「日本を裏で操っている
反日組織」とは?
その内部を取材した理由

安倍晋三元首相が凶弾に倒れてから1年が経過した節目ということもあって、「旧統一教会(世界平和統一家庭連合)報道」が盛り上がっている。

そんなムードに思いっきり便乗するような形で恐縮だが、実は筆者も7月6日に独自に取材した成果をまとめたドキュメンタリー作品の予告編をYouTubeにアップした。本編は2部構成で今週中に前編、7月下旬には後編を公開する予定である。

タイトルは「国際勝共連合 潜入ドキュメンタリー 反日と愛国」だ。

ご存じの方も多いだろうが、「国際勝共連合」は旧統一教会を追及するジャーナリストらから「旧統一教会のフロント組織」と呼ばれており、安倍元首相をはじめとした自民党国会議員に対する政界工作の窓口となったとされている政治団体だ。

しかし、メディアやネットで盛んに「日本を裏で操っている反日組織」とあおられているわりには、「国際勝共連合」の実像についてはほとんど知られていない。実際にどんな人々が運動していて、彼らは今どんなことを考えているのか、という細かい話をメディアはほとんど報じていないのだ。

そこで実際に、この団体の内部に潜入をして、街宣や集会に参加をしながら、そこで運動をしている信者やシンパの人々の「生の声」に耳を傾けてみよう――というのが、このドキュメンタリーの主旨である。

という話を聞くと、「反日カルトの言い分を紹介するということは、こいつもマインドコントロールをされているに違いない!」とか「爆笑問題の太田光のような逆張りのカルト擁護だろ」と感じる方も多いかもしれない。

ただ、筆者がこういう取材を始めたのは、教団を擁護したいとか、自分が目立ちたいとかではなく、ごくシンプルに「報道があまりにも偏っている」からだ。もう少し丁寧な言い方をすると、「既存の旧統一教会報道が特定の情報源に基づいている偏った話なので、多様性の観点から、異なる視点の情報を提供したい」ということに尽きる。

旧統一教会に対してだけは、
世論が「同じ方向」を
見ていて不気味

みなさんもご存じのように、旧統一教会に関しての国内報道は多少のレイヤーはあるものの、「日本のカネを韓国に送りこむ反日カルトなので、政治家とのズブズブの関係を明らかにして宗教法人を解散させろ」という方向性でコンセンサスが取れている。

これは冷静に考えると、「不気味」なことではないか。

広末涼子さんの不倫スキャンダルやジャニーズ性加害問題でさえ今の時代、多種多様な意見が飛び交うのが当たり前だ。しかも、今はテレビや新聞を「マスゴミ」なんて呼んで報道を懐疑的に見る人たちが増えている。にもかかわらず、既存の旧統一教会報道に苦言を呈したり、「いくらなんでも解散させるまではやりすぎじゃない?」なんて意見はほとんどない。

「でっちあげ」で新潮ドキュメント賞もとったノンフィクションライターの福田ますみ氏が、「月刊Hanada」で『新聞・テレビが報じない“脱会屋”の犯罪』『両親が覚悟の独占告白! 国政を動かす「小川さゆり」の真実』などのルポを発表して、全国霊感商法対策弁護士連絡会(以下、全国弁連)側の批判をしているが、正直なところ雑誌業界でも「異端視」されているのが現状だ。

どちらが正しい、どちらが間違っているということを言いたいわけではない。国内にテレビ、新聞、雑誌、ネットニュースなど膨大なメディアがあるにもかかわらず、まるで記事をコピペしたように、すべて似たような論調で「バッシング一色」になっているのが大政翼賛会的で「不気味」だと言いたいだけだ。

「このバカはそんなこともわからないのか、メディアが取材をすればすぐに、旧統一教会がマインドコントロールした信者からカネを巻き上げて、日本滅亡を企む反日カルトだとわかるに決まっているからだろ!」という感じで、怒る人もいらっしゃるだろう。

ただ、報道対策アドバイザーとして、これまで多くのメディアスクラム(集団的過熱報道)の構造分析してきた立場から言わせていただくと、本件にはそう断言できない部分もある。この件、メディアは皆さんが思っているほど深い取材をしていないのだ。

「バッシング一色」
になったのはなぜ?
鈴木エイト氏や全国弁連に
依存するマスコミ

報道をよくご覧になっている方ならばなんとなくわかるだろうが、この1年の旧統一教会報道というのは、ある一部の人たちが「情報源」となってつくられてきた側面がある。

鈴木エイト氏ら教団を追及しているジャーナリスト、そして被害者救済にあたっている紀藤正樹弁護士をはじめとした全国弁連である。

もちろん、テレビや新聞の記者たちも必死になって取材をして、独自で情報をつかもうとしている。しかし、しょせんは安倍元首相の殺害後にあわてて始めたようものなので、この問題を長年追いかけていた鈴木エイト氏や全国弁連の弁護士たちに敵わない。取材協力者の数、教団への知見など足元にも及ばない。

すると、どうなるのかというと、鈴木エイト氏や全国弁連からの情報に「依存」する。

テレビの記者やディレクターが、「すいませんけれど、こういう取材がしたいのですがインタビューできる人いませんか?」なんて協力を依頼するのだ。なぜそんなことがわかるのかというと、筆者もかつてそういう依頼をたくさん受けたからだ。

若い時、ある違法ビジネスの取材をして、週刊誌や月刊誌でルポをよく発表していた際、情報番組や報道番組からよく電話がきた。最初は「コメントをいただきたい」とか言うのだが、よくよく聞いてみると、取材VTRをつくりたいので、記事に登場をする人を紹介してほしいという。要するに、自分たちでイチから取材をするのは大変なので、手っ取り早く報道をするために「ネタ元を教えてくれ」というワケだ。

ちなみに意外に思うかもしれないが、全国紙の記者からも「取材先を教えてほしい」と連絡がちょこちょこあった。ただ、これはなにも筆者だけの話でははない。個人で特定のテーマをもって取材をしている人ならば、「同業者から取材を受ける」というのは一度や二度は必ず経験があるであろう「あるある」なのだ。

このようなマスコミの「情報を握る人」にガッツリと依存する傾向が、旧統一教会ではさらに深刻だったというのは容易に想像できよう。

安倍元首相の事件が起きるまで、国内のメディアは「旧統一教会問題」はノータッチだった。それは裏を返せば、日本国内のほとんどの報道機関が、鈴木エイト氏や全国弁連の「取材協力」や「アドバイス」なくして、この1年の旧統一教会報道は成立しなかったということだ。

同じ人たちが情報源なのだから当然、アウトプットも同じような論調になる。これが旧統一教会報道が「バッシング一色」になってしまった構造的な理由だ。

というような話をしてしまうと、「それの何が悪い! 鈴木エイトさんたちの取材が絶対に正しいのだから、正しいことが広まってよかったじゃないか!」という感じで、いよいよ筆者の横っ面を引っぱたきたくなってしまう「正義の人」も多いだろうが、ちょっと冷静になって聞いていただきたい。

繰り返しになるが、筆者は今の報道が間違っているとか主張をしたいわけではない。

むしろ、このような問題を長きに渡って追い続けてきた人々の熱意や信念には尊敬しかない。筆者は「ジャーナリスト」を自分から名乗ったこともないし、この肩書きを名乗る人たちに独善的な印象しかなくてどうも苦手なのだが、鈴木エイト氏に関してはそういう印象はない。被害を訴える人々に寄り添う立派なジャーナリストだとも思う。

ただ、特定の人々が「情報源」の報道一色になっていることが、戦時中の「非国民」のように「全国民で叩いてもいい人」を生み出し、彼らを迫害するような「暴走」を招きかねないと心配をしているだけだ。

ある元信者の体験話が
昔より「ハード」に?
「情報源」が偏るとよくない理由

鈴木エイト氏や全国弁連の皆さんがお話を聞いている「情報源」のメインとなっているのは「かつて信仰をしていたけれど脱会をした人」や「信者の家族」である。つまり、「教団にネガティブな感情を持つ人」だ。

これは当然、情報が偏ってしまう。

企業の内部告発でもそうだが、会社を辞めた人の「告発」というのはちょっと盛られる傾向がある。例えば、ある内部告発者は、自分をクビにした経営者が憎く、退社時に社内文書を持ち出して、自分で加筆して違法な取引があったように細工をした。筆者は不審な点に気づいてその文書を用いた記事を書かなかったが、某全国紙は一面で現物を出してしまい、その企業から訴えられて負けていた。

もちろん、大概は「情報源」にメディアをだまそうなんて悪意はない。ただ、古巣への憎悪から冷静さを失い、「悪いやつを叩くのなら多少のうそは許される」と言わんばかりに話を盛ってしまうのだ。そしてこれは、旧統一教会問題でもかなりあるのではないかと思っている。

実は筆者は20年ほど前、ある雑誌の編集者をしていて、旧統一教会を脱会した元信者の手記を担当したことがある。その方が今回も「元信者」としてメディアの取材を受けているのだが、そこで語られる被害の内容や、教団の異常性の描写が、20年前に聞いていた話より、やや「ハード」になっていた。もちろん、同じような境遇の人の話を聞いているうちに「記憶が上書き」されたということもあるが、今の「バッシング一色」のムードに合わせている可能性もあるのではないか。

「被害者が多少話を盛って何が悪い」という意見もあるだろうが、確かに悪くない。それを精査するのはジャーナリストやメディアの仕事だ。ただ、ジャーナリストやメディアも人間なので当然、見抜けないこともあり、盛られた話を鵜呑みにした結果、偏った情報があふれてしまうこともある。

そこで必要なのが「報道の多様性」だと個人的に思っている。

「被害者」の主張をベースにした情報が世にあふれたら、メディアは「加害者」や「組織」側の言い分もしっかりと聞いて、世に出すことで、人々に自分の頭で判断をする材料を提示するのだ。

伝えられない声を伝える重要性
新たな対立を生む、その前に…

今、旧統一教会の現役信者たちの声はほとんど伝えられない。教団側の主張も勅使河原秀行・教団改革推進本部長がメディア対応をするくらいだ。報道番組などのVTRを見ても、被害者や全国弁連の主張が9割で、教団側の反論はほんの1割ということもある。

かばっているわけではなく、いくらなんでもフェアではないのではないか、と言いたいのだ。犯罪者だって弁護士がつくのに、刑事事件で「容疑者」にもなっていない旧統一教会に関しては、彼らの主張を伝えるメディアはどこにもない。

だから、YouTubeで細々ではあるが、やってみようと思った。それだけである。

もちろん、不愉快な方もいらっしゃるだろう。「反日カルトの言い分なんて耳を傾ける必要はない!“岸田を呼んで教育を受けさせろ”なんて戯言をいう連中はさっさと解散だ!」という人もいるだろう。

ただ、筆者のドキュメンタリーを見ていただければわかるように、「日本滅亡を企む悪の反日団体」に属する人たちは、皆さんの隣にいる普通の市民だ。自分が信じていることを、「マインドコントロール」の一言で片付けられることに傷つき、「違うのにな」と悔しい思いをしている普通の人たちだ。

今や「カルトに虐げられた悲劇ヒーロー」として多くの支援者もいる山上徹也被告は、自民党と旧統一教会問題の関係をまったく触れないこの社会に絶望して、あの犯行に走った、と言われている。偏った報道によって、山上被告とまったく同じ負の感情が、旧統一教会の信者の間で生まれる恐れもあるのだ。

くどいようだが、かばっているわけではない。批判をするなと言っているわけでもない。叩くにしてもなんにしても、異なる考えを持つ人々の話に耳を傾けることなく、社会から排除をするのは新たな対立を生む恐れがある、と言いたいのだ。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
【国際勝共連合 潜入ドキュメンタリー】 反日と愛国《前編》「反日カルトのフロント組織」と呼ばれて
【国際勝共連合 潜入ドキュメンタリー】 反日と愛国《前編》「反日カルトのフロント組織」と呼ばれて thumnail
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少しでも興味がわいたという方は、ぜひ本編をご覧になっていただきたい。

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