暗記ではなく、
フィーリングで選ぶ
“ワインの道”

本連載は羅列された文字を暗記するのではなく、友人や家族、そして大切な人を思い出すかのように、感覚的にそのワインが持つ魅力をイメージできたら、という思いからスタートしました。

ワインスタイリスト藤﨑聡子さん監修のもと、文字通り“個性豊かな性格”を擁する希少なワインがイラストレーターInigo Studioの感性と溶け合って、「人間の姿へと置き換えたカタチ」でお届けいたします。生産地・歴史などはそのままに、そのワインが繰り出す性格に関しては、“独断と偏見”によって一例となるよう具現化(フィクション)していきます。そう、このお話は、「ワインの可視化」を目指したものです。

これまでにイタリア、フランス、英国のワインに注目してきました。前回は中東の国レバノンのワイン「シャトー・ミュザール」と出逢い、その声をこと聴くに挑戦。そのワインメーカーであるセルジュ・ホシャール氏は、1984年に英国のワイン専門誌『デキャンター(Decanter)』で、「マン・オブ・ザ・イヤー」に輝き脚光を浴びた人物でもあります。

そして今回は…、その『デキャンター』が主催する国際ワイン品評会「デキャンター・ワールド・ワイン・アワード」にて、2021年にゴールドメダルを獲得した日本ワイナリーのワインに焦点を当ててみたいと思います。

「日本ワイン」と
「国産ワイン」の違いは?
その定義

既にご存知の人も多いと思いますが、まずはおさらいから。

「日本ワイン」の定義とは、日本国内で栽培されたブドウを100%使用し、日本国内で醸造されたワインを指します。そして「国産ワイン」とは、外国から輸入したブドウや濃縮果汁を使用して国内で製造されたワインをそう呼びます。

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「日本ワイン」の特徴と魅力は、一般的にその多様性と品種の豊富さが挙げられると言われています 。そしてワインが語り掛けてくれるのは、味の奥深さだけではありません。それが生き物であることを再確認させてもくれます。「ワインとは人、そしてその味は、ライフスタイルそのものである」と確信させてくれるのです。

それでは物語をはじめましょう…。

キャメルファームワイナリー
「ピノ・ノワール
プライベートリザーブ 2019」
と出逢う

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積丹(しゃこたん)ブルーな日本海からの爽やかな風が吹き、太陽の光が降り注ぐ日に、その青年と逢いました。これまで「成熟」した「伝統の長い」ワインと対話をしてきましたが、今回は若くアグレッシブな印象です。実際はどうなんでしょうか。

Q.初めまして。本日はよろしくお願いいたします。

お待ちしておりました。こちらこそ、よろしくお願いいたします。

Q.最初にご出身を教えてください。

出身(畑)は…、北海道・余市町です。なだらかな丘陵のこの地区は、北側は眼下に日本海を望め、海からの風がミネラルを運び、三方を山で囲まれています。冷涼な北海道の中でも温暖な気候に恵まれた地域です。そして、昼夜の寒暖差が大きいエリアです。

余市町と言ってもイメージが付かないかもしれませんので、「小樽市から海外沿いを北へ向かった位置」と言えば分かりやすいでしょうか。北緯43度の環境下で育ちました。例えばヨーロッパと比較すると、仏・シャンパーニュ地方などと同じ「RegionⅠ」(アメリン&ウィンクラーの気候図参照)に属するに位置していますよ。

土壌は凝灰質砂岩と、粘土が交じり合っています。もともとはリンゴ農園だったんです。

Q.リンゴ農園だったとは、とてもおもしろいですね。穏やかな気候で、恵まれた風土で育ったワケですね。まだ、お若いように見えますが…。

実家(ワイナリー)は…ブドウ畑に隣接する醸造所を2017年にオープンさせ、イタリアの醸造家リカルド・コタレッラ氏の協力のもと、伝統的製法と最新技術を織り交ぜた醸造を開始しています。

若く見えるかもしれませんが、この余市においては1980年代から積み重ねられてきたブドウ栽培のノウハウをもつテロワール(風土・土地の個性)でもあるんです。

「ブレない安定性を追求」

Q.先ほどおっしゃていた、最新技術と言うと?

私のDNA(ブドウ品種:セパージュ)は、「ピノ・ノワール」100%です。ご存知の通りピノ・ノワールはセンシティブな品種で、温度管理が大変で栽培の難しさがあります。ワイン造りは伝統的でアナログな作業であると同時に、データ管理など非常に理系な面も兼ね合わせています。その品質維持は、品種・年号・産地・醸造方法など…違いによって千差万別ですので、どんな環境条件でも品質の安定性が求められます。そういった面で、最新技術を活用しデータを毎日記録して保存しているというわけです。

これまでの協力の中でコタレッラ氏から、「必要以上に質問をするのではなく、見て覚えなさい」と説明を受けたこともありますね。

Q.とても硬派な面もあるんですね。なんだか、イタリア人も日本人も少し似ている気がしました。

もうひとつ共感してもらえそうなのが、ここは実にファミリー企業的な雰囲気で、皆が職人気質であるところでしょうか。収穫から醸造工程…ボトリング工程と、熟成工程をすべて少数精鋭で行っています。スタッフの全員の顔と名前を知っていたほうが現場も楽しいですし…。古いタイプとある人は言うかもしれませんが、現場で全行程をみることに価値を持っています。

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働く現場は、自然豊かな環境に身を置けることに幸運を感じていて、さらにアートに囲まれた部屋もワイナリー内にあるので、多方面でインスピレーションを受け、仕事に活かすことができています。

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Q.ずっと余市町育ちですか?

生粋の余市っ子です。DNAはフランス(ピノ・ノワール)を継いでいますし、醸造の哲学はイタリアを継承しています。小さな町出身ではありますが、私の視界は広く世界へとつながっているんです。

Q.服装は、とてもリラックスした雰囲気ですね。こだわりは?

今日はストライプのシャツを選びました。トップスは着心地の良いものを選ぶようにしています。積丹ブルーを彷彿させる爽やかなカラーが好きです。こだわりとしては…いつも「デニム」を穿(は)いていることでしょうか。

Q.LEVISのジーンズですか?

違います。「デニム」です(笑)。ご存知の人も多いと思いますが、“デニム(denim)”というのは、南仏ニーム(Nîmes)地域の綾織りの布地(サージ)「serge de Nîmes(セルジュ・ドゥ・ニーム/ニーム産のサージ生地という意)」が、デニム生地の発祥と言われています。その名称が短縮され、「ドゥ・ニーム」そして「デニム」という表現が生まれたと一般的には解釈されています。

そして、この南仏ニームは現在では「フランスの中のローマ」と呼ばれるほど、古代ローマ時代の遺構が数多く残る場所としても有名です。フランス文化とイタリアの雰囲気が混ざり合うこの都市に、とてもシンパシーを感じています。そういった意味で、自分と重なる歴史を持ったこのアイテムが好きなんです。

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Q.最初にご挨拶したとき、バニラのような甘く、コーヒーのような香ばしさ…スモーキーな熟成感のある複雑な香りがしました。

ありがとうございます。心地よい余韻が続くように…そして、エレガントさのある香りを心がけています。

スモーキーな成熟感を感じてくださったのは、樽由来のものですね。重過ぎす、時間が経過しても疲れないと思いますよ。

「私は食卓を一緒に囲む、友人です」

Q.どういったシチュエーションが好きですか?

家族や友人…、そしてゲストを招いて、テーブルを囲んだカジュアルな楽しい雰囲気で飲むワインが一番好きです。

多種多様なワインの中には、“緊張感のあるワイン”と表現されるものがあります。凛とした印象とも言い換えられますが、私は日常生活に溶け込み、家族や友人と会話を楽しみながら飲むワインが好きです。

そこは緊張感とは無縁の、解放された空間です。「ピノ・ノワール プライベートリザーブ 2019」は、食卓を一緒に囲む友人なんです。

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NIGO STUDIO
キャメルファームワイナリー「ピノ・ノワール プライベートリザーブ 2019」750ml、8800円(税込み)購入はこちらから
  • 葡萄品種(セパージュ):ピノ・ノワール 100%

▽藤﨑聡子のテイスティングノート▽

「ピノ・ノワール」の世界は一般的に大きく分けて、「フランス」「南半球」「アメリカ」に分かれると言って良いと思います。同じ品種でも「ここまで味わいが違うのか…」と感動できるのも、「ピノ・ノワール」の特徴と魅力です。

そして今回の余市で栽培された「ピノ・ノワール」は、「“新しいピノ・ノワール”の存在を打ち出した」と言っても過言ではないでしょう…そう思っています。歴史ある「ピノ・ノワール」の生産地すべての良い部分をまとめ上げたイメージです。
 
香りはチャーミングで非常に繊細、ひと口含むと果実の上品さが現れてきます。濃厚だけれど強すぎずしなやか…余韻に香りがしっかり残ります。雑味もなく素直な印象です。

2019年とは思えない“こなれた熟成感”もあり、今飲んでも十分楽しむことができます。一方で、あと2年熟成させたらどのような表情になるのか? 私にとって非常に興味が湧いてくるワインでもあります。「良いワインに出逢えた」と友人に伝えたくなる存在の1本です。

●彼に出逢う方法:キャメルファームワイナリー公式サイト