大谷選手は23年の
ホームラン王になれるのか?
予測に欠かせない
ホームラン打率を試算

ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手の勢いが止まりません。打者として過去最高の成績を残した6月に続いて、7月も3試合連続ホームランと絶好調で、ホームラン王争いでは単独トップで2位以下を大きく引き離しています。

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毎試合ホームランを打っているようにも感じる大谷選手の活躍ですが、実際のところも6月以降は2日に1度は「大谷 ホームラン」というニュースを目にする感じです。その大谷翔平選手の本塁打の打率、つまりホームラン打率は何割何分何厘なのでしょうか?(注:野球の「本塁打率」は打数をホームラン数で割りますが、本記事では打率との比較をする目的で「ホームラン打率」として独自にホームラン数を打数で割った数字として分析します)

野球の場合、打率ならば誰もがその基準を知っています。チームの主軸打者は3割を打つというのが常識であり一つの基準です。一方で4割バッターとなると、1941年のテッド・ウィリアムズ以降誰も達成できていません。

ただ、ホームラン打率の数字はテレビ、動画中継などで頻繁に耳にすることはありません。最大の理由は、ホームラン王は本数を競うものだからでしょう。

しかし私のように戦略コンサルタントが本業の人間は、どうしても数字を分析したくなるものです。実は、分析を行った結果、今シーズン大谷選手が後半戦でマークが厳しくなる中でホームラン王を確実なものとするためには、このホームラン打率が重要な意味を持つことが分かりました。

ということで今回は、大谷選手を中心にメジャーリーグのスラッガーたちのホームラン打率を分析してみたいと思います。

los angeles angels v detroit tigers
Duane Burleson//Getty Images
7月 25日(日本時間26日)、コメリカパークにてデトロイト・タイガースとの一戦。1回表エンゼルスに四球で出塁した大谷翔平選手はムスタカス選手の適時打で生還します。この日は「2番DH」で先発出場し、3打数無安打2四球で2戦連発の37号は出なかった。

ホームラン打率1割を超えると
「すごいホームラン王」になる

そもそも私が最初にメジャーリーガーのホームラン打率を計算してみたのは、2001年にバリー・ボンズが年間73本というメジャーリーグ最多本塁打記録を打ち立てたときでした。

「とにかくよく打つなあ。何打席に一回、ホームランを打っているんだろう?」

と素朴な疑問が湧いたからです。

それで計算したところ、この年のボンズのホームラン打率は1割5分3厘でした。これは、6~7打数に一度ホームランが飛び出すことを意味する数字です。ボンズ選手はマークされてフォアボール(四球)も多いため、実際は9打席で一度ホームランを打っていたというのがこのときの記録です。

では、メジャーリーグでホームラン王になるためには、どれくらいのホームラン打率が必要なのでしょうか?

過去10年間のメジャーリーグのホームラン王のホームラン打率を単純平均すると、0割8分0厘でした。12打数で一度、言い換えると3~4試合に一度ホームランが飛び出すというのが普通の年のホームラン王のペースです。そして最近の大谷翔平選手の活躍は、みなさんお気づきのとおり、このペースを上回ってホームランを量産しています。

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さて、大谷選手の数字に入る前にもう少し分析にお付き合いいただきたいと思います。歴代のすごいホームラン王のホームラン打率は、どれくらいなのでしょうか?

バリー・ボンズに次ぐのは、98年に年間70本を打ったマーク・マグワイアでホームラン打率は1割3分8厘。マグワイアは翌99年にも65本を打ち、ホームラン打率1割2分5厘を記録しています。

ただメジャーリーグに詳しい読者の方は、「ボンズとマグワイアの数字を取り上げるのは適切とはいえないよ」とおっしゃるでしょう。

メジャーリーグでは90年代中盤から00年代中盤にかけていわゆるステロイド時代といって、筋肉増強剤を使うことでホームランが劇的に増加した時代だったからです。最初に「過去10年のホームラン王の平均」という数字を取り上げたのも、ステロイド時代のバイアスがかかった数値を避けたからでした。

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そこで、ステロイド時代の記録を除いて85年以降の記録を調べると、ダントツでホームラン打率が高かったのが、昨年のMVPでホームラン王となったヤンキースのアーロン・ジャッジ選手の1割0分9厘でした。ジャッジ選手は2017年にもホームラン王を獲得していて、このときは0割9分6厘とやはり1割前後の成績を残しています。

実はこの「ホームラン打率1割」という数字が、今回の記事でみなさんに一番覚えていただきたい数字です。ステロイド時代を除くと、ホームラン打率1割を超えたすごいホームラン王は85年以降3人だけなのです。

angels vs pirates in anaheim, ca
Gina Ferazzi//Getty Images

野球ファンの感覚で言えば打率の場合4割が伝説の数字で、2001年にイチローが記録した3割5分0厘が「すごい首位打者」の数字でしょう。それと対比させれば、ボンズの1割5分3厘は今後も出てこない幻の数字であり、ジャッジ選手らが到達した1割は、「すごいホームラン王」の証しとなる数字だということです。

今年の大谷選手は
「すごいホームラン王」になれるかもしれない

さて、お待たせしました。大谷翔平選手のホームラン打率を見てみましょう。

最初に紹介したいのが、21年に46本で惜しくも2本差でホームラン王を逃した年です。この年の大谷選手のホームラン打率が0割8分6厘でした。

この年は、ライバルのゲレーロJr.選手とペレス選手に48本と終盤で追い越されたのですが、ゲレーロJr.選手が0割7分9厘、ペレス選手が0割7分7厘と、実は大谷選手が率では両選手を上回っていたのです。

そして今年、昨日までの大谷選手の成績は363打数35ホームラン。ホームラン打率は実に0割9分6厘です。つまり、今年の大谷選手はホームラン打率1割を達成できる位置にいるのです。

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さらにそれだけではありません。月間MVPを獲得した6月の数字を見ると、なんと打率4割ちょうどでホームラン打率は1割5分2厘。

そうなんです。6月の大谷翔平選手は01年のバリー・ボンズと同じように、ホームランを量産していたのです。

「感覚的に2試合に1本ホームランを打っているように思えた」

というのは実はその通りで間違っていなかったのです。

後半で勝負を避けられてもチャンスはある

さて、実はこの記事のお楽しみはここからです。

私はスポーツの評論家ではありませんが、分析を通じた未来予測については専門家です。ちなみに、所属するマネジメント会社も元プロ野球選手の岩村明憲さんと同じアスリートマーケティングです。

そこで、今シーズン、大谷翔平選手はどうなるのか? 皆さんの三つの疑問に未来予測の観点からお答えしたいと思います。

まず、次の疑問に対してお答えします。

  1. 後半戦で勝負を避けられたらどうなるのか?
  2. それ以外に不安要素はないのか?
  3. 三冠王は狙えるのか?

の三つです。それぞれ、未来を予測してみましょう。

1.後半戦で勝負を避けられたらどうなるのか?

後半戦に入って、大谷選手に対する各チームのマークが厳しくなってきました。対戦投手はストライクゾーンにボールを投げてきませんし、チャンスで打席が回ると申告敬遠も増えています。残念なことに、大谷選手の後を打ってきた強打者のトラウト選手が前半戦終了間際に故障者リストに入ったことで、勝負を避けられやすくなったのです。

21年でも、後半戦にホームランの数が減ったことで大谷選手がホームラン王を逃したことから、これからどれだけチャンスが来るのかファンは心配かもしれません。

前述のバリー・ボンズの場合、01年に9打席に2回のペースで歩かされながらも残り7打席にハイペースでホームランを打ち続けたことが、ホームラン王につながりました。

大谷選手の場合、残りはまだ66試合あります。2番バッターは打席が回ってくる回数も多く、おそらく330打席はチャンスがあるでしょう。ボンズと同じペースで歩かされたとしても、257打数のチャンスがあります。

そこでポイントとなるのは、平常心でホームラン打率1割をキープできるかどうかでしょう。勝負してもらえる打席数が減ったとしても、ホームラン打率1割ならあと25本。シーズン合計で60本が狙えます。

pittsburgh pirates v los angeles angels
Michael Owens//Getty Images

1番の不安はケガ2番目の不安は「飛距離」

2.それ以外に不安要素はないのか?

一番の不安はケガでしょう。無事にシーズンを終えられることを心から祈っています。ちなみに大谷選手の最大のライバルであるヤンキースのアーロン・ジャッジ選手が今年ホームラン王を狙うことができないのは、ケガで長期離脱しているからです。

そのジャッジ選手ですが、実は今シーズンの故障前の成績でも175打数19ホームランで、ホームラン打率1割0分9厘と圧巻の数字を残しています。そして終盤戦にはスタメンに復帰するでしょう。私は実はジャッジ選手のファンなので、早く元気な姿を見たいと思っています。

一方の大谷選手は、7月に入っても勢いは止まらず、7月のここまでのホームラン打率は1割2分5厘とハイペースです。その意味では死角はないようにも思えますが、実はひとつ不安な数字があります。それは飛距離です。

大谷選手のホームランの特徴は、とにかく飛距離が長いこと。技術も当然ですが、筋力や腕力がメジャーリーガーの中でも飛びぬけています。打った瞬間にホームランとわかる当たりで、ボールは観客席の上の方まで飛んでいきます。

そこで思い出していただきたいのですが、この直近の3試合連続ホームラン、すべて同じセンター後方に飛んだのですが、すべて打球はフェンスをぎりぎりで越えていきました。

すべて打った瞬間にホームランだと思ったのですが、ファンの視線で思っていたほどは飛ばなかったのです。そう考えると、他にもヤンキース戦でホームランかと思ったらツーベースヒットだった当たりもありました。

素人の心配なのだとは思いますが、21年のシーズンも終盤にかけてフェンス際で外野手に取られるフライが増えたことを思い出します。今年前半戦の32本のホームランの平均飛距離が130mだったのに対して、後半戦の3本のホームランの平均は124mです。

シーズン終盤にかけて徐々に体力が削られていくのはすべての選手にとっての宿命ですが、なんとか持ちこたえてほしいところです。

大谷翔平選手は「三冠王」を狙えるだろう

3.三冠王は狙えるのか?

不安要素のせいで、なにか気分が暗くなった方も多いかもしれません。最後に予言しておきます。

大谷翔平選手は、三冠王を狙えるでしょう。

直近の成績はホームラン部門で1位、打点部門はレンジャーズのガルシア選手に次ぐ5打点差の2位ですが、ここは射程圏内でしょう。

問題は、打率です。

大谷選手は3割0分6厘でリーグ6位。首位のビシェット選手が3割2分1厘とそれほど離されていないので、展開によっては追いつけるかもという観測がありました。

しかし、実は隠れ1位のテキサス・レンジャーズのコリー・シーガー選手が故障から復帰して、おそらく来週、規定打席に達します。シーガー選手の打率は3割4分6厘。残念ながら大谷選手が打率でシーガー選手に追いつくのは、計算上は絶望的です。

「では大谷の三冠王は幻か」

と思うかもしれませんが、まだあきらめるのは早いかもしれません。

「ホームラン王」「打点王」以外に大谷翔平選手が狙えるタイトルが、もう一つあります。それが、投手三冠のうちの「奪三振王」です。

大谷選手は今シーズンの奪三振数がここまで139個で、ア・リーグ第3位です。上にいるのがブルージェイズのガウスマン選手、ツインズのロペス選手とライバルも強敵ですが、その差はまだ埋められる位置にいます。

それだけではありません。「ホームラン王、打点王、奪三振王」の三冠王はたぶんこの先、200年ぐらい出てこない大記録になるのではないでしょうか。

「そんなの、三冠王とは言わないよ」

という方、予言しておきますが、もしそうなったら間違いなく「三冠王についての新しい大谷ルール」が誕生するはずです。

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今年のメジャーリーグ戦線、エンゼルスと大谷翔平選手からますます目が離せなくなってきました。

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