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inigo Studio

ワインを購入するとき、そして、「次はどれにしようか?」と探すとき、皆さんは何を参考に自らの条件にマッチするかを判断していますか? スノッブな玄人(くろうと)風に言うなら、「食べ物以前に、心とワインをマリアージュさせるためにどう選んでいますか?」です。

 なにせフランスの生化学者ルイ・パスツールに、「一本のワインのボトルの中には、全ての書物にある以上の哲学が存在する」と言わしめたほど価値あるお酒です。複雑でややこしいワインの仕様書につづられた「醸造年」や「ぶどうの品種」、さらにはその「ブレンド率」や「産地」、「糖度」などなどの説明、およびそのワイナリーの歴史と共に産地の土壌と嗜好、その原料となったぶどうが育った年の気候までを踏まえて覚えることなど、そう何本もできるものではありません。

 例え覚えていたとしても、その情報から「どのような味か?」「どのような性格か?」「どのようなシチュエーションに合うか?」をイメージすることなど、ワインの道を生業にしているプロフェッショナルにしかできっこないのでしょう。少なからず私(筆者)は、完全に無理です。それを覚えるだけの時間と脳のスペースがあるなら、その分このエネルギーを他のことに注ごう…と、私なら考えてしまうからかもしれません。

 そう、パスツールじゃありませんが、世に存在する哲学者の数のように、ワインの仕様は千差万別としか言いようがありません。さまざまある条件はすべて、連続した数値で成り立つもの。まさに時間のよう…アナログとも言えるほど連続した変化になっているわけなので、その組み合わせ数は無限大。自然がそれぞれ持つ力が組み合わさってできたものでもあり、数字だけでは片づけられない法則でもあるのです。 

暗記ではなく、
フィーリングで選ぶ
ワインへの道

 そんなわけでこの新連載では、羅列された文字を暗記するのではなく、友人や家族、そして大切な人を思い出すかのように、感覚的にそのワインが持つ魅力をイメージできたらという思いからスタートしました。

 ワインスタイリスト藤﨑聡子さん監修のもと、文字通り“個性豊かな性格”を擁する希少なワインがイラストレーターInigo Studioの感性と溶け合って、「人間の姿へと置き換えたカタチ」でお届けいたします。生産地・歴史などはそのままに、そのワインが繰り出す性格に関しては、“独断と偏見”によって一例となるよう具現化していきます。そう、このお話は、「ワインの可視化」を目指したものなのです。

 そんなこれらのワインが教えてくれるのは、味の奥深さだけではありません。ワインは生き物であることを、再確認する場でもあります。言わば「ワインとは人、そしてその味はライフスタイルそのものである」ということも証明できればと願っています。

 それでは物語の、はじまりはじまり……。

▽「オルネッライア 2017」と出逢う

 彼にインタビューをさせていただく機会を得ました。こちらの緊張もあったせいか、お会いしたときの第一印象は、物静かな印象…。甘いシガーの香りとバニラ調のフレグランスの香りを纏(まと)っていました。

 例えばワインをグラスに注ぎ、空気に触れると温度が変わっていきますよね。時間が経過するにつれて味が変化してくるのと同じように、彼はスロースターターなのかもしれません。

 こうなったら思いつくまま質問を重ねていくのではなく、相手が話しかけてくれるまで少し待ってみることにしました。するとゆっくりと、彼は話始めてくれたのです…。


▽「オルネッライア 2017」の声を訊く

 ……今日はとても天気が良いね。太陽の光が気持ち心地よい。暑くて日照量の多いイタリアの故郷みたいです。

Q.素敵に日焼けした肌ですね。ご出身はイタリアのどちらですか?

 トスカーナのボルゲリという、ティレニア海と山に挟まれた小さな村出身です。海岸からは10キロくらい離れていますが、地中海性の温暖な気候で、いまもボルゲリを拠点にしています。

この辺りは大昔海底だったのですが、自然の力で今のような土地が生まれました。少し山に登ると、きれいな景色も見ることができますよ。沿岸から届く風も気持ちよくて、本当に過ごしやすい土地なんです。

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Q.ずっと、ボルゲリに住んでいるんですか? 都会に住んだことは?

 ボルゲリからフィレンツェまでは、クルマなら2時間くらいで行けますよ。だから、フィレンツェのような大都会に住んた経験もあります。

 でも、田舎の村のほうが肌に合っているんです。山の天気、海の風、自然の環境は心が落ち着くんですよね。

Q.毎日、欠かさず行っているルーティンはありますか?

 家族の愛犬と過ごすのが好きです。犬種はジャーマン・シェパードで、朝晩毎日、その相棒と一緒に散歩しています。

Q.ワンちゃんとはいつ出逢ったのですか?

 2017年に迎え入れました。この年はとても暑くて、歴史に残るくらい乾燥した年だったので覚えています。例年の平均気温よりも3度ほど高くて、平年並みの降雨量の非常に温暖な冬でした。

Q.春夏秋冬と、その年はタフな気候だったんですか?

 愛犬との散歩が始まって、季節の流れを改めてすごく感じるようになりました。

 2017年は4月の終わり頃、急激な気温の降下によってトスカーナの多くの地域でも霜が降りる日もありました。一方海岸沿いでは、海に近いおかげで気温が氷点下を下回ることもなく、5月には暑さと日照りが戻るといった素晴らしい気候の年でしたね。

 夏(7~8月)になるとほとんど雨も降ることなく、日中は気温も高く暑いのですが、夕方からは風もあって夜は低い気温になる…。まぁ、“地中海特有の”過ごしやすい日々でした。そうして9月の終わり頃まで晴れて暑い気候が続いた年でしたね。

 トスカーナといえば糸杉(イトスギ)並木…、天気の良さに誘われて近所の並木道まで行ったら家に戻るというのが、私と愛犬との散歩コースなんですよ。アウトドア派なので、自然の中にいるほうが落ち着きますね。

Q.田舎暮らし擁護者ってわけでしょうか?

 別に「世捨て人」になったワケではありませんよ。バランス感覚は大切にしています。刺激を与えてくれる、フィレンツェのような大都会も大好きです。でも、僕にとって世界としっかり対話するには、田舎というか、自然の世界にいたほうが良い環境なんですよ。昔ながらの友人も多いですし…。

Q.ご友人とはよく会うんですか?

 自宅によく招いていて、料理とワインを一緒に楽しんでいます。シェフも自宅に招いてね。

Q.なんだか、リッチな感じですね?

 そんなことないですよ。…んん、そうなのかもしれないけど、自分が一番心地いいと思える場所に、大切な仲間を呼んで同じ時間を共有する…そういったことこそが、人生において最も価値あることだと思っていいます。そういった意味では、“リッチ(豊か)”ですね。それにシェフは幼馴染だから、僕の好みを全部知っているというのもあります。

Q.では、ワインを飲むシチュエーションは仲間と一緒にディナーがベスト?

 それも好きですが、夕暮れを眺めながら、ひとりで飲むのも好きです。あ、でも僕の場合は、2杯目になる頃にはもうすっかり暗くなっているんですけどね…。

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  • 葡萄品種: カベルネ・ソーヴィニヨン56%、メルロー25%、プティ・ヴェルド10%、カベルネ・フラン9% 

▽藤﨑聡子のテイスティング ノート▽

 「トスカーナ」と言えば、サンジョヴェーゼ種が主流の中で、あえてフランス品種だけでまとめあげた赤ワイン。

 タンニンの柔らかさはブレンドから来る深みをまとい、果実のボリュームは成熟のレベルが高いことを感じさせてくれます。余韻の長さにも驚きます。これは一口より二口目…と、飲むごとに香りの広がりとともに続いていくわけです。

 「丁寧に育てられたブドウというのは、このように味わいが変化ていくのだ」、とわからせてくれる1本。ボルドータイプのグラスで楽しむことをおすすめします。

 また、時間の経過を感じたい場合は、アペリティフのときに抜栓、しばらくゆっくり空気に触れさせると良いでしょう。このくらいしなやかな赤ワインだと、ステーキはもちろん野菜のグリルとも合わせやすいです。現在では「2018年」がリリースされていますが、「2017年」は貴重ゆえ見つけたら即買いを…。

●彼に出逢う方法:「オルネッライア」公式サイト(伊・英対応)