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第五章:今すぐ不調を正したい。追い詰められている人に医療ができること。

保険適用と保険適用外治療。テストステロン補充療法
1UPフォーミュラ」とは

食事や生活改善によって、自らテストステロン不足を解消していくことをおすすめします。ですが、その症状が重度である場合や生活が追い詰められている人は、医療機関に相談することもできます。そのためのプロセスをご説明します。ただし持病によっては、避けたほうが良い人もいますので最後までご確認ください。 

自分のテストステロン値を知る:2つの測定法

テストステロン値を測る方法は、2つあります。

①医療機関での診断(メンズヘルス外来、泌尿器科など)
②「HPテスティング」というキットでの唾液による測定

ただし②は、臨床検査ではありません。薬機法により「診断」をするものではありません。ある程度正確ではありますが、医療診断ではないので②でチェックした結果が出たのち、医療機関で診断することをおすすめします。

ホルモン補充療法

ノーベル化学賞を受賞したレーオポルト・ルジチカが、テストステロンの合成に成功したのが1935年。第二次大戦以前からテストステロン補充が「疲れる」「体調が悪い」など、原因のはっきりしない男性の不定愁訴を改善することが知られていました。

日本以外の多くの国で、テストステロンを補充する製剤が売られています。日本にもありますが、現行の保険適用のテストステロン製剤は筋肉注射であり、痛みも伴いますし、あまりいいとは言えない薬です。皮膚から吸収させる軟膏もあり、歌舞伎町の薬局などで売られているものの、アンチ・ドーピング機構はこのテストステロン製剤を禁止しているなどの事情も鑑みると、これもまたあまり奨励されるものではありません。

ホルモン補充療法がここまでおざなりにされてきた背景には、「定年制度にある」と思われます。人口がこれまで過密だったので、一定の年齢がきたらさっさと引退してくださいという社会で、そのため定年制度もしっかり機能していました。よって男性が更年期で悩む時期は、社会から引退した後になるわけです。そこで生じた悩みを訴える必要も、克服する必要性もあまりなかったというわけです。欧米は年齢による差別が日本ほどなく、更年期が顕著になる年代も働くことが多いために広がったと考えられています。

そこで現在においては日本の専門医師が集まり、新しいテストステロン・ゲルの開発を進め、(あくまで認定学会ですが)日本メンズヘルス学会が認定した医師が処方し治療にあたっています。吸収力が高く、べたつかず、副作用が少なく、輸入製剤より安価です。

補充薬「1UPフォーミュラ」

「1UP学会」が開発したこの薬は、テストステロン5%製剤の皮膚外用薬(塗り薬)です。自費診療の処方薬で費用は1カ月1万円程度。女性にも使用できます。女性がこの治療を受けて髭が濃くなるのであれば量が多すぎる証拠となるので、同時にAGA薬を使って髭を生えなくなるよう導くこともできます。

男性更年期
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1UPフォーミュラ

注意点:補充療法を避けたほうがいい人

ただし肝硬変、重篤な医療を受けている人、前立腺がんがある人は避けるように厚生労働省は奨励しています(前立腺がんに関しては、専門学会では問題ないとしています)。


編集者が実際にテストステロンチェック。意外な結果が

以上レクチャーを受け、この記事の編集担当「男らしさ」とは程遠いエディターさんが前述の「HPテスト」で男性ホルモン=テストステロン値をチェックしました。これは同世代と比べて値が高いか低いかを比較するものです。すると……平均値より高いことが判明しました。見た目の「男らしさ」と男性ホルモン値は関係ないことが、ここで確認できました。

男性更年期
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担当編集者のテスト結果。
テストステロン 男性更年期
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結果とともに送付されるアドバイス。

これまでテストステロンは、「男らしさ」の象徴かのように語られてきました。ですが、「男は黙って●●」「男は弱みを見せるな」といった昔ながらの「男らしさ」への追求によって男性の更年期治療の機会を奪われることとなり、テストステロン値をさらに低下させていったと言えるでしょう。

先に解説したように、テストステロンとは人間の前向きさ、もっと言えばその人本来の「自分らしさ」を支えるもの。攻撃的で暴力的な「有害な男らしさ」こそ逆に、テストステロンの不足から来るものだと考えています。 

〈了〉

堀江重郎(ほりえ・しげお)/順天堂大学医学部大学院医学研究科教授、日比谷国際クリニック メンズヘルス外来担当医師

昭和60年医師免許取得後、米国テキサス州で医師免許取得。男性ホルモンの低下に起因する様々な疾患の診断と治療を行う日本初の男性外来「メンズヘルス外来」を立ち上げ代表理事を務めるなど、日本の泌尿器科医療をリードする第一人者。これまで泌尿器科学に加えて、救急医学、腎臓学、男性医学を学び、日米で医師免許を取得し、泌尿器科の手術は、がんの手術にはじまり、腎移植、外傷後の尿道再建、腹腔鏡手術、内視鏡手術など、海外を含む9つの病院で幅広く研鑽を積みます。当院では男性更年期外来にて、アンチエイジングと男性医学の研究に基づいた、常に最善の対処を念頭においた診療を行っている。 

Edit: Keiichi Koyama