショナブルを極めながらも、ヴァレンティノらしさもちゃんとある…そして、その中に自分らしさを感じられる装いであれば、僕にとってそれは完璧なスタイルだと思うんですよね」
Source / Esquire US
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です