マウイ島の山火事
“奇跡の家”はどうなっていたのか?

ハワイでハワイ島に次いで2番目に大きな島であるマウイ島では、2023年8月に壊滅的な被害をもたらした大規模火災が発生し、ラハイナの街ではこれまでに100人以上の死亡が確認され、多くの行方不明者や負傷者が出ています。この火災をメディアは、 「ブッシュファイヤー(森林火災)」だと報じています。

「ブッシュファイヤー」とは通常、開発や産業によって植物たちを奪われた乾燥した地形で発生する火災です。多くの人が思い浮かべるハワイのイメージとは異なるかと思いますが、2023年夏のハワイは非常に暑く乾燥した気候となりました。こうした大規模な火災は今回が初めてではないものの、人的・物的被害という点では圧倒的に“過去最悪”と言えるほどの火災となっています。

ラハイナのメインストリートにあたるフロントストリートにたたずむある一軒家の写真(トップの写真)は、近隣で唯一消失を免れた家として、壊滅的な被害状況の中で注目すべき画像となっています(専門家の推計によると、約1万2000人が住むラハイナの町では、建物の約80%が倒壊したとのこと)。

この“奇跡の家”はネット上の話題となり、人々はこの家が残った理由についてさまざまな推測がなされています。が、実際はさまざまな要因が重なって働いたと考えられ、少なくとも“単に運が良かった”ということで結論づけられるものでもなさそうです。

an aerial view of lahaina devestation
Robert Gauthier//Getty Images
2023年8月11日(金)、山火事発生から数日後のラハイナの中心地。焼き尽くされ、建物からはまだ煙がくすぶっていました。

この家には他にはあまり見られない、火災に対するアドバンテージがあったそうです。そのアドバンテージとは、この家の所有者が家の周囲に建物から3フィート(約91センチ)幅で川石を敷き詰めていたことです。

地元メディア『ホノルル・シビル・ビート』によると、この家の所有者はもともと防火目的でこうしたのではなく、従来型の造園で必要となる水やりで家の基礎に水がかからないようにしたかったそうです。従来型の造園設計では、砂利敷きは植物を生育させたくない場所を“他から遮断するため”に使われますが、環境に配慮した造園においても大きな役割を果たしています。

火事の中、このエリアで唯一残った“ラハイナの奇跡の家”は“グリーン(環境に優しい)”な庭づくりが、火災などの問題から住宅を守るのに役立つことを浮き彫りにしたのかもしれません。

存在しない画像
2023年8月18日(金)、ハワイ州ラハイナの空撮写真。山火事で焼け野原になった地域に残る燃えた車や家屋。ラハイナとクラの街はこの前週、風にあおられ燃え広がった山火事で壊滅的な被害を受け、100人以上が死亡、数千人が避難を余儀なくされました。今も行方不明者の捜索が続けられています。(撮影:Justin Sullivan/Getty Images)

石の存在がシェルターとなって火災を防ぐ可能性があることは、皆さんも想像できるはずです。石・土は(その素材によって違いますが)高温になるまでは(参照:溶岩は通常900~1100℃)火を放つことはないでしょう。

火災の際に消防士たちは、まずは火が広がらないように穴を掘ったりするのはその考えからと言えます。また、耐火性のある中立的なカバーを広げるのもこの考えに基づいて火の流れをせき止めるためです。火事は恐ろしいものですが、このように化学的な対応に対し、それを覆すことはできません。とは言え、多くの家主はそのようなことは知りません。庭にどのような植物を植え、さらにどのような面(土や石、芝など)を選べば火災のリスクが減少するかを…。

マウイ島を教訓に
火災のリスクを減らし
環境にも優しい庭を考える

2023年、カリフォルニア州やアリゾナ州など特に気候に問題があるとみなされている州の住宅所有者は、芝生の代替物を検討するよう求められています。その理由は、水事情です。

これらの州は他の地域から水道管で運ばれてくる水資源に依存しており、水は貴重でコストがかかるため、「一般的な芝のような、外来植物の手入れにたくさんの水を使うのは避けるべきだ」という考えに基づいたものになります。

水が何不自由なく豊富に使える場所であっても、芝生への散水のような「雑用」とも言える仕事は億劫になりがちです。ですが、タイマー付きのスプリンクラーは費用が高くつくでしょう。借家に住んでいる場合は、芝生の手入れまで気にかけない人も多いでしょう。ましてや、住んでいる地域の降水量を常に把握しながら、スプリンクラーで水まきをするタイミングを計算することなど困難でしょう。

そして多くの人が詳しく芝生の手入れ方法もわからないまま、芝生付きの家を買っているのも現状かと思います。

これらが要因となって、庭の芝生が乾燥状態に陥っていくのです。そして、そこから火災が拡大するというわけです。

一方、コケ類や乾燥に強い植物、または石、あるいはこれら全てを組み合わせて地面を覆えば、人為的な理由による地面の乾燥が防げるはずです。川石や砂利を敷けば、降った雨を土に通してその表面を覆うので、水分が蒸発しにくい状態になるでしょう。コケは、小さな柔らかいサボテンのように水分を保持し、周囲の土の水分を保つのに役立ちます。

また、干ばつに強い植物(原生植物が多い)や極端な乾燥耐性を持つ輸入植物などは、水が少なくても乾燥して可燃性が高まることがないとされています。さらに、従来の芝とは異なる地覆いにすることで、刈らなくてはならない草を減らすこともできるでしょう。なお、刈った草も問題を生じさせます。それは乾燥しやすい場所に放置されることも多く、うっかりしていると最悪の場合には着火材となってしまう恐れもあるのです。

ボブ・グローバー氏は全米造園専門家協会(National Association of Landscape Professionals)のサステナビリティー(持続可能性)委員会の委員長を務め、ワシントン州とオレゴン州に複数の拠点を持つパシフィック・ランドスケープ・マネジメント(Pacific Landscape Management)の社長でもあります。グローバー氏は『ポピュラー・メカニクス』誌に対し、「伝統的に使用されてきた植物の多くは、かなりのメンテナンスが必要です。私たちは常に乾燥や虫害に強く、剪(せん)定やメンテナンスが最小限で済む植物を提案しています」と語っています。

同社は天候に応じて灌(かん)水を調整するなど、特定の問題に対して環境負荷が最小限となることを目指したソリューションを提供することに誇りも持っています。また、メンテナンスが少なくて済む植物を選ぶことで必要な水の量を減らし、全体的な灌水量を減らすことも。こうして、より少ない水でも健康な状態を保つことができるうえに乾燥しにくく、経済的でもあると同時に、より持続可能な庭地をつくることにもなるというわけです。

以上のことから、気候変動により山火事のリスクが悪化している地域の人々にとっての暫定的な解決策として、「より少ない水で生育し、乾燥を防ぐための特別なメンテナンスが不要な芝をつくること、つまり従来の芝とは違った素材を使い、砂利を装飾的に配置しながら、これまでの“芝生の庭”に代わる庭をつくること」が挙げられるでしょう(砂利を試してみたい場合は、計算機検索サイト「Omni Calculator」に必要な砂利の量を計算できる機能があります。)

lahaina evacuees wait to return
Getty Images
2023年8月11日(金)、山火事発生から数日後のラハイナを写した航空写真。風により火が燃え広がり、一帯が焼け野原に。
an aerial view of lahaina devestation
Getty Images
2023年8月11日(金)、マウイ島ラハイナ。山火事で住宅は灰と瓦礫に。

火災が発生しやすい地域の住宅所有者が、庭の手入れ方法を考える際に絶対に避けるべきものがあるます。それは可燃性のマルチング(mulch-ing)材です。「マルチ(mulch=根覆い)」というと、通常は蒸発と土壌侵食を減らすために広げられる腐植しかけの有機性保護カバーになります。が、趣味で畑仕事をしている人であればビニールやプレスチックフィルム製のほうが一般的でしょう。

つまり、いずれも可燃性であり、後者となると最悪とも言えます。可能な限り耐火性のあるガラス繊維などを使用したマルチシートを選ぶか、可燃性のマルチシートを選んだ場合には家屋から5フィート(1メートル50センチ)以上は離すようにしましょう。

source / POPULAR MECHANICS
Translation / Keiko Tanaka
Edit / Satomi Tanioka
※この翻訳は抄訳です