オーストラリアの森林火災の規模とその計り知れない被害による衝撃は、世界中の新聞の一面をかざる出来事でした。そして、2019年9月から続いていたこの大規模な火災にようやく終止符が打たれたのです。最も被害の大きかった東部ニューサウスウェールズ州の消防当局が、2020年2月14日に「全ての火災を封じ込めた」として事実上の制圧宣言をしたのです。

 これまでに少なくとも29人の死亡が報道されており、「この山火事で10億匹以上の動物(この数字は大きな動物を指すため、実際は昆虫などを含めるとはるかに大きな数字になる)が命を落とした」と示唆している専門家もいます。そして、1000万ヘクタール(10万平方キロメートル)もの土地が焼かれました。

 気候変動の影響によって、地球上の生命体に対して極端なまで影響を及ぼす自然災害は年々増加の傾向にあります。このことは、われわれが最も問題視すべき事象であることは間違いありません。しかし中には、「この山火事は人為的なものであったため重要視すべきではない」という意見もあります。つまり彼らは、「オーストラリアの火災と気候変動は何ら関係性はない」と言うのです。

 自然発火は、世界中の至るところで起きています。また、動物生態系が進化の過程において、火による影響を受けて利益をもたらしてきたことも事実です。われわれ人類は何千年もの間、この火によって生活スタイルや環境の変化に対して利益を得てきたことは間違いないのです。オーストラリアの先住人アボリジニの人々も行ってきた、火起こしや野焼きから多くのことを学ぶことができたのです。

 しかし、だからといって、この大規模な火災が自然火災だと断言できるわけではありません。人類が及ぼす影響によって起こる気候変動により、火災の発生率が急速かつ前例のないほど増加していることを示唆する科学的根拠も出ているのです。そして、それ以上に危惧すべき点があります。それは、この広大な地域に生息していた生態系の回復力をどの程度まで浸食しているかということです。

 前述したように、火災に順応した生物や植物が生き延び、回復することを期待することができます。ですが、そこにかかるコストや時間は莫大なものになる可能性があります。

Tree, Natural environment, Soil, Wood, Forest, Woodland, Plant, Wildlife, Trunk, Landscape,
Lisa Maree Williams//Getty Images

 自然界がこのような劇的なかく乱に対し、どの程度まで耐えられるのかは「まだはっきりとしていない」としか言わざるを得ません。森林火災はオーストラリアだけでなく、世界中で深刻さを増しています。

 中でもオーストラリアの森林火災は、史上最悪の記録を出してしまったのです。火災の発生率は、英国の高地など、通常では火災が起きること自体稀な場所でも起こるようになっています。他にも、牛肉の生産が盛んなブラジルのアマゾンや、世界で最もパーム油が生産されるインドネシアなど、農業の保全価値の高い地域でさえ火災の発生率は高くなっているのです。

 世界各地で起きている火災を考えると、本当に計り知れないほどの生物種が失われ、これらが本当に回復できるのかどうかを考えずにはいられません。オーストラリアだけでも、「火災によって700種以上の昆虫種が絶滅する可能性がある」と推定する人もいるのです。

 世界の生物多様性はすでに深刻な問題に直面しています。私たちはすでに、科学者たちが「第6の大量絶滅」と呼ぶ危機的状況の真っただ中にいるのです。

 最近の研究では、100万種の動物種が絶滅の危機に瀕していることが示唆されています。またこれは、「過去数百万年の中でも早い速度で、種が絶滅しつつある」と言います。オーストラリアの森林火災を例にあげると、ここでは哺乳類の損失率が最も高く、熱帯で火がつく可能性の高い既存の生態系の脆弱性が物語りました。

Wildfire, Flame, Heat, Natural environment, Forest, Fire, Vegetation, Atmospheric phenomenon, Northern hardwood forest, Tree,
Australian Scenics//Getty Images

 保護主義者は、オーストラリアを象徴するコアラなどの被害の大きさを最も懸念しています。一方で、「リージェント・ハニーイーター」や西部の陸生オウムなど、すでに危険にさらされている種の将来の見通しは全く不透明なままなのが現状です…。しかし、火災による生態系の被害を確認するためには、特定の種や亡くなった動物の絶対数ではなく、生物多様性を考慮することが重要ではないでしょうか。

 すべての種は、相互に直接的もしくは間接的に作用し、複雑なネットワークを築いています。食物連鎖は、それが最も理解できる縮図です。多数な植物や動物が失われると種の相互作用が崩壊し、災害の後に生態系が適切に機能するために必要な連鎖関係に大きく影響する可能性があります。したがって、コアラやカンガルーなどのカリスマ的な動物だけでなく、人間を含む相互作用する生物全体のネットワークの観点から、火災による生物多様性の損失を考慮することが不可欠なのです。

 ニューカッスル大学の経済学と環境保護の研究家 ダレン・エヴァンス氏は、ポルトガルで起きた火災による動物種の損失に関する研究をし、その結果を発表しました。これは、生態系の種の絶滅に対する回復力について調査した最新の研究になります。

 エヴァンス氏のチームは、焼けた場所で互いに作用する動物種のネットワークが脆弱となり、種の絶滅へと近づきやすくなっていることを唱えています。

 また2012年には、大規模な火災がどのように生態系を健康に保つための典型的生態学的相互作用の1つである、昆虫受粉に及ぼす影響を受けるのかの研究が行われました。この研究では主に、山火事において見過ごされがちですでもある…重要な花粉を媒介する昆虫の行動を調査しています。火事が起きた地域にいた昆虫と、起きていない地域の昆虫を捕獲し、比較したわけです。

Bush Fire I
Mollyposh//Getty Images

 そして、彼らが運んだ何千もの花粉粒を収集し、それを数え、識別することで昆虫と植物のネットワークを解読することができたのです。つまり、火に対する植物や動物の反応だけでなく、受粉プロセスへの影響に関して調べることに成功したのです。

 そして、これらのネットワークを利用して、火災が起きた後の生物種の回復力をモデル化しています。火災が起きた地域は、種子と根が土壌に残っているため、多くの花が咲いていることがわかりました。が、そこにつく種は、あまり豊富ではありませんでした。また、焼けた場所に運ばれた花粉の総量は、焼けていない場所に運ばれた花粉のわずか20%に減少していたのです…。

 エヴァン氏の分析は、これらの種が火災後の相互作用において重要な違いがあることを明らかにしています。この研究は特定の種における一定期間の記録で、時間の経過ごとに切り取られた一部の記録をもとにした研究でした。ですが、火災が起きた地の植物と昆虫のコミュニティーは、この障害で直接的な影響は受けなかったものの、種の絶滅へと近づいていったわけなのです。

 オーストラリアの森林火災における地域の再建に関しては、コミュニティーが破壊的な影響を受けたとき、政府と領土を管理する人々は生態系を保護し、再建を実現させるために賢明な判断が求められるでしょう。この判断とは特定の種ではなく、生態学的相互作用ネットワークを考慮しながら行うべきなのです。

 最先端の体系的ネットワークへのアプローチは、複雑な種のコミュニティー全体が互いに相互作用する方法を調べ、自然環境が実際に反応して回復する可能性があるか検証する必要があります。 45年以上前、生態学の専門家であり進化論者であり、保護主義者でもあるアメリカのダニエル・ハント・ジャンゼン氏は次のように記しています。

 「私たちは皆、動物の損失だけでなく、人間を含む全員の生存のために依存関係にある生態系の種間の相互作用の崩壊について、より一層気を配るべきなのです」と…。

Source / ESQUIRE IT