候補と見られていたのは3つの時計+1
現地時間3月10日(日)に開催された第96回アカデミー賞授賞式でライアン・ゴズリングが身に着けるのは、映画『バービー』で演じたケンのタグ・ホイヤーのうちどの時計になるのだろう? と、楽しみにしていた人もいたはずです。
タグ・ホイヤーのアンバサダーとして活躍するゴズリング。アメリカで2023年大ヒット映画の1本となった『バービー』の中で、“ケナジー(Kenergy*)”を爆発させた彼の左手首には高価な3本のタグ・ホイヤーが輝いていました。
*:劇中でゴズリングが演じたバービーのボーイフレンドの名前「ケン(Ken)」と「エナジー(Energy)」を掛け合わせて「K+Energy = Kenergy(ケナジー)」とした、造語のこと。その正体は不明ながら、「劇中でケンが見せたようなエネルギー」といった意味合いでしょうか。さまざまな界隈でトレンドワードとなっています。
いずれも希少なヴィンテージですが、まず1本目は「Ref.1158 CHN」の1971年製18Kモデル。当時のタグ・ホイヤーを率いたホイヤー家の4代目ジャック・ホイヤー氏の発案により、ニキ・ラウダ、マリオ・アンドレッティ、ジル・ヴィルヌーヴといったフェラーリに栄冠をもたらしたF-1ドライバーたちに贈られた名だたる「オールド・カレラ」、その中でも特に有名なモデルです。
2本目も同じく「カレラ」ですが、こちらは樽型ケースとサンバースト仕上げの文字盤が際立つ1974年製「Ref.110.515」。当時大流行した美しい波形のジュネーヴ・ストライプ(コート・ド・ジュネーブ)の文字盤がひときわ美しいタイムピースで、ゴールドメッキのスチール製です。
最後のモデルが、3本の中では比較的おとなしい「Ref.2448 NT」の「カレラ」。やはりゴールドメッキ仕上げですが、こちらは漆黒の文字盤。1963年モデルにインスパイアされたブラックのレザースラップが印象的なホイヤー Ref.1158モデルです。
タグ・ホイヤー カレラ デイト
ちなみにゴズリングが映画『バービー』のプロモーションの際に着用したのは、2023年に発表されたバービーピンクの文字盤が鮮やかな「カレラ デイト」でした。
しかし、アカデミー賞授賞式のゴズリングは変化球で勝負してきました。当初が、「Ref.1158 CHN」を身に着けて『I'm Just Ken(アイム・ジャスト・ケン)』のステージを披露するだろう…と「Esquire」に語ったブランド関係者もいましたが、実際には、ここまでに挙げた時計は彼の腕には巻かれていなかったのです。
正解は人工ダイヤてんこ盛りの1本
オスカーの夜、ゴズリングの腕元を飾っていたのはホワイトゴールドのケースに2.9カラットのダイヤモンドが埋め込まれたタグ・ホイヤー「カレラ プラズマ ディアマンテ ドアヴァンギャルド(Carrera Plasma Diamant D’Avant Garde)」でした。
タグ・ホイヤーを傘下に収めるLVMH Moët Hennessy‐Louis Vuitton SE
(LVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)が、ラボグロウン(lab-grown)のダイヤモンド――つまり、(文字通り、研究所<lab>で育てられた<grown>)「人工ダイヤモンド」の技術開発に多額の投資を行っているのをご存じの人も少ないないでしょう。2022年6月にイスラエルのLusix社は、「LVMH Luxury Ventures、Ragnar Crossover Fund、More Investmentsなどの投資家から9000万ドルの資金調達を完了」と発表しています。LVMH Luxury Venturesとは、LVMHが設立したベンチャーキャピタルファンド。ラグジュアリー業界における革新的なスタートアップ企業への投資に特化しています。
そして同社はこの投資に関して、「TAG Heuer」というブランド名の「TAG」の由来である「Techniques d'Avant Garde」という前衛的精神に沿ったものであり、ラボグロウン製品の宣伝にも今後力を入れていくとしていました。そうして1年後の2023年に、あのピンクのダイヤモンドをあしらった「カレラ デイト プラズマ ディアマン ダヴァンギャルド36mm」が発表されるに至ったというわけです。
なお、同タイムピースの最新モデルはこの1月に発表され、イエローダイヤモンドが輝いています。
ラグスポからジュエリーコレクションへ――時計トレンドをケン引
ゴズリングが選んだ時計はホワイトゴールド製の36mmケースに、ラボグロウンの1.3カラットのバービーピンク・ダイヤモンドをカットしたリュウズを備えた1本です。数えきれないほどのダイヤモンドの結晶を敷き詰めた文字盤がまばゆいばかりの反射光を放ち、その文字盤に埋め込まれたタグ・ホイヤーの盾のロゴにはラボグロウンの大粒のピンクダイヤモンドが。さらにアワーマーカーには、12個のバゲットカットのラボグロウン・ダイヤモンドが輝いています。
この時計は、2024年に最も注目される腕時計のトレンドとなるでしょう。「ラグジュアリースポーツ」を代表するスティール製のスポーツウォッチから、より華やかできらびやかなジュエリーウォッチへと変化していく…まさにトレンドへと“ケン”引するタイムピースです。
そうしてスマートかつスタイリッシュなゴズリングらしく、全身ブラックの姿で登場した後、ステージではラインストーンをあしらったバービーピンクの衣装で「I'm Just Ken」を歌い上げたのでした。見事なカーテンコールでアカデミー賞のクライマックスを飾ったゴズリング、映画『バービー』さながらの惜しみない“ケナジー(Kenergy)”をみなぎらせた圧巻のパフォーマンスで、会場を大いに沸かせてくれました。
そしてまた、ここにもタグ・ホイヤーの精神を垣間見ることができました、それは2014年から掲げる「Don't Crack Under Pressure - プレッシャーに負けるな。」です。いくらゴズリングでもかなりのプレッシャーがあったはず。それを見事乗り越え、自分の限界を超えていたのではないでしょうか。
Translation / Kazuki Kimura
Edit / Ryutaro Hayashi
※この翻訳は抄訳です