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※本記事の「障がい」の表記については、「障害」は「障がい」と「害」を「がい」とひらがな表記します。「害」の字は、身体障害者福祉法の制定の際に「礙」や「碍」(礙の俗字)の字が当用漢字の制限を受けて使用できないため、代わりに使用されるようになった経緯があると言われていますが、「否定的」で「負」のイメージが強く、別の言葉で表現すべきとの世論があり、また「障害者」という表記は、ピープルファースト(障がい者である前に人間である)の理念からも適切ではないと判断し、「障がい」と統一しております。ただし、法令や条例等に基づく制度や行政宛の公式文書、専門用語として漢字が適当な場合には漢字表記「障害」としています。

これまで株式会社TENGAでは、「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」というビジョンのもと、障がいによってTENGAが自分で使用できない人に向けた補助具の製作や提供を行ってきた他…、障がいがある人を支援する活動「able! project」を始動させ、2022年5月には埼玉県川越市に就労継続支援B型事業所「able! FACTORY」を開設。障がいのある人の就労の支援も開始しています。

このことは「エスクァイア」でも、哲学者で作家のシモーヌ・ド・ボーヴォワール著『老い』の中の展開する言葉とともに2022年4月公開の記事で紹介しています。ここで再び引用するなら、ボーヴォワールは「老人=情欲から解放された清らかな(純白な)存在」という(われわれが持つ)ステレオタイプの老人像に対し、疑問を投げかけています。そして老いてからの性愛の必然性と、近代になって(社会から)性欲を否定された人々について論じているのです。

「その性欲を否定された存在は、老人であり、子ども、そして障がい者である」とも…。そして、「社会的に刷り込まれた観念のような規範によって、タブー化されている」と説明しています。その社会的風潮は、「多様化が叫ばれて久しい現在でも、いまだ根を張っている」と言えるでしょう。

そうして、そこにメスを入れるかのように障がいを持つ人たちの“性に関する相談・悩み”にも積極的に答えていくのが、株式会社TENGAの取り組みです。「エスクァイア デジタル」編集部はこれに共感し、「障がい学」「感情社会学」の視点から株式会社TENGAが実施した「身体障がいがある人の恋愛事情や性生活に関する調査結果」を紹介したいと思います。

「身体障がい」とは何か?

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Malte Mueller//Getty Images

障がいがある人の恋愛事情や性生活について知るにあたり、まずは「障がい」の違いについて考えてみましょう。

障がいの状態や障がいがある人の置かれている環境はさまざまであり、「障がい」とひと言でくくることは難しいことはご理解いただけるかと思います。先天性の人もいれば、事故や病気による後天性の人もいます。そして障がいの種類や、人それぞれ抱える悩みや不満にも違いがあるものです。

例えば、「階段」に対して感じる“不便さ”ひとつとっても、障がいの種類によって内容が異なります。肢体不自由で車いすを使われている身体障がいの人は、階段を一人で降りることが物理的に難しいでしょう。知的障がいがある人にとっては、階段を物理的に降りることはできても、「その階段が降りても大丈夫な、安全な階段かわからない」といった不便さを感じるかもしれないのです。

近年のコロナ禍による不便さもさまざまで、人との接触を回避するために導入されたセルフレジに関して、視覚障がいがある人の場合はこれを操作をすることは難しいことでしょう。またマスクによる不便さとして、聴覚障がいがある人にとっては口元の動きや表情が見えづらくなったためコミュニケーションが難しくなったことは否めないはずです。

このようにひと口に「障がい」と言っても、その種類によって困っていることや求めていることが全く異なります。そこでまずは身体障がいについての、基礎的な情報をご紹介します。

障がいの種類について

障がいは「障害者基本法」にも明記されているように、「身体障害」、「精神障害」、「知的障害」の3つに区分され、身体障害者福祉法に定める身体の障害のある方に対して都道府県知事・指定都市市長などが交付する「身体障害者手帳」、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の下に定められている制度である「精神障害者保健福祉手帳 」、法律で定められているわけではなく都道府県・指定都市が独自に要綱を策定して実施している「療育手帳」の交付を受け、各種の福祉サービスを受給することができるようになっています。

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内閣府「令和4年版 障害者白書」

厚生労働省による調査を総合して内閣府が発表した資料「障害者の状況」によれば、障がい者の概数は、身体障がい者(身体障がい児を含む)436万人 、精神障がい者419 万3千人、知的障がい者知的障がい児を含む109万4千人となり、国民のおよそ7.6%に何らかの障がいがあるとのこと。

その中でも身体障がいとは、「先天的あるいは後天的な理由 病気や事故の後遺症などで、体の一部に障がいが生じている状態のこと」を言います。身体障がいの区分は、「身体障害者福祉法」に基づき、それぞれ等級が1~7級まで定められています。7級の障がいは、 単独では「身体障害者手帳」の交付対象にはなりませんが、7級の障がいが2つ以上重なる場合には「身体障害者手帳」の交付を受けられます。

身体障害者手帳の障害分類

  • 視覚障害
  • 聴覚・平衡機能障害
  • 音声・言語・そしゃく障害
  • 肢体不自由(上肢不自由、下肢不自由、体幹機能障害、脳原性運動機能障害)
  • 心臓機能障害
  • じん臓機能障害
  • 呼吸器機能障害
  • ぼうこう・直腸機能障害
  • 小腸機能障害
  • HIV免疫機能障害
  • 肝臓機能障害

「身体障害者手帳」の交付対象は、「身体障害者福祉法別表」に掲げる身体上の障がい(上の表を参考)が一時的ではなく、永続することとされています。

身体障がいがある354人に聞いた、恋愛事情・性生活に関する調査結果

「障がいがある人の性」について語ることは、当事者においても第三者においてもタブーとされる風潮があります。一方で、立教大学コミュニティ福祉学研究科の研究論文によると、「自立生活前の『あきらめ』の中で一番多かったのは、性・異性・結婚に関する『あきらめ』であった」という報告もされています。なかなか語られてこなかった「性」について、実際にはどのような課題があるのでしょうか。

株式会社TENGAは今回、身体障がいがある方354人を対象に調査を行いました。またその結果をもとに、障害学・感情社会学の専門家である慶應義塾大学文学部教授の岡原正幸先生にもコメントをもらっています。

岡原正幸(おかはらまさゆき)先生
慶應義塾大学文学部教授

岡原正幸(おかはらまさゆき)先生
…慶應義塾大学文学部教授。1957年生まれ。80年慶應義塾大学経済学部卒業、87年同大学院社会学研究科博士課程修了。専門は障害学、感情社会学。著書編著に『アート・ライフ・社会学』『感情資本主義に生まれて』、共著に『感情の社会学』『生の技法』、訳書に『地位と羞恥』(S・ネッケル著)がある。

障がいゆえの悩みが1位。
一方で障がいの有無を超えた悩みも…

恋愛に関する悩みの1位となったのは、「障がいを理由にうまくいかなかった経験がある」でした。悩みの例として、「デートに行くにもバリアフリーか否かなど気をつかう」「恋愛はしたいが、自分のことが相手に負担になるんじゃないかと躊躇する」などの自由回答が挙がっています。

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セックス、マスターベーションは半数以上が経験あり。半数以上が満足

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株式会社TENGA提供

セックスの経験率は全体で63.0%でしたが、男女差があり、女性のほうが約2割高い割合でした。またセックスの満足度について、「満足している」もしくは「まあ満足している」と回答した人の割合は男性が63.5%、女性が53.3%でした。

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マスターべーション(セルフプレジャー)の経験率は、ともに6割を超えていました。また、マスターベーション(セルフプレジャー)の満足度について、「満足している」もしくは「まあ満足している」と回答した人の割合は男性が67.0%、女性が64.7%でした。

「あまり満足していない」もしくは「満足していない」と答えた人から、その理由として最も多く挙がったのは、「自分の性欲を持て余している」(26.3%)でした。次いで多かったのは、「性的な行為がうまくできない(触れない、快感を感じられないなど)」「性的快感を感じられない」(25.0%)です。

「セックス経験の男女差について」岡原先生のコメント

いまだに恋愛や性の場面においては「男性のほうが能動的であるべき」という風潮がある中で、「障がいのある男性は能動性を発揮しづらく、セックスまで至らない」という傾向があるのではないでしょうか。

また、女性のセックス経験者の比率が男性よりも高いのは、男女でセックスの定義が異なるからかもしれません。男性にはペニスを挿入しなくてはならない、挿入すべき、というプレッシャーがある一方、女性の場合は「挿入を伴わない」身体の接触もセックスと認識しているケースも多いと思います。

性の話は友人にもしづらく、
相談できる場所が欲しい

性介助経験の有無を訊いたところによれば、全体で4.8%と低い結果となっています。男女別だと、男性は6.8%、女性は3.2%でした。

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株式会社TENGA提供

性の相談では男女ともに、「いない」が最多となりました。特に女性は、恋愛に関する相談では「友人に恋愛の相談をする」と答えた人は7割を占めていましたが、性の相談では4割を下回る結果に。

しかし、「性の話をして何か変わったことはありますか?」という問いには66.0%が「気持ちが楽になった」と答え、8割以上がポジティブな回答をしています。

「友人に、恋愛相談はできても、性の相談はしづらいのはなぜ?」岡原先生のコメント

健常者のように、外に出て気軽に友だちをつくれるような環境ではないことから、友人との関係にはとても気をつかっている人も少なくないでしょう。そのため、恋愛の相談はできても、性の話をすると嫌われるのではないか、関係性が変わってしまうのではないか、と考えて慎重になってしまうのかもしれません。

さらに、性の悩みは家族や介助者など身近な人には相談しにくいものです。障がいのある方が気兼ねなく性の悩みを相談できる場所や、プラットフォーム、コミュニティなどが今後必要になってくると考えています。

「性の話を相談したい人」が7割

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株式会社TENGA提供

「性の話を相談できる場所が欲しいか」という設問では、約7割が「欲しい」と回答しています。中でも「性の話を相談できる相手がいない」と答えた人の中で約7割の人が、「思う」「まあまあ思う」と答えるなど需要が高いことがわかります。

性の情報源は男女差あり

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性の情報源としては、男性の約7割は「アダルトビデオ」、女性は「web記事」と「友人や知人」、さらに「学校教育」が上位になっています。

身体障がいがある人のアダルトグッズの使用率は男性約5割、女性約4割

セクシャルウェルネスな状態(自分の性的欲求を肯定し、楽しめて、心身が満ち足りている状態)に関しては、2022年4月に行った健常者を対象者とする別の調査の女性の得点より、身体障がいがある女性の得点のほうがやや高い結果となりました。

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株式会社TENGA提供

「セクシャルウェルネスの度合の男女差について」岡原先生のコメント

先述の通り男性は、女性に比べて能動的に動くべきという考えや、「挿入」が前提のセックスというのがいまだにスタンダードなので、思うような行為ができず健常者よりも低い値になっていると考えられます。

一方で女性の場合、セクシャルウェルネスな状態が健常者よりも高い理由としては、もともとの期待水準が低いからかもしれません。「障がいを持っているけれどセックスができた」、「期待していなかったけれど、セクシャルな行為をする機会に恵まれた」ということだけで満足感を感じて、得点を高くつけた人もいたのではないかと思います。加えて、障がいがある女性のパートナーである男性は、自分の欲求を満たすだけの身勝手なセックスではなく、相手の体に注意し気遣いのあるセックスを行っている可能性も考えられます。

アダルトグッズの経験率と使用意向

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株式会社TENGA提供

男性の約9割が「アダルトグッズを使ったことがある・使ってみたい」と答え、女性も6割以上が同様の回答でした。また、アダルトグッズの利用経験がある方のうち、64.4%が使ってみて「良かった」「まあ良かった」と答え、ポジティブな回答が目立ちました。

「アダルトグッズの利用経験率の高さ」岡原先生のコメント

まずこの数値の高さは、「ネットで手に入れられるようになった」という要因も大きいでしょう。また、医療機器とまでは言いませんが、「アダルトグッズは、自分のケア・サポートのために必要なもの」と解釈して使っている方も少なくないかもしれませんね。

身体障がいのある人に聞いた性のリアルボイス

Q.セックスやマスターベーション(セルフプレジャー)をするために、どのような補助具があれば使いやすいと思いますか?

  • 麻痺の手で握れないので、手とアダルトグッズを固定できるバンドが欲しい(20代前半男性・半身麻痺・後天性・障害者手帳2級 )
  • 体位を保てるクッション等が欲しい(40代前半女性・下肢、体幹、ぼうこうまたは直腸・後天性・障害者手帳2級)
  • 臀部の感覚がほぼ無く何か漏れていたり分からないのでシーツを汚さないマットまたはタオルのようなものがあれば安心(20代後半性別無回答・下肢・後天性・障害者手帳4級)

Q.恋愛や性についてしてみたいことや知りたいこと、不自由を感じることや悩み事などがあれば、どんなことでも良いので教えてください。

  • 機能的にも見た目にも自分の身体にコンプレックスがあり、恋愛に積極的になれない(20代後半女性浄化し・上下肢,先天性・障害者手帳1級)
  • 死ぬまでにセックスをしてみたい(20代後半女性・上肢、下肢、体幹、音声、言語またはそしゃく・後天性・障害者手帳1級)
  • コンドームを自分でつけられない(30代前半男性・上下肢、体幹・後天性・障害者手帳1級)
  • 介助者に頼みづらい、誰に相談していいかわからない(20代後半女性・上下肢、体幹、視覚、心臓、ぼうこうまたは直腸、免疫機能、高次脳機能・後天性・障害者手帳1級)

「性の悩み・リクエストについて、介助者にどう伝えるのがよいのか?」岡原先生のコメント

例えば重度障がいの人の介助の場合、「トイレの介助方法」「体位交換の頻度」「掃除の頻度・範囲」など、何をどのように介助してほしいかのすり合わせを事前に行うのが一般的です。性的なサポートについても、「グッズの購入代行」などを含め、その都度その都度要望を伝えるのではなく、カウンセリングシートのような形で事前に出し、介助者側もこのリクエストには応じられる/これには応じられないと、すり合わせができるような環境を整えられると良いのではないでしょうか。

Q.あなたが「セックスしたい」と思っていることや性体験を得ることについて、社会や世間、自分の家族からはどのような反応がありましたか?

  • 障がい者(身体不自由)は性行為をしない、できないという認識の人が多く、驚かれる(50代前半女性・上下肢、体幹、ぼうこうまたは直腸・後天性・障害者手帳1級)
  • 障がい者は聖人のように扱われることもあって、性がタブーなイメージで話される(20代後半性別無回答・下肢・後天性・障害者手帳4級)

「なぜ、障がいのある人は性的欲求がないと思われがち?」岡原先生のコメント

一般的に、「障がい=病気の状態」と考えている方が多いようです。これは今も昔も変わらず、病気=療養中の状態と無意識に捉え、「療養中の人には性欲はない」「性行為とは結びつかないと」考えてしまうようです。障がいのある人は、ケガや病気で入院していることもありますが、障がいと病気はイコールの関係ではありません。

その考え方を変えていかなければ、障がいのある人への性の偏見はなくならないと考えています。
  • 両親が過剰に男性とつながりがあることを嫌い、スカートも履(は)けないような過干渉なので困っています。友人とは普通に話しています。せめて、好きな人とハグくらいは自由にしたいです(30代後半女性・上下肢・後天性・障害者手帳2級)
  • 家族からは初めての彼氏ができたときに嫌な顔をされた(30代前半女性・上下肢、体幹・先天性か後天性かは不明・障害者手帳1級)

「なぜ 、 障がいのある子どもの恋愛や性的欲求は親から嫌厭される?」岡原先生のコメント

障がいのあるなしにかかわらず、そもそも恋愛や性について親子で話し合うことは少ないと思いますので、障がいのある人ならではの意見ではないかもしれません。ですが、 親御さんからしてみれば、望まない妊娠をしてしまうのではないか? 相手を妊娠させてしまうのではないか? 子どもが生まれたら自分で育てられるのか? など、さまざまな心配事が浮上してしまうのは当然です。

しかし、お子さんが恋愛や結婚をする権利を剥奪することはできません。親御さん自身も、障がいをお持ちのお子さんが健常者と同じように恋愛や性について悩んでいることを理解し、コミュニケーションを積極的にとることが 、本来大切なことだと考えています。
  • 「ただ身体が動かないというだけであって、心は健常者と何も変わらない同じ人間なので、したいと思うのは当たり前だよね」と、共感してくれる人も何人もいた(40代前半女性・上下肢,体幹・後天性・障害者手帳1級)
  • 私の周りは、「自然に思うよねー!」「 当たり前じゃん」という反応でした。そこに障がいあるなしは関係ないとのことでした(20代後半女性・体幹、音声、言語またはそしゃく、呼吸器・先天性・障害者手帳1級)