※本記事は、「エスクァイア」UKのスタイルエディターであるカルメン・ベロ(Carmen Bellot)による寄稿です。


KITH(キス)のデザイナーであるロニー・ファイグ氏が、クラークス(Clarks)とアディダス(adidas)とのコラボレーションによるスニーカーの登場を匂わせたのは、10日ほど前のことでした(この記事の公開日は3月28日)。それぞれのロゴが刻印されたタグの写真が、Instagramに投稿されたのです。

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すぐに公式発表もなされ、先月(2023年3月24日)の発売に向けてカウントダウンが始まりました。そして驚くこともないでしょう、当然の結果と思えるように発売3日後にはそのモデル名「The 8th Street Samba」はソールドアウトしました。すぐに「ストックエックス(Stock X)」(=2016年に米デトロイトで設立されたオンラインのマーケットプレイス。スニーカーをはじめとした商品の価格を株式化して取り扱うサービスとして人気。日本版サイトも2020年6月にオープン)では、最低600ポンド(約10万円)の値がつくほどの盛り上がりとなりました。入手できたのならラッキーであり、逃した人は残念のひと言です。

adidas Clarks The 8th Street Samba by Ronnie Fieg Chalk White Greenを「ストックエックス」で確認する(日本語対応)

adidas Clarks The 8th Street Samba by Ronnie Fieg Savannahを「ストックエックス」で確認する(日本語対応)

「kith × adidas × clarks」トリプルコラボスニーカー

「利益の最大化」こそを至上命題とする金融理論の視座に立てば、このトリプルコラボが見事に成功したことは明らか。多少の可処分所得に加え、それなりのアイテムさえ手にしていれば誰しもファッション評論家を気取れてしまうのが、SNSという無秩序な世界でもあります。

スニーカーを幸運にも入手できた人々の自慢の投稿で、TikTokやInstagram、Twitterがあふれ返っていたのは言うまでもありません。さらには、オフラインの世界においても普段はスニーカーカルチャーなどに興味など無さそうな相手との会話の中ですら、このスニーカーが話題に上る…そんな状況があちこちで起きたのです。サブカルチャーとしてスニーカーを愛する人々、そして普段はそこまでファッションコンシャスとは言えないような人々、両極端とも言えるそれらの人々の興味を等しく勝ち取ってしまったのですから、それは“快挙”と呼んでいいでしょう。

シンプルな美意識が光る『The 8th Street Samba』

シンプルな美意識が光る『the 8th street samba』
Kith

日頃よく目にする派手できらびやかな、典型的なコラボスニーカーとは異なって、そこにはアディダスとクラークスが擁するシンプルな美意識を抽出したタイムレスな魅力が具現化されている…そんな「The 8th Street Samba」と言っていいでしょう。

クラシックなスリーストライプのあしらわれたアディダスの「サンバ」がシルエットのベースとなっていますが、クラークスのシグネチャーと呼ぶべきスエード素材に加え、アウトソールにはこちらも定番としておなじみの「ワラビー」にも使われているクレープソールが組み合わされています。

いずれもクラークスおよびアディダスの両ブランドを象徴する要素であり、それが1足のスニーカーとして融合を果たしたことで、両ブランドのファンには特に購買欲をくすぐる仕上がりとなりました。Instagramで話題沸騰となったあの「鉄腕アトム」ブーツとは異なり、こちらは「現実世界に快適さをもたらす靴である」という点も重要です。

ロニー・ファイグ氏の魅力と信頼性

とは言え、このスニーカーの特筆すべき点はなにも“快適さ”ばかりではありません。コラボと言えば「2社の合作」という常識を破り、そこにロニー・ファイグ氏のようなカルト的人気を誇るデザイナーが加わったことで、コラボレーションの新たな魅力が膨張していったという事実を見逃すわけにはいきません。

今やファイグ氏は「ストリートウェア界の権化」と呼ぶべき偉大な存在となり、Instagramでは90万以上のフォロワー数を誇ります。そして、そんな彼のブランドであるキスも多くの人々に愛され、さらに話題性に事欠かないライフスタイルブランドとして、すでに業界での存在感と経験値は他の追随を許さないほどのビッグネームです。

これに関するマーケティングの可能性は巨大ですが、ただソーシャルメディア上で話題になることがそのまま、プロジェクトの成功とは彼らは考えていないようです。「XとYがひとつになってZが生まれた」などという話題づくりを目的としたニュースなら、今や毎週のように流れており、人々もやや食傷気味といったところだからでしょう。

例えば…ティファニーとナイキによるコラボレーションが報じられたとき、「もうこの世界は来るところまで来てしまった」という印象をもった人も少なくなかったでしょう。アメリカ東海岸を代表するジュエリーブランドが、あの「エアフォース1」と結びついたわけです。Instagramのコメント欄には、「Just Don’t Do It」(=ナイキの有名なコピー「Just Do It」を否定的にもじった批判キャンペーンが一部で展開された)があふれかえっていた事実を確認すれば、複雑な思いになるはずです…。

これに対して、ファッションメディア「The Business of Fashion(ビジネス・オブ・ファッション)」が文化的信頼性の価値についての論説を展開します。クリストファー・モレンシー(Christopher Morency)氏が寄稿した記事には、「単なる売名行為に見えないよう、2つのブランド間にはシナジーが必要となるのです」とつづられていました。

いずれも、互いにブランドの象徴と呼ぶべきデザインコードをバランスよく表現しています。両者は定番同士を掛け合わせ、それぞれの名が刻まれているという点は変わりません…。ですが、後者のほうが瞬時に“本物”と感じてしまう私(筆者)がいます。なぜでしょう? それはそうです、ファイグ氏という存在のおかげなのです。

本質的な価値が備わっているコラボスニーカー

「kith × adidas × clarks」トリプルコラボスニーカーが圧倒的な人気だった理由
Kith

アディダスとクラークスの開発責任者との鼎談(ていだん)の中で、キスの創設者(ファイグ氏)は今回のコラボレーションが誕生した顛末(てんまつ)について語っています。

「オーセンティックなフットウェアと伝統ある革靴、この2つのブランドを結婚させたかったんだ」とファイグ氏は言います。「そして、両者のちょうど真ん中にある靴をつくることが目的だった」と。そしてさらに、「この『The 8th Street Samba』をただの“流行りもの”ではなく、より“本質的なもの”として認知されるようにしたい」というのが、ファイグ氏の目論見でした。多少の皮肉が込められた言葉だったかも知れませんが、そこには嘘の臭いはなく、まさに本音であると言えるでしょう。

「kith × adidas × clarks」トリプルコラボスニーカーが圧倒的だった理由
Kith

アディダスとクラークスの両者にとって価値のある専門領域を持つファイグ氏であればこそ、ふたつのブランドの融合を促すにはまさに適任であり、また、そのための説得力も持ち合わせていたのです。誰もが納得する結果を生む、そのための保証人であり仲介者ということです。その貢献は誰の目にも明らかです。

これがファッション業界において、トリプルコラボという新たなトレンドの火つけ役となるのかも知れません。世界に名高い2社のコラボなら、もう飽き飽きするほど見せられてきました。ならばそこにもうひとり、テイストを決定づける存在を加えることで風味を整え、完成させてはどうでしょう。はるか昔より、「3」はマジックナンバーとされてきた数字なのですから。

Source / Esquire UK
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です。